カノエラナ自身が「めっちゃ尖ってます」と語る、今まで以上に自由で自覚的な現在のモードとは
カノエラナ 撮影=風間大洋
2019年のカノエラナは猪突猛進で攻め続けている。昨年末、約2年間在籍していたメジャーレベルから、流通大手ハピネットに設立された新レーベル・蔵前レコーズの第一弾アーティストとして活動することを発表したカノエは、3月13日にその第一弾シングル「ダンストゥダンス」をリリース。現在は、『猪鹿超絶ぼっちツアー』と題した全23公演の弾き語りツアーが後半戦へと突入しており、8月7日には移籍第二弾シングルとなる「セミ」のリリースも決定している。ライブとレコーディング。その両方を精力的に行ないながら、いまのカノエはかつてないほど自由で解き放たれている。CDデビューから4年。いま抱くシンガーソングライターとしての想いとは? 話を聞いた。
――弾き語りツアー初日を見させてもらいましたけど、いつもとは違うカノエくんの表情も見られて新鮮でした。
カノエ:いままでのツアーとはセットリストが全然違うんですよね。だから、隅々まで神経を研ぎ澄ませてやらないとダメなので、1公演1公演、集中してやれてるなと思います。
――あえていままでやらない曲を選んだのは、武者修行的な意味合い?
カノエ:もう何回もツアーをやってるので、さらに一歩踏み込んだものを聴いてもらうためには、セットリストを根本から変えるしかないなと思って。いままで、あんまりライブでやらなかったような曲とかも、ごちゃまぜにしたセットリストにしたんです。
――普段やらない曲をやってみて、どうですか。発見とかはありますか?
カノエ:自分のなかで、ツアーをやりはじめたときは、攻めの(テンポの早い)曲が自分に一番合ってると思ってたんですけど、実際にやってみて、じっくり系の曲を入れることで、逆に尖りを見せられるなと思ってますね。そこで振り幅を出すことで、いまカノエがやりたいことが見えてきた感じがしてて。まだツアーは続くんですけど、また東京に戻ってきたときに、最初のライブと全然違うものを見せられたらなと思ってます。
――話を聞いてると、いまのカノエくんはギラギラとしたモード?
カノエ:そうですね、めっちゃ尖ってます(笑)。
――それはレーベルを立ち上げたっていう環境の変化が大きいですか?
カノエ:もう、それが一番です。いまは何をするのに関しても、最終的には全部自分が決めなきゃいけないんですよね。いままでは誰かが決めたことに対して、「わかりました」か「いいえ」を言う、みたいな状態だったんです。でも、いまは自分自身ですべて決めていくし、クリエイティブをするのは全部自分だっていう責任があるから、強くいなきゃいけないんですよね。
――どちらのやり方が自分の性に合ってると思います?
カノエ:絶対に自分でコントロールできるほうですね。自分の得意とするところを突き詰めていけるから、すごく楽しくやってます。
カノエラナ 撮影=風間大洋
――こういうタイミングだから聞いてみたいんだけど、これまでの自分の音楽活動って、どんなふうに振り返りますか? 19歳のときにインディーズデビューして、約2年間のメジャーでの活動を経て、いまに至るまで怒涛の4年間だったと思いますけど。
カノエ:駆け抜けてきたなと思います。いろいろな方に助けられて、自分というひとりのアーティストの見せ方をいろいろな方が考えてくださって、それはスゴいことだなと思いましたね。いま新しい事務所を立ち上げていくときに、いままでやってきたことが、実は簡単じゃなかったんだって気づいたんですよ。逆に、いままでやってなかったことで、「あ、私はこういうことができるんだ」ってわかったこともあるから、すごく良い経験をさせてもらったなと思いますね。
――これまでの活動のなかで、アーティストとしての意識が変わった瞬間ってありましたか?
カノエ:ああ、ずっと走ってきたから、わからないなあ……でも、やっぱり『ぼっち2』のときかなあ。自分のなかで、やりたいことに対する欲が抑えられなくなって。結局、その欲がハミ出てたものが『ぼっち2』なんです。それまで、ハミ出したい部分をきれいに塗装しようとしてたんですけど。それが無理!ってなったんですよ。
――たしかに、『ぼっち2』を出したあと、去年は『ぼっち2りみっくす』も出したじゃないですか。あの2018年のカノエくんの動きは、解き放たれたような感じでした。
カノエ:そう。いままでは自分で全部やりましょうっていうことがあまりなかったから、それをやらせてもらうことで、イコール、ちゃんと自分が認めてもらえたのかなっていう実感を持てるようになったんです。いままでは誰かから褒められても、実際にそう思ってないんでしょ?って思っちゃうところがあって。でも、「ここは、こうしたらいいかもしれない」っていう自分のアイディアを、「いいね!」って受け入れてもらえるようになって、少しでも認められたのかな?って気づけたことは自信になりましたね。
――明言はしてなかったけど、実質、2018年の後半にはメジャーを離れて、新レーベル発表に向けた準備をしていたというか、独立前夜みたいな期間だったんですよね?
