『特別展 京のかたな 匠のわざと雅のこころ』レポート 国宝刀剣から初公開作品まで、史上初の大刀剣展覧会!

2018.10.9
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重要文化財《太刀 銘□忠(名物膝丸・薄緑)》 鎌倉時代 京都・大覚寺

画像を全て表示(19件)

武器でありながら、日本人の美意識を反映し、工芸品として鑑賞される日本刀。平安時代以降、京都で生まれた鍛冶は山城鍛冶と呼ばれ、数多くの名工を輩出してきた。その源流から、現代にいたるまでの歴史を紐解く特別展『京のかたな 匠のわざと雅のこころ』(会期:〜2018年11月25日)が、京都国立博物館にて開催中だ。

会場エントランス

本展を担当した末兼俊彦氏(京都国立博物館・学芸員主任研究員)は、「日本の展覧会史上、空前絶後の大刀剣展覧会」と銘打ち、京博120年の歴史上初の試みに自信をうかがわせた。本展では、山城物を含む国宝刀剣19件のほか、織田信長、坂本龍馬、徳川家康など、歴史上の偉人とゆかりのある刀剣も併せて展示される。

《刀 銘村正》 室町時代 刀剣博物館(公益財団法人日本美術刀剣保存協会)

重要文化財《光徳刀絵図(毛利本・文禄三年)本阿彌光徳筆》 桃山時代 毛利報公会

武士の台頭と密接に関わる刀剣文化が、合戦絵巻や騎馬武者図、風俗図屏風の中で描かれた様子も多数紹介されている。特別展の開催にあたり、オンラインゲーム『刀剣乱舞-ONLNE-』の流行や、刀剣女子と呼ばれる若い女性たちによる熱狂的な支持が後押しになったと語るのは、京都国立博物館館長の佐々木丞平氏。

「刃文や地鉄(肌)のニュアンス、全体の姿などは、単なる武器という概念を超えて、日本人の繊細な感性、美意識が凝縮された世界ではないかと思っております。今回、刀剣が一堂に会するということを機会に、日本人のDNAとして身体の中にある感性を今一度呼び起こして、しっかりと鑑賞していただければ幸いです」

一般公開に先立ち催された内覧会より、本展の見どころを紹介しよう。

重要文化財《短刀 銘吉光(名物博多藤四郎)》 鎌倉時代 文化庁

守り継がれてきた山城鍛冶の歴史

本特別展は全8章からなり、山城鍛冶のはじまりから終わりまでを総括する初の試みとなっている。その源流となるのが、平安時代後期に京都三条に拠点をかまえた刀工集団である三条派だ。日本刀初期の名工・宗近は山城鍛冶の祖であり、ここから京の刀の歴史がはじまった。

国宝《太刀 銘三条(名物三日月宗近)》 平安時代 東京国立博物館

鎌倉時代になると、粟田口周辺に居住した粟田口派や、来(らい)派と呼ばれる鍛冶集団が生まれ、彼らの技術は地方へ伝達されていく。その結果、近江国の中堂派や越前国の千代鶴派といった新たな流派が形成された。

《太刀 朱銘千代鶴国安 木屋□研之(号次郎太刀)》 南北朝時代 愛知・熱田神宮

室町時代に備前や美濃など他国の刀工が台頭してくると、山城鍛冶は衰退の道を迫られる。加えて、相次ぐ戦や洛中を主戦場とした応仁の乱が勃発する中、そうした苦難を耐え抜いた長谷部派や信国派が、山城鍛冶の伝統を守り継いだ。

国宝《刀 金象嵌銘長谷部国重本阿(花押)/黒田筑前守(名物圧切長谷部)》 南北朝時代 福岡市博物館

やがて地方からこぞって京都を目指す戦国大名たちがあらわれると、刀工たちも再び活気を取り戻し、堀川派、三品派といった新興勢力が登場する。様々な歴史に翻弄されながらも、絶えず伝統を守り続けた山城鍛冶の作品群を、心ゆくまで堪能したい。

