森公美子、3度目のデロリス役に「65歳までやれたら(笑)」『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』
森公美子
2019年11月15日(金)から東京・東急シアターオーブを皮切りに全国ツアー公演が行われるミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』。
本作は、ウーピー・ゴールドバーグ主演で「天使にラブ・ソングを…」のタイトルで日本でも大ヒットした映画のミュージカル版。2014年、2016年と日本全国を爆笑の渦に巻き込んだミュージカルコメディーの決定版が、三度、新たなキャスト迎えて上演される。
主人公の歌手デロリス・ヴァン・カルティエ役を務めるのは、初演で帝国劇場初主演を果たし、圧倒的な歌唱力とコメディセンスで客席を爆笑の渦に巻き込んだ森公美子。“モリクミ”の愛称で皆から愛される人気者が3度目のデロリス役にどう挑むのか。
取材日はちょうどラグビーのW杯で日本がサモアに快勝した数日後。「ものすごいラグビーファンなんですよ!パブリック・ビューイングで観戦していたんですが、ものすごく暑くて!」とハイテンションで語り出すなか、インタビューはスタートした。
■「デロリスをずっとやっていこう」の言葉が自分を目覚めさせた
ーーさて『天使にラブ・ソングを…』(以下、『シスター・アクト』)ですが、3度目のデロリス役ですね! 同じ役を3度出来るというのはどんなお気持ちですか?
本当に幸せな事です。いちばん最初にこの作品の話をいただいた時、私がデロリス役をやらせていただけるとは思ってもいなかったので「(シスター・メアリー・)パトリック役なの?」って言っていたんです(笑)。デロリスは大変な役ですし、時には休ませてほしいと思うこともあったんです(笑)。初演の時は、膨大な台詞と歌、踊りも含めてすべてが桁違いと感じていたので、本当に大変な役をやれたなと思います。本当にありがたい事だと思っています。
ーー最初にデロリス役を演じて今に至るまで、この作品や役に対する想いに変化は生まれましたか?
最近、「デロリス=森公美子」と言われるフシがあるので「いやいやもっと役に合っている人がいるでしょう」と思うんです。私はやらせていただけるだけで有難いと思っていますが、プロデューサーが「トリプルキャストになってもずっとやっていこう」って言ってくれたんです。その頃『レ・ミゼラブル』をやっていて身体がボロボロだったんですが、「モリクミちゃんがデロリス役をやり続ける意味を持たせよう」って仰ってくださったので、その言葉を聞いた時、ずっとこの役をやっていけるように自分の身体を整えなければ! と実感しすぐトレーナーを付けました(笑)。
ーー『レ・ミゼラブル』のマダム・テナルディエ役も相当な熱量を持つ役ですよね。
でも『シスター・アクト』を10としたら『レ・ミゼラブル』は……(笑)。大変なのは2階に上る事くらいで(笑)。『シスター・アクト』はかかとの高い靴を履いて踊ったり走ったりしないとならないので、膝が大変なんですよ~(笑)。もう最近は膝にいい薬を飲み始めたりしてね。それも4社分くらい飲んでいるので、何故か膝より肌艶が良くなってきたという(笑)。いろんな意味で自分を目覚めさせないとならないから大変なんですよ!
森公美子
■無我夢中で乗り切った初めての“帝劇0番”
ーー初演の時の思い出を伺いたいです。特に印象に残っている事はありますか?
初演はねえ、何がなんだか分からず、どの台詞が自分の中に入っているのかも分からず、とにかく初日は私の番だったので「いろいろ忘れたらごめんね!」って言いながらやっていました。その後なんとかうまくいったのですが、いつ私の頭がぶっとぶか分からないくらい大変な台詞量だったので連日戦いでした。TVは一切見ませんでしたし、家でお風呂に入っても壁に歌詞が貼ってあり、寝る時も枕元に台本があり、「この歌だけは外すな!」という歌詞を紙に書いて貼ってあって……トイレの中も歌詞だらけでした(笑)。
ーーなかでもモリクミさんを悩ませた曲ってあるんですか?
