凄惨な暴力と絶望の果てに、少女たちが手に入れたものとは?『ゴーストランドの惨劇』#野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第六十八回
TVアニメ『デート・ア・ライブ DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
8月、長い梅雨が明け、連日真夏日の夏本番。あまりの暑さに気が滅入りそうだが、夏には“ホラーの季節”という楽しみな一面がある! 今回は、数々公開されるホラー映画の中でも私のイチオシ作品である、パスカル・ロジェ監督の『ゴーストランドの惨劇』を語らせてほしい。ロジェ監督は、少女たちが残虐な拷問を受ける『マーターズ』(07)で一躍注目を集めた人物。「惨劇」という思わせぶりな言葉を冠した最新作を、一体どんな作品に仕上げたのか。
シングルマザーのポリーンは、叔母の家を相続し、双子の娘とともに新居に移り住むことになった。しかし、引っ越しを終えたその日の夜、二人の暴漢が家に侵入。娘を守るため、ポリーンは暴漢たちをめった刺しの返り討ちに。惨劇から16年後、双子の妹・ベスは小説家として成功し、華やかな生活を送っていた。一方で、姉のヴェラは精神を病み、いまだあの家で母と暮らし続けている。そんなある日、ヴェラからの電話を受け、ベスは久しぶりに実家へと戻ることになるのだが……。
恐ろしく生々しい暴力描写
本作でまず目を引くのは、非常に生々しい暴力描写だ。滑り出しは、暴漢たちが人里離れた場所にある家に押し入ってくる、重々しい雰囲気のシーンから始まり、その後も予想以上に衝撃的な映像が続く。大男がベスを捕まえて、股間のにおいをクンクンと嗅ぐ場面も、時間にすれば数秒のことだが、生々しくいやらしい描写には思わず眉をひそめてしまう。さらに、暴漢はベスの“初潮”のにおいが気に食わず、ターゲットを姉のヴェラにシフトする。この一連の描写だけで、この後ヴェラがどんな目に遭うのかが何となく想像出来てしまうからえげつない。
次いで、姉妹の母親が暴漢を刺し殺すシーンも強烈。怪我を負いながらも男にしがみつき取っ組み合う様は、まるで獣同士の乱闘のようだ。「子を守ろうとする親の強さは、これほどなのか」と、背筋がゾワゾワしつつも目が離せなかった。開幕早々の理不尽な暴力に、尻込みしてしまうかもしれない。だが、本作には、絶望的な恐ろしさだけで終わらない仕掛けがいくつも用意されている。
痛みを知る人にこそ観てほしい
惨劇が再び襲い来る時、姉妹は諦めずに立ち上がる。ネタバレになってしまうので詳しくは書けないが、彼女たちは「もうやめて」と思うほどの恐ろしい目に遭いながらも屈しないのだ。私自身も過去に傷ついた経験があるので、その姿に共感してしまい涙が止まらなかった。
本作は恐ろしいだけのホラーではない。怪奇小説に傾倒し夢見がちだった少女ベスが“戦うこと”を選択する、成長譚でもあると思う。姉妹が残酷な事件を経て、責任を持つことや現実と向き合う強さを手に入れるからだ。ロジェ監督は彼女たちを通して、人間の持つ真の強さや自立を描いたのではないだろうか。
私たちの生きる世界にも、目を覆いたくなるような凄惨な事件は溢れている。傷つけられるような出来事もたくさんあるだろう。そんな痛みを知る人にこそ、この映画を観て欲しい、と私は思う。何度も立ち上がる彼女たちの姿に勇気をもらえるはずだから。
これまでのロジェ監督作三作品は、どれも一筋縄ではいかない作品ばかりだ。ゴーストランドの世界にも、ぱっと見はただの“エグいホラー”という印象を抱くかもしれない。けれど、目をそらさずによく見れば、ロジェ監督が“暴力”という道具を非常にロジカルに配置することで創り出した世界がどんなものかが、理解できるはず。ぜひ、絶望の中にある希望を見出してほしい。
『ゴーストランドの惨劇』は公開中。