水田航生が語るミュージカル『REEFER MADNESS』の魅力とは!?「『ふざけている、くだらない』は最大級の誉め言葉です!」
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水田航生
映画演劇文化協会が、魅力的な作品を若い才能と一緒に上演に取り組むという新しいプロジェクトをスタートさせた。そのプロジェクトが世に送り出す第一弾作品は『REEFER MADNESS』。「REEFER」=大麻をテーマにした、能天気で中毒性のあるB級ミュージカル・コメディだ。
本作は、かつてリーファー=大麻(マリファナ)たばこの害を訴えることを目的にアメリカ政府が1936年に制作した映画『麻薬中毒者の狂気』(放題)をもとに1998年ロサンゼルスでミュージカル化されヒット。その後2001年にオフ・ブロードウェイへの進出を果たしたが、初日が9.11同時多発テロの4日後だったため、タイミングの悪さによって短期間で公演は終了。だが、2005年、米SHOWTIME局の製作によりテレビ映画版として復活。舞台『キャバレー』でトニー賞主演男優賞を受賞したアラン・カミングが講師役に扮し、カルト的人気を博している。
今回日本初演にあたり、上田一豪が演出を務め、REEFERに魅入られたハイスクールの生徒ジミー役を水田航生が演じることとなった。大麻を初めとする覚せい剤のニュースが何かと世間を騒がせる中、水田はどのような心境でこの作品に向き合おうとしているのだろうか。
水田航生
――水田さんは先日の『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』、そして平間壮一さん、植原卓也さんと共に出演された『3LDK MUSICAL SHOWCASE 2』と拝見していますが、この1~2年で飛躍的に歌唱力がアップしてきているように思うんです。その実感ってあるものですか?
いやいや、そんな事を言っていただけるんですが、僕だけではなく、3人ともいい意味でその言葉をいちばん信じていません!「ウソに決まっている!俺たちは騙されないぞ!」って思っていますから(笑)。まだまだ発展途上中です。
――またまた(笑)。さて、この『REEFER MADNESS』の出演の話が来た時、どんな心境だったんですか?
最初、「主役で」と言われて「務まるかな……」という不安が第1波できて、次に「どんな作品なんだろう……え?リーファー!?この時期にパンチの効いた事をやるなあ~」という第2波がやってきました。でも演出が上田一豪さんと聴いて、これは是非やりたい!と。上田さんはミュージカル『エドウィン・ドルードの謎』で演出助手を務めていらしてその時にご一緒させていただいてからずーっとまた一緒に仕事をしたいと思っていたので、逆に上田さんからお声をかけていただき、こういうふざけたB級ミュージカルを一緒に作れるんだという楽しみでいっぱいなんです。
あ、前もって言っておきますとこの作品について「ふざけている」「くだらない」っていう僕の表現は最大級の誉め言葉ですから(笑)!
――承知しました(笑)。先ほど稽古場からいくつか楽曲が聴こえてきましたが、とても大麻が絡む話とは思えないくらい素敵なメロディーばかりで、それもまた驚きでした!
そうなんですよ。曲がとにかくカッコよくて!最初本作のアメリカで上演された時の映像を観る前に曲(音源)を聴かせてもらったんですが、キャッチーな曲だな、と思ったんです。題材は大麻なんですけど、作っている舞台はくだらなくて(笑)。いい意味でB級感満載なのでそのギャップも楽しんでいただけると思いますよ。
そして「コメディ」ですから。ただふざけているだけではなく、コメディ要素だけではなく、観終わった時に大麻の恐ろしさや、いろいろなものに流されてはいけないよ、といった様々な事に対するアンチテーゼも込められているので、「ああ、くだらなかった!」と笑いながら劇場を後にして、家のドアを開けたくらいに「あれ、あのシーンってひょっとしてこういう事を匂わせているのかな」って、ちょっとぞっとするような気持ちの悪さをも感じてもらえるんじゃないかな。
水田航生
――経験のない薬物中毒者役ですが、どんな風にアプローチされていったんですか?
稽古に入る前は本作の映画版を観たり「大麻、マリファナとは何ぞや?」とインターネットなどで調べてみたりしましたね。……今、もし職質(職務質問)を受けたらその手のヤバイ履歴が山ほどスマホに残っているから「水田航生、薬物中毒か!?」みたいなあらぬ疑いを持たれてしまうかも(大笑)。そんな感じで調べてはみたんですが、稽古に入ったら「リーファーを吸ったらこういう症状が出て~」というリアルな話よりももっとそこはコメディに寄せていいと思いました。怖くもあり滑稽でもあるというところを目指せばいいのかなって。
よくある事だと思うんですが、好奇心が強いがためについ悪い事に手を出してしまう。「これ、押すなよ」って言われると押したくなるような気持ち。悪ふざけに近い心境なら僕にも経験があるので、そういう気持ちから役に近づいていきたいですね。一方で僕自身は「本当にダメな事はダメ」が分かっている大人でもあるので、その両極端を行ったり来たりしている感じでやっています。
それ以上に「コメディ」ですよ!笑いって本当に難しいですね。自分がふざけているだけではダメですし、その匙加減がなかなか分かりません。稽古場で一発目にやる時が一番集中しているんです。キャストもスタッフも初めて僕の芝居を観る「お客様」ですから。一豪さんなど初めて観る方がどれだけ笑ってくれたか、が勝負なので、今回は誰にも相談しないでやっています。手の内を明かさないでブッコんだ時の反応を大事にしています。こうやるとウケるし、こうやるとスベるんだなって確認しながら(笑)。
――普段は共演者やスタッフさんと相談して作り上げていくのに、今回笑いに関してはあえて自力で頑張っているんですね!