全部がそうなんですが(笑)。パジャマ姿で寝ているところに皆が寄ってくる歌があるんですが(「Bless Our Show」)、「我らの明日のショーに祝福を~」って同じテンポで同じ歌詞が延々続くので「今どこだっけ?」ってなるんです(笑)。
「我らの友情にも祝福を」が最後の歌詞なんですが、「どうか、笑顔で歌えますように」「歌で愛が世に満ちますように」っていう歌詞のせいでデロリスがまるで本物のシスターになっていくような気分になるんです。そこでうっかり感情が乗り過ぎると「うっ……(涙)」って言葉が詰まってしまうんです。だから感情が先行しないよう冷静に、冷静にと自分に言い聞かせながらやっているんですが、ふと客席を見ると泣いているお客様がいるんです。それを見て、また涙が出てしまって……(傍にあったティッシュボックスを抱えて涙する森)
ーーその光景を思い出したら、今もティッシュが手放せないですね(笑)。
ええもう。お客様が泣いているのを見てまた「ううっ」って涙が出てしまうので、“もらい涙をもらってしまう”という事になってしまうんです(笑)。
ーー逆に、この曲は何を置いても好きでたまらない、という曲は?
「Bless Our Show」とエディに自分の家に連れていかれて匿われる時に、「君ならスターになれる」って歌う「Fabulous, Baby!」ですね。「私はスターになるはずだった……いや、違う。皆と歌うのが好きだったんだ!」という事を思い出して「Sister Act」という歌に入る、この曲の流れが好きですね。
ーーその楽曲が何故好きなんですか?
この歌の内容は、初めて帝国劇場の0番(センター)に立つという自分の人生と重なる瞬間があって、歌詞の内容を自分に置き換えても考えられるんです。この作品に出会えてよかった、本当に長い事やっている自分を見てくれている人はいるんだな、って思えるんです。だって54歳にして0番に立てるなんてね!
私の帝劇スタートは森繫久彌先生の『屋根の上のヴァイオリン弾き』。その後『ラ・マンチャの男』などやらせていただきました。『シスター・アクト』初演の時は“33年目の奇跡”って言われました(笑)。33年経って初めて0番に立ったという自分の歴史があって、こういう素晴らしい作品に巡り合えた。このあとどんな人生になるのか、さらに光り輝くのか、それとも老いていくのか分かりませんが、素晴らしいチャンスを与えていただいたと思います。
森公美子
ーー先ほど初演時の思い出を伺いましたが、他にも印象に残っている事はありますか?
いい意味でアドリブが利く人たちばかりなので、皆がアドリブ合戦になったりね(笑)。鳳蘭さんにある場面で「……クソババアって言ってもいいですか?」って相談したら「いいねえ!」って快諾されたんです。デロリスは修道院の人間ではないので、修道院長に「あなたは自分の人生を見つめるべきです」って言われたときに「クソババア!」って思いっきり言ってみたくなっちゃって(笑)。その後「鳳さんのファンの方々から何か言われませんでしたか?」と聞いたら「皆、喜んでたわ!」って大笑い。その場面ではお客様から拍手がきた事もありました。役者も役者ならファンもファン(笑)。鳳さんが一番おいしい所を全部かっさらっていくんです。「さすがだなー!」って思いましたね。
ーー鳳蘭さんに石井一孝さん、大澄賢也さん、春風ひとみさんという初演からずっと出演されている方々は顔もキャラも濃い人ばかりですね。そして今回から加わる朝夏まなとさんも濃い!
皆、濃いですよね! だから屋比久知奈ちゃんがものすごく薄く見える(笑)。屋比久ちゃんは小さくて細くて、大人たちの中に急に子どもがいるよう。でも朝夏さんの年齢を聞いたら、私の娘でもおかしくなかった(笑)!
