山寺宏一、水島裕、寿美菜子がスイートルームを駆け回る?! ラフィングライブ第五回公演『Out of Order』稽古場レポ&インタビュー
2019年11月28日(木)に三越劇場にて、ラフィングライブの第五回公演『Out of Order(アウトオブオーダー)』が開幕する。
脚本はイギリスきっての喜劇作家レイ・クーニー、演出は野坂実。ラフィングライブとは、山寺、水島、そして野坂による、コメディを上演するための演劇ユニットだ。旗揚げは2015年で、今回が5回目の公演となる。出演は、山寺宏一、水島裕、寿美菜子、岩崎ひろし、斎藤志郎、三石琴乃、高橋広樹、名塚佳織、岩尾万太郎、斉藤こず恵。初日を2週間後に控えた稽古場を取材し、山寺、水島、野坂、そして寿に話を聞いた。
高級ホテルのスイートルームで一体何が?!
今作の舞台は、イギリスのウェストミンスター・ホテルのスイートルーム。部屋には、イギリス与党副大臣のリチャード(山寺)と、野党議員の秘書ジェーン(寿)がいる。リチャードは妻には仕事と嘘の電話をかけ、議会をさぼり、ジェーンと密会中だ。
稽古が行われたのは、山寺、水島、寿のシーン。スタジオには、高級感あるソファや、電話、扉に見立てたパーティション、窓の位置を示す台が置かれている。
ここからどんな甘い展開が……と思いきや、どうやらそれどころではないらしい。リチャードは、少なくとも2つのトラブルを抱えていた。1つは「ジェーンのドレスがない」。もう1つは「部屋に見知らぬ死体がある」。リチャードにとっては、政治家生命を脅かす大ピンチ。そこで呼び出されたのが、リチャードの秘書ジョージ(水島)だった。
「何百回もいったじゃないですか! 性的欲求の赴くままに行動するとどういうことになるかって!」
そんな台詞で、真面目なジョージはリチャードを叱責、巻き込まれたくないと主張するが……。
野坂演出、ラフィングライブの作り方
劇中の人物たちは、心身ともに右往左往する。わずかなシーンを取材した限りでも、膨大な台詞と大人だからこそ楽しめるジョークが飛び交い、それに爆笑させられた。しかし野坂の演出が入りはじめると、笑いは驚きに変わった。一流のキャストによる極めて緻密な作業から、「てんやわんや」が生み出される過程をみたからだ。
数行の台詞の場面に対しても、野坂の演出は多岐に及ぶ。たとえばリチャードが、ジェーンを寝室に誘導する場面。野坂は、ジェーンがジョージに対し「ごめんなさいね」という時の感情、ジョージの返事のトーン、その時のリチャードの立ち位置、扉を閉めるタイミングなどをディレクション。
山寺、水島、寿は、野坂の演出を自身のキャラクターに落とし込むように動いてみせ、それぞれに手ごたえを感じてか、お互いの芝居を笑いあい、再び同じシーンを通してみる。すると、ジェーンの「ごめんね」が彼女の少しとぼけた人柄を描き出し、リチャードによって勢いよく閉められる扉さえ喜劇的になり、そのタイミングが、ジョージの台詞におかしみをもたらした。
見る間に、クリアになる笑いの輪郭。笑いと笑いの間に理にかなった流れができ、また新たな笑いが生まれた。本番では、すべてのシーンがいかに繋がり、どんな笑いを巻き起こすのか。ブラッシュアップはこれからというから、期待は高まる一方だ。つづいて、稽古の合間に行ったインタビューで、今作の見どころを紹介する。
ショート・インタビュー
ーー以前インタビューで、山寺さんと水島さんは「この作品は大変だと思う」とおっしゃっていました。実際に稽古に入ってみていかがですか?
水島:大変ではありません。すっごい大変です!
山寺:ラフィングライブは楽してできるものではありません。ですから僕の場合、予想通りに大変でした。「でも裕さんは、きっとそこまで大変だなんて考えていないんだろうな」というところまで、考えていました(一同、笑)
ーーラフィングライブでは、過去にレイ・クーニーの戯曲を2作、息子マイケル・クーニーの戯曲を1作上演しています。今作『Out of Order』をやってみて、どのような印象を持ちましたか?
山寺:僕はこれまで通り、自分の保身のために皆を巻き込む人の役です。でもこれまで以上に酷い人。過去の役は、倫理的な問題はあったとしても、法は犯しませんでした。しかし今回は(苦笑)。それに巻き込む相手も違います。これまでは友人を巻き込んできたのですが、今回は相手が部下。なんと言いますか、……心地いいです!(笑)
水島:僕は今回も振り回される役です。おじさん二人がしっちゃかめっちゃかなところは、いつも通りです。でも僕の役、ラブシーンがあるんですよ。それが難しくって。
山寺:あれはラブシーンと言えるの?!
水島:ラブシーンだよ! ただしそれが、本当に酷いラブシーンなんだよね(笑)
寿ちゃんから寿さんへ?!
ーー寿さんは、ラフィングライブ3度目のご出演です。今回は議員秘書のジェーン役を演じられます。ジェーンは、リチャードと愛人関係……。
野坂・水島:まだです!
