井上芳雄にインタビュー「個人的に賞を贈りたい人がいるんです!」~「生中継!第73回トニー賞授賞式」

インタビュー
舞台
2019.6.3
井上芳雄

井上芳雄

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2019年6月10日(日本時間)にアメリカ・ニューヨークのラジオシティ・ミュージックホールで開催される、演劇・ ミュージカル界における世界最高峰のアワード「第73回トニー賞授賞式」が今年もWOWOWで生中継される。

日本のスタジオでは、ミュージカル界のトップスター井上芳雄が本賞のナビゲーターを務め、さらに『Endless SHOCK』でミュージカルの単独主演最多記録1700回公演を達成、自らも演出を手がける堂本光一がスペシャルゲストとして出演する。

今回のトニー賞の傾向&行方は?直接現地でノミネート作を観た感想は?など、WOWOW「トニー賞授賞式」番組出演は6度目となる井上に話を聴いた。

2018年の「第72回トニー賞授賞式」より

2018年の「第72回トニー賞授賞式」より

――まずは今年のトニー賞授賞式生中継について、今の心境をお聞かせください。

日本のミュージカル界も日に日に盛り上がっていますよね。トニー賞もグラミー賞やアカデミー賞にはかなわないですが、この6年間で少しずつ日本人に認知されてきているな、と感じますね。毎年様々なゲストをお招きして放送していますが、今年は堂本光一くんがスペシャルゲストとなり、二人でNYにも行ったし当日もスタジオで授賞式を見守ってくださるので、光一くんが出演する事によるさらなる盛り上がりを期待しています。楽しみしかないですよね。

――昨年の日本スタジオでのエピソードも聴かせてください。やはり生放送ですし、大変だったこともあったかと想像しますが。

生中継と同時進行で日本スタジオも生放送で進めていきますから、あまりに長尺すぎて最後の方は意識が飛びそうになりますよ(笑)。昨年は現地とのやり取りも入っていて音声が遅れるから、まあ会話が合わない合わない(笑)。あれは本当に難しいんだなと痛感しましたね。

でも僕はただただ芝居が好きでこの世界に入らせていただいているので、こういう番組に携われる事が楽しくて、全然辛いとは思わないです。どの作品が受賞したとか、影山雄成さんというプロの評論家に「この人はどうなんですか」と直接聴きながら授賞式の行方を見守れますから、途中から仕事なのかプライベートなのか分からなくなるくらい(笑)。

たとえこの世界に入ってなかったとしてもきっと自宅でこの番組を観ていたと思いますよ。

――現地で直接ご覧になった上で感じる今年のトニー賞の傾向はいかがですか?

その年によって雰囲気は違いますね。かつて『ハミルトン』が受賞したときは「一強」色が強く、これに決まりだ!みたいな空気でしたが、今年はどの作品が受賞するんだろう、という感じです。超目玉作品はないんですが、拮抗している作品が結構あって。

一年ぶりにNYに行ってみたら作品の多様性が進んでいて、NYという街がもともと持っている多様性が作品にも反映されているように感じました。日本人の僕たちから見たら多様性がありすぎて困ってしまうくらい。例えば、主人公の二人がレズビアンというLGBTQを描いた『プロム』があったり。またダイバーシティブラインドキャスティング(登場人物の人種と実際の役者の人種を問わないキャスティング)もより浸透していて、ほとんどのヒロインは白人じゃなかったし、お父さん、お母さんが黒人だが子どもは白人という構成や、さらに子役の時は黒人だったのに大人に育ったら白人に変わったり……そのくらい徹底していました。僕らからみたら「そこまでするのか」と驚くくらい、1歩も2歩も先をいっていましたね。「オクラホマ!」という作品では、アド・アニーという役に、今回初めて車椅子の女優の方がキャスティングされていましたし。皆が融合して生きていく時代の中から作品が生まれているんだ、という感触を受けました。

――今年のトニー賞、ズバリどの作品が受賞しそうだと思いますか?

現地の雰囲気や相対的な評価を観た感じでは『ハデスタウン』が獲るんじゃないかな。今年も有名な映画や皆が知っている話を舞台化した作品が多いんです。『ビートル・ジュース』『トッツィー』などね。そのなかで『ハデスタウン』はオリジナルの物語で、オリジナリティがあり、演劇的。そういう意味でバランスが良い作品だなと感じました。演出を務めたのが僕が日本で出演した『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』と同じレイチェル・チャヴキンさんだったこともあり、「グレート・コメット」味もありましたしね。登場人物と観客が融合する場面もありましたし、キャストも皆さんすばらしかった。ストーリーは神話を元にしているので少し難しいところもありましたが、それでもこの作品は凄いと思いましたね。

――先に話が出ましたが、スペシャルゲストの堂本さんとのNY観劇旅行の感想を聞かせてください。

一緒にNYに行ける事をとにかく楽しみにしていました。昨年『ナイツ・テイル』を一緒にやってから公私共々仲良くなりましたが、とはいえ一週間一緒に旅をするのは初めてでしたから。実際すごく楽しかったです。日本でお互いの作品を観る機会はあっても一緒に同じ作品を観る事はなかったですから。一緒に観る事もあればそれぞれ違う作品を観る事もあったので、毎晩観劇後に合流してご飯を食べお酒を飲みながら「今日観た作品は面白かったよ」とか「アレは合わなかった」(笑)とかいろいろ話をしましたね。

