マシュー・ボーンと出演者たちが語る『白鳥の湖〜スワン・レイク〜』~新演出でドラマが濃密に
男性が白鳥を演じるという衝撃作として、今も熱狂的な人気を誇るマシュー・ボーンの『白鳥の湖〜スワン・レイク〜』。1995年の初演以来、初めてマシュー自身が手を入れた新演出版がこの夏、来日する。では一体、この新演出版とは、これまでと何が違うのか。イギリスで観劇したところ、ドラマがより繊細に色濃く迫りくるようになった。特に、立体的で複雑なニュアンスの照明とプロジェクション・マッピングが、今までにない効果を生んでいる。なかでも冒頭と、スワンク・バーから湖に至る流れ、後半の王子の寝室では、おお!と驚くこと請け合いだ。スワンの肉体美や汗は、照明効果で立体感がくっきり。同時に、美術と衣裳がグレードアップし、振付も細かい部分に手が入っている。シーンとして変化が目立つのはスワンク・バー。観客の視点を絞り、都会的でスタイリッシュな印象になっている。実際、終演後、イギリスの観客たちは即、総立ち!しばらく拍手が鳴り止まず、本作がいかに愛され、受け入れられているかを実感した。
【動画】マシュー・ボーンの『白鳥の湖~スワン・レイク~』15秒スポット
物語の流れは同じでありながらも、目覚ましい進化を遂げた新演出版。日本でもこれまで何度もリピートしてきた作品ファンに、そして初めて本作を見る方にも新鮮な驚きをもって迎えられるに違いない。このほど、演出・振付のマシュー・ボーン、そして、スワン/ストレンジャー役のマシュー・ボール、ウィル・ボジアー、マックス・ウェストウェルの4人にインタビューすることができたので、まとめてここにお届けする。
【動画】マシュー・ボーンの『白鳥の湖~スワン・レイク~』リハーサル映像
■マシュー・ボーン(演出・振付)
大きく変えたというよりアップデート。新鮮に生まれ変わった
マシュー・ボーン
――1995年の初演以来、マシュー版『白鳥の湖』が、なぜこれほど愛されていると思われますか?
そもそも「白鳥の湖」はバレエとして、世界で最も有名で愛されている作品です。美しい音楽に乗せて男性がスワンを演じること、またレズ・ブラザーストンによる象徴的なデザインが長いヒットの理由だと思います。この作品はダンスの常識を色々な意味で打ち破りました。今もその影響力は衰えず、ニュー・アドベンチャーズが上演を続けています。
――今回、新演出版となりました。可能な範囲でどこが変わったのかを教えてください。
初演から20数年が経ち、レズと私は作品をリフレッシュさせる良いタイミングだと考えました。大きく変わったというよりも、アップデートしたという言い方が適切かもしれません。新演出版を見てもどこが変わったのか気付かない方もいるかもしれませんが、実はかなり変更しました。舞台美術も衣裳も多くの点でデザインが変わりました。また、新しく照明デザイナーにポール・コンスタブルを迎え、新たなアプローチが加わりました。シーンとして最も変わったのは、ソーホー(スワンク・バー)でしょうか。60年代の雰囲気を持ちつつも、個性的なキャラクターはほとんどいなくなりました。また独自の視点を持つ新キャストが加わり、作品が新鮮に生まれ変わっています。
――英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルであるマシュー・ボールをスワン/ストレンジャーに起用したのはなぜですか。
マシュー・ボールと最初に会ったのはナショナル・ダンス・アワードの席で、彼から私の『白鳥の湖』が大好きだと聞きました。彼が最初に私の『白鳥の湖』を見たのは8歳の時。その体験がダンサーとしてのターニングポイントになったとか。その時に買ったTシャツを何年もの間、部屋着にしていたそうです。マシューはこの役をすでによく理解していたので、リハーサルではとてもスムーズに役作りができました。まるで彼のために作られたような役です。
――日本の観客にメッセージをお願いします。
日本のファンの皆さんはニュー・アドベンチャーズを長い間応援してくださり、私たちにとって特別な存在です。また日本公演で皆さんにお会いできることを楽しみにしています!
つづいて主役スワン/ストレンジャー演じるダンサーたちをご紹介!
