『フェルメール展』レポート 美術ファン必見、9点のフェルメール作品が来日する祭典がついにスタート!
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東京・上野の森美術館で、『フェルメール展』が2019年2月3日まで開催されている。世界に35点しか現存しないとされるフェルメール作品が日本美術展史上最多の9点やってくるとあって、今年一番の注目展といっても過言ではない。開幕前日には、展覧会ナビゲーターの女優・石原さとみ、本展日本側監修者・千足伸行も来場。美術ファン必見の展示内容をレポートしよう。
日本美術展史上最多9点の作品が東京に!
またとない「フェルメールの祭典」を見逃すな
17世紀オランダを代表する風俗画家で、その卓越した光の描写から「光の魔術師」と呼ばれる、ヨハネス・フェルメール。寡作の画家として知られる彼の作品は、現在、世界に35点しか現存しないとも言われる。それゆえ、1点来日するだけでも数十万人の観衆を集める“美術界のキラーコンテンツ”となっている。そんな中、計9点の作品が来日する今回の『フェルメール展』(東京展)は、まさしく「事件」と言うに等しいインパクトをもたらしている。
展覧会ナビゲーターを務める女優の石原さとみ
オープニングイベントには、展覧会ナビゲーターを務める女優の石原さとみも登場。もともと美術ファンという石原は、来日した本物のフェルメール作品を前にして興奮を隠さず、「こんな機会は二度とないかもしれないので、ぜひ本物を見にきてほしいです」と本展を熱くPRした。
フェルメール・ルームの入り口
本展は、17世紀オランダ絵画をジャンル別に紹介していく構成になっており、「肖像画」「神話画と宗教画」「風景画」といった約40点の展示の後に、フェルメール作品を一挙に集めた「フェルメール・ルーム」が待っている。本展日本側監修者・千足伸行(成城大学名誉教授・広島県立美術館長)による解説も抜粋しながら、各作品を巡っていこう。
本展の日本側監修である千足伸行が来日作品を解説
光、色彩、リアリズム……、フェルメールの超絶技法に酔いしれる
フェルメールの人間像について、「彼は大衆に媚びることをしない画家。作品の中でもう少し何かを言ってくれていたらはっきりすることもあるけれど、途中で筆を止めてしまっているところもあって、現代の学者の間で論争が起きている。長い間、今日のような名声を得られなかったのも、そうした絵の中の“寡黙さ”によるものではないでしょうか」と千足は解説する。
フェルメール・ルームの展示風景
まず紹介しておきたいのは、「フェルメール作品における傑作中の傑作」とも言える《牛乳を注ぐ女》だ。何と言っても、フェルメールの好んだ青と黄色のコントラストが美しい本作。女性の腕の盛り上がりや陶磁器の細やかな描写からは、今にも牛乳を注ぐ音が聞こえてきそうだ。
千足は、女性の衣服を「仕事着のような、ちょっと汚れてくすんだ色」とした上で、「顔や腕を見ると日焼けをしていて、労働者としての姿がよく描けている。一方で、左上の窓はガラスが破れていて、冷たい風が吹き込んでくる様子が伝わってくる。そんなところにも繊細なリアリズムが発揮されている」と語る。また、背後に描かれたデルフト焼きタイルのキューピットについては、「キューピットは愛の使者なので、彼女とキューピットがミルクを注いでいると関連付ける見方もある」と説く。
続いて、来日作の中で一番寸法の大きい《マルタとマリアの家のキリスト》。現存するフェルメール作品の中ではもっとも初期に描かれたもので、唯一の宗教画でもある。新約聖書「ルカによる福音書」の一場面、キリストとマリア、そしてマリアの姉・マルタが安定感ある正三角形の構図で描かれており、「イタリアの古典主義絵画で好まれた構図がオランダにも行ったのではないか」と千足は説く。「当時、大きな宗教画や歴史画の注文が多く、成功すれば富と名声の道が開けたため、フェルメールも最初はそうした画家を目指したのかもしれない。しかし、やはり資質もあって風俗画に移っていったのでは」と千足。なお、本作には先ほどの《牛乳を注ぐ女》と同じくパンが描かれているが、両者を見比べてみると《牛乳を注ぐ女》のパンの方がディテールの描写が明らかに巧みだ。このあたりは、フェルメールの成長過程が伺えるところでもある。
日本初公開の《ワイングラス》には、ワインを飲み干そうとしている婦人と、その傍らに立つ男性の姿が描かれている。絵の前に立つと、不思議と女性の細長い腕に視線が吸い寄せられる。男性は婦人にワインを勧めている様相で、その怪しげな表情には、彼女をたぶらかそうとする企みも見え隠れしている。ここで千足が解説したのは、画面左手のガラス窓について。「このステンドグラスには、よく見ると手綱を持った女性の姿がある。手綱は引き締めるものだから、ここでは節制や自制など、人間の欲望を抑えるものにつながるシンボル。男の欲望を抑えようとする女性の寓意像がある」と述べる。さらにこの作品には、サーモンピンクのような鮮やかな赤、モスグリーンのようなくすんだ緑と、フェルメール作品にはあまり見られない色も使われている。