カノエ:そうですね。だから、その2018年に何をしてたの?っていうことは、私のことをめちゃくちゃ応援してくれてる人たちには、『ぼっち2』とか『ぼっち2りみっくす』で知ってもらえてたけど、もう一歩外の人たちには、伝わりきってなくて。それが、(新レーベル第一弾シングルの)「ダンストゥダンス」でやっと届いた部分があったんですよ。なんかカノエが面白いことやってるかもしれないって踏み込んでくれた手応えを、今回のツアーで、新しいお客さんがたくさん来てくれたことで感じたんです。
――そうなんですね。
カノエ:それも、「今回ライブに来たのは初めてですか?」って自分で聞かないと、わからないことなんですよね。数字じゃわからないから。どこで自分のことを知ってくれたのかっていうリサーチも、自分で聞くようにしてて。それで、逞しくなったというか(笑)。私が引っ張っていかないといけないんだっていうので、いまはもがいてますね。
カノエラナ 撮影=風間大洋
――なるほど。3月に出したシングル「ダンストゥダンス」は、新しい場所での第一弾リリースになるっていうところを意識して作ったんですか?
カノエ:そうですね。(1stフルアルバム)『キョウカイセン』を終えて、1回自分のアーティスト活動に区切りをつけたつもりだったので、次のシングルを出すっていうときに、改めて自分が置かれてる状況を考えたんです。それが、すごく浮遊感にまみれてるというか、いまどっちに行きたいんだろう?って感じだったから、そのまま書いたんです。最終的には踊って忘れようぜ、みたいな歌詞だから、チャラい系かなって思われるかもしれないけど、実際には、東京っていうすごい街にいて、そこで相対する自分自身のもがいてる状況を、色濃く出せたんじゃないかなと思ってるんですよね。
――東京をテーマにした曲で言うと、過去に「トーキョー」(『「カノエ上等。」』収録)っていう曲もあるけど、それとは全然違う雰囲気ですよね。
カノエ:正直、前に出した「トーキョー」って、私の曲ではあるんだけど、どこか私の感情ではないニュアンスで書いたんですね。でも、いまは東京でできた友だちとか、知り合いの人たちと色々なところに飲みに行ったり、ご飯を食べに行ったりしてるから、東京がリアルなんですよ。当時の自分はそういうことを全然してなかったんです。
――当時のインタビューでも、曲を作るときって、素のカノエくんと、アーティストとして歌うカノエくんっていうものが明確に違うって言ってましたもんね。
カノエ:そう、自分じゃないけど、自分っぽく書いてた。そういうところで、自分を守ろうとしてたのかなっていうのは思いました。今回は、それを剥がしていくように書いたんです。それも昔の曲があったから、いまはこういう書き方ができるんですよ。そうやって、これからも音楽を書き続けていくんだなと思いました。数年後に「ダンストゥダンス」を聴いて、あ、あのとき、そういうふうに思ってたのか、って思うだろうし。
――カップリングの「猫の逆襲」のほうは、昔からライブで歌ってる曲ですよね。
カノエ:「猫の逆襲」は2年ぐらい前からあったんですけど、聴いてくれる人が好きって言ってくれたから、私も好きになれた曲なんです。インストアライブで歌っても、いろいろな方が寄ってきてくれるんですよ。歌うと、みんながバッと笑顔になる、魔法みたいな不思議な曲なんです。そういう曲って、いままでなかったなと思ってます。
――語尾が“にゃ”で、猫の気持ちを歌ってるから、インストアライブとかだと、小さい子ども一緒に楽しめそうですもんね。
カノエ:猫にまつわる曲を作りたいなっていうのは、シンガーソングライターになるんだって、先生に曲の作り方を教えてもらってるときから思ってたんです。
――カノエくん、猫とか飼ってるんでしたっけ?
