昭和レコードTOUR SPECIAL東京公演目前、レーベルの若手急先鋒ZORNがヒップホップの面白さと自身の変化を語る
般若が主宰する昭和レコードのオムニバスライブ『昭和レコードTOUR SPECIAL』の東京公演、恵比寿LIQUIDROOMでのステージも目前。今回のツアーで、自身のアルバム『The Downtown』のリリースパーティも兼ねている、昭和レコードの若手ラッパーZORNを迎え、ライブについて自身のスタイルや作品について話を聞いた。彼のラップのスタイル同様、しなやかで柔和な語り口のなかに、鋭く、熱量の高い言葉が冴える。クールさと、等身大のライフとが、絶妙なテンションで編み込まれた面白さがある人物だ。
――『昭和レコードTOUR SPECIAL×ZORN“The Downtown”Release Tour』がスタートし、10月24日には仙台公演が行なわれました。ライブの反応などはいかがでしたか。
「お客さんがパンパンで反応もよくて、楽しかったですね。仙台で根を張って活動している人たちに協力してもらって、一緒にやったんですけど、仙台には仙台の雰囲気もあって。僕は仙台のアーティストは初めてお会いしたんですが、リハから見ていてもかっこよかったし、東京とはまた違うんですよね。仙台のヒップホップ・シーンに飛び込ませてもらった感じですね。」
――刺激にもなりましたか?
「ステージを観たり曲を聴くだけじゃなく、話したりするのは刺激になりますね。世間話のような感じで、とくに音楽論を話すわけではないんですけど(笑)。出演者ではないんですけど仙台のヒップホップ・ユニットGAGLEも観に来てくれていて。GAGLEのラッパー、HUNGERさんとは、初対面だったんですけど、アドバイスをしてくれたり。仙台は初めてで、初めて会った人ばかりですけど、いろいろと優しくしてもらった感じですね。」
――普段は、アーティストの方と音楽の話をされるんですか。
「結構ヒップホップって同世代とか、同年代という横の繋がりが大事で。同い年の人とは話をしたりする人もいますね。」
――ZORNさんの同年代の世代観、この世代ならではのものはあるんですか。
「ちょっと前までは、自分たちが一番若い世代だったんですよね。でも、今僕は26歳なんですけど、この世代となるともう若くはないというか。ヒップホップという音楽自体が日本ではまだ歴史が短い分、上の世代と言っても40代なので。でも今は10代の子もガンガンきていて、有名な子もいる。そういう中で、同年代というと、ちょうど25歳くらいって音楽を辞める人も出てきたりして(笑)。」
――たしかに、いろいろ考える年代ですよね。
「16、17歳くらいからラップを通じて知り合って、まだお互いにラップをやっていてとなってくるとちょっとした歴史ができるじゃないですけど、「あの時はこうだったけど、よくなってきたね」って話をしたりできるのが嬉しいんですよね。」
――こうして話を聞いていると、ZORNさん自身あまりギラギラしたハングリーさはなくて、クールに自分の音楽を追求しているように思います(笑)。音楽を辞めてしまう方もいる中で、ZORNさんがモチベーションにしていたのは。
「たぶん、ずっとラップが好きだったらいいのかなっていう、それだけな気がしますね。好きでいるのが一番だと思うんです。それには、例えば面倒くさいレーベルに入らないとか、嫌いになる要素を自分で取り除いていくことで(笑)。有名なラッパーたちの下にいれば道は開けるかもしれないけど、プレッシャーで辞める人もいるし。どんな場所でもそうかもしれないですけど、ラッパーはみんなマネージャーもいないし、セルフプロデュースで自分のことは自分でやっていかないといけないと思うので。活動自体が私生活と密接だから、人付き合いから考えないと(笑)。」
――そういうことでは昭和レコードのみなさんは、居心地もいいし、いい刺激がある環境ですかね。
「超いいですね。年も離れているんですけど、そこもいいのかなって。般若さんは僕の10こくらい上で、般若さんの上がSHINGO★西成さんで、20代から40代までいる感じで。あまりなれ合いにならず、でも面倒見てもらってという。」
――ZORNさんが昭和レコードに所属して約1年ほどですが、外からレーベルを見ていた時との変化はありますか。