その話の中で感じた事ですが、光一くんは演出もしているからか、舞台裏の事にすごく興味を示していて。僕はそっちの方面に正直興味がなく(笑)、「この役者さんすごいなあ」とか「どうやってあんな声を出しているんだろう」といった表に見える方に目をむけてしまうんですが、光一くんは「(幕や照明を吊るす)バトンを何本使っているんだろう」とか「あの装置はどこにしまっているんだろう」など、そういうところも含めて楽しんでいるみたいでした。また光一くんは『エイン・トゥ・プラウド』のようなショーに近いジュークボックス・ミュージカルも気に入っていましたね。やっぱり「見せる」作品が好きなんだなって思いました。

――堂本さんが舞台の裏側に興味が、とおっしゃっていましたが、逆に井上さんが芝居をご覧になる際に特に重要視されている点はなんですか?

上手く言えないんですが、ミュージカルでなくても芝居ってオープニングが重要だと思うんです。オープニングで惹きつけられる作品は良いなって思いますね。あと、出演者がイキイキしている事も大事ですよね。どこを観ればいいんだって思うくらい舞台という額縁の中が埋め尽くされている事。そういう点では『トッツィー』や『プロム』は始まった瞬間のワクワク感や個性的な登場人物の存在があって、目が忙しかったです。あっちもこっちも観たくなるから(笑)

話が少しそれますが、僕らが現地に行ったのは、まさにトニー賞のノミネートが発表された直後でしたので、多数ノミネートされている作品はやはり芝居も活気づいていましたね。アドリブでノミネートの事を織り交ぜて見たり……またその逆もあったりと顕著でしたね。でもやっている人たちは皆誇りを持っていましたね。

――もし今後、日本に上陸する作品がこの中にある場合、井上さんが出演してみたい作品は?

『トッツィー』は面白そうだな、と思いましたね。落ち目の俳優が自分が演じられる役がなくなっちゃったから女性としてオーディションを受けたら受かってしまい女優としてデビューするという話。僕は実は女装する役って今までしたことがないんです。登場人物の年齢は僕より少し上くらいですが、やれそうだなって。

以前のトニー賞授賞式で紹介した「グレコメ」もジョシュ・グローバンが演じていたのをすごいなあと思って観ていたら今年自分がやる事になったりしたので、分からないものですよね。こればかりはご縁次第ですね。

自分がやる、やらないという訳ではないですが、『プロム』も日本に入ってきたらいいのになあと思いますね。昨年の『ミーン・ガールズ』も同じ演出家。また『トッツィー』と『キス・ミー・ケイト』も同じ演出家。厳選された作品がブロードウェイに集まっていますが、そのなかでも決まったスタッフが作品を作って評価されている事ってすごいと思いますね。

――今年のスタジオパフォーマンスも楽しみですね!

今年もチャレンジします。現地で観てきた作品の楽曲などから自分たちなりに歌いたいと思っています。トニー賞のいい所って風刺が効いていて司会者が個性的にパロディにしたりちょっと毒づいたり批判したり、また自虐したり……そういうパフォーマンスを観るのが楽しみなんです。そういう事をせっかくだから自分たちもエンターテイメントに携わっているからにはやってみたいですね。自分たちの想いを込めてね。

――最後にこんな質問を。もし井上さんの独断と偏見で誰かにトニー賞を与える事が出来るとしたらどの方に差し上げたいですか?

これ、いるんですよ(嬉)!光一くんと一緒に観た『ハデスタウン』に出演していたエヴァ・ノブレザダさん。エヴァは『ミス・サイゴン』でキム役をやっていて僕も光一くんもDVDで彼女の演技を観てはいたんですが、初めて生で彼女の演技を見たとき、凄く素晴らしくて、チャーミングで! 終演後、楽屋に挨拶しに伺ったんですが、とてもいい子で性格もよさそうで。23歳という若さですが、女優さんとしても一人の人間としても素晴らしい方だったので、エヴァに「井上芳雄賞」を贈りたいですね。多分「堂本光一賞」も贈られると思いますよ(笑)!

取材・文=こむらさき

放送情報

生中継!第73回トニー賞授賞式
 

 
WOWOWプライム 2019年 6月10日(月)午前8:00 生放送・同時通訳
WOWOWライブ  2019年 6月15日(土)よる7:00 字幕版
■ナビゲーター:井上芳雄
■スペシャル・ゲスト:堂本光一
■授賞式司会:ジェームズ・コーデン
■トニー賞アンバサダー(VTR出演):宮本亜門
 

<関連番組>
「トニー賞直前SP 2019 ~僕たちのブロードウェイ物語~」
放送日:6月10日(月)朝7:15
WOWOWプライムにて再放送

■番組ホームページ:https://www.wowow.co.jp/stage/tony/
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