観劇後の人生がちょっと変わる?! ベッド&メイキングス『こそぎ落としの明け暮れ』富岡晃一郎&福原充則インタビュー

インタビュー
舞台
2018.12.14
ベッド&メイキングス『こそぎ落としの明け暮れ』富岡晃一郎&福原充則

ベッド&メイキングス『こそぎ落としの明け暮れ』富岡晃一郎&福原充則

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舞台を中心に映画、ドラマなど幅広く活動している俳優・富岡晃一郎と、ピチチ5(クインテット)、ニッポンの河川といった自身のユニットでの活動のほか、様々な舞台でその手腕を発揮している脚本家・演出家の福原充則による劇団「ベッド&メイキングス」が、来年3月に東京芸術劇場シアターイーストで2年ぶりの劇団公演を行う。前回公演『あたらしいエクスプロージョン』で第62回岸田國士戯曲賞を受賞した福原にとって、受賞後初の長編書き下ろし作品となる。タイトルは『こそぎ落としの明け暮れ』。タイトルだけではどんな内容なのかまったく想像がつかない。いったいどんな作品になるのだろうか。富岡と福原に詳しく話を聞いた。

ベッド&メイキングス 富岡晃一郎&福原充則 (公式提供)

ベッド&メイキングス 富岡晃一郎&福原充則 (公式提供)

ーーベッド&メイキングスは2012年に第1回公演を行ってから、今回で第6回公演ということなんですが、改めてこの劇団の成り立ちについて教えていただけますか。

富岡:もともと「マンション・マンション」という、福原くんが作・演出をしていた劇団がありまして、そこによく客演させてもらってました。すごく面白い劇団だったんですが、残念ながら解散してしまって。その後も「ああいうのをまたやろうよ」と福原くんに打診していたところ、座・高円寺で開催されていた「演劇村フェスティバル」のプロデューサーから「マンション・マンションみたいな芝居をやって欲しい」と言われたので、とりあえずフェス用に芝居を作ろう、と思ったら、劇団じゃないと出られないという規定があったんです。じゃあもう劇団にしちゃおう、ということになったのが始まりですね。

ーー必要に迫られて作られた劇団だったんですね。

富岡:本当にそうなんですよ(笑) でも元々、1回だけで劇団を終わりにするつもりもなかったので、2回目の公演は自分たちで劇場を借りてやりました。だからまあ3回くらいは頑張って続けようかな、って思っていたんですが、そこから「必要に迫られて」という状況がずっと続くんです。それで、企画公演も含めると今回が7回目の公演になります。

ベッド&メイキングス『こそぎ落としの明け暮れ』富岡晃一郎

ベッド&メイキングス『こそぎ落としの明け暮れ』富岡晃一郎

ーー「想像力の復権」を劇団の活動テーマに掲げていらっしゃいます。演劇とはまさに想像力を喚起してくれるツールですよね。

福原:僕たちは「想像力」という割には、大事なところは具体的にやってるつもりです。雨が降るシーンでは本当に水を降らせたり。でも世の中的に、想像力がないがしろにされてきている、という気がすごくするんです。「想像力」という言葉が言い訳に使われて、それでごまかそうとしているというか……。だからわざわざ劇団の看板に掲げたっていうのはありますね。

富岡:僕は「想像力」ってやっぱり夢があると思っていて、想像力を使ってお客さんと一緒にファンタジーの世界に行けたらいいな、と思っています。

ーーそして2017年の第5回公演『あたらしいエクスプロージョン』で福原さんが岸田國士戯曲賞を受賞されました。

福原:劇団公演で賞をもらえたというのはうれしかったです。あの戯曲は特にみんなで作り上げたもので、役者さんの演技を見ながら書いたセリフもたくさんありますし、その作品が認められたのはうれしいなぁ、と。

ベッド&メイキングス『こそぎ落としの明け暮れ』チラシ画像 (公式提供)

ベッド&メイキングス『こそぎ落としの明け暮れ』チラシ画像 (公式提供)

ーー来年3月の公演では、東京公演に加え、地方公演も予定されています。これまでも野外劇や青山円形劇場など、劇空間に強いこだわりを持って上演活動をされてきましたが、場所の持つ力、というのはやはり芝居にも大きく影響してくると思います。

福原:現実的な話になりますけど、芝居でやろうとしていることが場所によっては制約にひっかかってしまうことがあります。そうすると、何ができて何が許される、っていうところからシーンを立ち上げたり、それが全体のストーリに影響する、ということもありますね。具体的に言えば、水が使えるのか、舞台を張り出せるのか、音をどこまで出していいのか、といったことです。あとは、その劇場への思い入れというか、その場所が好き、という気持ちだったり。僕はスズナリで芝居を見るのが好きで、上演作品の内容に関わらずスズナリに行きたいから行こうかな、とかあるんです。

富岡:その劇場が好きだから行く、ってあるよね。僕は帝国劇場が好きです。客席に行くとテンション上がるんですよ。

ーー富岡さんは演じていて、劇場や場所によって意識が違ったりということはありますか?