「そうですね、昭和レコードは、般若さんもSHINGOさんも体を鍛えることにストイックな方たちなんですよ。昭和レコードという名前もそうなんですけど、男くさいイメージがあったんです。でもそんなに堅くないし、面白いし。でもちゃんと男としてじゃないですけど、一本筋が通っているからこそ、ふざけてもいいというか。すごい楽しいですし、根本的に面白いんですよ。SHINGOさんは大阪のおっちゃんだし、般若さんにしても単純にギャグセンスが高い。そういうところって、大事じゃないですか。」
――ZORNさんはマッチョにはならないんですね(笑)。
「入りたての頃は指導があったんですけどね(笑)。」
――いいところに身を置いていますね(笑)。昭和レコードで『サードチルドレン』(2014)、そして今年5月に『The Downtown』と2作のアルバムをリリースしましたが、自分自身の変化はありますか。
「変わりましたね。技術的にもそうですし、きちんとライブを意識して音源を作っていかないといけないというところも意識として変わっていった。これまでは“音源”としてというものが強かったんです。細かい技術の話ですが、ラップしていて、ライブで本当にここで息継ぎができるのかとか。より簡潔にしていこうというか。今はそのバランスを大事にしようと思ってますね。ライブだけに傾いても、音源としてかっこよくなかったら全然意味がないし、難しいですね。」
――昭和レコードにきての最初のアルバム『サードチルドレン』は、それまでのZORNさんの作品からすると開けた内容になっていましたね。その『サードチルドレン』から、『The Downtown』へという流れのなかでの変化はいかがですか。
「『サードチルドレン』以前は、自分の内側にこもり気味だった感じだったんです。それは自分でもわかっていて、自分だけの世界みたいなものを表現していて。それをみんなにも、いいとか、ヤバいと思ってほしかったんです。そこから聴き手を意識するじゃないですけど、聴く人のことを考え出せたのが『サードチルドレン』だったんです。それまでずっと、わかりやすいものがダサいと思っていたし、とくに10代の頃はちょっとしたポップさみたいなものも許せなかったんですよね。でも実際やってみると、ポップにするほうが難しいし。万人受けするように作る方がよっぽど難しいというか。」
――今回の『The Downtown』はトラックがシンプルで、「Weekend」などはメロディアスでかなりポップ性も高いですよね?
「ああいうトラックも、ラップをしはじめの頃は、選ばないトラックというか。もっと重たくてダークでみたいなものがやりたいというのはありました。」
――では今回は、自分の引き出しから探るというよりは、外から新しいものを入れた感覚ですか?
「半々ですかね。得意なこともやりつつ、新しい引き出しも開けていかないと。自分の得意なことを磨くのも、ひとつのかっこよさではあると思うんですけど。まだ、自分はなにが得意なのかをもっと広げていきたいんです。」
――そういった新しいことを引っ張り出すというのは、どのように?
「案ずるよりも生むが易しじゃないですけど、とりあえずやってみる。ラップのスキルを持っていれば、どんなトラックでもできるんですよ。要はそれが、自分らしいか、らしくないかで。あとは、それをちゃんと自分のものにできたかどうかだと思うんですけど。」
――『The Downtown』という作品についてもお聞きしていきたいのですが、今回このアルバムで自分のバックボーンや、ルーツにスポットを当てたのはなぜだったんでしょう。
「この『The Downtown』を作る少し前に結婚をして。結婚したことによってガラッと生活が変わって、いわゆるヒップホップのイメージから一番遠いところに身を置くことになったんです(笑)。その自分の生活というか、今の等身大をそのまま作品に落とし込むこと、それをかっこよく落としこむというのが、まだ頭になくて。だから、自分の過去を引っ張り出すしかなかったというか。今、次の作品を作っていて、今の等身大の生活をいかにヒップホップにするかを考えているんですけど、『The Downtown』を作りだした時は、もうこの先ストリートみたいな雰囲気とかは出せないなっていうのはあったと思いますね。ここしかない!みたいな(笑)。」
――それほど、ZORNさんの音楽にはリアリティというものが大事ということですね。
「そうですね、自分のことを歌った方がかっこいいと思うので。」
