小曽根真&ビッグバンドがX’MASジャズナイト!

インタビュー
音楽
クラシック
2015.12.1

画像を全て表示(4件)

神ゲストにNYフィル首席奏者ジョゼフ・アレッシ降臨!

近年、クラシックにも積極的な世界的ジャズピアニストの小曽根真が12月17日(木)、サンケイホールブリーゼにて『小曽根真feat.No Name Horses X’MAS JAZZ NIGHT』を開催する。お馴染みのガーシュウィンをメインに、小曽根がビッグバンド版に編曲したモーツァルト:ピアノ協奏曲第9番「ジュノム」を日本初披露するスペシャルプログラムだ。共演には結成11年目を迎えた小曽根率いるビッグバンド「No Name Horses」、豪華ゲストにニューヨーク・フィル首席奏者で、世界的トロンボーン奏者のジョゼフ・アレッシの出演が決定した。「ダメ元で頼んだら、いい返事が返ってきた!」と奏でる音楽同様、聞くものを笑顔にさせる小曽根。軽妙な語り口で明かした制作秘話とXmasジャズナイトにかける意気込みを、合同取材の内容を基にリライトしてお届けする。

「モーツァルトは300年前からビバップしてた!」(小曽根)

―――聖夜に贈る『小曽根真feat.No Name Horses X’MAS JAZZ NIGHT』が決定しました。

ホールでできるジャズコンサートは意外に少ないので、ひとつのショーとして特別な時間にしたい。クリスマスでもありますし。前半はジャズクラブに近いような空気感、後半はコンチェルトのコンサート形式でと考えています。演目はガーシュウィンとモーツァルトを。モーツァルトは今回、大きなテーマの一つですね。もともとピアノコンチェルト「ジュノム」は、そのまま演奏すると約30分ある曲。それをジャズ風にアレンジをして、何人かが前に出て来てソロをやると、おそらく50分くらい。充分セカンドセットが埋まる長さだと思います。

―――ビッグバンド版に編曲したモーツアルト:ピアノ協奏曲第9番「ジュノム」の日本初披露が話題です。ちなみに、それ以前に世界初演があった?

ワールドプレミアは去年4月、スコットランドのエディンバラで。ちょうど2月のニューヨーク・フィル・ツアーの直後に行って演奏しました。現地にスコティッシュ・ナショナル・ジャズ・オーケストラというのがあって、彼らが僕にコミッションしたんですよ。これにも感謝でね。僕がNo Name Horsesだけやってたら、モーツアルトの編曲は書いてなかったかもしれない。その時の演奏はCDにもなって、イギリスで発売されています。僕がオーケストラを抱いたようなジャケット写真でタイトルは『ジュノム』。酷評を覚悟してたら、ジャズ評が満点の四つ星、クラシック雑誌が「This is the best album of 2000」と評して最高の五つ星をくれたんですよ! ぜひロンドンで演奏して欲しいと。知りあいの批評家かな?と思わず確認しました(笑)。

―――(笑)。そもそも、モーツァルトを題材に選ばれた理由は?

まず僕自身が一番弾き込んでいる曲だということ。やはり曲を熟知していないものをアレンジするのは怖いんですね。それに、僕の中で最も曲の世界観を壊すことなくジャズに持っていけるのが、モーツアルトだった。世の中には『プレイ・バッハ』とか色々ありますが、僕的にあのアレンジは結構微妙で。バッハの音楽は4声まとまって吹いて、初めてバッハになる。メロディーだけもってきてジャズにするのは、僕にとってはジャズではない。やっぱり世界観が大事だから。コンポーザー的にもモーツァルトはジャズミュージシャンにフレンドリーなんです。だから、キース・ジャレット、チック・コリアとか、みんなやってる。

例えばベートーベンは重箱の隅をつつくような、箸の上げ下げまで文句つけるようなコンポーザー。クレシェンドなどの記号が譜面にしょっちゅう出て来ますから。その点、モーツァルトはここぞ!という部分にしか指示を出してない。譜面づらは優しいんですけど、逆にそこは演奏者のセンスが問われる部分でもあって。もしも曲が面白くないと言われても「いやいやそれは、演奏者が悪いんだよ」と、モーツァルトがほくそ笑んでいるような気がする(笑)。

―――なるほど(笑)。“モーツァルトはジャズミュージシャンにフレンドリー”という部分をもう少し教えてください。

僕も書き始めてから気づいたんですが。ジャズにはビバップという音楽があって。演奏家たちが曲を面白くするために、歌もののメロディーの間に色んな音を入れて、音を連結して奏でていく。例えば「タンタン、タンタン、タンタン、タン」とドレミのメロディーがあったら、「タタタタ、タタタタ、タタタタタ」と8分音符に分割してね。それをビバップというんですが、なんとモーツァルトはもうすでに、300年前にそれをやっていたんですよ。第3楽章なんかそのままスイングのリズムにのせてやると、ビバップみたいになっちゃう。初めて弾いたとき「これビバップやん!」って驚きました(笑)。

