新たな境地に挑む、オイスターズの新作がまもなく

インタビュー
舞台
2015.11.5
 『その味』チラシ

『その味』チラシ

“味覚”がテーマの家族劇をベースに、役者自身もクローズアップ

不条理な状況の中で展開される、【トッキントキン(名古屋弁で、ものすごく尖った)に研ぎ澄まされた脱力系会話劇】をキャッチコピーに掲げる名古屋の劇団、オイスターズが今週末から名古屋、来月には東京で、第17回公演『その味』を上演する。座付き作家兼演出家の平塚直隆による一年ぶりの新作書き下ろしとなるが、チラシには、シュールな笑いも特徴とする集団らしからぬ「今回のオイスターズに笑いなし!?」の気になる一文や、「この作品で僕が演劇をやる上での方向性が決まるかもしれない」といった宣言が。その真相を確かめるべく、本番を翌週に控えた稽古場にお邪魔した。

今作は、中尾達也、横山更紗、田内康介、川上珠来、そして平塚の5名の劇団員による、“味覚”をテーマにした家族劇になるという。取材時の脚本の完成度は7割とのことだったが、それまでにも細かい変更や差し替えが多々あったようで、想像以上に脚本づくりに苦悩する平塚の姿がそこにあった…。

奥左から/劇団代表の中尾達也、田内康介、作・演出の平塚直隆 手前左から/横山更紗、川上珠来

奥左から/劇団代表の中尾達也、田内康介、作・演出の平塚直隆 手前左から/横山更紗、川上珠来


── 今回のタイトル『その味』は、どこから発想されたのでしょう。

今年は<五感>をテーマに書こうと思っていて、前回は匂いのこと…『あの匂い』という作品を書いたので、今回は味覚のことを書こうかと。いつも特に何が書きたい、というものがなくて毎年縛りをつけるのがいつものやり方なので。次は耳のことを書きます。

── 脚本は7割方できているとか。だいたいの流れはもう決まっているんですか?

はい。いやぁ、決まってるんですけど…本当にツライです…。無理矢理書いてますね。「味」のことを考えていたら、家族の食卓みたいなことかなと。そういえば今まで家族のことを書いたことがなかったなぁと思って。一人でご飯を食べていたら、何を食べてもどんどん味がしなくなるんじゃないのか…みたいなことを思って書いていたんです。周りにいろいろ聞いてみると、奥さんが亡くなってから味覚を感じなくなったという85歳のおじいさんや、そういう高齢の方が実際に結構いるという話を聞いて。やっぱり家族の愛情というか、家族で食卓を囲むことって大事なんだな、と思って。

── 名実ともに、味気なくなるっていうことですよね。

そうそう、そうなんですよ。だからそういう状況を書いてみようかなと思って。


── 今作は、<笑いナシ>になるとか。

ほとんど笑いが起きないんじゃないかなっていう気がします。なんか笑える感じじゃないんですよね、書いてても。結構しんみりと、真面目に話してます。今までは、おかしな状況とか思い違いとかでクスッと笑えるようなセリフを書いてきたんですけど、今回はそういうことがないんだなって自己分析したら、思い違いみたいなことがあまりなくて。おかしなことが起こってない気がします。だからかもしれないけど、怖いんですよね。

── もっと飄々と書いてらっしゃるのかと、勝手に思っていました。

いやぁ、ここ数年怖いんですよ書くことが。毎回わりと不安ではあるんですけど、これが受け入れられるのか? とか。今回は特に、あまり書いたことがないことなので怖いです。新作で長編戯曲書くのも一年ぶりなので、やっぱり年々書くことが難しくなってきてるんだなって感じがしますね。


平塚はかつて、数々の戯曲賞にノミネートはされるものの佳作続きで、“永遠のセカンドマン”の異名を取っていたことも。しかし2009年に第四回劇のまち戯曲賞で『はだか道』が大賞を受賞したのを機に、2010年に第16回劇作家協会新人戯曲賞で『トラックメロウ』が最優秀賞、2012年に若手演出家コンクール2011で最優秀賞を受賞し、史上初となる劇作と演出W受賞を果たすなど、以降快進撃を続けている。10月にはシェイクスピア作の悲劇『タイタス・アンドロニカス』のリーディング演出を行うなど、これまでとは毛色の違った外部オファーなど要求されることも増え、名古屋中堅劇団のトップランナーのひとりとして走り続けるが故に、重圧や枷のようなものを感じているのかもしれない。


── 書くことが難しくなったというのは?