富岡:舞台上にいるとお客さんの雰囲気や反応がダイレクトに感じられるので、その土地によって違うな、というのは思いますね。極端な話をすると、上海公演に行ったことがあるんですが、みんなおしゃべりしながら、写真撮りながら、飲食しながら、携帯電話にも出たりして観ている、みたいな環境でしたね(笑) 演劇を観る土壌のある地域だと、観るのに慣れた方たちが多いな、みんなお行儀いいな、と感じたりとかもありました。だけど、基本的に自分がやっていること自体は変わらないです。

ベッド&メイキングス『こそぎ落としの明け暮れ』出演者 (公式提供)

ベッド&メイキングス『こそぎ落としの明け暮れ』出演者 (公式提供)

ーー『こそぎ落としの明け暮れ』という公演タイトルが、とても印象的で耳に残るな、と思いました。

福原:ヒリヒリするような、すり減らすような話なんですよね。登場人物が悪意なく周りの人に迷惑をかけたりする様を、マグロの骨の周りの肉とか美味しいじゃないですか、あれをスプーンでこそぎ落としていくイメージで。

富岡:中落ちか(笑) それだったんだ(笑)

福原:「骨までしゃぶる」だと悪意が強くなっちゃうからそこまでは言わずに、「肉を切らせて骨を断つ」って言葉がありますけど、骨断つつもりもないけど、肉を切るだけじゃ済まさない、みたいなギリギリの境界線を越えない「迷惑」というものに肉薄していくイメージですね。世の中全体において、そういうギリギリの「グレーゾーン」の幅が広がってるな、と思うので。

ーー「こそぎ落とし」って、おっしゃるように削り取るという意味の言葉なんですが、音の響きがポップですよね。

福原:役者さんに発してもらう言葉として考える癖があって、セリフだとお客さんは音でしか聞けないので、音感のことはいつも気にしていますね。

ベッド&メイキングス『こそぎ落としの明け暮れ』福原充則

ベッド&メイキングス『こそぎ落としの明け暮れ』福原充則

ーーあらすじを読ませていただきましたが、現代社会をとても反映している内容になりそうですね。

福原:宗教団体をめぐる物語なんですが、社会派みたいなことをやるつもりは全然なくて、出来上がる作品はエンターテインメントになると思います。身の回りのことを書く、というのがいつものスタイルなので、基本的には「特別なこと」というよりは「日常的に起こっていること」を書こう、という意識です。

ーー福原さんの作品を拝見していると、たとえ設定がぶっ飛んだものであっても、やはり現実をベースに作られているからか、演劇と現実が地続きであることを感じられます。

福原:現実に作用したい、という気持ちが常にあって、劇場の中だけで完結しちゃうとあまり面白くないな、観た人の日常とか生き方がちょっと変わるといいな、と思っています。それは別に大げさな話じゃなくて、例えば「内臓脂肪に気をつけろ」って本を読んで、昼メシに食べようと思ってたラーメンを控える、とかでもいいんです。じゃあ演劇でどんな言葉を使って、どんなふうにお客さんの記憶に残るように作用していこうか、ということを考えたとき、ラーメンを控えさせるならやっぱり演劇よりもダイエット本の方が効果的だし、そうなると扱う題材は内臓脂肪の話ではないよなぁ、と(笑)

富岡:僕は20代の頃から福原くんの作品を知っていますが、いつも新作はその時の彼の等身大の物語だな、と思っています。僕も40歳になって、福原くんも40歳を超えて、同世代の中には親になったり家庭があったりする人たちもいたりして、生活のことや社会のことが20代の頃に見えていたものとはまた違う見え方になるよね、というのを福原くんなりに提示している作品になっていると思います。

ベッド&メイキングス『こそぎ落としの明け暮れ』富岡晃一郎&福原充則

ベッド&メイキングス『こそぎ落としの明け暮れ』富岡晃一郎福原充則

富岡:でも福ちゃんはあまり年上、って感じしないかも。

福原:最初に入った劇団では、トミーの方が先に劇団にいたんだよね。だから、僕の方が年上だけど、後輩。

富岡:それで年上って感じないのかな。


最後の写真撮影のときに、福原は富岡の2歳上、という話になった。年上だけど後輩の福原と、年下だけど先輩の富岡。二人の関係性のバランスの秘密が見えた気がした。

今公演について、とにかくお客さんに楽しんでもらえる作品を作りたい、そして劇場を出るとき心の中に何かしらの変化が起きていたらうれしい、という二人の思いが伝わってきた。気負いすぎない等身大の二人が感じている「今」をたっぷりと味わえる公演になることだろう。観客の我々も気負わず、想像力を携えて劇場に足を運んでみよう。見終えたとき、きっと自分の中で何かが変わっているはずだ。

取材・文・撮影=久田絢子

公演情報

ベッド&メイキングス 第6回公演『こそぎ落としの明け暮れ』
日程:2019年03月15日 (金) ~03月27日 (水)
場所:シアターイースト
作・演出:福原充則
出演:
安藤聖 石橋静河 町田マリー 吉本菜穂子 野口かおる
島田桃依 葉丸あすか 佐久間麻由
富岡晃一郎
 
料金:全席指定 ¥5,500
 
劇団「ベッド&メイキングス」公式サイト:http://www.bedandmakings.com/
劇場サイト:http://www.geigeki.jp/performance/theater200/
 
主催:ベッド&メイキングス/プラグマックス&エンタテインメント
提携:東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)
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