「音楽を進化させたいという思いは今も昔も同じやねんな」と感嘆する小曽根さん

「音楽を進化させたいという思いは今も昔も同じやねんな」と感嘆する小曽根さん

―――そんな中、アレンジの完成までには2年半を費やしたとか。

このコンチェルトには管楽器がほとんど入っていない。確かフレンチホルンとオーボエぐらい。あとは弦なんですよ。その弦で書かれているコンチェルトを、どうやってラッパ4本と吹奏楽にもってくるか。弦のパートをそのままやっても面白くないし。あとはジャズ色が強いセクションと、いかにも“THIS isモーツァルト”というセクションをどう色をつないでいくか。中でも一番難しかったのは、どうやって始まってどうやて終わるか。とにかく書き始めてしまうと後戻りできないので。ド頭をどうしよう…って、2年半悩んだ。いよいよ締め切りという段階で、これと決めてからは3週間半で書き上げました。これがね、上手くできてるんですよ~(笑)。モーツァルトの懐の深さでもあります。

「世界観を大事にすると、ジャンルを超えて繋がれる」(小曽根)

―――ゲストにはニューヨーク・フィル首席奏者ジョゼフ・アレッシを迎えます。

ほんとに人生何が起こるかわからない。ダメ元でも1回聞いててみるもんやなと(笑)。じつはバンドのトロンボーン奏者の片岡雄三が昨年のバンド結成10年の節目に、来年はソロ活動に力を入れたいというので。バンドとしても一度違うトロンボーン奏者でやってみようかと。今年2月のクラブツアーでは、クリスチャン・マクブライド・ビッグバンドのリード・トロンボーン奏者、マイケル・ディーズに入ってもらいました。そして、クリスマスはどうする? せっかくモーツァルトやるし、ニューヨーク・フィルのジョーに頼んでみよかと。

―――その提案に、バンドの皆さんは驚かれたそうですね。

同じトロンボーン奏者の山城純子に「やっぱりジョー(ジョゼフ・アレッシ)って凄いの?」って聞いたら「神ですよ!」と。まあ、どうせNOかもしれんけど、もしそんな彼が来てくれたら面白いやん!となって、メールしたら速攻ジョーから「いつ?」って返事があって。これは脈ありかなと(笑)。ただ、12月はニューヨーク・フィルにとってもハイシーズン。なので、一応音楽監督のアラン・ギルバートには、「無理しないでね。一番そっちが大事だから」とメールして。そしたら数日後にジョーから正式に「OK」の返事が来た。アランも「マコトだったらいいよ」と、わざわざ代役を立ててジョーを送り出してくれた。首席奏者の代役を立てるとか、滅多にあることじゃないので。彼をフィーチャーした形でできればいいかなと。ただ、前半はジャズのコンボで吹いてもらいます。

―――ソリストではなく、あくまでもバンドメンバーの一員として!?

それもうちのセカンドとして。だから僕も何回も聞いたんですよ、「アーユーシュア?(ほんまにいいの?)」。そしたらジョーが「ファイン!」って。ビッグバンドが大好きらしい(笑)。逆にメンバーの中川英二郎(Tb)も「リードでいいんですよね」と言うから、君のリードじゃないとバンドは動かないよと。やっぱりジョーも凄いけど、英二郎も世界レベルの奏者なので。2人が一緒に吹いてくれるもの楽しみですね。

―――ジョゼフ・アレッシさんとは昨年2月、ニューヨーク・フィルのツアーでも共演されました。アンコールでの長いギグも印象的です。

そうなんですよ! あれがきっかけなんです。当日の様子をNHKが日本で放送したんですけど。僕がアンコールで立ち上がりながら「ヘイ、ジョー!」と誘うシーンを指して友人が、「あれはない」と。お前ニューヨーク・フィルに呼んでもらっておきながらニューヨーク・フィルの舞台で「ヘイ、ジョー!」はないやろと。それ誰のコンサートやねんと(笑)。でもその時にはそれくらい、彼と仲良くなっていたんです。

「音楽には厳しいけど”納得できる人たちとはとことんまでやる!”というのが僕らのスタイル」

「音楽には厳しいけど”納得できる人たちとはとことんまでやる!”というのが僕らのスタイル」

―――“神”と称される人も、小曽根さんから言わせると……。

こんな気さくな人はいない! それをいうならアラン・ギルバートもそうですよね。みんな上手い下手を語る以前に、真正面から音楽に向き合う姿勢を持っている。例えばクラシック畑のジョーなんかは、ボキャブラリーがないんだといいながらもジャズのスピリットを分かって吹くんですよ。ピアニストでも上っ面だけなぞって演奏するやつもいる中でね。そういうやつは、ふざけんなよと。僕がもし同じように「クラシックってこんな感じでしょ」と弾いたら、射殺ですよね(笑)。