■マシュー・ボール(スワン/ストレンジャー役)
…英国ロイヤル・バレエのプリンシパル
8歳から憧れてきた役。ラストシーンで味わうカタルシス
マシュー・ボール Photo by Johan Persson
――スワン/ストレンジャー役を演じるきっかけは?
マシューが、僕がガラコンサートでクリストファー・ブルースの「スワンソング」を踊っているのを見て、私にスワンをやらないかと連絡をくれました。僕は8歳の時、バレエの先生に連れられてマシュー・ボーン版『白鳥の湖』を観たことがきっかけで、プロのダンサーになると決心。それからずっとスワン役に憧れていました。自分のキャリアにおいて、ましてプリンシパルになった翌年に実現したのは、本当に夢のようです。
――実際にスワン/ストレンジャーを踊ってみた感想は?
スワンとストレンジャーは対照的な感覚と感情が必要で、それぞれ違うアプローチを試みています。スワンはより無垢で動物的。悪意はないけれども危険なところもあります。一方、ストレンジャーは本能的で社会のルールに縛られることがない。けれども、肉体的には人間です。
――この作品の魅力と一番好きなシーンを教えてください。
魅力は男性スワンの群舞です。通常のバレエでは女性がスワンを踊るものですが、この作品では男性が踊ることで、動きにおいて、また芸術的解釈の点でも、驚くほど深いものになっています。何より、身体的表現が美しい。僕が最も好きなシーンはラストです。信じられないほどドラマチックなだけでなく、このチャレンジングなショーを踊り抜いたという達成感を得られます。肉体はヘトヘトで疲れていますが、感情は高ぶっていて、観衆の前でこのようなクライマックスを迎えるカタルシスを感じることができます。
――日本の観客にメッセージをどうぞ。
この作品で日本に行くことをとても楽しみにしています。日本で、文化、人々、そしておいしい食べ物に出会いたいです。日本の観客の皆さんは世界でもっともあたたかくて熱狂的。その雰囲気の中で、スワン/ストレンジャーを演じられるのは嬉しいことです。皆さんとお会いするのが待ち遠しいです!
■ウィル・ボジアー
(スワン/ストレンジャー役)…ミュージカル出身で表現力豊かな個性派
有名なメロディとともに王子が正気をなくし始めるシーンは、いつも鳥肌が立つ
ウィル・ボジアー Photo by Johan Persson
――2014年にニュー・アドベンチャーズ(NA)に参加。その経緯を教えてください。
ロンドンで『ウィキッド』に出演していた時に、友達からオーディションをやっていると聞き、早速メッセージを送りました。すると「明日来てください」との返事をもらい、土曜の朝にオーディションを受け、その後『ウィキッド』に出演。家に帰ると、マシューから「パートナーと組んでもらいたいので、明日もう一度オーディションにきてほしい」と。日曜に再びパートナーと組んで踊ったら、翌日『エドワード・シザーハンズ』への出演オファーをいただきました。本当に嬉しかったです。
――スワン/ストレンジャーはどんな人物ですか?
この二役はとても似ていると同時に、とても異なるキャラクターでもあります。スワンはエレガントで静か、穏やかである時と凶暴で襲いかかる二面性があります。一方、ストレンジャーは謎めいたキャラクターで、パーティーで好き放題に振る舞い、人々が畏怖する存在。アダム・クーパーが作り上げたこの役は、子供の頃から一番やりたい役でした。本当に、本当に驚くほど素晴らしい役です。
――『白鳥の湖』で一番好きなシーンは?
物語としては最初から最後までスペシャルですね。あえて言えば、主役のスワンが一番前、後ろに全てのスワンたちが初めて勢ぞろいする場面が好きです。とてもパワフルで、王子と力強いスワンとの一体感が印象深いです。また、後半『白鳥の湖』の有名なメロディーとともに、王子が正気をなくし始めるシーンは、舞台袖で待つ間、いつも鳥肌が立ちます。人間を白鳥に見せる振付、くちばしや翼などの動きはとても難しいのですが、マシュー、アダム・クーパーとスコット・アンブラーが素晴らしい仕事をしています。動きを見れば、何をしようとしているのかが伝わりますから。
――日本の観客にメッセージをどうぞ。
日本は大好きな国ですし、新演出版をお見せするのも楽しみです。とてもワクワクしています!
