TENDREの目に映ったものとはーーEP「IN SIGHT」から感じるその視界

インタビュー
音楽
2019.10.25
TENDRE 撮影=森好弘

TENDRE 撮影=森好弘

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河原太朗のソロプロジェクト・TENDREが、10月2日(水)にニューEP「IN SIGHT」をリリースした。今作はそのタイトルどおり、1stアルバム『NOT IN ALMIGHTY』以降、彼の視界に入ったものが5つの曲となって収められている。ではいったいどんなものがその目や心に映ったのか? そんなところから始まった話は今作の「謎解き」や、さらに未来のことにまでおよんだ。

――今作「IN SIGHT」は、昨年10月リリースの1stアルバム『NOT IN ALMIGHTY』以降に「見えてきたもの」がテーマになっているとのことですが……?

そうですね。「NOT IN ALMIGHTY」ではTENDREとしてのベーシックを作る1年を経て、TENDREを始める前からの自分の人生を紐解いたうえで現在のことを歌うのが一つのテーマでした。そこからTENDREとしていろいろ見えてきたのが「IN SIGHT」です。まさに“IN SIGHT”という(意味の)視界に入ってきたものがテーマで、例えば1曲目の「SIGN」なら(曲名には)「兆し」という意味があって「いい兆しが見えてきたな」ということだったり、次の曲「VARIETY」には「さまざまな」のほかに「人となり」という意味もあって、自分が活動していくなかで見えたいろいろな人間模様であったり……。曲それぞれに「何が見えたか」というコンセプトを持たせてありますね。もちろん心象を歌うことは変わりなくやっているんですけど、「TENDREが次にいってみたいところを示す」という意味でも今作は大切な作品になったんじゃないかなと思います。

――ちなみに今例えにあがった「兆し」なら、それはどんなふうに見えてきたのでしょうか。

「SIGN」の「兆し」に関しては『NOT IN ALMIGHTY』の反響などを踏まえて、TENDREを始めたことで自分の音楽人生が軌道にのってきたような充実感を感じることがあったんですね。ただ「俺、充実してるよ!」という曲を作るよりは何かに例えるというか……。「いい風が吹いてきた」という感じの言葉に代えて清涼感のある曲を作ってみたいなと思ったんです。あまり複雑なものではなく単純にTENDREとして音楽で生きていくうえで、こういうことをやっていけたらいいなという気持ちと、そこから生まれた良い循環を「兆し」に置き換えて作ったかなと思います。全面的ではなく「なんかいいかも」というような温度感ですね。

――『NOT IN ALMIGHTY』の反響やツアーでの手応えを、柔らかく「風」になぞらえたんですね。

昔の友人から「君がTENDREだったんだ!」みたいなことを言われたり、予期せぬ反応もちょいちょいあったんですよね(笑)。でもそういうことを楽しい!と全面に出すのはTENDREではないと思っているので、風をメインワードにして香りをまとうというか醸し出すというか、風に背中を押されるような描写がイメージどおりにできましたね。

――『NOT IN ALMIGHTY』の反響のなかには、自分の予想とは異なって戸惑いを生むものもあったのかな?と思いますが、そこはどんなふうに吸収して曲にしたのでしょうか。

それを吐き出したのが「VARIETY」かなと思います。TENDREという言葉の意味も実際にそうなんですけど、やさしいとかそういうイメージを持たれることが多々あって。全然そう思っていただくのはいいのですが、ひとくくりにするのはもったいないじゃないですか。決めつけるのは一番惜しいことだから。

――やさしいというイメージだけが先行しちゃうのは残念ですね。

そんなふうに時代の流れとか風潮とかに惑わされたり、根本のあり方を揺るがされたりすることがある時代だと思うんですよね。別に否定的なことばかりでもないんですけど、そんな時代の傾向として(見方や見られ方が)偏ってしまうのなら、もっとみんな自分らしくあれるようなスタンスを作れた方がいいんじゃないかなと思って書いたのが「VARIETY」ですね。そういう(世の中への)「抗い」を持たせて書いたんですが、一番すんなり書けた曲でもあります。たぶん、たまってたんだと思います(笑)。それを自分なりにデトックスしたというか。でも僕は割りと音楽とパーソナルな部分は直結するものだと考えているので、ちゃんとその時々で自分が思ったことを曲にできればいいのかなと思ってるんです。