《刀 銘濃州関住兼定作(号歌仙兼定)》 室町時代 永青文庫

天皇自らが作刀した《菊御作》

壇ノ浦の戦いで入水した安徳天皇の異母弟にあたる後鳥羽天皇。皇位継承に必要な三種の神器(鏡・玉・剣)のうち、宝剣を欠いたまま即位した後鳥羽天皇が、失われた剣を求めて自ら作刀するという伝説から生まれたのが《菊御作》である。日本刀の製作にあたり、月替りの当番制で天皇と共に菊御作を造った刀工たちは、御番(ごばん)鍛冶と呼ばれた。

《太刀 銘国安》 鎌倉時代 東京国立博物館

国宝《太刀 銘則国》 鎌倉時代 京都国立博物館

なかでも、山城鍛冶の粟田口派は、後鳥羽上皇の御番鍛冶として活躍した。第2章と第3章では、《菊御作》のほか、御番鍛冶と伝えられる粟田口派の国友・国安の作品や、粟田口派を代表する名工・吉光による傑作が紹介されている。

国宝《短刀 銘吉光》 鎌倉時代 立花家史料館

祇園祭の長刀や、日本最古の鑓(やり)も初公開!

本展担当学芸員の末兼氏は、特別展に先立つ調査によって実態がつかめたものや、新たな解釈が生まれたものが数多くあるとして、初公開作品の見どころについても言及した。

長刀鉾の長刀は、祇園祭のハイライトとなる山鉾巡行の際、先陣を切ることで洛中の邪気を払う役目を果たしてきた。その長刀の茎(なかご)部分に刻まれた銘文が今回の調査によって解読され、当時の京都の街の様子が明らかになった。

《長刀 銘平安城住三条長吉作/大永二年六月三日 切付銘去年日蓮衆退治之時分捕仁仕候於買留申奉寄附感神院江所也 願主江刕石塔寺/之麓住鍛冶左衛門太郎助長 敬白 天文六丁酉歳六月七日》 室町時代 長刀鉾保存会

この長刀は、室町時代の前期から中期にかけて、三条界隈に住んでいた後三条派の長吉が造ったもの。ところが、天文法華(てんぶんほっけ)の乱という、洛中を主戦場とする戦の際、街中に暴徒が押し寄せ、長刀鉾の長刀が盗まれてしまった。翌年、近江国の石堂寺の麓に住んでいた助長(すけなが)という刀鍛冶がこれを発見。自ら長刀を購入し、八坂神社に寄付して戻したという事実が、この度発覚した。

末兼氏は、銘文の全文を解読することで、「有名なお祭りの鉾だが、学術的な調査は行われてこなかった。特別展の機会によってようやく真実の姿をあらわすことができた」と語った。

《鑓 銘来国俊》 鎌倉時代 

さらに、第4章では古代に廃れて中世に再出現した、日本古来の武器である鑓(やり)も紹介されている。京都の刀鍛冶である来派を代表する名工・来国俊の銘が掘られた大身鑓や、国俊の子孫にあたる国次の銘が入った鑓など、山城鍛冶に関連した新発見の作品も見逃せない。

『刀剣乱舞-ONLINE-』とのコラボレーションも

京都国立博物館・明治古都館中央ホールでは、会期中、刀剣男士の等身大パネルや描き下ろしイラストを展示している。また、ゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』出演声優4名がナビゲートする音声ガイドでは、充実した解説が楽しめる内容になっている。

「刀剣乱舞-ONLINE-」コラボ刀剣男士の等身大パネル 展示風景

刀剣男士「五虎退」等身大パネルと描き下ろしイラスト

刀剣男士「へし切長谷部」等身大パネルと描き下ろしイラスト

刀剣男士「三日月宗近」等身大パネルと描き下ろしイラスト

特別展オリジナルグッズも、刀剣好きの心をくすぐる豊富なラインナップになっているので、こちらも併せてチェックしよう。

展覧会グッズ

『特別展 京のかたな 匠のわざと雅のこころ』は2018年11月25日まで。日本刀の頂点を極めた山城物が集う貴重な機会に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

イベント情報

特別展 京のかたな 匠のわざと雅のこころ
会期:2018年9月29日(土)〜11月25日(日)
前期:9月29日(土)〜10月28日(日) 後期:10月30日(火)〜11月25日(日)
会場:京都国立博物館
休館日:月曜日 ※10月8日(月・祝)は開館、翌9日(火)休館
開館時間:午前9時30分〜午後6時(金・土曜日は午後8時まで) ※入館は閉館の30分前まで
特別展公式HP:https://katana2018.jp
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