■マックス・ウェストウェル
(スワン/ストレンジャー役)…イングリッシュ・ナショナル・バレエ出身の実力派
演者により異なるスワン。マシューは個性を引き出すことに長けている
マックス・ウエストウェル Photo by Johan Persson
――2018年にニュー・アドベンチャーズに参加されました。その経緯を教えてください。
マシューの作品は、私が10歳の頃から見ていました。『白鳥の湖』もカンパニーに入る前に3、4回は見ており、中でもスワンの役はいつか演じてみたいとずっと思っていました。5年前、まだイングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)に所属していた頃にもツアー版のオーディションを受けました。その時に多くのフィードバックをもらい、「今はすでにプリンシパルがいますが、貴方のことも頭に入れておきますね」と告げられました。そしてENBを退団し、ウエストエンドの『パリのアメリカ人』で主役ジェリー・マリガンを務め、このオーディションに再挑戦。スワン役を得ることができました。
――スワン/ストレンジャーはどのような人物ですか?
私にとって、スワンは本当にスワンです。ただ、神秘的で現実よりも大きな存在。王子が自殺をしそうになったとことを目撃し、彼の痛みを感じる。そして王子に美と人生を見せて、生き続ける理由を見い出させます。それが私のスワンですね。ストレンジャーは、私の解釈としては王子の頭の中の存在。頭の中に聞こえてくるけれど聞こえないふりをしている「悪い誘い声」や、皆が思っているけれど声に出さない、出してはいけない考えです。現実には許されないことを体現するのは楽しいです。最初はかなり怖くて勇気を要しましたが、役になり切ると楽しいです。飲み過ぎた時に自分が無敵であるような気分になるのと、少し似ているかな。
――マシュー・ボーンの『白鳥の湖』の一番の魅力は?
ユーモアの部分だと思います。自分では同じことをやっているのに、日によって大きく笑いが起きたり、全く反応がない日もあります。笑いは刺激になりますが、注意しなければいけないのは笑いを取りにいくのではないということ。己を信じて、いつも通りに演じて観客に反応してもらうことが大事です。
またスワンが、演じる人によって少しずつ異なるのも面白いですね。マシューは、演者の要素を引き出して作品に反映することに長けています。稽古時には演者の思うように踊らせてくれて、「もっとこの部分が欲しい」「ここは少なく」「こういう方法を試してみて」と提案しながら、個々の物語を築いてくれるのです。初めて通し稽古を見た時に「これは僕のスワンだ!」と思えたほどです。
――最後に日本の観客へメッセージをどうぞ。
まだ日本に行ったことがないので、日本の文化に触れることができるとワクワクしています。何より皆さんにお楽しみいただけるよう、ベストを尽くします。一緒に楽しみましょう!
構成・文/三浦真紀
公演情報
★対象=2019年6月28日(金)20時~7月7日(日)18:00の期間、e+一般販売にて<S席>ご購入の方全員
★プレゼント受取方法=公演当日、会場内の引換所でご提示ください。
■日程:2019年7月11日(木)~21日(日)<全16回>
■会場:Bunkamura オーチャードホール
■料金(税込):
S席:13,000円 A席:9,500円 B席:6,000円
S席:バックステージツアー付 13,000円
※未就学児入場不可
※本公演のは主催者の同意のない有償譲渡が禁止されています。
■上演時間:1幕:70分 休憩20分 2幕:60分 計2時間30分(予定)
■演出・振付:マシュー・ボーン
■音楽:ピョートル・チャイコフスキー
■キャスト
スワン、ストレンジャー役:マシュー・ボール
スワン、ストレンジャー役:ウィル・ボジアー
スワン、ストレンジャー役/執事役:マックス・ウェストウェル
王子役:ドミニク・ノース
王子役:ジェイムズ・ラヴェル
女王役:ニコル・カベラ
女王役/ガールフレンド役:カトリーナ・リンドン
ガールフレンド役:キャリー・ウィリス
ガールフレンド役:フレヤ・フィールド
執事役:グレン・グラハム
執事役:ジョナサン・ルーク・ベイカー
執事役:アシュリー・ジョーダン・パッカー
ほか
※公演ごとの配役につきましては、ニュー・アドベンチャーズの意向により、公演直前での発表となります。公演中止の場合を除き、のお申し込み、ご購入後の変更、キャンセル、払い戻しはできませんので、予めご了承ください。
キャスト・スケジュール表
■後援:TBSラジオ