――詞は抽象的でも「TENDREを表現すること」という軸はくっきりとあるわけですね。だからなのか「VARIETY」は言葉が強く耳に残ります。しかもそういう強い言葉は全体的にも前より増えた気がします。

そうかもしれない(笑)。

――今回はゲストも迎え楽器の音が増えて、その音もしっかり聴こえてくるので。ただそれは曲との相乗効果かな?とも

そことリンクはしているのかもしれないですね。今回はゲストを含め自分じゃない人に入ってもらうにあたり、音数的な面ではいろんな要素をふんだんに入れたかな。でも、それくらい言葉も身が詰まったことを言えたような気がしています。曲によりけりですけど、特に「ANYWAY」という曲はHondaの「Honda Go」という企画のもとに作ったので、ある種コンセプチュアルというか心模様というか、絵を描いて提供したという感じがありますね。

TENDRE

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――そう言えば「ANYWAY」も<走らせて>のサビの部分が焼きつきます。「VARIETY」の<らしくあれ>のリピートもそうですね。

<らしくあれ>なんて普段言うわけでもないんですけどね(笑)。でも少し英語っぽく聴こえる日本語の絶妙な響きとか。それを狙っているわけでもないんですけど、そういう言葉の独特の響きがあって、でも意味合いとして簡潔でもある。<らしくあれ>の5文字で「自分らしくあってくださいね」っていうような、そういう言葉はピックアップしていきたいですね。複雑にも単調にもなり過ぎず耳心地のいい言葉は常々探しています。

――表題曲「IN SIGHT」も<IN SIGHT>の繰り返しが印象的です。

ああいうアプローチはあまりしたことがなかったかなと思いますね。この「IN SIGHT」という曲も難しい言葉を使ったわけではないんですが、今作のなかで一番深く掘り下げて作れました。反響をチェックしてたんですけど、すごく面白かったのが「この人はどんな恋愛をしてこんな曲を書くんや」みたいなことを書いている人がいたんですよ。自分のなかで「IN SIGHT」は全然恋愛の曲ではないんですけど、そうか!と思って。ずっと言ってきたことなんですけど、僕の曲は登場人物を特定しないんです。それは自分のことでありつつ、誰かのものでもあってほしいという思いでそうしているんですが、そう考えたらそういう風(恋愛の曲)に聴こえるのか!となって、いい発見になりました。

――実際のところの「IN SIGHT」はどういう曲なんでしょう。

TENDREを始める前の自分にあてた曲なんです。すごくギュッと濃縮させて言うのなら「今の自分はすごく楽しくやっているから、そのまま自分らしく先に進めば大丈夫だよ」ということを歌っているんです。でもそれが人によっては彼女や彼氏にあてた曲にとらえられるんだなと。状況や体調やいろんなことで本当に聴こえ方も変わってくるんだなと思いました。「IN SIGHT」は特に抽象性を持たせた曲だったので、解釈は当然いろいろあるだろうなとは思っていたんですが、すごくおもしろい反応でしたね。

TENDRE

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――TENDREさんの曲の醍醐味ですね。のりしろがたっぷり!

そういう意味では、もし今後恋愛の曲を作るのだったらガッツリ作りたいなと。仮の話なので特にイメージが沸いているわけではないですけど、もし個人的にすごく情熱を注ぐくらいのできごと(恋愛)があったとしたら、それに見合うくらい濃い、ま、そんなに濃いものは好きじゃないんですけど(笑)、なんか振り切ったものを作ってみてもおもしろいだろうなって思いますね。

――普段と真逆のようで、でもTENDREさんらしい言葉の広がりもありそう。期待しています(笑)。あと「IN SIGHT」に話を戻すとアウトロがそのまま最後の曲「YOU CAN SEE」につながっていくのも気になります。

