『いなくなれ、群青』松岡広大インタビュー 22歳、キャリア10年目の俳優が逆境に見出したものとは
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松岡広大 撮影=岩間辰徳
2009年に芸能界入りした松岡広大。現在22歳ながら、そのキャリアは10年を超えている。長かったようであっという間だったかもしれない10年は、彼に楽しい思いだけではなく、苦みも存分に与えたという。そして、成長のスパイスになったあらゆる経験をふまえ、もがきながらも自分の殻をいくつも破り、また新しいステージに向かおうとしている。
そんな松岡は、出演最新作『いなくなれ、群青』で“捨てられた人間”がたどり着くという階段島で生きる高校生・佐々岡を演じ、主人公の七草(横浜流星)や真辺由宇(飯豊まりえ)に深く関わるキーパーソンとして存在感を発揮している。「映像における自身の指標となる作品になった」と語るその姿からは、俳優として生きる覚悟がにじみ出ていた。
意識的に「考えない」芝居
松岡広大 撮影=岩間辰徳
――キラキラしていそうに見えて、骨太な作品です。松岡さんの演じた佐々岡は、いわゆる、「おいしい役」に感じたのですが、どう受け止めましたか?
それは……もちろん思いました(笑)。この作品を担うとまではいかないですけど、片棒を担いでいると思っていました。ストーリーの中で、縁の下の力持ち的に関わっている役なので。「こんな役ができる、うれしいな!」、「やってやるぞ」という気持ちを持ちながら、同時にプレッシャーも感じていて。「この階段島という世界線で演じられるのかな……」という難しさをずっと抱えていました。僕、重圧(プレッシャー)にすごく弱いんですよ。
――そうは思えない堂々とした演技でした。生っぽさを感じたのですが、意識していましたか?
生っぽくは、本当にそうですね。僕は頭ですぐ考えてしまうんですけど、リハーサルのときに柳(明菜)監督に「何も考えなくていい」と言われたんです。最初は戸惑ったんですけど、今までの芝居のやり方では違うのかと思って、意識的に「考えない」ようにしました。
――「考えない」は、難しいオーダーでは?
柳監督は、絶対的に自信のあるものしか人に伝えないので、そこまで言うからには何か理由があると思ったんです。なので、信じてカメラの前に立ちました。感じたもの、事象、自分が発する言葉すべてにおいて、受けたものをそのまま、「僕はこう感じました」と芝居に出すようにしました。佐々岡という役が憑依していながら、佐々岡が僕でもある、という感じで。
松岡広大 撮影=岩間辰徳
――心で感じるままのお芝居をされたんですね。
はい。例えば、台本上で動きの導線は決まっているけれど、何回かやっていると本当に筋書き通りだと自然さがなくなるというか。その一歩が“初めての一歩”ではなくなるので、動きもちょいちょい変えていた記憶があります。一つひとつのシーンの芝居に慣れたくなかったんです。だから、「もう1回」と言われても、変えたりしました。
――主人公の七草を演じる横浜さんとは、共演経験もありますね。本作や芝居について、何かお話しましたか?
全然、芝居については話していないんです(笑)。流星くんは芝居でどしっと構えてくれているので、何をしても許されると思って、僕は芝居していました。台本に書かれていないところでも、一言、二言足したり、茶々を入れてみたりもしました。役柄的に一緒に登校している間柄でもあるので、「仲がいい」という関係性がしっかり見えればと思ってやったんです。ただ、そういうことも、柳監督じゃなかったらやっていなかったかもしれません。
(C)河野裕/新潮社 (C) 2019映画「いなくなれ、群青」製作委員会
――柳監督とは、かなり信頼関係が築けていたんですね?
全幅の信頼を置いています。これまでにない自分を引き出してもらいましたし、撮り方、リハーサルのやり方、芝居に対してのアプローチや演出方法が新鮮で、素晴らしくて。頭が上がらないですし、本当に大好きな監督です。
――今の年齢で、そうした監督に出会えたことはすごく素敵な経験では?