おそらく技術でいえば足りないけど、オケの人が「宇宙にいったようだ」とか言ってくれたり。僕がクラシックのオケと仲良くなれるというのは、そういう音楽の核心に向かっていこうと努力する姿勢とか、方向性をみてくれているのかなと。音楽の世界観を大事に演奏するということは、すごくジャンルを超えてみんなと繋がれる。そういう意味ではモーツァルトのスピリットというのが、非常にジャズに近い。自由を愛した作曲家ですから。

 

「ハプニングに満ちたステージを作るのが、夢やねん」(小曽根)

―――昨年、ビッグバンド「No Name Horses」が結成10年を迎えました。

どの仕事も同じですが、チームを組んで向き合っていくと、色んな問題が出てくる。個人的に傷つけられた過去のトラウマとか。僕も色々あったんです。それをその都度、相談したり助け合ったり。特にメンバー本人よりもパートナーたちがすごく助けてくれた。うちの三鈴(奥様で女優の神野三鈴さん)なんか、明け方の4、5時までメンバーと話していたこともありましたよ。僕には言えないんですよ。音楽とは関係のない個々の問題が出て来て、それをみんなで話し合って、初めてバンドになったなと。年に1回でも久しぶりに集まってみんなで音を出すとシュッとひとつになる。「ここに来たかったんや!」という音がする。10年を通して“ファミリー”になりました。

―――素敵なエピソードですね。また一つ今回のステージへの期待感が高まりました!

今回のステージでは、前半のジャズクラブかニューオリンズにきたような感じと、後半のヨーロピアンでクラシックな感じとを、どう変化をつけて表現できるか。前後編で衣裳も替えたいですし、例えばジョーがモーツァルトのかつらを被ったり。それこそオペラのセットでも借りてこようかな。暗転・板付きの装置なんて、最高なので。ビルボードでは絶対にできない。暗転にしたらまずウエイターはアウトですよね(笑)。そういう意味でも、ホールでしかできないコンサートにしたい。

―――小曽根さんは照明、演出を含めて魅せるステージに定評があります。

例えば、客席に降りて行って吹くとか。そういうハプニング的な演出をジャスやクラシックのミュージシャンは恥ずかしがってやりたがらない。“媚びを売ること”やと勘違いするやつもおった。その点、No Name Horsesのメンバーは「お客さんをハッピーにしたい」と意識が変わってきてるので。トランペットがステージ前方にバーンと出て来て、たった8小節でもファンファーレを吹いたら、それだけでも絵になるから。そうするとお客さんがそれぞれにドラマを感じとって帰ってくれる。想像力が掻き立てられるようなステージは、コンサートホールでしかできない。

せっかくのクリスマスやし、キャノン砲とかやってみる? 1発2万円として4発上げたら8万円…ゲネプロできへん(笑)! でも昔、新国立劇場が出来たときに中劇場で演出家の栗山民也さんと芝居をしたことがあって。その時、栗ちゃんはステージ上にガンジス川を作っとったからね。音楽家だけの集まりやったら考え付かない。好きなことしはるから。でもそうやってお客さんに楽しんでもらえる、ハプニングに満ちたステージを作るのが、夢やねん。

「お客さんをハッピーにしたい!」と意気込む小曽根さん

「お客さんをハッピーにしたい!」と意気込む小曽根さん

仲間や音楽、聞いてくれるお客さんの顔を想像しながらコンサートに思いを巡らす小曽根さん。楽しい企みに胸躍らせる少年のようなキラメキは、きっと音楽にのって聴衆の心も弾ませるはず。何より、ビッグバンドでスイングする “神(ジョゼフ・アレッシ)”の姿は、ここでしか見られないビッグプレゼントです!

イベント情報
『小曽根真feat.No Name Horses X’MAS JAZZ NIGHT

■日時:2015年12月17日(木)19:00開演
■問合せ:ブリーゼセンター 06-6341-8888(11:00~18:00)
■出演:小曽根真(Pf)、木幡光邦(Tp,Flh)、エリック宮城(Tp,Flh)、奥村晶(Tp,Flh)、岡崎好朗(Tp,Flh)、中川英二郎(Tb)、ジョゼフ・アレッシ(Tb)、山城純子(B-Tb)、近藤和彦(As,Ss,Fl)、池田篤(As,Fl)、三木俊雄(Ts)、岡崎正典(Ts,Cl)、岩持芳宏(Bs,Cl)、中村健吾(B)、高橋信之介(Ds)
■公式サイト:http://makotoozone.com/

シェア / 保存先を選択