「アランという少年の感情を突き詰めて理解したい」~織山尚大が語る『エクウス』 の魅力や難しさ
織山尚大
実際に起きた事件をもとにしたピーター・シェーファーの戯曲『エクウス』。人間の心にある闇と情熱を真正面から捉えた心理劇であり、1973年のロンドン初演以来、高い評価を得て世界中で上演されてきた。
今回は小川絵梨子による新訳・演出のもと、事件を起こした少年アランに織山尚大、アランを取り巻く人々に村川絵梨、岡本玲、須賀貴匡、近藤隼、津田真澄、坂田聡、長野里美、千葉哲也と実力派キャストが集結している。稽古がスタートした中、主演を務める織山尚大の合同取材会が行われた。
舞台をやりたいとずっと思っていた
ーーまずは3年ぶりの主演舞台に対する思いを教えてください。
自分にとっていろいろな節目を超えたタイミングでの舞台出演です。『エクウス』に出演すると言ったら、いろいろな方から、「大変そうだよね」と言われました。僕も資料を見て「これは只者じゃない舞台だ」と。でも、「舞台をやりたい」と思っていたので、お稽古をしっかりできる現場に参加できると決まって嬉しかったです。
ーーアランという役について、どのように捉えていますか?
孤独でしょうがないけど、不貞腐れることもできない子なんだと感じます。コンプレックスを抱えているけど、登場人物全員がそれを突いてくる。内臓が剥き出しのような状態で、落ち着けない毎日が続いている少年だと思います。それに自分を重ねるのは大変ですが、「ああ、『エクウス』をやっている」と感じられて楽しいです。
ーーご自身とアランが重なる部分はあるでしょうか。
アランというか、エクウス(馬)というもの自体、鎖やくつわをはめられています。現代社会ではみんな学校や会社で「普通・平均」に属するように矯正される。その中で、僕もいちアイドルとして仕事をしています。全てが自由なわけではないけど、アランはエクウスと一つになることで自由な存在になりたいという欲を持っています。誰よりも人生を謳歌しているんじゃないかと感じる部分もある。途中から精神科医のダイサートがアランに対して羨望を抱くところもあります。アランと僕は「普通はこうだ」という言葉に敏感なところが似ているかもしれません。
ーー馬にまつわるお話ということで乗馬体験もされたと伺いました。馬にまつわるエピソードがあったら教えてください。
最近、馬について調べすぎて、スマートフォンに馬しか出てこなくなりました(笑)。あと、先日人生初の乗馬体験をして、馬の大きさ、乗った時の景色、風を切る感覚や蹄の音を感じました。『エクウス』ではアランとエクウスという二つが一つの存在になる場面があるんですが、そのことを考えながら乗馬をし、充実した時間を過ごせました。
織山尚大
カンパニーから刺激を受けて成長できたら
ーー演出を手がける小川さんからの言葉で印象的なものはありますか?
小川さんは僕と似ている部分があります。明るいようで暗いみたいな、運命共同体のような感覚で、アランがどこにいるのかを一緒に探しています。演出されていた森田剛くんの出演作を見た時も感じましたが、小川さんの舞台ならではの間があるんですよね。考えてから言葉を出すんじゃなく、言葉を出した故に感情が生まれてくる。どの言葉で気持ちが動いたのかなど、アランの感情について突き詰めながら稽古をしています。
ーー小川さんと一緒にアランを作っているということですが、具体的にはどんな稽古をしているんでしょうか。
まずは「エクウスってなんだろう、アランとダイサートの関係性ってどんなだろう」という雑談から始まりました。それから本読みをして、皆さんとコミュニケーションをとって立ち稽古をして。立ち稽古では皆さんが解釈や提案をどんどん出してくれるので刺激的です。
ーー織山さんといえばダンスですが、今回、身体表現で見せる部分はあるんでしょうか。
エクウスをワイヤーで表現していて、それを僕が持つこともあれば乗ることもある。そのこともあって乗馬体験をしました。馬の動き方、表情や関節の動き方なども研究し、自分も馬であるかのように表現することを目指しています。一番最初がアランと馬が抱き合っているシーンなので注目してほしいですね。今後の表現にもすごく役立つだろうなと思っています。
ーー共演する皆さんの印象、稽古の中で勉強になったことなどを教えてください。
演者の皆さんもスタッフさんもすごく優しくて気さくです。僕は現場運が強いなと思いました(笑)。他のお仕事の都合で稽古に途中から参加したんですが、本読みの時にすごく巨大なものに囲まれているような気がしました。神様がすごく高い椅子にちょこんと座っているような感覚で、「やばい、これに追いつくのか!?」と怖くなって、初日はすごく疲れたし打ちのめされました。今回の舞台は本当にきついかもしれないと思ったんですが、2日目以降は周りが見えるようになってきて。台本にも向き合えるし、皆さん優しいし、ちょっとずつ自信がつき始めました。皆さんと「この時お父さん、お母さんはどう思っていたんだろう」など、話すことで少しずつ役の関係性を深められています。役者さんって本当にかっこいいなと感じています。