いろいろ知ってきたっていうのがありますね。今までは勉強不足で知らないことがいっぱいあったので、怖いもの知らずでやれてたんだろうなと。いま東京ではこういうことをやってるんだとか、こんなことをやってる人もいるんだ、って。あと審査員をやらせてもらって若い人たちの作品を観て「新しいな」と思ったり、「こういうことはもうやれないなぁ」とか(笑)。昔は僕も思いっきりやってたような感じがありましたけど、いつの間にか守りに入ってるのかなと。守ることなんか何もないのに、何を怖がってるんだって。

── でも、今作は笑いに特化しなという新たな試みになりますよね。

そうですね。あんまり自分のことを深く考えたことがなかったんですね。自分の生き方とか生い立ちというか。それよりも周りのことから面白いことを探ってたんですけど、今回は家族のことなので…。

── ご自身のことに立ち返っているという。

自分のことを書かないとわからないので。経験というより、経験から来る想像というか。おじいちゃんとあまり喋ったことがなくて、「あの時は何を考えていたのかな」と考えて、架空のセリフを書いてるみたいな感じですね。佃(典彦)さんの『ぬけがら』みたいに、大変なことが起こったとかじゃないんですけど。


── 幼少期のことを書くことによって追体験しているという感じですか?

まぁ、そうですね。本当に僕、家族とあまり喋ったことがないんです。子どもの頃は普通に喋ってましたけど、高校・大学の頃はほとんど部屋に引きこもっていた感じだったので、両親の出会いのこととか何も知らないし、そういうことを話してみたらどうなるのかなぁ、とか。劇団員の家族関係を聞いて、「あっ、こんなに違うんだ」と。結構みんなから話を聞いて、そういうのも入れてますし、そのままセリフで言ってたりしますね。チラシにも書いたんですけど、「アイツ味がある役者だなぁ」とか言う“味”。物語を書くより、役を演じる俳優のことを書いたら『その味』っていうことがしっくりくるんじゃないかなぁと思って書き始めたのがきっかけなんです。でもそれが上手くいってないのか、難しい…。最初の仕掛けがどうしたら爆発するのかを考えてるんですけど、それがわからないんですよね。仕掛けたはいいものの…みたいな(笑)。話としては、さっき言った味を感じなくなったおじいちゃんの味を探す家族の話なんですよ。で、それを演じる役者の話で…。

── ちょっと入れ子構造のような形なんですね。

そうなんですよね。それを普通の劇中劇みたいにするのは嫌だなと思ったので、見せ方として今まであまり見たことがないような形にできないかなと思って。それをやってるんですけど、「あっ、こういうことが見えてきたんだ」っていうことにまだなってなくて。だから今の状態だと「ただ面白そうだからやったのね」っていう、よく鐘下(辰男)さんに怒られるパターン。「平塚はいつもアイデアはいいんだけど最初だけだな」って(笑)。今回出ない役者に稽古を見に来てもらって、いろいろ聞いたりして。「大丈夫だろう」とは言ってくれるんですけど、信用できない感じ(笑)。本当に大丈夫なのか?って。

── 納得の落としどころは、いつかは見つかるんですよね。

見つからないまま終わったこともありますけどね。今まではきっと、そんなこと見つからなくたっていいやって書いてたんですよ。でも、もういいキャリアなので(笑)。何か落とし前は自分の中でつけておかないといけないなっていうことを考えてます。


── 現在劇団員は15名いらっしゃいますが、今回出演者が5人だけなのは?

いま出られる役者が出るということだけですね。前からそうですけど、少ない登場人物の方がわりと得意なので、これぐらいがいいんじゃないかなと思って。でも、自分が出るのがちょっとしんどいですね。「わぁ~、これやらないかんのか~」とか「ちょっと待て、この役大変だぞ」って(笑)。そうするとここは削って…とかやりだすと、戯曲が良くなくなっちゃうので、それが嫌ですね。

── では最後に、平塚さんから見た4人の役者の<持ち味>を教えてください。

中尾は、“もうひとりの僕”じゃないですけど、僕のホンを一番面白くしてくれる役者さんなので一番頼りにしてますね。更紗は、やっぱり透明感が僕は好きなので。まだ入って1年半の割にはオイスターズの色に合っていると思います。田内君は、僕や中尾が出ていない時は引っ張ってくれていますし、僕や中尾にはない田内味があって天才的な感じです。川上は、声がすごく褒められるんですね。よく通るしキレイで。彼女も半年ぐらい前に入ったんですけど、現メンバーの中で一番元気があって新しい風が吹いてる感じがしますね。


オイスターズは、一人ひとりのカラーが際立つ集団でもあるだけに、役と俳優自身が共存する今作の上演スタイルでは、その個性がより楽しめるはず。残りのメンバーが出ていないのが、ちょっと残念なくらいだ。さて、平塚の苦悩は本番で見事実を結ぶのか、劇場でぜひお確かめを。名古屋公演の後、12月4日(金)~6日(日)には「シアター風姿花伝」で東京公演も予定されているので、こちらを観劇の皆さま、中尾達也の<完全無欠な名古屋弁>もご堪能あれ!
 

イベント情報
オイスターズ第17回公演『その味』

■日時:2015年11月6日(金)19:30、7日(土)14:00・19:30、8日(日)14:00
■会場:愛知県芸術劇場小ホール(名古屋市東区東桜1-13-2)
■料金:一般/前売2,500円、当日2,800円 学生/前売当日一律1,500円
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「栄」駅下車、オアシス21から地下連絡通路または2F連絡橋経由、徒歩3分
■問い合わせ:オイスターズ 090-1860-2149
■公式HP:http://www.geocities.jp/theatrical_unit_oysters/
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