ミュージシャン・内橋和久が音楽劇『レミング~世界の涯まで連れてって~』を語る
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内橋和久 (撮影:横山将勝)
「お客さんのイメージを広げていくことが、僕の『レミング』での仕事です」
ワールドワイドに活躍する作曲家&即興ミュージシャンであり、劇団「維新派」の音楽で、演劇ファンにもおなじみの内橋和久。維新派主宰・松本雄吉が演出を務めた舞台『レミング』にも参加し、作曲のみならず、本番中には即興の生演奏も担当。寺山修司の作り出した「壁のない世界」が持つ妖しさ、暴力性、美しさなどを、音楽によってより豊かに感じさせるという役割を果たしている。その内橋に『レミング』の音作りの秘話や、生演奏が入ることによる効果などについて聞いてきた。
──初演の時の話からおうかがいしたいのですが、作曲をするに当たって松本さんから何かリクエストはあったんですか?
特にないです。「こんなものを作りたい」というざっくりした話はあったけど、取りあえずそれで全部作って、基本的にNGはなかったです。
──寺山修司の言葉が多い台本ということで、維新派の音楽と作り方を変えた所とかはあったんですか?
自然に変わるんですよ。維新派の時も「維新派だからこうやろう」と思って作るのではなく、維新派の台詞というか、言葉を当てはめながら曲を作っていると、ああいう曲ができるんです、実は。それで言葉が変われば当然自分に入ってくるイメージも変わってきて、意識しなくても違うものが出てくるんです。だから維新派では作らないような曲も、多分『レミング』では何曲かは本当にあると思います。ただ寺山さんの言葉そのまんまだったら、多分僕との間のギャップというので、相当悩んだでしょうね。松本さんというフィルターを通した言葉…松本さんのことなら、僕は良くわかりますから。それで僕にとってすごく作りやすいというか、イメージしやすいものに多分なったと思います。
内橋和久 (撮影:横山将勝)
──再演にあたって、音楽を変えた所はありますか?
歌が4曲あるんですけど、基本的に僕は…前回もそうでしたけど、歌っていうのは歌う人で決まるので、まず歌う人を決めてから、その人に対して書くんです。でも今回、歌う人が変わっちゃったでしょう? 人が変わったということは、僕の中では同じ曲はもう成立しないんですよ。だから主題歌も、すごく悩んだけど変えることにしました。
──あの主題歌は相当カッコ良かったのに!
今回は青葉市子さんが歌うけど、あの主題歌は彼女とは違うんですよね。でも歌詞は全く一緒で曲だけ変えるって、普通はありえない(笑)。やっぱり前回自分が作ったものに対しての呪縛もあるし、僕の中では相当ハードルの高い作業でした。でも新しい曲はすごく市子ちゃんに合ってると思うし、今はどっちの曲も気に入ってます。霧矢さんが歌ってる曲も、(初演の)常盤(貴子)さんと全然タイプが違うから変えようかと思ったんですけど、逆に霧矢さんにも合うかなあと思ったんですよ。だから影子の曲は、最終的には前回と同じ曲にしています。その他の群舞的な所の曲は、ほとんど変えてないです。
──内橋さんは即興の生演奏でも参加されますが、どういう感じで音を思い浮かべていくのでしょうか。
自分がその時に、どんな音を出したいかですね。その流れに素直に従って、そっちに行くというだけで、後は何も考えないです。やっぱり芝居って、役者も毎日変わるでしょう? 同じ台詞を言っても違ってくるし、お客さんが違えばそこにできる空気感も毎日どんどん変わってくる。その中でどういう音をそこに入れれば、もっとお客さんのイメージがどんどん広がるのかということを考えてます。僕の『レミング』での仕事は何かっていうと、お客さんたちのイメージを広げる…限定しないってこと。だから僕自身が「ここでこうしよう」と型を作って、それにはめていっちゃうと、もう型が見えてしまう。そうじゃないよっていうことを、ちゃんと言うためにやってるんです。
内橋和久 (撮影:横山将勝)
──楽器は何種類持ち込んでますか?
ギターとダクソフォン(註:ドイツ生まれの創作楽器。詳しい奏法や音などは動画サイトなどで視聴可能)だけです。
──ダクソフォンは維新派ではおなじみの楽器ですけど、初めて聞く人はかなりビックリするでしょうね。
珍しい楽器ですからね。多分目の前で(演奏を)見ても、何やってるかわからない(笑)。あの楽器は有機的ですね。ギターとはタイプが違って、人間とか生き物の声に近いから。そういう意味では、僕はこの2つの楽器を行き来するのがすごく楽しいんですよ。表現方法も全く変わってくるし、これでできない音はこっちでできるということもある。両方あると僕の中でいろいろと幅が広がるというか、イメージが広がります。
内橋和久 (撮影:横山将勝)
──天野天街さんが脚本を担当した部分は、霧矢さんも「場面がコロコロ変わる」とおっしゃってましたが、あそこは即興を入れていかがですか?
というかねえ、天野さんの部分はかなり決め決めになってるので、あまり僕が入る隙間がない(笑)。すでにいろんなものがいっぱい入ってるから、それだけで結構成立してるんですよ。でも今回は(再演で)二度目ですし、ちょっとどっか隙を見つけて、何かやってやろうとは思ってますけどね。でもそれも、自分の中で何かが出てきたらということなので、どうなるかはわからないです。
──音楽的に「ここに注目して欲しい」という所はあるんでしょうか。
そういうのは一切ないです。やっぱり劇場って、違う人間がそこに集まって、同じ時間を一緒にすごすわけで。だからそれに対して、それぞれが違う感想を持って、違う風に感じて帰ってくれればいいと思ってるから。だから「こう聞いて下さい」という風に、何かを限定するようなことは、僕は言えないですね。ただ舞台を楽しんでもらえたら一番いいですし、それが何よりのことだと思います。
内橋和久 (撮影:横山将勝)
<東京公演>
■期間:2015/12/6(日)~2015/12/20(日)
■会場:東京芸術劇場 プレイハウス
<名古屋公演>
■期間:2016/1/8(金)
■会場:愛知県芸術劇場大ホール
<大阪公演>
■期間:2016/1/16(土)~2016/1/17(日)
■会場:森ノ宮ピロティホール
■作:寺山修司
■演出:松本雄吉(維新派)
■上演台本:松本雄吉/天野天街(少年王者舘)
■音楽:内橋和久
■出演:
溝端淳平 柄本時生 霧矢大夢 麿赤兒
花井貴佑介/廻飛呂男/浅野彰一/柳内佑介/金子仁司/ごまのはえ/奈良坂潤紀/岩永徹也/奈良京蔵/占部房子/青葉市子/金子紗里/高安智実/笹野鈴々音/山口惠子/浅場万矢/秋月三佳
■特設サイト:http://www.parco-play.com/web/play/lemming2015/