――ラップやヒップホップって、いい意味で虚勢を張れるスタイルでもあるし、威勢よくできる音楽だとも思うんですが、そういうのはない。
「自分が10代の時に見ていたヒップホップや、日本語ラップがお金になったのかもしれないですけど、実際やってみると全然、現実を見るというか。それでもみんなかっこつけて言わないんですよね、仕事しながら音楽やってることとかも。俺もそういうのはダサいと思っていた時期もあったんですけど、段々と変わってきて。ありのままをラップするしかないって、今は思っているんです。」
――外に向かって吠えていた時もあったと(笑)。そういう変化が出てきたのは、自分が年齢を重ねたり、よく周りのことが見えてきたことが大きいんですか。
「そうですね。やっぱり結婚して、子どもがいてとか。そういう生活をしていて、真面目にいきたいなっていうか(笑)。」
――現在、健全なというか、太陽とともに生きるような生活になっているようですが、自分の内面に深く潜っていくこともありますよね。その表現はどういうものになっていくんでしょう。
「どれだけ深いところに入っていっても、それを一番シンプルな言葉でやりたいなと思っているんです。昔は、自分の複雑な気持ちを複雑なまま表現するのがアートだと思っていて。だから聴きづらいんですよね。わざわざ難しくしてたのもあって。でもラップには当然その良さもあるんですよね、アンダーグラウンドで、深いものというか。でも今は、すげえシンプルにしたい。みんながわかる言葉でやりたい。それが結果的に、スキル的には難しいことなんじゃないかなと思うんです。でもスキルだけを追うんじゃなくて、自分の好み的にもわかりやすいものが好きになっていってる感じがします。」
――シンプルゆえに、より表現力、説得力が必要ですね。
「そうですね。簡潔に言い当てたいというか。でも、たくさん勉強して言葉を知っていたり、経験をした上での言葉を知っていたりというのが大事ですよね。シンプルな言葉でも、そこまで伝わるってことを信じて書くというか。これが、難しいんですけどね(笑)。でも、聴いている人はわかると思うんです。生き様と言うと大げさですけど、自分のことを等身大で言った方が伝わると思うんです。ラッパーにもいろいろ種類があって、単純に響きとしてのかっこよさやノリのよさも大事なところだし、でも言葉を大事にする人もいる。伝えることに関しては、とにかく等身大の自分の言葉でやらないと。聴いている人は、騙されないんですから。」
――では、いよいよ『昭和レコードTOUR SPECIAL×ZORN“The Downtown”ReleaseTour』の東京公演が近づいてきましたが、どんなライブになりそうですか。
「僕らとしては、ただ楽しみに行くみたいな感じではないんですよね。伝えようとか、来てよかったと思ってほしいし。とにかく、来た人に元気になってほしいんです(笑)。実は、般若さんとSHINGOさん、そして僕の、昭和レコードの3人が一堂に揃うことってなかなかないんですよ。3人での曲を披露できるのは自分としても楽しみだし、3人それぞれがいいんだよというのを見せたいですね。昭和レコード所属以外のゲストとのからみも当然あるし、お客さんは「こいつとこいつが来るから、あの曲やるな」とか予想してくると思うんですけど、そのまんまやるので(笑)。」
――ヒップホップに触れたことがないとか、興味はあるけれどライブになかなか行けない人もいると思うんです。こうしたイベントだったら、入り口として入りやすさもありますしね。
「今回の昭和ツアーも、大阪、東京、岐阜の公演もデイタイムなんです。未成年の子も入れますしね。東京公演には、7歳と5歳のうちの娘も連れていきますしね。そういう子どものスペースを設けたいくらい(笑)。ちょっと興味があって来た人も、友達に連れられてきた人も、楽しいんじゃないかなと思います。ラップってバンドと違って、DJが音楽かけてそれで終わりって思われがちですけど、ただのカラオケじゃないっていうのを僕らはやっているつもりなので。DJの細かいワザや、ラップとの息のあわせを観るのも楽しいと思うし、僕らも意気込んでますね。」
文=吉羽さおり
11月21日(土) OPEN/START 18:00 恵比寿 LIQUIDROOM ※イープラスにて発売中
11月22日(日)OPEN/START 17:00 CLUB ROOTS