歌って×踊って×叫んで×演じる「レティクル東京座」主宰・赤星ユウ インタビュー
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「幕末緞帳イコノクラッシュ!」舞台写真
「レティクル東京座」をご存じだろうか。キャストは全員白塗り、ド派手な照明と大音量の音楽で観るものを圧倒する、新進気鋭劇団である。しかし、見た目の奇抜さに対して、ストーリー自体はいたって明解・痛快な王道エンタメだ。本編後にキャスト全員で行う「レティクル★ライヴ」や、個性的なグッズ販売でファンを獲得し、着実に動員数を伸ばしている。今回は、そんな話題の劇団、レティクル東京座・主宰の赤星ユウへインタビューを敢行。「もっともっと有名になりたい」と貪欲に語る赤星ユウの、これまでの戦略や劇団にかける熱き思いに迫る。
劇団☆新感線のようになりたい
――劇団結成の経緯を教えてください。帝京大学のヴィクセンズシアターから演劇を始められたんですよね?
そうですね。中高とかは全然一切演劇も知らずに、美術(水彩画・日本画・ポスターデザイン)をやっていたんです。でも、絵をやっていく気もなかったので、大学では美術に関係ないことやろうと思っていました。サークルの新入生歓迎の時に、写真部とか旅行サークルをみたりしたんですが、その中に演劇があって。その演劇サークルは最初、音響とか照明とかのスタッフ部門に配置されるんですが、その中に宣伝美術があったんです。これだったらチラシとかも作れて中高の時にやっていたことも生かせるし、新しいことも始められるんじゃないかって思って入部しました。最初は本気でやる感じではなかったんですが、そこで、すごく演劇にハマって。サークルを引退した後の、2012年の2月に旗揚げをしました。
――帝京大学のヴィクセンズシアター出身ということですが、ヴィクセンズシアターの作風が影響を与えていたりするのでしょうか?
大学サークルは代が替わるので特にヴィクセンズシアターらしいっていう作風はないです。黄金世代と呼ばれている、外部への客演を積極的にやっていた世代がいるんですが、その世代のある一人が、私がサークルで初めて作演をやった時に「君いいね」と言ってくれたんです。セリフ回しとか、点や丸で区切るっていう戯曲のことも全部この人から学びました。エンタメ芝居の師匠みたいな感じで、作風的にも結構似ていますね。彼は歌舞伎の付き人をやっていたこともあって、作風も白塗りで見得を切る、みたいな感じのお芝居をしていました。それを完全に受け継いだのがレティクル東京座なんです。
――赤星さんご自身としてはそれまでの人生でこういうエンタメが好きだった、っていうのはあるんですか?
やっぱり劇団☆新感線が面白いなと思っていて。劇団員も新感線が好きです。新感線のようになりたいですね。すごく大きい劇場に行って、めっちゃお金使って、大きい仕掛けとかやって、大きいゲストとか呼んで。
――レティクルさんは大きくなるぞっていうのをちゃんと公言していますよね。大きくなろうとする劇団は
レティクル東京座主宰・赤星ユウ
若手劇団がのし上がるための”3派閥”
――劇団を大きくしていこう、という中で意識した点はありますか?
若手がのし上がるためには、結局派閥に属さなきゃいけないと思っています。中でも、若手が選べる派閥は、3つあると思っていて。1つが、学校派閥。早稲田出身だったら早稲田のツテで上がらせてもらえるとか。もうひとつは劇団派閥。もう既に売れている劇団の演助について庇護してもらう。最後の3つめは劇場派閥。レティクルは帝京大学なんですが、帝京大学って別に演劇有名じゃないですし、キャンパスが八王子なので結構閉じた感じでやっていました。ヴィクセンズシアター出身の団体も少ないですし、学校派閥は使えませんでした。なので最初、劇団派閥をやろうと思ったんですが、私がついた大きい劇団ってことごとく潰れていくんですよ(笑)。結局、庇護がうけられなくて、劇場派閥しかねえって思っていたところ、王子小劇場に拾われて、しばらくずっと一緒にやっている感じです。
――王子小劇場で公演をやっているのはいつからでしょうか?