すごくうれしいです。縁がまわって出会えたんだな、と思っていますし、また絶対にご一緒したいです。1シーンの役でもいいですし……できれば、いい役がいいんですけど(笑)。
「新しい芝居のアプローチやアクションを起こさないと通用しない」
松岡広大 撮影=岩間辰徳
――予告の「キャラクター・佐々岡」編にもある、委員長・水谷(松本妃代)と対峙して、「いつまでヒーロー気取りでいるんですか」と言われるシーンが特に印象に残りました。
予告の映像から、「佐々岡は明るい」と思われている方も多いと思うんですけど、あのシーンでは佐々岡の憎悪というか、怒りの感情が大きく出るところなんです。映画の中でしっかりと相手にぶつける、そんな顔が見られるシーンになっています。自分としては、佐々岡の影の部分を強調したつもりなので、観る方にも伝わればいいなと思います。自分のあんな表情を引き出してもらえたのは、松本(妃代)さんのおかげです。松本さんは本当に芝居がうまいし、一緒に演じていて、バシバシ刺激を受けましたし、楽しかったです。ないものを引っ張り出してもらった感覚というか……頭で考えなかったので、あの表情が出たのかもしれません。出そうと自発的にしていたら、あんな芝居はできなかったと思います。
――総じて、今までのお芝居と違ったところも、見どころのひとつと言えますね。
本当に。自分で言うのもなんですけど、本当に観てもらいたい作品です。挑戦的ですし、「お客さんはどう思うのかな?」という不安な面もなくはないですけど、できることはやりましたし、「こういう一面もあるのか」と観てもらえたら、本当にうれしいです。
――できることは100%やった、という感覚に近いですか?
もう、映像でできることは、やりきりました。自分にとっても、皆さんにとっても「映像だと“松岡広大”はこういう感じだ」という指標になったと思います。こんなことを言って大丈夫かなぁ(笑)?
――(笑)。この先、演じ甲斐のある役が、たくさんきそうです。
どちらかと言うと、挑戦的なほうが好きなのでそうなったらうれしいですね。自分にないものがあるほうが、その人の人生を生きられますし、感性や世界を見ることができるので。ないものを考えて、寄り添うことが非常に好きなんです。だから芝居を続けているのもあります。他人の人格になり切れるのは、楽しいです。
松岡広大 撮影=岩間辰徳
――最後に。先日(※8月9日)22歳になられたそうで、おめでとうございます。
ありがとうございます。何も変わらないんですけど(笑)。
――Instagramでは、誕生日の投稿で、「苦しいことや悔しいこと、沢山ありましたが、結果全て糧となり力になってます。そしてそれらを経て感じるのは、仕事への楽しさは日に日に高まっていくばかりだということ。22歳も逆境こそチャンスなり!という事を胸に様々な作品に臨めればと思います」と書かれていました。いろいろと考えることも多かったんでしょうか?
そこをつつかれるとは、思っていなかったです(笑)。正直、『いなくなれ、群青』に出ると決まったときに、映像作品においてはまだまだ経験が浅いと思っていたので、ちょっと苦手意識もあったんです。予感的中というか、リハーサルで、僕が何度やってもできないシーンがあって、「ダメだ」をたくさんいただいたんですね。食事も喉を通らないくらい落ち込んでしまって……。自分のやっていることや、これまでの芝居に自信が持てなくなったりしたんです。そういう苦しさを味わったんですけど、だけど「やってやるぞ」という気持ちも強くあって。「これで爪痕を残さないと、終わる」と思うくらい、毎回どの作品も崖っぷちだと思ってやっているんです。だから、苦しいときのほうが、何かを見出せるチャンスだと思っています。新しい自分を見つけて、新しい芝居のアプローチやアクションを起こさないと通用しない、ということだと思うんです。自分の引き出しをたくさん作らないと始まらないので、そんな心境で書いた言葉です。何事も積み重ねだと思っていて、これまでの経験が血肉になっていますし、僕の考え方にもなっています。落ち込みますし、絶食状態になることもありますけど(笑)、苦しいことは嫌いじゃないですね。
松岡広大
映画『いなくなれ、群青』は9月6日(金)より、全国公開。
インタビュー・文=赤山恭子 撮影=岩間辰徳
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