【動画あり】レミゼ愛が帝国劇場に充満!『レ・ミゼラブルのどじまん・思い出じまん大会』
ミュージカル『レ・ミゼラブル』が2019年4月から9月まで、東京・帝国劇場を皮切りに、名古屋・御園座、大阪・梅田芸術劇場メインホール、福岡・博多座、北海道・札幌文化芸術劇場hitaruにて順次上演される(9月迄)。これに先立ち、2018年10月29日、帝国劇場で『レ・ミゼラブルのどじまん・思い出じまん大会』が開催された。
「レミゼの歌を帝劇の舞台で歌いたい!」「レミゼの歌の素晴らしさを分かち合いたい」というファンの思いのもと、第1回大会が行われ好評を博したのが2015年のことだった。その時の応募総数は1823通。第2回目となる今大会では2000通を超える応募があり、難関の予選を勝ち抜いてきたファイナリスト20組が晴れて帝国劇場の舞台に立った。ここでは、その模様を紹介する。
【動画】『レ・ミゼラブルのどじまん・思い出じまん大会』ダイジェスト
ファイナリスト20組は圧倒的に女性が多いのかと思いきや、男性8名女性10名、男女混合が2組と非常にバランスがよく、年齢も8歳から61歳までと幅広い世代が出場した。司会は『レ・ミゼラブル』にはもはや欠かせないキャストといえるであろう、テナルディエ役の駒田一とマダム・テナルディエ役の森公美子が務めた。
「のどじまん」と聞くと、歌好きで他の人よりほんの少し上手に歌えるレベルで考えてしまうが、この大会は何よりも歌唱レベルの高さに圧倒された。中でも10代、20代出演者の多くは音楽大学の学生など、本格的に歌を勉強している人たちが多く、「将来はミュージカル俳優を目指したい」と語る場面も頻繁に見られた。司会の森は「どんどん若い人たちが出てきて、私たちもボーっとしていられないわ!」と些か焦り気味に語っていた。
駒田一、森公美子
今大会における出場者と披露されたナンバーは次の通りだった。(年齢表記は東宝演劇部資料に準拠)
①海瀬亜利沙(かいせ・ありさ)佐々木恵梨(ささき・えり)26歳「♪夢やぶれて&オン・マイ・オウン」
ロンドン・マッシュアップ・バージョンをソウルフルに熱唱。佐々木さんは京大卒のアニソンシンガー。
②橋本悠希(はしもと・ゆうき)15歳「♪スターズ」
往年の藤正樹を彷彿とさせる詰襟姿の中学三年生。幼少の頃ガブローシュで受験経験あり。
③熱田慶子(あつた・けいこ)53歳「♪Bring him home 」
膠原病を押しての出場、英語で歌唱。「レミゼ」観劇歴26年。優勝したら賞金でカーネギーホール(小)でリサイタルを開きたいそう。
④山本樹(やまもと・たつき)9歳「♪夢やぶれて」
2019年に29年ぶりに公演が行われる北海道は十勝の芽室町に在住。女装姿が「ビリー・エリオット」のマイケルをちょっぴり連想させる。
⑤戸田雅城(とだ・まさき)58歳「♪民衆の歌」
障碍者施設で勤務していたが、この5月に心筋梗塞で倒れた。歌唱後の喋りが止まらなくなり、森公美子が「もう帰ってください(笑)」
⑥富永璃愛(とみなが・りあ)10歳、松田茜(まつだ・あかね)、小山奈桜(おやま・なお)、藤井明日香(ふじい・あすか)「♪幼いコゼット/雲の上のお城」
リトル・コゼット4人組、自分たちでハーモニーをアレンジ。衣裳は富永さんのお母さんの手作りとのことで、駒田が「そこはちゃんと言っておかないとね(笑)」
(左から)藤井明日香、小山奈桜、松田茜、冨永璃愛
⑦社家あや乃(しゃけ・あやの)15歳「♪心は愛にあふれて」
コゼット、マリウス、エポニーヌを声色を変えて一人で挑戦。別の音楽コンクールでは「命をあげよう」で入賞経験あり。
⑧山北エリ(やまきた・えり)45歳「♪On My Own」
英語歌唱。2年前に脳梗塞を患い闘病を続ける友人を励ますために出場。その友人は森公美子も通う新宿のパン屋に勤務とか。
⑨松村湧太(まつむら・ゆうた)28歳「♪カフェ・ソング」
尺八奏者でシンガーでピアニストでもある。
⑩西夢美(にし・ゆめみ)21歳ほか総勢16名「♪ワン・デイ・モア」
新体操のリボン+完全コスプレ+ダンス付きの豪華パフォーマンス(テナルディエが見当たらなかったが……)。ダンサーの一人はろっ骨骨折で出場ならず。
