小川絵梨子×谷賢一が作り手目線で語り合う！　ナショナル・シアター・ライブ『イェルマ』プレミア上映

ナショナル・シアター・ライブ 2018 新作ラインナップ『イェルマ』が、2018年9月28日（金）から劇場公開される。これに先駆け、プレミア上映会が9月19日（水）に行われ、特別ゲストとして演出家の小川絵梨子と谷賢一が上映後に登壇、本作について語り合った。

本作は、望んだものは全て手に入れ、満たされた人生を謳歌していたカップルが、容易には手に入れられない願望に直面し苦悩していく様を生々しく描いた衝撃の人間ドラマ。2017年にローレンス・オリヴィエ賞最優秀リバイバル賞を受賞し、主演のビリー・パイパーはオリヴィエ賞主演女優賞に輝くなど、多くの批評家から絶賛されている。

小川と谷はこの日参加した観客と共に『イェルマ』を鑑賞。そして終映後、演劇ライター兵藤あおみの呼び込みによってステージに登場した。開口一番、小川は「すごいおもしろかった。演劇をスクリーンで観るという機会があまりなかったのですが、全然おもしろい！」と絶賛。谷は「切り口が多すぎて語り切れない。壮絶。いわゆるリアリズムというものを突き詰めてここまでやると、こんな世界観を作れるんだな」と感心。兵頭から本作はキャストたちも含めたワークショップを経て脚本が作られた事が説明されると「そうだよね。作家が一人で部屋でコツコツ書けるものじゃないよ！でなきゃこんな生々しい会話は出てこないよ」と驚きの声をあげていた。

演出面で二人が気になったのは、ステージの転換について。本作は中央にステージを置き観客がその周りを囲むように座る見せ方となっているが、客席とステージの間には透明なアクリル板でぐるっと囲まれており、まるでショーケースの中で起きている事を観客が眺めるような構図となっている。谷が気になるのは「この尺（時間）で床から何から暗転のうちにすべて変えてしまう事。あれはいったいどうやっているんだろう」これには小川もうなずきながら「これ、イギリスでご覧になった方いらっしゃいますか？」と観客に声をかけるくらい興味を持っているようだった。「あれは床が動いているんだろうか」「暗転中にアクリル板が上にぶっ飛んで、床が全部引っこ抜かれているのでは」「でも客席が囲んでいるからね」「でもあの劇場はそんな大きな劇場じゃないから、転換するための舞台機構もそんな大きなものは使えない。暗転中にスタッフが走り回っているんじゃないか」などと予想を繰り広げた。最後は小川が「この秋、イギリスに行く機会があるので、本作のスタッフを誰か捕まえて聞いてみます。根ほり葉ほり聞いてみたい」と自ら答えを確認したいと語っていた。

なお、この作品をもし日本で上演する場合、演出を頼まれたら？という問いに、小川は「無理」と即答。「今日、全部観てしまったのでこれを演出して、と言われても100％同じ模倣になってしまうから」。そんな小川の反応に「え!?」と驚く谷。どうやら小川と谷は興味を持つ海外作品の傾向が近しいようで「よく小川さんと俺で奪い合いになっていた」とこれまでの裏話を口にする。谷は本作の演出をしてみたいと語るものの「この映像で見たものがベストの回答、という印象を受けるので一度寝かせないと何もできない。でもこの作品は日本でも通じる話だと思うので、僕は是非やってみたいです。出演する俳優たちと語り合いながら作りたい」とやる気十分。谷の言葉に小川が「（日本版演出で）アクリル板を使わないで出来る？」とつっこむと「……だからイギリスで詳しく聞いてきてよ～」と苦笑い。

主演のビリー・パイパーの演技についても話が盛り上がった。詳しくは作品のネタバレになってしまうので割愛するが、「この役は演出家に与えられるだけでは出来ない役。彼女が非常に感性豊かなのか、ものすごく賢い人ではないかなと思います。こんなすごい役者がきちんと評価され、ステージのど真ん中に立っている。そして客席が埋まるんだからイギリスのお客さんの見る目は正しいんだな」という谷の言葉にすべてを感じていただきたい。

最後に二人からのお知らせということで、小川は今年9月から新国立劇場演劇部門芸術監督に就任した立場から「新国立劇場の芝居を観にきてください」と笑顔でアピール。そして谷は今年11月に上演する東京五輪で銅メダルを獲得した円谷幸吉と、その四年後にメキシコ五輪で銀メダルを獲得した君原健二の物語を描く舞台『光より前に』に触れ、「先日ようやく脱稿しました」と笑顔を見せていた。

取材・文・撮影＝こむらさき