見た目バラバラ、情報量と展開満載の曲、でもキャッチー 要注目バンド・neeのワンマンを観た
nee
nee ワンマンライブ 2019.11.28 下北沢SHELTER
neeというバンドをご存知だろうか。くぅ(Vo/Gt)、夕日(Gt)、かほ(Ba/.)、だいキ(Dr)の4人組。バンドのオフィシャルホームページにプロフィール情報の掲載はないが、2ndシングル「コメカミ中毒」をリリースした際のニュースリリースによると、「2017年に出会い系サイトとナンパで結成された」とのこと。
なかなかアクの強そうな気配があるが、いったいどんなバンドなのだろうか。ということで、11月28日、下北沢SHELTERでのライブに行ってきた。この日はバンドにとって2度目のワンマンライブで、フロアは満員。限定デモ付きを買った人はここで引換を行うらしく、物販は盛況。制服姿の学生も、仕事帰りと思しき人も見受けられる。
開演時刻を少し過ぎた頃、高速で派手なダンスミュージックをSEにメンバーが現れた。マッシュカットと切り揃えた前髪が印象的なボーカリスト。金髪ロン毛、ザ・ロックンローラーという風貌のギタリスト。ボブカットで丸い目が愛らしい女性ベーシスト。モヒカンでややいかつめに見えるドラマー。俗な言い方になってしまうが、例えこの4人が同じ学年のクラスメートだったとしても、つるんでいるイメージはあまり浮かばない。それくらい見た目の印象がバラバラな4人だ。
くぅが「ありがとう!」と観客へ何度も言いながらフロアへピースサインするなか、バンドがジャーンと音を合わせ、ライブがスタートした。高速BPMに不協和音、ギターのメロやコードにほのかに滲む和のエッセンス。冒頭3曲を聴いた限りだと、ハチやwowaka以降のボーカロイド界隈からの影響を色濃く反映した音をしている。そのうえ、1曲のなかにいったい何曲分のアイデアを詰め込んだのかと驚かせるほど、曲調は多展開。作詞作曲を担当するくぅはいつもTwitterで「○○な曲作ってみた」と言いながら、そのライトな口調に反してクオリティの高い曲を結構な頻度でアップしているような人物。そのとめどないアイデアとクリエイティビティ、“曲を作る”という行為に対する異様な熱量が曲そのものから感じられる。そこに掛け合わさるのがバンドメンバーの個性。neeの曲が“中毒性が高い”、“キャッチー”と称される理由はギターリフのインパクトによるところも大きい。また、これだけ情報量の多い曲を演奏しても破綻せずにいられるのは、リズム隊が頼もしいという証でもある。ベース、ドラムのアプローチは幅広く、いわゆる“高速4つ打ちロック”の範疇に終始はしないぞという意欲も垣間見える。
歌詞も面白い。例えば3曲目の「ほろ酔い」は、ゆるやかにスウィングするリズムが千鳥足でふらふらする様子を彷彿とさせるが、曲が進むなかでいつの間にかビートが通常の裏打ちに変わっていく。そして3連符で音を一斉に叩きつけるような激情のパートに入り、かと思えばすっと俯瞰の視点を取り戻し、各楽器の旋律が緻密に絡み合うプログレっぽい展開になって、突然終わりを迎える。生で観るとめちゃ楽しい、そんな曲だ。こう書くとドラマティックに聞こえるし、実際に感情を揺り動かされる感じもあるのだが、そこで唄われている内容を端的にまとめると、“酔った勢いで一緒に呑んでいた相手をラブホに連れて行こうとする→満室で入れず→その間に酔いが醒める→この子のことそんなに好きじゃないかもしれないと思い始める→相手に「今日はもう帰ろうか」と告げる”みたいな感じ。改めて文字に起こしてみると何というかどうしようもない。このバンドの曲には、そういう取るに足らない夜の倦怠感と空虚、寂しさがそのまんま描かれている。街の片隅にたくさん転がっている物語が、掬われて、きらめいている。
最初のMCでは、くぅが「照明さん、こっちをあれで……あー、ありがとうございます!」と慣れない口調でスタッフにフロアの方を照らすよう頼み、それによってよく見えるようになった観客一人ひとりの顔を確認して喜ぶ。だいキが、この日の代が1000円であることに触れ「代って正直高いじゃないですか。行きやすい環境を作りました」と伝えたあと、くぅが「僕たちが責任もって楽しい夜にします。あなたたちのつまらなかった夜を塗り替えます」と締めた。
観客の手拍子とともに始まった「障害とパプリカ」のあとには、SEを挟み、くぅがギターを置いてラップする曲「ボキは最強」へ。同期によるデジタルサウンドと今ここで鳴らすバンドの生音を混ぜ合わせたようなサウンドのまま、「パッション」へ突入した。「パッション」は今年10月、バンドの公式YouTubeチャンネルにnee初のボカロ曲として投稿されたもの。バンドのコンポーザーがバンド活動と並行してボカロPをやっているケースは今や珍しくないが、別名義ではなく、バンドの名義として曲を発表しているケースは珍しいように思う。
一捻りも二捻りもある曲ばかりだったここまでの流れに対し、7曲目には温かみのあるミディアムバラード「夜泣き」を披露。さらに、くぅの“2年前に阿佐ヶ谷で路上ライブをしたが、通りすがりの自称クラシックギター講師に「そんなんじゃ売れないよ?」と言われた”、“その時に彼から1000円もらったが、その1000円で今日のライブに来てほしかった”という話から「それでも」へ繋げると、曲が終わる頃には既に「嫌喘」のフレーズが鳴らされていて、次の曲へと継ぎ目なく繋げていく。まだ若いバンドのワンマンライブの場合、ともすれば“曲のお披露目会”になってしまうことも少なくないが、彼らの場合、(一部カポをはめるのに手こずっていた箇所はあったものの)曲間をスムーズに繋ぐような工夫が施されており、この日に向けて丹念に準備を重ねてきたこと、観客を夢中にさせたい、楽しませたいという気概が十分に伝わってきた。そしてその想いはファンにも届いているのだろう、「分かる人よければ合唱して締めましょう!」と促したアンコールの「スカートの中を覗く」はもちろんのこと、それ以外の曲でも観客は積極的に唄っていた。くぅがフロアへ向けたマイクの方にたくさんの歌声が集まっていく光景はとても温かなものだった。
彼らが音楽そのものや観客に対する誠実さに溢れた、とても人間味のあるバンドだということは、画面の向こう側で「アクの強そうなバンドだな」と思っていただけでは知り得なかったことだったと思う。ライブハウスにある情熱だけが真実ではないが、ライブハウスにある情熱には嘘がない、と改めて。neeの今後の活動に注目だ。
取材・文=蜂須賀ちなみ
セットリスト
1.膝小僧
2.密室での成功渉
3.ほろ酔い
4.障害とパプリカ
5.ボキは最強
6.パッション
7.夜泣き
8.それでも
9.嫌喘
10.天誅令和
11.下僕な僕チン
12.歩く花
13.夜中の風船
[ENCORE]
14.スカートの中を覗く