会話で笑わせるというより、「居様」であったり「てい」で笑わせる場面が今回多くて。分かりやすいくだらなさ、ふざけているだけではないくだらなさを追求しています。……はたで見ている方には「水田航生、ふざけている!」って思われるだけかもしれないですが(笑)。
といってもお芝居なので、芝居としてジミーという好青年がどう堕落していき、少し希望を見出したが、また堕落して……台本にそのあたりがしっかり描かれているので、僕も丁寧に演じていかないと、と思っています。シーンごとでバラバラにならないように。
物語の真ん中にいる人って周りから影響を受けて変わっていく存在。だから自家発電だけでは独りよがりになっていくので、他の役者さんが出していく事をどう受け止めて自分に反映していくかを大事にしながらやっていきたいです。
水田航生
――そんなジミーに影響を与えていく役を演じる方々も豪華な顔ぶれですね。岸祐二さんに保坂知寿さんに……。
名優が本当にふざけてますから(笑)!稽古場ではもうみんなゲラゲラ笑いながらやっています。保坂さんとは『エドウィン・ドルードの謎』でもご一緒しているのでポテンシャルの凄さは分かってはいたんですが、それでも「あの保坂知寿が!」状態です。そして「岸祐二がそこまでやりますか!?」な事も。二人とも経験値が高すぎて、僕は全力で挑んでいるんですが、お二人はヤラシイ出し方をしてくるんです(笑)。「100%出してないのに何その面白さは!」って事を。あのセンスは素晴らしいですね。自分が一緒に演じている時は飲まれないようにしていますが、一歩離れて二人だけで演じている場面を観ているともうずっと笑っています。
――そして名優たちの歌声も聴ける、と!
本当に!新宿村LIVEでお二人の歌声をこんな近距離で聴けるなんてなかなかない、贅沢なひと時ですよ。稽古場でも拍手が起きるくらいですから。大劇場で王道のミュージカルをやってきた人たちが、このサイズの劇場でちょっとクセのある作品をやっているといういたずら心(?)がまた面白いポイントです。
――水田さんのブログで「映像効果がすごい」という発言があったのも気になっています。具体的にはどんな効果を仕込んでいるんですか?
ネタバレにならないヒントとして……会場に入った時に驚きますよ!「え?」って事が起きると思います。「舞台でこれをやるのか!」って。いろいろなエンターテイメントが融合する瞬間なので、公演が終わってから口コミなどでいろいろ噂を広めてほしいです。「アイツら、ヤベー事やってる」って!
――こんな魅力的な作品を短期間での上演で終わらせるのはもったいないですね。もっと期間を増やして、会場ももっと大きなところでやってほしいと思うんですが。
題材が題材なだけに放送コードギリギリの内容で、上の人がどう言うか(笑)。でもそういうのを抜きにして演者の一人としてはまた再演したい作品ですね。キャストもスタッフもいい感じですのでこのメンバーでまたできたらいいなと思います。
水田航生
――最後に、作品にちなんで、水田さんがやめたくてもやめられないものって何ですか?
寝落ちです。ここ最近、マネージャーさんの鬼電で起きるという事が2度ありまして(笑)。寝落ちって一度目覚めた後に「このまま寝たら気持ちいいよ~」って悪魔がささやくんです。「起きて風呂に入ったほうがさっぱりして気持ちいいよ」っていう天使の声も聴こえているんですがどうにも悪魔のほうが強い時があって。なかなかなかったんです。ここまで寝落ちすることって。
――本作の稽古で疲れがたまっているんじゃないんですか?
いやあそんなカッコいい事は言ってられないですよ、大人として!「ダメなものはダメ」ですから。まさにこの作品のテーマですね(笑)。
リフレッシュという意味でやめられないものは「テレビ」。僕はテレビっ子なので、常にテレビがついていることで落ち着くんです。ドラマでもバラエティ番組でもお構いなし。テレビが消えているのは寝る時だけです。つけっぱなしで寝たいときもありますね。
――この流れでオフの日の過ごし方も伺いたいのですが。
オフの日は休めばいいのに何かしたくなるんです。違う情報が入ってくる事で自分がリフレッシュされる感覚がありますね。最近ではイキウメの『獣の柱』を観ましたが最高でした!昔からイキウメが大好きで、この前『ゲゲゲの先生へ』でご一緒させていただきましたが、それまではいちファンとしてイキウメの作品を楽しんでいたので今回観方が変わってしまうかな、劇団の人たちとも顔見知りになったし……と思っていたんですが、まったく一緒でした!本の完成度の高さといい、前川知大さんの頭の中はどうなっているんだと。ずっとわくわくしててかぶりついて、終演後も前川さんにすごく良かったってずっと話し込んでいて……僕はイキウメのファンだった!と再認識できました(笑)。
水田航生
取材・文=こむらさき 撮影=高橋定敬
公演情報
アメリカの小さな町のハイスクール、厳格な講師(小林遼介)が「REEFER」の害について保護者を前に講義を始めます。その会場で語られる世にも恐ろしい悲劇、「REEFER」の魔の手に絡み取られた者のたどるてん末とは…。
ジミー:水田航生、ジャック:岸祐二、メイ:保坂知寿
メリー(Wキャスト):清水彩花/水野貴以、サリー:ラリソン彩華、ラルフ:加藤潤一、講師:小林遼介
樋口綾 濵平奈津美 高橋莉瑚 杉山真梨佳 友部由菜