山寺:「そうなれたらいいな、なりたいな」という相手。
寿:密会相手ですね(笑)。過去2回は、山寺さんの奥さん役で、騙される側の立場でした。今回は、嘘をつくつもりはないけれど、騙す側になってしまう。その点がいつもと違い、面白いなと思っています。
水島:自分の中に、ジェーンの要素はあると思うの? ちょっと抜けてるところのある役だよね?
山寺:(寿さんは)しっかりしてる。ちゃんとしてる。
水島:そうだよね。
寿:抜けているところですよね。自分ではあまりないと思っていますが。あ、でも絵を描くとちょっと……。※編集部注:寿さんの画力については「寿美菜子 画伯」の画像検索にて確認ください。
野坂:議員秘書なので、真面目そうにみえて、裏に抜けているところがあるという役の作り方でいいと思います。真面目な部分は、いつもの寿ちゃんのままやっていただければ。抜けているところは、普段おしゃべりしていても、ふと抜けている瞬間はあるので、その部分が演技に出てくると、より役に近づいてくるでしょうね。
山寺:さすが演出家! よくみている! 「ああ、こいつ抜けてるな」っていう目で見ているんでしょうね!
野坂:いやいや、「寿さん、ユニークだな」と。
水島:さっきまで寿ちゃんだったのが、寿さんに変わった!
野坂・寿:(爆笑)
レイ・クーニーに真っ向勝負
──過去に上演したレイ・クーニー作品と共通する面白さ、今作だからこその見どころをお聞かせください。
野坂:共通するのは、人間の下世話なところ、嫌なところや面白可笑しいところ、矛盾しているところを相変わらず描いているところ。過去の作品と違う部分は、脚本に、少し無駄が残されている点にあると思います。以前上演した作品は、すでに無駄がそぎ落とされた脚本だったと感じました。それに比べ今回の台本には、少し無駄なところが残っているんです。その無駄に思われそうな台詞を、無駄ではなく深みを増す台詞にしたい。そんなことを考えて、悪戦苦闘しています。
ーークーニー作品を上演する上で、ラフィングライブの色を出すために意識していることはありますか?
野坂:レイ・クーニーに真っ向勝負してやろう、というのが僕らのやり方です。台本には、クーニーによるト書きが意地悪のように、ちょこっとだけ書かれている。「ここは、〇〇の下手にいる」とか。でも実際にやってみると、それでは整合性がとれないことも多いんです。その時カンパニーによっては「立ち位置はまあいいや」ともなりえますが、僕らはそれをしません。セットも、レイ・クーニーがイギリスで上演したままの物と位置でやり、その上でブラッシュアップし、よりクオリティの高いものを目指しています。台詞の掛け合いも、一行単位で細かくやるので、気が狂いそうになることもあって……。
山寺:今、野坂さんは「僕らのやり方」として説明されていましたが、正しくは「僕ら」ではなく「野坂実の」です!
水島:はいはいはい(激しく頷く)
山寺:僕や裕さんは「レイ・クーニーと一緒じゃなきゃダメだ!」なんて言ったことありません。でも言われたやり方でやると、お客さんがウケるんですよ。野坂塾の塾生である我々は、野坂さんの言うとおりにやるのみです。
寿:以前出演した2作には、メインのストーリーが一つあり、そこに少しづつ色々な人たちが参加してくる感じでしたよね。今回は、色んな人が色んな所をいったり来たり。それがドンドン重なってきます。私自身台本を読むたびに、違う読後感があるので、劇場に来てくださる方々が観終わったあとにどういう感想をもってもらえるか、未知数だなと思っています。
山寺:たしかに今回は、最後までしっちゃかめっちゃか。でも、たくさん笑って気持ちよく帰って欲しいです。時々あるじゃないですか、舞台や映画で「終わり? 終わっちゃったよ」みたいな。「あとは家に帰って考えてください」みたいな。
水島:そういう作品って深いテーマがあるものだけれど、この作品にテーマはないから(笑)
山寺:テーマは、……人間の業?(一同、爆笑)
寿は、先日自身のブログで、来春より1年間イギリスで生活することを発表。本作は、渡英前最後の舞台作品になるという。レイ・クーニーの笑劇、本場イギリスでの学びを活かし、帰国後もラフィングライブへの参加を約束しインタビューは締めくくられた。
ラフィングライブ第5回公演『Out of Order』は、11月28日~12月2日(月)にかけて三越劇場で上演される。岩崎ひろし、斎藤志郎、三石琴乃、高橋広樹、名塚佳織、岩尾万太郎、斉藤こず恵という充実のキャストで繰り広げられる大人の笑いを見逃さないでほしい。
公演情報
■日程:2019年11月28日(木)~12月2日(月)
■作:レイ・クーニー
■翻訳:小田島恒志
■演出:野坂 実
■出演:
山寺宏一
岩崎ひろし
斎藤志郎
三石琴乃
高橋広樹
名塚佳織
岩尾万太郎
斉藤こず恵(友情出演)
■お問い合せ:サンライズプロモーション東京 TEL:0570-00-3337(平日12:00~18:00)
■主催:ラフィングライブ/ネルケプランニング
■公式サイト:https://www.nelke.co.jp/stage/laughinglive5/
■公式Twitter:https://twitter.com/laughingliveact