「IN SIGHT」はちょっと映画的に作りたいと思っていて、ハッピーエンドみたいにジャーン!と終わる内容の曲ではないなと。TENDREを始める前の自分にあてた曲ですけど、これを歌っているのは現時点の自分なんですよね。過去の自分を俯瞰しながら今の自分が歌っているので、ある程度歌い終わったら次に見える景色へ移っていくというか……。そこは映像的な観点なのかもしれないですけど、過去の自分がそこから進んでいく物語というより、今の自分が過去の自分に対して歌い終わって、また今の自分がその先に進んでいくという感じです。

――現在の自分を中心にして過去から未来へ。

そうです。あ、ジャケットに小さいお家(の絵)があるじゃないですか? もともとは「EXIT」とかも描こうかなと思ったんですけど、実はこれは出口みたいなニュアンスなんです。ここを出た先、何があるのか全然わからない所から光が漏れている描写で、抽象的なんですけどここから出て次の景色を見に行くという。その通路みたいなのが「YOU CAN SEE」。何があるかわからないけど進んで、曲では最後に<YOU CAN SEE THE SIGN>と歌っているんです。つまり「兆し」が見えてきますよというところで、1曲目の「SIGN」にまた戻る。ある種のループ的要素を持ったのが今回のEPですね。

――なるほど。この話、秘密にしておきたいです(笑)。

存分に書いてください(笑)。映画ほどではないにしろ(音楽が)映像的に作れたらと思うんですよね。映画とかは表現の差し引きがめちゃくちゃ多彩じゃないですか。幻想的なものなのか、現実的なものなのか、っていうところから、いろんな引き合い(要素)を一番わかりやすく作れるのが映像なんだろうなと。でも音楽はあくまで聴覚の世界だから、じゃあそこで作れるものって何だろう?と思いつつですね。だから今みたいに解説して改めて腑に落ちるのも楽しいと思うんですけど、(理屈ではなく)五感で楽しませられるようなことをより色濃くできたらいいなとすごく思います。

TENDRE

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――映像的なアプローチで言えばツアーなどでの表現ですか?

ツアーもそうですし、もっと長期スパンでというか。自分に見えているものって自分にしかわからないんですけど、そこでそれを共有するということより人の刺激になった方がおもしろいかなって思います。

――単に映像と一緒にするということではなく、音楽全体の表現としてということでしょうか。

VJとかも含めてではあるんですけど、音楽の表現のみならずいろんな要素を取り入れたうえで、抽象的なものをだんだんと具体的にしていってもいいのかなと最近思ったりするんです。自分のスタンスが揺らぐわけではないんですが、例えばそれは今まで入れてこなかったシンプルな言葉を使っていってもいいだろうしとか。そういうことはすごく考えながら毎日過ごしていますね。

――とても今後が楽しみです!その前のお楽しみは今作のツアー。なんと既に全会場がソールドアウトになり東京・大阪の追加公演が決定。すごいですね。

びっくりしますね。でも、だからこそやるべきことも一層見えてくるというか。それは、それ(ソールドアウト)に応じたことをしなくてはというより、セットリストも含め「IN SIGHT」をリリースしたその先の表現としてのストーリーがあったりする、そういう面でのやるべきことが見えてきた部分ですね。ツアー前ですけど、すごく充実した気持ちもありつつ、いい緊張感もありつつという感じです。

――勝負どころという感じなんでしょうか?

それはいつもですね。いつでも頑張りたいと思ってます。自分のなかで充実した感覚があるのを勝ちと言うのなら、毎回の曲作りもライブもやっぱり勝ち戦を目指して。そういう意味ではちょっとずつ前より強気になれてきているのかもしれません。

――夏に見たライブでは精悍な表情をしていらっしゃいました!

じゃあ、今回のツアーも精悍な顔つきでやりたいと思います(笑)。

取材・文=服田昌子 撮影=森好弘

ツアー情報

TENDRE『「IN SIGHT – EP」RELEASE ONE-MAN TOUR』
11月4日(月・振休)大阪府 Shangri-La
11月5日(火)愛知県 CLUB UPSET
11月15日(金)東京都 LIQUIDROOM
11月18日(月)東京都 LIQUIDROOM ※追加公演
11月20日(水) 大阪府 梅田Shangri-La※追加公演
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