カノエ:飼ってないんですよ。おじいちゃんとおばあちゃんと一緒に住んでるんですけど、おじいちゃんが昔から猫が苦手で、飼えなかったんです。でも、なんとなく猫が好きで、近所の野良猫に対して、「どうも、どうも」みたいに話しかけたりしてたんです。
――それで、いつか猫の曲を書きたいっていう気持ちを募らせていったと。
カノエ:そう。あと、「お前は動物にたとえたら、猫だよな」って言われるので、猫に縁があるんだと思います(笑)。
カノエラナ 撮影=風間大洋
――さらに8月には新しいシングル「セミ」がリリースされます。いまのカノエくんの気持ちが、歌詞にも、熱いサウンドにも刻まれたバラードですね。
カノエ:これは、2年前ぐらいにいろいろなことに対してキツかったときに、自分の中学生ぐらいの思い出を振り返りながら作った曲ですね。「キミにコイしてニジュウネン」っていう曲でも、自分と音楽に対する葛藤みたいなことは書いたんですけど、私の晒したくない部分を歌詞にしたんですよ。この曲を作るときに、ある人に「いちばん自分が嫌だって思ってることを曲にしないで、どうするの?」って言われたんですよ。その言葉があったから、「セミ」とカップリングの「(タイムカプセル)」では、わざと自分で掘り起こして晒すっていうのを目指して書いたんです。
――そういう曲って、いつでも書けるわけじゃないと思うけど、自分の中で湧き上がるものが生まれるタイミングごとに残していくことは大切だと思います。
カノエ:こういう曲を作ることで、またどこにでも行けるような気がするんですよね。
――いまは他にも出したい曲がいっぱいあるんですか?
カノエ:ありますね。「早く出せー」って言ってます(笑)。
――いま自分のなかから生まれてくる曲って、いままでとは違うなっていう手応えがあったりますか?
カノエ:全然違いますね。いままで私が作ってきたのは、広い曲だったんですよね。どこにでも刺さるようにピントと合わせたというか。いまは、もうちょっと狭まってると思います。ここに届けたいですっていう視点が、ロックオンできてると思うんです。
――それが逆に広い層に刺さることになったら、面白いですよね。
カノエ:うん、そっちのほうがかっこいいから、そっちにいきたいですよね。
――目指すアーティスト像は、デビューしたときから変わっていますか?
カノエ:そこは、あんまり変わってないかな。いままでも、自分がどういうアーティストになりたいかっていうのはあんまりなかったから。聴いてる人が思ってる人になれればいいかなと思うんですよね。「自分がこういうキャラで」じゃなくて、その人にとって、こういうタイプのシンガーソングライターなんですっていうところになりたいというか。
――たしかに、「サンビョウカン」みたいなバラードのカノエくんが好きな人と――
カノエ:「たのしいバストの数え方」を好きな人とでは、見えているアーティスト像が違うと思うんですよ。だから、あなたに任せますっていう感じですね。
――外からの見え方は多面的であることがカノエラナの魅力だとしたら、自分のなかで貫くものは何だと思いますか?
カノエ:借りてきた曲っぽくはなりたくないですね。自分が作ってきた曲は、自分が操らなきゃいけないじゃないですか。だから、それに踊らされたくないし、ちゃんと自分の曲たちとも戦っていきたいと思うんです。曲を作るときって、メロディはこうしたいけど、歌詞はそっちに行きたがってないんだよなっていう、そういう内側でしか見えない戦いもあるんですけど、ここから先、そういう部分をどんどん突き詰めていったら、ちゃんと自分の曲を自分で飼いならせるようになるんじゃないかなと思います。
――カノエくんにとって、曲作りは戦い?
カノエ:めっちゃ戦いですね。常に戦っていなきゃ気が済まないんですよね。
取材・文=秦理絵 撮影=風間大洋
カノエラナ 撮影=風間大洋
ツアー情報
※終了公演は割愛
5月30日(木) 京都 GROWLY
6月1日(土) 香川 sumus
6月2日(日) 愛媛 キティホール
6月8日(土) 北海道 札幌SOUND CRUE
6月13日(木) 宮城 仙台LIVEHOUSE enn3rd
6月15日(土) 岩手 盛岡Club Change
6月16日(日) 東京 新宿ReNY
リリース情報
2019年8月7日発売
KRKB-1002
¥1,500+tax
[CD収録曲]
01. セミ
02. (タイムカプセル)
03. セミ -Instrumental-
04. (タイムカプセル) -Instrumental-