この後、10分間の途中休憩、オーディションの模様を収めた映像が流れる。ジュディ・オングのような孔雀衣裳(ただし色は黒)でジャベールを歌った人が特に印象的だった。
⑪田中真由(たなか・まゆ)18歳「♪夢やぶれて」
高校生の頃、東宝のミュージカル大会で奨励賞を受賞、現在は洗足学園大学のミュージカル科に通う玄人はだしの実力派(昆夏美の後輩)。昨年、右肘複雑骨折で全身麻酔の大手術を受け、声帯の危機もあったが、なんとか潜り抜けた。
⑫「となりのプリュメさん」3人組「♪プリュメ街~心は愛にあふれて」
ミュージカル俳優志望の完全コスプレ3人組。不思議なユニット名はエポ役の子が勝手に決めたとか。
⑬竹内みき(たけうち・みき)41歳「♪オン・マイ・オウン」
クッシング病という難病治療中、娘二人に支えられながら暮らすシングルマザー。後半で手話を交える。
⑭比嘉一稀(ひが・いつき)8歳「♪夢やぶれて」
北九州在住の最年少ファイナリスト。身振りも大袈裟ながら堂に入ったもの。
⑮中村翼(なかむら・つばさ)18歳「♪彼を帰して」
高校3年生男子。
⑯尾畑里美(おばた・さとみ)42歳「♪ワン・デイ・モア」
一人で8役を弾き語り。プラス、早わかりな紙芝居付き?
⑰飯塚萌木(いいづか・もえぎ)20歳「♪オン・マイ・オウン」
元アニー(2009年)。現在は経済を学ぶ大学生。
⑱徳田嘉忠(とくだ・よしただ)61歳「♪夢やぶれて」
今回の最年長ファイナリスト。山口県在住の製鉄マン。地元でロックを歌っている。
⑲平井健吾(ひらい・けんご)28歳「♪独白」
公務員。歌唱力があり、ミュージカル俳優への夢もあるが、駒田曰く「個人的には公務員のほうが賢明かと(笑)」
⑳建畠慶子(たてはた・けいこ)39歳、鈴木晴絵(すずき・はるえ)22歳、春日希(かすが・まれ)23歳「♪夢やぶれて&オン・マイ・オウン&スターズ」
建畠がファンテーヌ、春日がエポニーヌ、そして鈴木がジャベールを歌う。
建畠慶子
春日希
鈴木晴絵
森公美子は鈴木を自身(テナルディエ夫人)の後継者にしたがっている様子(笑)
◇
個人的に今大会で最も印象的だったのが、悲運の女性ファンテーヌが自身の思いを吐露するナンバー「♪夢やぶれて」を、3名の別々の男性が選曲していたことだ。山本樹(やまもと・たつき)くん(9歳)、ファイナリスト「最年少」の比嘉一稀(ひが・いつき)くん(8歳)、対照的に「最年長」の徳田嘉忠(とくだ・よしただ)さん(61歳)がそれぞれ熱唱した。
山本くんはファンテーヌを思わせる衣装(お母さん手作りという)を身にまとって表情豊かに歌い上げた。一方、ヨーロッパ貴族のような装いの比嘉くんは一見8歳とは思えぬ貫禄で、身振り手振りもたっぷりに、きれいな高音を響かせる。還暦越えの徳田さんは地元でロックを歌っているとのことで、茶髪ロン毛の見た目はまさにロックンローラー。どんな「♪夢やぶれて」になるのだろうと思ったら、時折ロック調になるシャウト気味の高音が意外とこの曲に見事にマッチ。新たな曲解釈の可能性が見出された、と今回の演奏も担当した「レミゼ」音楽監督の山口Billy琇也氏も述べたほどだ。
このミュージカルの曲には、男性がソロで歌う素晴らしいナンバーがたくさんある。それなのになぜこの曲をあえて選んだのだろうと思ったのだが、比嘉くんは「初めて『レ・ミゼラブル』を見た時に一番いい曲だと思ったから歌いたかった」と答えていた。「♪夢やぶれて」は、初めて「レミゼ」を観る人の心をつかむ名曲なのだと改めて実感した瞬間であった。
比嘉一稀くん
歌以外にさまざまなパフォーマンスを魅せてくれる出場者がいた。たとえば、和服で登場した松村湧太(まつむら・ゆうた)さんは「♪カフェ・ソング」で歌と尺八演奏を交互に披露、和と洋が調和した独特の雰囲気を醸し出していた。
難病を抱える自身を支えてくれる二人の娘に晴れ姿を見せたいという気持ちから今回応募したという竹内みき(たけうち・みき)さんは、手話をしながら「♪オン・マイ・オウン」を歌った。司会の森に「どうして手話をやろうと思ったの?」と聞かれると、「この曲の素晴らしさを多くの人に届けたいと思ったからです」と語った。
