兵動大樹、桂吉弥が台詞増量に悪戦苦闘?! 舞台『はい!丸尾不動産です。』2作目の初読み合わせの現場を独占取材
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
お笑い芸人・兵動大樹、落語家・桂吉弥がダブル主演をつとめる舞台の第2弾『はい!丸尾不動産です。〜今夜、化けて出ます〜』が11月30日(土)から12月2日(月)まで、大阪・ABCホールで上演される。
うだつのあがらない不動産営業マン・菅谷が、ワケありの住人たちに振り回される姿を描いたこの物語。兵動演じる菅谷の人物像は毎回同じで、吉弥扮する林田のキャラクター設定が変わっていく。シリーズ2作目『今夜、化けて出ます』では、菅谷の土地売買の交渉相手である林田の母親・光子が亡くなり、彼女の幽霊が高校生姿であらわれたことから、騒動に発展していく。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
第1弾『本日、家をシェアします』から同舞台を取材してきたSPICEは今回、キャストによる台本の初読み合わせに特別潜入。テレビなどではいつも賑やかな出演者たちが、同編集部だけに緊張の表情を見せてくれた。
木村 淳(カンテレ)
演出家・木村淳の「じゃあ、はじめましょうか」の声でスタートした現場。まず、各出演者が挨拶をしていく。
座長がすっかり板についた兵動がまず「稽古場ではものすごくおとなしく台本を読んでいると思いますが、怒っているわけじゃないんで気にしないでください」と言えば、同じくこの舞台の看板・吉弥も「普段の自分は、ホンマにおもしろくない人間ですから!」と、テレビと素顔に大きなギャップがあることを話して笑わせた。
佐藤太一郎(吉本新喜劇
続いて、吉本新喜劇の一員として舞台に上がっている佐藤太一郎。今回は、光子の家を訪問する販売員・角田を演じるが、裏の顔を持つ役柄ということで「新喜劇では去年、詐欺師役を一番多くやってきたので、たくさんの人をだましたい」と宣言。
清井咲希(たこやきレインボー)
アイドルグループ、たこやきレインボーのメンバーとして活躍する清井咲希は、化けて出てきた高校生時代の光子役。演出家の木村から「咲希ちゃん、いつものあれはやらなくていいの?」と突かれて、「まいど、おーきに! たこやきレインボーの清井咲希です」とグループの定番となっている自己紹介で「おお〜!」というどよめきを誘った後、「みなさんの足を引っ張らないように、全力でやりたいと思います」と本格的な舞台初参加に向けて意気込みを口にした。
明石陸(新人)
林田の息子・亮介役に抜てきされたのは、これが「事務所に入って2回目の仕事」という明石陸。「ド新人らしく、まじめにぶつかっていきたいです」と初々しさを出しながら、芸能の先輩たちにあいさつ。
三船美佳
そして、林田の妻・早苗に扮するのは三船美佳。世界的名俳優・三船敏郎の娘としても知られ、数々のテレビドラマや映画にも出演してきた三船だが、舞台出演は『恋の骨折り損?』以来15年ぶり。「すごく緊張していますが、テレビで見るような兵動さん、吉弥さんのほんわかとした笑いに包まれた稽古になるんだろうなって、そこに安心感を求めてやっていきたいです」と主演のふたりを信頼。
そして、脚本を手がけた古家和尚らスタッフ陣が紹介されていくと、場の本気度がどんどんあがっていく。キャスト、スタッフの紹介だけで、費やした時間は約20分。大勢の関係者の手によって、この舞台が準備され、作り上げられていくことがよくわかる。
木村は本に目を落とす前に「今日は、素直なものを出してください」と出演者たちにリクエスト。前作時の稽古場取材で「演者の素が見えるのはお芝居としてどうなのかなと僕は思う。その役としてちゃんと生きながら、自分が見えて欲しい」と言っていた木村だが、この段階ではまず、感じるままに台詞や状況を読み取ってほしいとリクエスト。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
光子が倒れているところを林田が発見するところから、物語はスタート。序盤からシリアスな場面が展開するが、本読みをよく聞いていると、1作目のセルフオマージュや、キャストの経歴にちなんだパロディが忍ばされているなど、遊び心もきっちりとある。
前作に引き続いて軽妙なやりとりを繰り広げる兵動と吉弥、そして丁寧な口調すぎてキャラクターとしての胡散臭さが見事にあらわれている佐藤。芸人3人のホン読みは特にスピーディーで呼吸もばっちり。この辺りは「さすが」と感心する。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
前半だけで明らかに認識できるのは、兵動、吉弥の台詞量の多さ。『本日、家をシェアします』よりボリュームがアップしている。今作の記者会見で吉弥が、あまりの台詞量に「出るのをやめておけば良かった」と冗談を飛ばしていたが、その後悔がまんざらでもないのでは気がした。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
そしていよいよ三船が演じる早苗が登場。彼女が、菅谷に向かって自己紹介をするのだが、かつてのミスコン時代の肩書き「ミス◯◯」というネーミングがシュールで、それを聞いた途端に清井が吹きだす一幕も。その後は、各自の秘めたる境遇があきらかになっていったり、光子の「孤独死」という出来事に対するメッセージの投げかけであったり、緩急をおりまぜた物語が進行していった。
すべてを通して見ていると、前述の兵動、吉弥の台詞増量だけではなく、前作以上に各キャラクターの出入りが非常に激しくなっていることがわかる。そのため、各自が間合いをどう上手くとれるかが重要になってくる。芝居として高い技量が求められるが、その点が達成されると舞台作品としてより洗練されてくるはずだ。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
また出演者の中でポイントゲッターになりそうなのが、佐藤太一郎だ。そもそもトリッキーな役どころではあるが、佐藤=角田がどんどん転回することによって、この物語の笑いの部分、ヒューマニックな部分がどんどん引き出されていく予感があった。三船は演じるという部分における芯の強さがあり、さすがの安定感。そこに清井、明石の若手がいかに絡んでいけるか。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
最初の読み合わせが終了し、木村は「お客さんに芝居を見せる、という感覚をなくしてほしい。この場面はこんな感情だから、こういう芝居をするという考え方はやめましょう。一人ひとりの人生をのぞき見してもらえるような、そんな作品にしていきたいです」と今後の課題について話した。
1作目以上に濃度があがっている『はい!丸尾不動産です。〜今夜、化けて出ます〜』。初日が刻々と迫る中、どのように舞台ができあがっていくのか。SPICEでは、その動向を引き続き追いかけていく。
取材・文=田辺ユウキ 撮影=田浦ボン