『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2019』レポート "VIBE"が呼び覚まされる、唯一無二の時空間へ
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2013年に始まって以来、回を重ねるごとに存在感と影響力を増し、今年で7回目の開催となる『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭』が、2019年4月13日(土)より開幕した。国内外のアーティストの写真作品や貴重なコレクションを、歴史的建造物やモダンな近代建築空間で鑑賞することができる本イベントは、古都の春の風物詩として、海外からの注目も高まっている。
そんな『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2019』のテーマは、「VIBE」。感覚を研ぎ澄まして、自分の中に眠る何かを揺るがして覚醒させるもの。ある出来ごとと対峙したときに、私たちの全身全霊にほとばしるものという意味で、定義されたという。
目に映らず形を持たずとも、ある時ある空間に瞬間に生まれる、本能にダイレクトに訴えかけてくるような、特別な空気感。そんな「VIBE」を求めて向かった先で出会った印象的なシーンを、ピックアップしてお届けしたい。
二条城をカメラオブスキュラに見立てた、空間美の妙
世界文化遺産である二条城では、フランス・パリとチュニジア・チュニスを拠点に活動する、イズマイル・バリーの独創的な作品に邂逅。写真、ビデオ、デッサンといった異なる技術を同時に使用する彼の表現は、「見るという経験」と「見せること」のあいだで微かに揺れ動く、繊細で緻密な視覚的実験といえるものだ。
二条城で開催されている、イズマイル・バリーの「クスノキ」へのアプローチ
静謐な空間にミニマムな作品が、美しく調和する
本展では、普段は一般公開されていない、かつての台所・御清所(おきよどころ)の空間全体をカメラに見立て、隙間から差し込む光の様子や空気の揺れといった自然の作用と事物との儚い関係性のなかで、“永遠の今”に出会えるような稀少な体験を与えてくれる。静謐な空間において織りなされるミニマムなインスタレーションは、目に見えるモノ・コトと知覚そのものの限界を問うような哲学的なテーマが、絶えず心に訴えかけてくるようだった。
ポートレートの巨匠が映し出す、時代の顔たち
京都文化放送博物館の別館では、アルフレッド・ヒッチコックやスティーブ・ジョブスなど、名だたる著名人のポートレートを手がけてきた人物として知られる、アルバート・ワトソンの作品に出会える。
1999年に発売されたアルバム『Beauty』のジャケットにもなった坂本龍一のポートレート
サスペンス映画の巨匠、アルフレッド・ヒッチコックの写真
本展では、『KYOTOGRAPHIE 2019』のメインビジュアルを飾る坂本龍一の写真をはじめ、むきだしの野生や生命力がほとばしる民族の歴史が刻印された、トライバルな作品群を年代ごとに紹介。各国のVOGUEやローリングストーン誌の表紙を飾ってきた、巨匠ならではの力強くダイナミックな表現力に、思う存分触れられる。
天井高の空間には、大判プリントによるダイナミックな写真の数々が。
春画とモノクロシルエットが呼応し合う、秘密の空間
江戸時代から続く帯匠・誉田屋源兵衛の竹院の間では、今年3月、東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールで開催され、話題にもなった『ピエール・セルネ&春画』を鑑賞できる。
本展では、様々なカップルのヌードを被写体にモノクロ&デフォルメした「Synonyms」シリーズと、近年世界的にも評価が高まる春画が交互に展示されている。おおうちおさむによる空間構成は、京唐紙に彩られた建築にフラットな壁が仕切りのようになって効果的に機能しており、空間と作品とが、美しく融合している点にも注目したい。
奥へ奥へと引き込まれる絶妙な空間アプローチは、本展の見どころのひとつ
ピエール・セルネのアートと春画は、抜群の相性
「覗き窓」を思わせる、和の粋な仕掛けにも注目
さらに壁に配された小窓は、まるで「覗き窓」の仕掛けのよう。この魅惑の空間では、江戸時代にタイムトリップしたような気分に浸れるだろう。
ダンス界の鬼才、ベンジャミン・ミルピエの世界初個展は必見!
パリ・オペラ座の元芸術監督であり、映画『ブラック・スワン』の振付師として知られ、映画監督、写真家とマルチな才能で世界的に活躍している、ベンジャミン・ミルピエ。そんな彼の世界初個展となる『Freedom in the Dark』は、今年のKYOTOGRAPHIEでも、最も注目したい内容のひとつだ。
ダンサーたちの一瞬の動きを写真で表現する、ベンジャミン・ミルピエ
「ダンスの振付は、時間と空間を探求する知的行為。私にとってダンスは、いま存在しているということ、本当の意味でいま生きていることの大切さを日々瞑想する行為だ」と話すミルピエ。
ベンジャミン・ミルピエ
ダンス=踊ることが、時間と空間を探求する「動」的な行為であるならば、写真を撮るという行為もまた、時空間を操るという意味で、通底するものがあるのだろう。本展では、「動」の世界を極めたダンス界の鬼才が、絶えず動き続けるものをいかに捉え、「静」という一瞬の中に閉じ込めようとしたのか。そのような表現への飽くなき探求が情熱とともに感じられる、またとないシーンに巡り合うことができる。
インターナショナルな才能が響き合う『KYOTOGRAPHIE 2019』
『KYOTOGRAPHIE 2019』では、この他にも、ドイツの前衛写真家で「バウハウス」でも教鞭を撮ったアルフレッド・エールハルトの日本発個展『自然の形態美—バウハウス100周年記念展』や、3人のキューバ写真家たちによる『彼女、私、そして彼らについて キューバ:3人の写真家の人生と芸術』、さらに京都新聞の印刷工場を舞台に、印刷の歴史をコラージュ手法で創り上げた、金氏徹平の作品なども見られ、それぞれに個性を放つ見応えのあるアートたちが目白押しだ。
アルフレッド・エールハルト氏の作品群。「バウハウス」は今年、記念すべき100周年を迎えた。
チェ・ゲバラの肖像写真を撮影したことで著名な、アルベルト・コルダ氏の作品。
ヴェロニカ・ゲンシツカ「What a Wonderful World」にて
左:写真界の若手ホープ、顧剣亨 カットの多さにおいては、随一を誇る
歴史ある重要文化財や建造物とその場に展示される作品との関係、さらにそこに集う人々によって生まれる「VIBE」の美しいケミストリー。場所、アート、人が共鳴し、響き合い調和することで織りなされるここにしかない空間の妙に立ち現れてくる奇跡とその可能性を、GWの期間中にぜひ体感してほしい。
イベント情報
日時:2019年4月13日(土)~5月12日(日)
会場:二条城、京都文化博物館 別館、両足院(建仁寺内)、誉田屋源兵衛 竹院の間 他