シンセ番長・齋藤久師が送る愛と狂気の大人気コラム第四十三沼(だいよんじゅうさんしょう) 『ディレイ沼!』
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「welcome to THE沼!」
沼。
皆さんはこの言葉にどのようなイメージをお持ちだろうか?
私の中の沼といえば、足を取られたら、底なしの泥の深みへゆっくりとゆっくりと引きずり込まれ、抵抗すればするほど強く深くなすすべもなく、息をしたまま意識を抹消されるという恐怖のイメージだ。
一方、ある物事に心奪われ、取り憑かれたようにはまり込み、その世界にどっぷりと溺れることを
「沼」
という言葉で比喩される。
底なしの「収集」が愛と快感というある種の麻痺を伴い増幅する。
これは病か苦行か、あるいは究極の癒しなのか。
毒のスパイスをたっぷり含んだあらゆる世界の「沼」をご紹介しよう。
第四十三沼(だいよんじゅうさんしょう) 『ディレイ沼!』
今回は数ある音のエフェクトの中でも私がもっとも愛するディレイについての話だ。
時間に支配されている私たち
遅れる事は良い事だ!
ディレイ沼!
最も時間にタイトでシビアな国 日本。
国民は一分一秒の中で移動し、稼働する。
電車が遅れれば遅延証明。
タイムカードに支配された労働。
ヨーロッパのある国に行った時、「ウエイト ワンミニット」といわれて 3時間待たされた事があった。
怒りを通り越して笑った。
時間ってなんだろう。
この時間の遅れは、音の世界にも存在する。
みなさんが最も簡単に体験するのが「花火」だろう。
音は光よりも遅くつたわる。
そのためある程度遠くから花火を観覧していると、花火の閃光が見えたあと タイムラグがあってから「パーン」という音が聞こえてくる。
また、登山した時に「やまびこ」を経験した事があるだろう。
いわゆる「ヤッホー」だ。
これは、様々な障害物に音が反射して戻ってくる現象。
音を遅らせるディレイ
この遅延のメカニズムを、音楽にとりいれたものがある。
それが「ディレイ」だ。
このディレイエフェクトは人工的にやまびこ効果を再現する装置であり、音の空間を広げる演出をしてくれる世紀の発明品だと私は思っている。
そして空間を広げる装置として忘れてはいけないものがもうひとつある。
それは 「リバーブ」だ。
これは日本では銭湯などで簡単に体験できるいわゆるボワーンとした響きだ。
よく銭湯やお風呂などのリバーブが発生しやすい場所で歌を歌うと上手く聞こえる。
これは原音をボカし、豊かで複雑な残響を残す事で生まれる。
ディレイをさらに細かく したようなリッチな効果が得られるのだ。
さて、ディレイの話に戻ろう。
初期のディレイエフェクターが発明された時、それは全てアナログで構成されていた。
具体的に言えば磁気テープをループ状にし、録音と再生のヘッド数を多数用意し、やまびこ効果を作り出していたのだ。
これがその代表的な機種であるRoland Space ECHO RE201だ。
やまびこのタイム間隔はショートからロングまでモーターの回転速度により行い、繰り返しの時間も調整可能だ。
ここでこの機種名に注目してほしい。
「ECHO(エコー)」 とかかれている。
つまり「遅延」というよりは「やまびこ」や「残響」を意味する。
この残響感がドライで荒い元々のサウンドを良い具合にごまかしてくれる。
Roland Space ECHO RE201が売れた意外な場所!
銭湯で歌っているオヂサンを思い浮かべてほしい。
吸音されたデッドな場所では想像も出来ない程、銭湯でのオヂサンは己の歌唱に活き活きと心酔している映像がみえるだろう。
上手く聞こえるのだ。
錯覚で。
自分の歌声がうまく聞こえると、どんどん歌いたくなる。
どんどん人に聴かせたくなる。
そこに目をつけたのか、この名器RE201は当時、日本全国のスナックで飛ぶように売れた。
今のカラオケ機器のようにエフェクターがついていない当時。
この機材は全国のスナックでオヂサンやオバサンの声をごまかしながら大活躍していた。
そして、そのバランス調整をするのは当然そのスナックのママであろう。
70年代のスナックで派手な服に派手なメイクの出で立ちでRE-201をいじるというシュールな様子は想像するだけでアガるw。
そこでその名器RE-201のポテンシャルが最大に発揮されたかどうかは別として、昭和が終わりに近づくとともに多くのスナックも閉店に追いやられ、その機材たちは終焉を迎える。
機材の価値を知らないスナックのママさんたちは粗大ゴミとして道にRE-201を捨てる。
そんな時代があった。
タイムマシンがあったら、全部拾って回りたいくらいだ。
音の残響
映画やドラマの回想シーンを思い出してほしい。
エコーはそんなシーンでも 度々使用される。
非現実を演出する際にエコーは必需となる。
そしてこのRE201のもうひとつの特徴は「スプリングリバーブ」を搭載しているという点だ。
先に述べた「リバーブ(残響)」。
これはエコーよりさらに滑らかに細かい粒子の響に より空間的広がりを醸し出す。
教会のパイプオルガンが響くのも、建築でリバーブを発生される設計がなされているからだ。
「スプリングリバーブ」は、この密度の濃い残響を一本のバネをつかって再現する。
音をバネに通過させ、その揺れにより残響をつくりだすというなんともプリミティブなやり方だ。
つまりこのRE201を蹴とばせば、何の音をいれずとも「バシャ〜〜〜〜ん!」 という残響だけが得られる。
テクノロジーと引き換えに失くなったもの
80年代になると、技術の進化とともにそれらのアナログ残響装置が全てデジタルにとってかわった。
スペックが上がるとともに、なぜか味気ないエコー効果に改悪されてしまった。
原因はとても簡単な事だった。
テープを使用していた時のエコーは、テープのダビングをさらにダビングするという事で 音が劣化され、独特の深みのある減衰があった。
しかしデジタルは現存する音をそのまま繰り返すだけで音量だけ減衰していく。
つまり音の劣化を伴わないため、味気のないエコー になってしまった。
そして現代では一周してアナログエコーが再評価され コンピューター内のソフトウェアーで作られたエコーにも「テープエコー」が 必ず用意されている。
約束の時間は守らなくてはいけない。
けれども、もしも少しでもおくれたら。。。
時空が若干変化し、もしかしたら良い結果に変わる可能性もあるのだ。
君も遅くはない、ディレイ沼の住人にならないか?ないか?いか?いか?か?か?か?か?か?かかかかかか.......................