ーー朝夏さんへのアドバイスは?
ないないない! だって踊ってカッコよくて歌ってカッコいいでしょう? 本当に私の公演回に来た人、本当にごめんなさい! こんな私でごめんなさい! って気持ちです。
自分としてはデロリスを演じている時、デロリスは奔放に生きているということを忘れないようにしています。修道院になじまない自分を最後まで持っていることが必要かなって。シスターたちと関わる事で、粗雑な自分が何かを見つけ出すってお話なので、その時までデロリスは自由でいいと思うんです。
ーー稽古場についてのアドバイスは?
アンサンブルの子たち含めて私には何も気を使わなくていいって言ってます。でも鳳さんだけには気を使って、と言ってますね(笑)。
朝夏さんにとってこの現場は、鳳さんに春風さんに未来優希さん、宝塚の大先輩が3人もいるんじゃない! 大変だわこれは(笑)。
森公美子
■目標は「65歳までデロリスを続けたい」
ーー今年、モリクミさんは還暦を迎えられたとのこと。おめでとうございます!
還暦になってこの作品が出来るなんて嬉しいですね。「この作品は還暦祝いだね」って言っています(笑)もっともっとさらに頑張らないとですね!
ーーそうですよ! あと10年はデロリス役をやっていただきたく……
あと10年って70歳!? 森光子さんじゃないですから(笑)。初演をやったときは「目指せ森光子先生」と言っていたんですが、ミュージカルはそうもいかないのでとりあえず65歳まではやってみたいですね。
春風さんとは「(『シスター・アクト』を)やるやらない問題」で電話したくらいですから。「どうするー?」「やる?」「私やることにした」「じゃあ私もやるから」それの繰り返しです。
『レ・ミゼラブル』のマダム・テナルディエ役は、22年間もやらせていただいていますからそろそろ後進に譲らないととは思うんですけどね……。『ラ・カージュ・オ・フォール』に至っては36年間くらい出演させていただいてますから(笑)只々感謝ですよ。私が出演させて頂く作品はどうもロングランになる率が高いみたいです。
ーー最後に。再々演となる今回、どこに注目してほしいですか?
今回もですが、あら捜ししないで欲しいです(笑)。私は一生懸命歌って踊って汗を流していますが、どうも一生懸命に見えないらしくて(笑)。
「愛を放出する瞬間」っていろいろあるとは思いますが、シスターたちの愛をもらってデロリスという人間が変わっていく様を、またシスターたちも神だけでなく誰かのために歌う喜びを知り変わっていく様を見てほしいです。一歩ずつ何かを知る事で新しい光が見えてくる。そんなストーリーの中に一緒に入っていただければ幸せです。
誰も同じ生き方が出来る訳ではないし、こうならなければならないというものでもない。いろいろな考え方があるけれど、最後には人を愛する事がいちばん大切で、それが非常に分かりやすく描かれているのが『シスター・アクト』だと思います。この作品は人間愛を語っているお話なんです。
森公美子
インタビュー後、ふと気になって森のネイルを見せてもらった。爪の一本だけが金色ベースに一筋の赤い曲線が描かれており。「これ、登り竜のイメージなのよ。日本の勝利を祈ってゲン担ぎ!」最後までパワフルな笑顔のままの森だった。
取材・文・撮影=こむらさき
公演情報
森 公美子さんインタビュー掲載に伴い、公演初日まで限定で、特別ペア割引販売決定!
S席13,500円を8,000円(2名計16,000円)のスペシャルな価格でご案内!
■対象公演:東京公演 11月15日(金)除く平日回
■会場:東急シアターオーブ
■受付期間:10月24日(木)18:00~11月14日(木)23:59
■の申込み:【こちら】からのみ!
お問い合わせ:キョードー東海 052-972-7466