本公演ではvol.5『常夜ノ國ノ★アリス』からです。ただ、実はvol.1『コルトス脳信号』とvol.2『アタシのアンテナ終末論』の間に、王子小劇場トライアルという若手支援企画の一環で、vol.1.5みたいな短編公演を王子でやりました。当時王子小劇場のトップだった玉山さんという方が、なぜか旗揚げ公演を見に来ていたことがきっかけで、「今度若手支援企画を始めるから、最初に起用されないか」と誘っていただきました。王子は、今度佐藤佐吉ユース演劇祭っていう若手支援の集大成企画を行うんですが、そこにレティクルも参加させてもらっています。うまい具合に劇場派閥に取り入ることができたから、ここまで動員が伸ばせたというのはすごくあると思っています。
『幕末緞帳イコノクラッシュ!』は複雑な気持ちを抱いた公演
「幕末緞帳イコノクラッシュ!」主演の吉澤清貴
――vol.7『幕末緞帳イコノクラッシュ!』が終わりましたが、率直な感想は?
私が主宰と演出業を一緒にやっているんで、主宰としてはこうだった、演出家としてはこうだった、といろいろな視点から意見をもっています。主宰としては初めて動員数1177名という大台に乗った公演だったし、評判もよかったし、いろんな意味で興行的に良かったんじゃないの、って思うんですが、演出家的には全然納得はできてなくて。いまちょうどDVDの映像が届いて、チェックして見ているんですけれど、やっぱりまだまだ精進しなきゃなって思うところがあります。いろいろ複雑な気持ちを抱いた公演でしたね。まあ今まで一度も満足はしていないんで毎回こんな感じになると思います。
――興行的に成功ってことは、プラスが出たっていうことですか? やっぱり物販は大きいのでしょうか?
大きいです。ぶっちゃけレティクルって、ずーっと赤字だったんですけど、動員数が少なかったわけじゃない。要はすごく使っているコストの部分が多くて、やっぱり今の規模で、3000円くらいの値段で、
レティクルの同人オンリーイベントを開いてもらうのが夢
――物販に力を入れだしたのはいつごろからですか?
元から物販はずっとやりたかったんです。でも、実際絵を描けるデザイナーさんがいなくて。誰か絵のうまい人いないかなって思っていたところに、vol.6『學園使徒ノクト』にかかわったスタッフさんの知り合いで絵のうまい人を紹介されて。Matthewさんという方なんですが、会ってみたら結構意気投合して。『イコノクラッシュ!』からデザイン関係のことを全部任せることができました。また、『イコノクラッシュ!』からプロデュース協力に、モノガタリさんっていう会社の方が入ってきてくれています。たまたまモノガタリの方がvol.6を観てくださって、一緒に仕事したいって思ってくださったらしく、「ぜひ一緒にいろいろやってみたい」と言われました。やっていただいたこととしては、ノウハウをいろいろ教えてもらいましたね。グッズとかにも凄く影響がでていて、うちはいつもここで安くやってもらってますよ、っていうような業者としての視点や知識を教えてもらいました。デザイナーのMatthewさんと、モノガタリの方と出会ったことで初めてやりたいことができました。いろいろまだやりたいことはあって、いずれは私が原案書いて、Matthewさんが漫画描いてのコミカライズとかもしたいねって言っているんです。実現するかわからないですけれど、次回公演とかは、その芝居の前日譚みたいなものを、短いけれどコミック化したら面白いんじゃないか、という話も出ています。
――演劇をやっている方でなかなかそういう発想って珍しいと思います。
私ただの普通のヲタクなんでね(笑)。物販の「レティクル★くじ」とかも、ヲタクの人がやっているから、うちらもやったら面白いんじゃないっていうノリでやっています。あと、私自身いろんな芝居見に行くんですよ。ミュージカルも会話劇もみるし、2.5次元イケメン舞台もみる。でも、それの全部にはまっているわけではなくて、ああいうところでキャーとか声がでているから、そういうのを喜ぶんだっていうのを見て、レティクルに取り入れている感じです。
物販コーナー。抽選で劇団員のポスターが当たる「レティクル★くじ」を行った。
――レティクルはファンがキャラクターをイラスト化することも多いですね。
私自身、かっこいいなと思ったものをイラスト化とかしていたんで、それを自分の芝居でもみんながやってくれるのは嬉しいなって思っています。公式側から二次創作いいですよって言っていますし。いずれは、ファンの方にレティクルの同人オンリーイベントとか開いてもらうのが夢なんですよね(笑)大きい劇場に行くことも勿論目標なんですけれど、ファンの方がオンリーイベントを都立産業貿易センターとかで開いてくれないかなみたいなのはずっと思ってますね(笑)
――物販とも並んで、「レティクル★ライヴ」もレティクル東京座の特徴としてあげられるかなと思います。あれはいつごろから始まったものでしょうか?
