佐藤千亜妃が表現の幅と多彩なルーツで惹きこんだ、至上の一夜を振り返る

レポート
音楽
2018.12.17
佐藤千亜妃 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)

佐藤千亜妃 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)

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佐藤千亜妃 Special Cover Live VOICE3 ~Luxury Banquet~
2019.11.28 Billboard Live TOKYO

登場を出迎える拍手が鳴り止むと、一瞬の静寂。バンドで観るときよりもちょっとドレスアップした装いの佐藤千亜妃がすっと息を吸い、スタンドマイクに手を添えながらピアノとともに歌い出したのは、リリイ・シュシュの「飽和」だ。スローテンポで目立った起承転結こそないが、大らかなサウンドスケープを描いていく同曲は、特別な一夜の序曲として相応しい。

佐藤千亜妃 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)

佐藤千亜妃 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)

この日は、きのこ帝国のVo&Gt・佐藤千亜妃によるカバーライブシリーズの第3弾。これまでHAKUJU HALL、キリスト品川教会グローリア・チャペルで開催されてきたが、今回は自身初となるBillboard Live TOKYOでのライブとなった。筆者も含め、ライブハウスへ行き慣れた層にとってはちょっぴり格式高めのハコであり、特に序盤は会場に(のちのMCによれば本人も)なんとなく緊張感が漂っていたように思うが、そこも含めたプレミア感にワクワクさせられる。

佐藤千亜妃 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)

佐藤千亜妃 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)

UAの「甘い運命」ではグルーヴィな演奏を背にステップを踏みながら歌い、続く金子ノブアキ、小林武史とのコラボ作「太陽に背いて」のセルフカバー、宇多田ヒカル「Automatic」と、前半はソウルやR&B、ジャズなどのテイストを楽しめる楽曲が並んだ。いずれもバンドでは表に出てこない一面ではあるものの、佐藤千亜妃というボーカリストを形成するピースに違いなく、きのこ帝国の最新作『タイム・ラプス』でも印象的であった彼女の歌声の多彩さと豊かさ、そのバックボーンを垣間見る思いだ。

佐藤千亜妃 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)

佐藤千亜妃 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)

アコギとピアノをメインに届けた「雨の街を」で、日本語フォークの流れを汲む叙情性をじっくりと表現したあと、「きのこ帝国っていうバンドをやっているんですけど......(笑)、その曲を」と披露したのは、「MOON WALK」。妖しげなベースラインと浮遊感のあるボーカルで夜更けを思わせる音像が、終盤にかけて渦を巻くように分厚いバンド・アンサンブルへと変貌していく様は圧巻だ。曲ごとにガラリと色彩の変わるボーカルにも耳を奪われる。

佐藤千亜妃 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)

佐藤千亜妃 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)

後半にかけては2000年前後の楽曲、つまりは世代的に彼女がリアルタイムで出会ってきたであろう邦楽ロック/ポップスの名曲を立て続けに。歌詞の一人称が“僕”にもかかわらず、まるで子守唄のような包容力ある歌声に惹きつけられた「ベル」は、本家のBUMP OF CHICKENもほとんどライブで披露したことのない楽曲であり、こういうレアなレパートリーが聴けるのもスペシャル・カバーライブならでは。椎名林檎の「ギブス」では、きのこ帝国にも通ずる静と動のコントラストが、“ロックボーカリスト・佐藤千亜妃”の側面を際立たせ、ライブハウスのような照明使いや歪んだエフェクトもよく似合っていた。

佐藤千亜妃 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)

佐藤千亜妃 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)

およそ1時間、心地よい空間に酔いしれるうち、あっという間の本編ラストナンバー。ここで届けられたセルフカバー曲「キスをする」は初見だったが、素晴らしい名バラードだった。語りかけるようにはじまり、<いつか死んでしまっても 星になって 風になって 君を見つけるから>と、不朽の愛をドラマティックに歌いあげると、大きな拍手に見送られてステージを後にする。アンコールは、メンバー紹介を挟んだあと、セルフカバー「リナリア」で特別な70分間を締めくくった。余談だが、第2部ではアンコールに「Summer Gate」を披露したらしく、エレクトロ要素と温度感の低いグルーヴをもつ同曲がライブでどのような姿をみせたのか、そこは非常に気になるところ。

佐藤千亜妃 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)

佐藤千亜妃 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)

この日、カバーライブという形で存分に味わうことのできた彼女の多彩なルーツと音楽的嗜好。言い換えれば、それはシンガーとして、あるいはソングライターとしての引き出しの多さでもある。それらをバンドでもソロ作品でもちゃんとアウトプットできている近年の活動との相乗効果で、この『VOICE』シリーズは“答え合わせと発見の場”として、一段と魅力を増したように思う。と同時に、この先彼女が生み出す作品への期待も新たにさせてくれる。まさに“贅
沢な晩餐”であった。


取材・文=風間大洋  撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)

佐藤千亜妃 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)

佐藤千亜妃 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)

セットリスト

佐藤千亜妃 Special Cover Live VOICE3 ~Luxury Banquet~
2019.11.28 Billboard Live TOKYO 1st stage

1. 飽和/リリイ・シュシュ
2. 甘い運命/UA
3. 太陽に背いて/佐藤千亜妃
4. Automatic/宇多田ヒカル
5. 雨の街を/荒井由実
6. MOON WALK/きのこ帝国
7. ベル/BUMP OF CHICKEN
8. カブトムシ/aiko
9. ギブス/椎名林檎
10. CROW/鬼束ちひろ
11. キスをする/佐藤千亜妃
[ENCORE]
12. リナリア/佐藤千亜妃

リリース情報

佐藤千亜妃『SickSickSickSick』
発売中
UPCH-20490 ¥1,600(税抜)
収録曲:
1.SickSickSickSick
2.Summer Gate
3.Signal
4.Bedtime Eyes
5.Prologue
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