ド迫力のタップに心躍る、快作『42ndストリート』を大スクリーンで
『42ndストリート』より、ラストを飾る豪華なタイトル・ナンバー〈42ndストリート〉。右が、ヒロインのペギー役クレア・ハルス ©Brinkhoff/Mogenburg
映画館で、ブロードウェイやロンドンの傑作舞台を楽しめる気軽さが受け、演劇ファンに人気のライブ・ビューイング。2017年の『ホリデイ・イン』を皮切りに、ミュージカルに力を入れているのが、松竹ブロードウェイシネマだ。今年4月の『シー・ラヴズ・ミー』に続く作品が、『42nd ストリート』。1980年にブロードウェイで初演された、ミュージカル・コメディーの秀作だ。今回上映されるのは、2017年にロンドンのシアター・ロイヤル・ドゥルーリー・レインでオープンし、絶賛を浴びた再演版を収録したもの(今年1月までロングラン)。エンタテインメントの真髄が息づく、実に楽しい一篇に仕上がっている。
おなじみの古き良きスター誕生物語
ストーリーはシンプルだ。辣腕演出家ジュリアンによる、新作ブロードウェイ・ミュージカルへの出演チャンスを手に入れた、新人女優ペギー。ところが地方での試演の際、主演の大女優ドロシーに、誤って怪我を負わせてしまった。怒ったジュリアンはペギーを解雇するが、彼女の才能を認め復帰を請う。そしてドロシーの代役を見事に務め上げ、一夜にしてスターの座を掴むという物語だ。
原作は、戦前のハリウッドを代表するミュージカル映画「四十二番街」(1933年)。これを舞台化した前述のブロードウェイ初演は、約9年間の大ロングランを記録した。1984年にはロンドンで初演。この公演で、劇中ストーリーそのままに、ペギーの代役に抜擢され注目を浴びたのが、映画デビュー前のキャサリン・ゼタ=ジョーンズだった(当時10代)。
女性たちがタップを踏む〈踊ってごらん〉。カラフルな衣装とセットが美しい。©Brinkhoff/Mogenburg
豪快な靴音が響く、興奮必至のタップ・ナンバー
何と言っても見どころは、華やかなミュージカル・ナンバーだ。まず、幕開きオーディション場面の集団タップで、一気にノセられる。他には、一座の男性スター、ビリー(フィリップ・バーティオーリ)を中心に展開する〈お金がたっぷり〉が圧巻。硬貨のセットの上で、ダンサーたちが盛大にタップを踊るナンバーで、その群舞の迫力たるや凄まじい。バーティオーリとダンサーたちの一糸乱れぬ足さばきも見もので、キレの良い振付と豪快な靴音が相まって、最高の見せ場となっている。
ブロードウェイ初演の振付と演出を手掛けたのは、ガワー・チャンピオン(1919~80年)。今回上映されるロンドン版では、初演の脚本に関わったマーク・ブランブルが演出(惜しくも今年2月に逝去)、ダンサーとして出演したランディ・スキナーが振付と、チャンピオンの薫陶を得た2人が、彼のステージングを忠実に再現している。
この初演でビリーを演じ、トニー賞助演男優賞にノミネートされたのがリー・ロイ・リームズ。彼は、チャンピオンの思い出をこう語る。
「実は〈お金がたっぷり〉は、当初女性ダンサーだけのナンバーだった。それをガワーが、タップが得意だった僕中心の見せ場に変えてくれたんだ。彼は、ミュージカル・ナンバーの創作にかけては天才的だった。大人数のダンサーの動かし方や、『シネマティック』(映画的)と謳われた、無駄のない場面転換のノウハウを熟知していたね。振付は、軽妙かつコミカルな上に品が良かった。徐々に盛り上げて、最後のフィニッシュで観客の興奮をピークに導くテクニックでは、ガワーに敵う振付師はいなかったよ」
ブロードウェイ初演(1980年)の舞台より、〈お金がたっぷり〉のナンバー。リー・ロイ・リームズ(中央)とダンサーたち Photo Courtesy of Lee Roy Reams
大恐慌を忘れさせた、希望溢れる名曲の数々
本作の白眉が、〈ブロードウェイの子守歌〉だ。これは、解雇され帰郷を決めたペギーを引き留めるべく、演出家ジュリアンとカンパニー全員が、彼女にブロードウェイの魅力を説くナンバー。「ブロードウェイで聴く子守歌は、地下鉄の轟音やタクシーの騒音」と、不夜城の街を表現する歌詞も洒落ており、胸躍るショウビズ讃歌となっている。また、指先にまで神経を行き届かせた、きびきびと闊達な振付が秀逸。ついにペギーは復帰を誓い、全員が喜びを爆発させるクライマックスは、こちらまで幸せな気分になる。
劇中曲を作曲したのは、ハリウッド・ミュージカルが誇る才人ハリー・ウォーレン。彼が作詞家アル・デュービンとのコンビで、「四十二番街」を始め、1930年代のミュージカル映画のために創作した古いナンバーが使われている。これらがヒットした当時のアメリカは、大恐慌の真っ只中。それを吹き飛ばすべく、ポジティブなエネルギーと楽天性に満ちた歌曲が多く、80年以上の年月を経た今聴いても活気を失っていない。
〈ブロードウェイの子守歌〉を歌い踊る、左からビリー役のフィリップ・バーティオーリ、ハルス、演出家ジュリアンを演じるトム・リスター ©Brinkhoff/Mogenburg
キャストの名パフォーマンスと、流麗なカメラワーク
主演陣は、パワフルなソング&ダンスが素晴らしいペギー役のクレア・ハルスを筆頭に、前述の達者なバーティオーリ、堂々たる風格が頼もしいトム・リスター(ジュリアン)、円熟味が光るボニー・ラングフォード(大女優ドロシー)ら、イギリスを中心に活躍する実力派が揃った。加えて、キャストの名演を複数のカメラで捉えた、的確なカメラワークも特筆したい。
そして最後に付記しておきたいのが、バズビー・バークリー(1895~1976年)の存在だ。原作となった、前述の映画「四十二番街」の振付師で、あまたの美女ダンサーを集め、俯瞰撮影で万華鏡のようなビジュアルを創造。映像でのみ実現可能なステージングで、一時代を築いた。本作でも、バークリーへのオマージュとして、美しい俯瞰ショットを挿入して効果を上げている。とにかく、全編を彩るソング&ダンスの饗宴に息をつく暇もなし。王道ミュージカルの楽しさを、存分に堪能して頂ければ幸いだ。
大女優ドロシー役のボニー・ラングフォード(左)とハルス ©Brinkhoff/Mogenburg
オリジナル・キャストCDは数種類リリースされているが、ブロードウェイ初演録音が抜群だ(輸入盤やダウンロードで購入可能)
文=中島薫(音楽評論家)
上映情報
日本語字幕スーパー版
10月25日(金)から、なんばパークスシネマ(大阪)、ミッドランドスクエア シネマ(名古屋)
他全国順次限定ロードショー
■演出・共同脚本=マーク・ブランブル
■共同脚本=マイケル・スチュワート
■作詞作曲=ハリー・ウォーレン(作曲)&アル・デュービン(作詞)
■振付=ランディ・スキナー
■出演=クレア・ハルス、ボニー・ラングフォード、トム・リスター、フィリップ・バーティオーリ
■配給=松竹/©BroadwayHD/松竹(英国/2018/ビスタサイズ/135分/5,1ch)
■公式Instagram=https://www.instagram.com/shochikucinema/
■公式Facebook=https://www.facebook.com/ShochikuBroadwayCinema