斉藤和義と立川談春が京都・平安神宮でコラボ ーー3500人が音楽と落語の融合に酔いしれる

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2018.10.1

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『平安神宮月夜の宴 ROOTS66 京の二人会 斉藤和義×立川談春』2018.9.22(SAT)平安神宮

9月22日(土)、平安神宮にて『平安神宮月夜の宴 ROOTS66 京の二人会 斉藤和義×立川談春』が開催された。これはかねてよりFM COCOLOとFM802が手がけてきた『平安神宮月夜の宴』と、斉藤和義ら1966年生まれのミュージシャンが集結するROOTS66のミックスアップイベントで、今回は斉藤和義と、同じく1966年生まれで彼と親交の深い落語家・立川談春という2人による前代未聞のコラボレーションを実現するもの。幻想的な平安神宮を舞台に、約3500人が音楽と落語という2つの芸術の融合に酔いしれた奇跡の夜をレポートする。

ライトアップされた平安神宮 外拝殿の美しい朱色とかがり火が、まるで映画のセットのように荘厳な会場にはステージが設けられ、そこには華道・未生流笹岡の家元である笹岡隆甫氏による迫力ある生け花も。空間だけでも期待に胸が膨らむが、開演を告げるために鳴り出した出囃子も斉藤和義の「月影」という凝った演出にも会場はざわつく。そしてついに今日の主役の2人が登場! まずは今日までの経緯などを含めたトークを展開するが、いつものように飄々とした斉藤と“絶口調”の談春が対照的で、談春も「ロックは子どもなのか(笑)?」とツッコミを入れて早々に笑いを起こす。そして酒の席での話など、その関係性も伝わってくる話で観客をウォームアップさせると、2人の共演、音楽と落語を同時進行で楽しめる演目へ。

2人が選んだのは、どちらも“男女・夫婦の絆”が描かれた「替わり目」(落語)と「男節」(楽曲)だ。まるでこの日のために存在したかのように、2つの世界観は絶妙にマッチ。談春が臨場感たっぷりに、酔っ払って呂律の回らない旦那としっかり者のその嫁との会話を小気味よく繰り広げると、その合間合間に斉藤が、旦那の胸の内を思わせるような言葉が並ぶ「男節」を味あるボーカルとギターにのせて響かせる。照明も談春と斉藤を交互に浮かび上がらせ、観客は一瞬で曲と落語の世界へ。何気ない日常のシーンながらも主人公の本音が入り混じる落語と曲は、“クスッ”と“じわり”が混在。もちろん、落語と音楽の相乗効果は絶大で、今では時代遅れと言われるであろう“古き良き”でありながらも、誰もがどこかに憧れる決して解けることのない夫婦の固い絆の存在を確かに感じさせる。自然と笑顔になると同時に心の奥には温かいものが残る、まさに今日しか見ることのできない貴重なステージとなった。

見事な共演の次はライブの時間。斉藤は再登場すると「イェ〜イ」といつものひと言だが、すぐに「緊張した~(笑)」とポロリ。普段はあまり見られない姿だ。そして「やさしくなりたい」からライブをスタートさせると、そのギターの疾走感と歌声の熱量が、燃えるかがり火とオーバーラップして背筋がゾクリとなる。また勢いそのままで「Are you ready?」へつなげれば、今後はクラップも起こり、日が暮れて肌寒さも感じる会場の温度も上昇。その熱は本人も感じているようで、「俺、ちょっと楽しいんです、今」と再び気持ちが言葉になってこぼれる。そんな楽しさをまとって続くのは「ずっと好きだった」と「進めなまけもの」。「進めなまけもの」では、最初のトークで談春に「このフレーズに惚れたんですよ」と言わしめた、男のダメさ全開の“和義節”がやさしいメロディにのって広がる。先の「替わり目」の物語も心によみがえり、いつも以上に印象的だ。

そして「20年ぐらいしたらここ(平安神宮)にまつられるような人ですよ(笑)」と、彼らしい言葉で談春への尊敬を込めたMCを挟んで、2日後に中秋の名月という月夜に捧げる「月影」と、真っ赤なライトアップのなかでまくしたてる「ベリー ベリー ストロング ~アイネクライネ~」の2曲へ。ドラマチックなその感触に観客は沸き立つが、最後は珠玉の名曲「歌うたいのバラッド」でしっとりと熱く。虫の音も聞こえる程の静寂から、あの感涙のサビのメロディへという高まりは、まさに鳥肌もの。何度も歌われてきたこの曲だが、今日、平安神宮で聴く響きは、後にも先にもないスペシャルなものだった。

名曲のあとに始まった落語は、「まだ日本にI LOVE YOUという言葉がなかった時代の話です」という古典「紺屋高尾」。冒頭はその“I LOVE YOU”を夏目漱石が“月がきれいですね”と訳したことに絡め「いやになっちゃう程、金のある商人なら、一緒に月にいきませんか?って……」と時事ネタも入れ込み、早々に爆笑を生む。しかも“やってみたかった”と「京都!」「平安神宮!」のコール&レスポンスまで発生。落語初心者の多い観客の緊張をいっきに和ませる、さすが!の話術だ。すると、物語の主人公である染物屋の職人・久蔵とその親方夫婦が繰り広げる会話がぐいぐいと頭に入り出し、見えるはずのない様子が映像となって見え始める。落語のストーリーは、高嶺の花である花魁の高尾太夫に一目ぼれしてしまった久蔵が、約3年もかけて会いに行くという“純愛もの”なのだが、序盤はあの手この手で久蔵に諦めさせようとする親方夫婦と久蔵のやりとりなどでテンポよく進み、コミカルな場面の連続が笑いを量産。

中盤からは、久蔵の思いに折れた親方が、今度は彼を高尾太夫に会わせようと画策するなかで協力者である医者、さらには高尾太夫も登場し、談春は“七変化”の様相でスピード感十分にクライマックスへ! 観客は「果たして恋の行方は?」と話に没頭する。恋の病にかかった久蔵の様子もおかしいやら健気やらで、すっかり感情移入。また高尾太夫の花魁言葉もたおやかで心地よく、緊迫の告白の場面や注目の結末では完全に心を持っていかれた。緊張と緩和、そして笑いと涙が押し寄せる圧巻の約40分は、初めて落語を見た人にも“これが名人芸か!”と思わせたに違いない。

ライブ、落語が終わると2人が再登壇。「すごい! 泣いちゃいましたよ」と斉藤が感動を伝えれば、「今度、京都市議に立候補したら受かるかな(笑)?」と即座に笑いで返す、アットホームな雰囲気だ。だが、「この状況は一人ではできなかったのでね……」(談春)の言葉は、まさに! 古典芸能とロック、そして歴史ある平安神宮という3つのパワーが一つになるイベントは、体の奥から感動を呼び起こした。

今回のイベントの様子は後日、FM COCOLOにてオンエア日時が決まり次第、FM COCOLOの番組、SNS等で告知されるとのことなのでFM COCOLOをチェックしよう。

https://radiko.jp/#CCL​

また、このイベントの模様の一部が10月11日(木)、MBSテレビにて放送が決定している。

取材・文=服田昌子 写真=渡邉一生

放送情報

MBSテレビ
◇番組名:「斉藤和義×立川談春~月影の替わり目、そして男節~」
◇放送日時:2018年10月11日(木) 24:11~25:08
◇放送局:MBS(関西ローカル)
https://www.mbs.jp/
※放送上の都合により番組内容・放送時間等は変更になる可能性がございます。予めご了承ください。
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