生きづらさを感じる方にとって、この作品がヒントになったら
ーー初のグローブ座についてはいかがでしょう。
なんだかんだ通ってこなかった劇場です。先輩も後輩も立っているので「やっとだ」と嬉しいです。一度劇場を見学しましたが、舞台上から見る景色は全然違うなと。『エクウス』では舞台の一部が客席に張り出していて傾斜もついているので、また少し違うグローブ座を皆さんと一緒に作れたらと思っています。
ーー情報解禁時のコメントで「舞台だからこそ味わえる”生”の衝撃や感動」というお話をされていましたね。
事務所の方々、海外の舞台やパフォーマンスもそうですが、「世界って広くて、表現することってこんなに楽しいんだ」と気付けました。そこから自分も演出をやりたいと思うようになりましたし、いろいろなことを知りたいと思うようになりました。中学時代にたくさんの舞台とコンサートを見て刺激を受けました。映像も見ましたが、生で見た時に全然違って。映像には映像の美学があるけど、生の良さを実感したんです。今も稽古で皆さんのお芝居を見ていて、すごく面白いものができるという期待を持っています。
ーーこの作品を見た方に、どんなことを感じてほしいですか?
難しいですね。まだアランを探っているところで、自分も答えを見つけられていないんです。小川さんとも話しましたが、漠然とわかったらできるわけじゃなく、1個1個の受け答えがあって、そのピースが重なってアクションに繋がっていく。そこに対する実感がまだ湧いていないというか、アランがどこまで行ってしまうのか、実際に感じて体験しないとわからないと思っています。
ただ、今の段階でも、アランが自由になりたいことには共感を抱きました。忙しい時に漠然と「どこか行きたい」、「全部リセットしてフラットになりたい」と思ってしまうことがあるんです。アランが一幕の最後で「自由になりたい」と駆け出すシーンがあるんですが、自由になることに真剣に向き合う彼を素敵だと思いました。
誰しも学校や職場という環境で、「普通」というものに縛られている。それに対して「自由になりたい」というアランの気持ちには共感するところがあります。もし、見てくださる方が生きづらさを感じていたら、この作品が答えの一つになるかもしれません。ただ6頭の馬の目を潰した少年のショッキングな事件ではない。そこに至るまでに葛藤や人生があるので、ぜひ感じ取っていただけたらと思います。
織山尚大
このタイミングで『エクウス』に挑めるのが嬉しい
ーー2026年で事務所入所10周年となります。振り返っていかがでしょうか。
全てにおいて手を抜かずにやってきたから悔いはないです。でも、結果が全てという現実の壁にもぶち当たってきました。いろいろな人と話していても思うけど、本気でやっても悔いがなくても、結果が中途半端だとダメなんだと。入所した頃、祖父が「出すぎた杭は打たれない」と言ってくれましたが、その通りだと思いました。最近になってもう一段階「完璧にならなきゃダメだ」と決意しました。
ーーその中で本作に挑むわけですが。
『エクウス』は多分20歳じゃできなかった作品だと思います。アイドルにとって、10代から20歳、その先ってものすごく大きいんです。事務所の方にも「10代後半はアイドルの一番キラキラしている時期」と言われて育ってきました。その上で20歳を超えて、全然感覚が違うなと。大人だと思っていたけど大人になりきれていないし、まだまだ未熟だという劣等感もあります。その劣等感も含めて『エクウス』という作品と共通している。このタイミングでこの作品に携われることに意味を感じます。
ーー最後に、楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。
僕にとって3年ぶりの主演舞台ですし、入所10年目の節目に向けて、この作品がどれだけ自分に影響を与えてくれるか、そして皆さんと何を共有できるか試行錯誤して稽古しています。皆さんに生で刺激を受けてほしいですし、その場にいるからこそ届くものを皆さんが受け取ってくださったら。いい作品にしたいと思っていますので、ぜひ楽しみにしていてください。
本作は2026年1月29日(木)~2月15日(日)東京・東京グローブ座、2月20日(金)~24日(火)大阪・サンケイホールブリーゼにて上演される。
ヘアメイク:服部幸雄(メーキャップルームプラス)
スタイリスト:小林洋治郎
取材・文=吉田沙奈 撮影=山口真由子