衣裳などロフト(屋根裏部屋)の宝物を展示 新国立劇場オープンスペースに「初台アート・ロフト」誕生

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2019.7.5

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2019年7月4日(木)、新国立劇場に「初台アート・ロフト」が誕生した。これは「舞台鑑賞とは違った視点で、舞台芸術や劇場に気軽に訪れ、親しんでいただきたい」(新国立劇場常務理事・中島豊)という目的で始められたプロジェクトで、劇場の1~3階のオープンスペースにこれまで新国立劇場で上演したオペラ、バレエ、ダンス、演劇作品の衣装やセット、舞台模型などを当時のポスターとともに展示。さらに照明や効果音、小道具や大道具など、舞台裏の仕事を体験できるコーナーも設けられている。展示作品は舞台美術の第一人者であり、新国立劇場の開場公演で演劇『夜明け前』の舞台美術を担当した妹尾河童のもと、これまで劇場で上演された約20作品から選ばれている。
(文章中敬称略)

挨拶する妹尾河童

挨拶する妹尾河童

■ロフト(屋根裏部屋)から発掘した「芸術品」を展示

公開に先立って行われた内覧会で、「初台アート・ロフト」を監修した妹尾が「ロフト(屋根裏部屋)というネーミングが素晴らしい」と語ったように、この展示は1997年に新国立劇場がオープンして以来、20年以上にわたって上演されてきたオペラ、バレエ、ダンス、演劇の衣装や小道具などを展示している。実際は倉庫から運んできたにせよ、「展示品の選定作業は、まるで屋根裏部屋にしまってある宝物を発掘しているような感じだった」と、妹尾とともに展示プランに携わった舞台衣裳家の清野佳苗は振り返る。

(左から)展示プランに携わった伊藤雅子、清野佳苗、衣裳展示に携わった桜井久美

(左から)展示プランに携わった伊藤雅子、清野佳苗、衣裳展示に携わった桜井久美

実際に展示を見てみよう。メインエントランスから内部に入り、最初に目に飛び込むのはオペラ『アイーダ』のエジプト神を象ったセット。その奥には2019年2月に上演された話題のオペラ『紫苑物語』のうつろ姫と宗頼や、『椿姫』ヴィオレッタの衣装が並ぶ。1階奥突き当りの待ち合わせコーナーには演劇『ヘンリー六世』『マニラ瑞穂記』などの舞台美術模型が。2階のブリッジには演劇『NINAGAWA・マクベス』で使われた伐折羅大将の像などが置かれる。この巨大な伐折羅大将の像は実は発泡スチロール製で、裏に回ると確かにそれがわかるという展示だ。

オペラ『紫苑物語』衣裳

オペラ『紫苑物語』衣裳

これまでもオペラやバレエの衣裳を展示していた3階の展示スペースも、「ロフト」のため展示に手を加えている。メインエントランスを入って右手にはオペラ『建・TAKERU』やバレエ『パゴダの王子』など、左手にはバレエ『シンデレラ』やオペラ『マクベス』、演劇『天守物語』などの衣裳や小道具が並んでいる。どれも間近で見ると生地の種類や模様やスパンコール、模様や造形の緻密さなど手の込んだ様子が分かり、歌手やダンサーらは芸術品をまとって舞台に上がっているのだということを改めて感じる。

バレエ『パゴダの王子』さくら姫の衣裳。隣には王子の衣裳も

バレエ『パゴダの王子』さくら姫の衣裳。隣には王子の衣裳も

■見てさわって楽しめる、舞台スタッフの体験コーナーは必見!

「初台アート・ロフト」でぜひとも立ち寄っていただきたいのが、3階左手の「バックステージ・コーナー」だ。これは舞台裏の仕事を体験できる展示スペースで、照明機材や音響の道具などに実際にふれることができる。例えばオペラ『ホフマン物語』では実際にロープを引いてゴンドラの出し入れができるのだが、このロープが結構重たい。しかもこれを音楽に合わせて動かすという。また照明器具も実際にさわって、正面の衣装に向けてスポットライトを当てたり色を変えたりフェイドアウトさせたりといった体験ができる。こうしてじかに機材にふれてみると、「裏方さん」と一般的には言うが、彼等もまた舞台に欠かすことのできない出演者の一人だと、改めて思わせられるのだ。このほか、バレエの際に衣裳の早替えを行う小屋も再現されている。壁に張り出された説明文は、舞台の臨場感を伝えようと、全て本番さながらの手書きであるのも面白い。

3階のバックステージ・コーナー

3階のバックステージ・コーナー

雨音やカエルの鳴き声といった効果音は、現在は全て機械で行っているが、昔使われていた風の音を起こす機械やカエルの形のギロー、小豆粒の付いた団扇といった、昔ながらの道具も並んでいる。「舞台技術の進歩というが、元を知らなければどのように進歩してきたかがわからない」と語った、妹尾のこだわりのひとつだ。

昔の効果音装置

昔の効果音装置

■いつでも劇場へ。展示は入場無料

先にも述べたように、今回展示されているのは20余年にわたって新国立劇場で上演されてきた作品のほんの一部で、今後は展示の入れ替えも予定しているという。
「劇場はよく箱ものと言われるが、この箱に命を与えるのは人間。そして“屋根裏部屋”には長い歴史と人の手によってつくり出されたものがまだまだ眠っている。こうした先人の息吹を50年先、100年先まで伝えていけるような展示にしていっていただきたい」と妹尾が語るように、この「ロフト」からは舞台を支える人々の熱い思いも感じられる。

オペラ『ホフマン物語』ジュリエッタの衣裳

オペラ『ホフマン物語』ジュリエッタの衣裳

このほか5階の情報センターでは現在オペラ『蝶々夫人』の1904年初演時の衣裳・小道具のデザイン原画57葉も展示されている。水彩画によるデザイン画は当時のヨーロッパ人が抱く日本へのイメージも感じられ実に興味深い。非常に貴重な絵なので、こちらもぜひ立ち寄っていただきたい。

5階情報センター内の展示

5階情報センター内の展示

新国立劇場のオープンスペースは、観劇を持っていなくても自由に入り、休憩できる場だということは、実はあまり知られていない。展示は見応え十分だ。ぜひ舞台のない日に立ち寄って、静かな空間のなかでゆっくりと見学してみていただきたい。

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