ひとりの女性を描いた《リュートを調弦する女》では、「普通は画面にいろいろ描き込んで賑やかにした方が喜ばれるのだが、フェルメールは“あれもこれも”ではなく、“あれかこれか”でどちらかを諦める。禁欲的と言っていいくらいの画家で、数やアクションを絞り込んだ中でいろんな感情の流れを描いた」と千足。女性の顔や右肩にかけては、温かな外光が注がれている。女性は外を眺めているかのようにも見えるが、フェルメール作品のガラスは曇りガラスであることが多いそうだ。この絵でも、「外を見ているというより、何かを思いながらそちらの方に視線を向けているのでは」と千足。また、女の背後にはオランダの地図がかけられているが、これは作家が愛国心を示そうとしたものだという。
ヨハネス・フェルメール《リュートを調弦する女》1662-1663年頃 メトロポリタン美術館
フェルメール後期の最高傑作《手紙を書く婦人と召使い》も来日
そして《真珠の首飾りの女》では、窓の横にかけられた小さな鏡を、微妙な距離から覗く女性の姿が描かれている。ここでも、主題の女性はフェルメールが好んだ黄色の衣服を着ている。女性は両手で首飾りを持ち、出かける前の身支度をしているようだ。その表情には、胸を踊らせる様子も伺える。絵としての美しさもさることながら、ここでは「鏡」が示す意味にも注目したい。「この頃のオランダ絵画は、見て美しいだけではなく教訓がなくてはダメだった。『自惚れのモチーフ』と俗に言われていた鏡には、何でも分け隔てなく映す『真実のシンボル』という別の意味合いもある。伝統的な見方をすれば、女性の自惚れや人間の自惚れ、虚栄心を表すものと言われているが、その解釈は見る人によって違っていいと思います」と千足。また、この絵では、背後の殺風景な壁が女性の姿を際立たせている。当初、背景には地図らしきものが書かれていたが、作家の意向で後にあえて消されたのだという。
ヨハネス・フェルメール《真珠の首飾りの女》1662-1665年頃 ベルリン国立美術館
《手紙を書く女》は、フェルメール作品の中では珍しく、モデルがこちらを見つめている。思わず勝手にフキダシをつけたくなる印象の作品だが、「これは手紙を書いている時に部屋に入ってきた人物を見ているという見方もできるんですが、結果的に我々と目が合う」と千足。彼女のコスチュームも印象的で、千足は「フェルメールの実家には黄色の毛皮で作った同じような衣服があったといい、彼の妻が着ていたものではないかとも推測できる」と語る。
ヨハネス・フェルメール《手紙を書く女》1665年頃 ワシントン・ナショナル・ギャラリー
《手紙を書く婦人と召使い》は、フェルメール後期の最高傑作とも言われている。画面の中心に立つメイドは窓を眺めているが、ここも窓は曇りガラスなので、外を眺めているのではなく、何らかの思案にふけっているのかもしれない。「窓から入ってくる光はメイドのおでこや顔にあたり、女主人の体にもあたっている。こうした繊細な光の描写はフェルメールならでは」と千足。一方で、「画面手前の床には、赤いシールや捨てられた手紙が落ちています。彼女が自分で書いた手紙を捨てたのか、もしくは夫や恋人からの手紙を捨てたのかわかりませんが、この辺もいろんな解釈ができる」と、フェルメール作品を読み解く面白さを伝えた。
最後に、今回の来日作品でもっとも小品かつ、日本初公開の《赤い帽子の女》。現存するフェルメールの作品では2作しかない、板に描かれたものだ。千足は本作について「注目してほしいのは、彼女の目、鼻、首の下の白い襟、そして青い衣の肩のあたりです。この辺の光や白の使い方には、他のフェルメール作品にはないタッチがある」と解説する。その一方で、この作品を印象的にしているのはツバの広い深紅の帽子については、「レンブラントが妻のサスキアをモデルにした作品で同じような帽子をかぶせている。当時のオランダでは珍しいものではなかったのでは」と推測した。
ヨハネス・フェルメール 《赤い帽子の娘》1665-1666年頃 ワシントン・ナショナル・ギャラリー ※12月20日(木)まで展示
フェルメール作品以外の17世紀オランダの名品たちも必見!
フェルメール作品以外にも、ハブリエル・メツー、ピーテル・デ・ホーホ、ヤン・ステーンら、17世紀オランダを代表する画家たちの作品約40点も必見だ。「ハブリエル・メツーの《手紙を書く男》と《手紙を読む女》は、フェルメールと比べても見劣りしない素晴らしい作品です」と、千足も解説の最後に付け加えた。
なお、本展は「日時指定入場制」をとっており、入場には事前予約が必要。平日の、特に夕方から夜の来館が比較的ゆっくりと観られるのでオススメだ。また、会場では石原さとみのナレーションによる音声ガイドが無料で借りられるので、詳しいガイドとともに展示をじっくり楽しもう。
展覧会グッズも充実!
史上最大の『フェルメール展』(東京展)は、上野の森美術館で2019年2月3日まで開催。その後、2月16日〜5月12日まで大阪・天王寺区の大阪市立美術館を巡回する(東京展とは一部展示内容が異なる)。これだけ多くのフェルメール作品が日本に来てくれたという幸福を、ぜひ自らの目で感じてほしい。
イベント情報
<東京>
会期:2018年10月5日(金)〜2019年2月3日(日)
会場:上野の森美術館(東京・上野)
開館時間:9:30〜20:30(最終入場は閉館時間の30分前) ※開館・閉館が異なる日もあります。
<大阪>
巡回情報:2019年2月16日(土)〜5月12日(日)大阪市立美術館 ※東京展と一部展示が異なる。