一人で何役もこなして歌う出場者もいた。社家あや乃(しゃけ・あやの)さんは、「♪心は愛にあふれて」でコゼット、マリウス、エポニーヌの3役をこなした。ものまね芸人が披露する芸を思わせ、クスっと笑えるのだが、とにかく15歳とは思えない歌唱力の高さに驚きを隠せなかった。コゼットからマリウスに変わるときのキーの高低差に難なく対応しているところも素晴らしかった。
だが、それを凌いだのが「♪ワン・デイ・モア」で8役をピアノの弾き語りで一人演じた尾畑里美(おばた・さとみ)さんだ。彼女の横にはエポニーヌやコゼットなどのイラストが描かれた紙芝居風パネルと一人の女性。一体何をするのだろうと思っていたら、歌に合わせてパネルを次々とめくっていくのだ。そうすることで尾畑さんが誰のパートを歌っているのか一目瞭然。すべての役を慌ただしくも見事に演じ分ける尾畑さんに、会場からこの日最大の拍手が巻き起こっていた。
20組のファイナリストの最後を飾ったのが、「♪夢やぶれて」「♪オン・マイ・オウン」「♪スターズ」3曲のマッシュアップという、これまで聴いたことがないアレンジを熱唱した女性3人組、建畠慶子(たてはた・けいこ)さん、鈴木晴絵(すずき・はるえ)さん、春日希(かすが・まれ)さんだ。ミュージカル・オーディション・ショー「SMASH CABARET」で知り合ったという3人は、レミゼを代表する名曲3曲を見事な構成で歌い上げ、私たちの心に深く入り込んできた。
20組のパフォーマンスが終わり審査結果を協議している間、2019年『レ・ミゼラブル』に出演する吉原光夫(バルジャン)、昆夏美(エポニーヌ)、屋比久知奈(エポニーヌ)、相葉裕樹(アンジョルラス)が、司会の駒田と森とともにトークを行った。
台本が全く用意されていないため自由に語ることになり、過去の「レミゼ」の失敗談を披露し合った。アンジョルラス役の相葉は、稽古中にバリケードから落ちるシーンで、足を滑らせマットからはずれたところに落ちてしまったとのこと。すぐに吉原が駆け寄り「おい大丈夫か、大丈夫か」と懸命に助けてくれたと、相葉が吉原への感謝を述べた。すると吉原「実は何の技術もないのに、相葉のひざをぐぐっと回して、うん、大丈夫、と言ったんです」と告白し会場の笑いを誘った。
また旧演出の「レミゼ」で森は、盆がまわるシーンで出口が分からなくなり、ファンテーヌが歌い始めたにも関わらず舞台上にいたことがあったと告白、その様子を身振りで見せると会場爆笑。
審査が難航しトークの予定時間を過ぎても結果が出なかったので、役者陣が延長トークでつないだところで、ようやく発表へと漕ぎ着けることができた。審査結果は下記のとおりだ。あわせて受賞者のコメントも紹介する。
■思い出賞 「♪オン・マイ・オウン」竹内みきさん
「ここに来るにあたって、下の子は学校があるので置いてこなければいけませんでした。でもママ友がお風呂に入れてくれたりするなどしてくれて、まわりの皆さんに感謝申し上げたいです。ありがとうございます」
■日比谷シャンテ賞 「♪心は愛にあふれて」社家あや乃さん
「貴重な体験をさせていただいて、すごくうれしかったです。ありがとうございました」
■御園座賞 「♪夢やぶれて」徳田嘉忠さん
「帝国劇場という素晴らしいステージに立たせていただいた上に、このような素晴らしいうどんをいただけました。ありがとうございます」
■梅田芸術劇場賞 「♪ワン・デイ・モア」西夢美さん 他
「みんなで帝劇に立つことができてうれしかったです。みんなで豚まんパーティーをしたいと思います」
■博多座賞 「♪夢やぶれて」 比嘉一稀くん
「帝国劇場で歌えたことがすごいうれしかったし、賞をもらえてうれしかったです」
■北海道文化芸術劇場Hitaru賞 「♪幼いコゼット 雲の上の城」富永璃愛さん、松田茜さん、小山奈桜さん、藤井明日香さん
「帝国劇場で歌えて、しかも賞もいただけてとてもうれしいです。ありがとうございました」
■エンターテイメント賞 「♪ワン・デイ・モア」尾畑里美さん
「ありがとうございました。自分の部屋だけで遊んでいたことがこんな大事になってしまって、皆さんで盛り上がっていただいて本当にありがたかったです。本当にありがとうございました」