「レティクル★ライヴ」自体を始めたのはvol.3『見世物革命ゴウマちゃん』からです。何に影響を受けたかっていうと、イギリスのミュージカルに影響を受けてるんです。大学2~3年ぐらいの時に初めてイギリスでミュージカルをみたんですが、芝居が終わった後のカーテンコールでみんなめっちゃ踊ってるんですよ(笑)なんかミニライブ的な感じのことをやっていて、あ、こういうのやっていいんだって初めて思って。それを自分でもやってみようって思って体現化したのが、vol.3からです。vol.6『學園使徒ノクト』の時に、劇団員が増えたのでそれぞれをリーダーにして客演さんたちと一緒にチームに分かれてやったら楽しいんじゃねとなりました。チームで分けること自体の元ネタは、結構宝塚って言われることが多いんですけれど私宝塚はそこまで見たことがなくて。実は、『シャーマンキング』っていう漫画に主人公の敵のハオ一派っていうのがいっぱいいるんですけれど、それがチームに分かれているんですよね、星組花組月組で(笑) シャーマンキングの元ネタは宝塚なんですけどね。さすがに月組とか星組とかにすると、シャーマンキングすぎるってことで、季節の花の名前の組み分けにしたんですよね。椿組、葵組、菊組って感じで。
レティクル東京座は、ネタバレ大歓迎劇団
――次回公演も作られている最中かと思いますが、作品作りはどう進められていますか?
発想自体はストックしていて、その時々の状況とか、これまで劇団がどう売れていったか、次はどういう作品をやった方がいいのか、を含めて選んでいます。あと、公演の当日パンフレットに、必ず次回公演のお知らせを挟むのを目標にしています。なので、公演前や公演中に、次回作の原案を劇団員に説明したり、作品の根本的な売り出し方を企画したりしています。それは旗揚げから自分ルールで継続していますね。演出家としてやりたい作品もストックはあるんですけれど、その中から今の劇団にぴったりなもの、今の劇団がやって一番売れそうなものを考えて決めています。
――公演のプロモーションにも力をいれてらしゃいますよね。
twitterはやはり大きいですね。でもtwitter戦略をしていこうって決めていたわけではないです。完全に私が個人的にtwitterをやっていたら、赤星ユウが個人的に気になって公演を見に来たって人がすごく多くて。そういうこともあって、いまは俳優に、積極的にtwitterで作品情報を拡散していいよと言っています。最後の終わり方だけ言わなければいいから、自分がどんな役をやるのか、どういうふうなメイクをしてどういう衣装を着て、どういう人とどう絡むのかとかそういうの全部言っちゃっていいよ、と。うちはネタバレ大歓迎劇団。私は脚本演出やっているけれど、どっちかっていうと主宰としての視点が凄く強いから、自分の作品を明かされたくないって思ったことがないし、見せた方が絶対にいいじゃないですか。タイムライン占拠できるし(笑)。その時観に来られなくても、数年後気になって見に来るとか絶対あるから、数年後への投資という意味合いもありますね。
もっともっと有名になりたい
――『幕末緞帳イコノクラッシュ!』では、舞台公演のチラシを一覧できるアプリ「チラシステージ」にチラシを掲載してくださいました。「チラシステージ」を知ったきかっけは?