■奨励賞 「♪オン・マイ・オウン」 飯塚萌木さん
「ありがとうございます。信じられない……。私はこの大会が終わったら山口Billy先生にレッスンを頼みに行こうと思っていたので、(賞品がBilly先生のレッスン受講券で)すごくよかったです」
……そして最後に「大賞」がバルジャンの吉原光夫から発表される。
■大賞 「♪夢やぶれて&オン・マイ・オウン&スターズ」建畠慶子さん、鈴木晴絵さん、春日希さん
建畠さん「本当にありがとうございます。歌に見切りをつけようかと思っていた矢先に出場が決まって、こんなに素敵な舞台で歌わせていただき、本当に幸せです。すべての皆さまに感謝申し上げます」
春日さん「誘って下さった慶子さんに本当に感謝します。あとは私たちをつなげてくれたミュージカルという世界といつも支えて下さっている皆さんに感謝します。ありがとうございました」
鈴木さん「めちゃくちゃうれしいです。絶対にまたこの帝劇に立つために、これからも精進していきたいと思います。ありがとうございました」
最後は、会場全員で「民衆の歌」を盛大に合唱し、幕を閉じた。
◇
その後、劇場ロビーで、大賞および思い出賞の受賞者とともに駒田、森らが囲み取材を受けた。
森「『レミゼ』に対する思い出やレミゼで勇気をもらえたという方たちばかりで、私は20年レミゼをやらせていただいていますが、本当にこの作品が持つ力ってすごいんだなと改めて痛感させられました。歌が持つ力とレミゼの持つ力はまた別なんですよね。人に優しくなれる思いや亡くなった方に対する思いだとか、それぞれとらえ方が違います。私たちは役者として精進して、レミゼという舞台を1回1回大切にしなくてはならないなと思いました」
駒田「今日はイントロが流れただけで、ウルっとする瞬間、キュンとなる瞬間、ゾクっとなる瞬間、やらなきゃ!という瞬間、いろいろなことを考えさせられました。今日はものすごい数の人たちが『レミゼ』に対して愛情や思いがあるんだと痛感しました。また頑張ろう、違う現場でも頑張ろうという気持ちになって全出演者からパワーをもらったと思います。ありがとうございました」
(撮影:大野要介)
20組のパフォーマンスをすべて見て感じたことは、どの出演者もミュージカル『レ・ミゼラブル』への愛情や深い思いがたっぷりあるのだということだ。まさにレミゼ愛が帝劇に充満した大会になったのではないかと思う。2019年の『レ・ミゼラブル』で、新たにレミゼと出会う人、そしてさらにレミゼを好きになる人が増えていき、レミゼ愛がもっと大きくなっていくことを期待したい。
取材・文=吉永麻桔 写真撮影=寺坂ジョニー
公演情報
■日程:2019年4月19(金)~5月28日(火)
※プレビュー公演:2019年4月15日(月)~4月18日(木)
■会場:帝国劇場
■日程:2019年6月7日(金)~6月25日(火)
■会場:御園座
■日程:2019年7月3日(水)~7月20日(土)
■会場:梅田芸術劇場メインホール
■日程:2019年7月29日(月)~8月26日(月)
■会場:博多座
■日程:2019年9月10日(火)~9月17日(火)
■会場:札幌文化芸術劇場hitaru
■原作:ヴィクトル・ユゴー
■作:アラン・ブーブリル、クロード=ミッシェル・シェーンベルク
■作詞:ハーバート・クレッツマー
■オリジナル・プロダクション製作:キャメロン・マッキントッシュ
■演出:ローレンス・コナー、ジェームズ・パウエル
■翻訳:酒井洋子
■訳詞:岩谷時子
■キャスト
ジャン・バルジャン:福井晶一、吉原光夫、佐藤隆紀
ジャベール:川口竜也、上原理生、伊礼彼方
ファンテーヌ:知念里奈、濱田めぐみ、二宮愛
エポニーヌ:昆夏美、唯月ふうか、屋比久知奈
マリウス:海宝直人、内藤大希、三浦宏規
コゼット:生田絵梨花、小南満佑子、熊谷彩春
アンジョルラス:相葉裕樹、上山竜治、小野田龍之介
テナルディエ:駒田一、橋本じゅん、KENTARO、斎藤 司
マダム・テナルディエ:森公美子、鈴木ほのか、朴璐美
ほか
■公式サイト:http://www.tohostage.com/lesmiserables/