普通にイープラスさんのチラシステージやるぜみたいなツイートが流れてきて、それに対する反響とかもいろいろ大きかったじゃないですか。演劇関係ない友達とかも始まるんだって反応していました。しかも無料で掲載できるんだって思って、やってみるかと。そうしたら結構いろんな方が反応してくれて、次回公演もやろうと思っています。チラシが1月の上旬頃に公開予定なのでそのころ掲載するかと思います。あれ、楽しいですよね、私も結構見ています。
レティクル東京座公式Twitterより引用
――最後に、今後のレティクル東京座の展望を聞かせてください。
とにかく動員数を増やして、いい劇場にいって、もっともっと有名になりたいなっていう感じですね。もちろん作品の完成度を高くしなくちゃとかはあるんですけれど、どんどんどんどん劇団が有名になって、それこそ銀河劇場とか、サンシャイン劇場とか、東京ドームシティホールとか、新橋演舞場とか行って。あと、すごい局所的なこういうのいいねみたいな夢があるんですけれど、池袋のサンシャイン劇場に行くハンズの横のエスカレーターのところに旗があるんですけれど、それがキャラメルボックスとかになっているんですよね。あれがレティクル東京座になったら最高だよねとか、そういうよくわからない夢があります(笑)。街に広告が出るくらい、もっともっと有名になりたいなって思っています。みなさんが応援して下さっている劇団なので、その期待に応えたいなと、頑張らないとなと思っていますね。
レティクル東京座は、そのビジュアルや独自のシステムから、キワモノとして見られることがままある。しかしその内実は「劇団で成長したい、頑張りたい」と心から考えている、誠実でまっすぐな劇団だ。そのまっすぐさは、万人が楽しめるエンタメ性を持った作品内容によくあらわれている。食わず嫌いだった方も、ぜひ次回公演で、レティクル東京座ワールドを体感してみてほしい。
佐藤佐吉ユース演劇祭参加作品 レティクル東京座vol.8
「昴のテルミニロード」
原案:北欧神話
日時:2016年3月11日(金)~21日(月)
会場:王子小劇場
<あらすじ>
徳隣(とくりん)二十八年、
東に位置する大國アミリシアと西に位置するシュライヤ共和國の永年の確執の爆発がきっかけとなり、
世界は真っ二つに別れ、大戦の火蓋が切られた。
日本國の軍事高等専門スクールに通う二人の青年、
ヤシロ=キセキとジン=オリトは、
先のみえない不安を抱きながらもお互い励ましあいながら、青春時代を謳歌した。
やがてスクール卒業の実地訓練として
戦地・蔵西(ツァンシー)へ派遣されることになったヤシロだったが、
従軍聖職者の家系であったジンは圧力により兵役を公的に免除され、
二人はしばしの別れを味わう。
東軍同盟に属する日本國は当初戦力的にかなり有利とされていたが、
西軍は生物兵器『超狂犬特殊ウイルス』を開発、戦場に違法に散布。
それにより数多の人々が不治の病・超狂犬病を発症し、その生命を散らした。
圧倒的不利となった戦況でヤシロもまた、超狂犬病にその身体を蝕まれていた。
そんな時、一人の天才従軍科学者により『超狂犬特異ワクチン』が開発され兵士たちに投与される。
しかしそのワクチンは生命を救う代償に、
病の性質を残したまま兵士たちを異形の化け物へと変質させたのであった!
圧倒的パワーにより西軍全てを虐殺し東軍を逆転勝利に導いたがしかし、
ジンのように國に残り“病に感染していない人々”にとって異形の化け物ヴァンパイヤは、
その存在を到底受け入れられるものではなかった。
血で血を洗う「お前を絶対に許さない」復讐トラジェディ!
佐藤佐吉演劇賞2014―レティクル東京座vol.5「常夜ノ國ノ★アリス」優秀演出賞、優秀照明賞、優秀衣装賞 受賞
シアターグリーン学生芸術祭vol.7―レティクル東京座vol.3「見世物革命ゴウマちゃん」優秀賞 受賞