『特別展 天空ノ鉄道物語』鑑賞レビュー 追憶の列車から体験型アートまで、五感で楽しめる鉄道コンテンツが六本木ヒルズに大集結
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JR7社や東京メトロ、東京都交通局など全国の鉄道会社の全面協力を受けて開催される一大鉄道イベント『特別展 天空ノ鉄道物語』が12月3日に開幕した。来年3月22日まで開催されるこの特別展は、1964年と2020年における2度の東京五輪をつなぐ形で現代の鉄道文化の軌跡を辿る展覧会だ。海抜250メートルの六本木ヒルズ森タワー52階の全フロアを会場に、アニメやゲームとのコラボ企画も充実。多彩な鉄道文化が五感で楽しめる機会になっている。開幕前日の記者内覧会の様子から本展の見どころを紹介しよう。
1964年の上野駅を会場に再現! 国鉄ノスタルジーに浸る
いつもは別々の展覧会が行われている森アーツセンターギャラリーと展望台のスカイギャラリーを史上初めて両方使い、六本木ヒルズ森タワー52階の全フロアを会場に展開される“天鉄展”。場内は森アーツセンターギャラリーを「内周」、スカイギャラリーを「外周」とし、駅から駅を渡り歩くように多彩な展示を見ることができる。なお、場内は全エリアが撮影可能だ。
「内周」と「外周」に分かれた会場マップ
JR7社の歴史に関する展示が展開される「内周」の入場時には、入場者特典でもらえる硬券切符にレトロな印字機で日付を印字できるお楽しみが。最初の部屋はJRが前身の日本国有鉄道(国鉄)だった時代を伝える展示で、入り口には1964年当時の上野駅での中央改札のにぎわいが再現されている。
1964年当時の上野駅中央改札を再現
戦後の高度成長で都市部に大量の労働力が求められた1950年代から1960年代。当時の上野駅は主に東北方面から集団就職という形で上京してきた若者たちが、初めて東京の土を踏んだ終着駅だった。まだ何もかもがアナログだった頃の改札には、東北や信州・越後に向かう列車の発車標がぶら下がっている。電子改札機が当たり前の時代、改札に駅員が立っていたということすら今の都会の子供たちには不思議に映るかもしれない。周囲の映像や「あゝ上野駅」などの昭和歌謡のBGMも相まって、ご年配の人には懐かしく、若い人には『三丁目の夕日』の世界観が感じられる空間といえる。
懐かしい硬券切符や硬券切符をチェックするための入札鋏も展示
改札を越えて目に入るのは、初の新幹線車両「0系新幹線」の前頭部だ。1872年に新橋-横浜間で日本初の鉄道が開通して以降、日本の鉄道は蒸気機関車の時代からディーゼル機関車の時代へ、さらには電気機関車の時代へと転換してきた。本展の起点である1964年も日本の鉄道の大きな転換点のひとつで、東京五輪を目前に控えたこの年の10月1日に、東京-大阪間を時速210kmで走る初の新幹線が開通した。前頭部のそばには0系新幹線のアンテナや新幹線開業時の記念特急券も展示されている。
「0系新幹線」の前頭部
「0系新幹線」のアンテナ
また、懐かしい特急や急行、臨時列車などのヘッドマーク(先頭車両の先端に取り付けられる表示板)が多数見られるのも本展の醍醐味だが、この部屋にも東京駅~大分駅間を走った「富士」や京都駅・新大阪駅から西鹿児島駅・熊本駅間を走った「なは」など、同時代に運行していた寝台特急のヘッドマークを見ることができる。
様々な寝台特急のヘッドマーク
国鉄からJRへ……。憧れの豪華寝台列車も登場
国鉄が分割民営化され、JR東日本、JR西日本、JR東海、JR北海道、JR四国、JR九州の各旅客鉄道会社と貨物事業を行うJR貨物の計7社が発足したのは1987年4月1日のこと。次の部屋にはその転換期を伝える展示が行われている。
JR各社の開業を記念したヘッドマーク
そして時代は昭和から平成に変わり、鉄道はただの移動手段から旅の目的としての役割も果たすようになる。その象徴と言えるのが豪華寝台列車の登場だ。
「カシオペア」など豪華寝台列車のヘッドマーク
車窓に映る景色を眺めて一夜を過ごし、食堂車で高級ホテルさながらの料理を愉しむ。そんなリッチな旅は鉄道ファンみんなの憧れだった。ここには「トワイライトエクスプレス」「北斗星」「カシオペア」「はまなす」「サンライズ瀬戸・出雲」のヘッドマークが展示されているのに加えて、トワイライトエクスプレスの木造レプリカ客車が展示されている。
「トワイライトエクスプレス」の木造レプリカ客車
食堂車の再現
この車両は2016年に大規模な火災に見舞われた新潟県糸魚川市を元気付けるプロジェクトの一環で制作されたもの。大阪-札幌間を結んだ当時とは異なる「糸魚川行き」の行先票が表示された車両の中には客室と食堂車の様子が再現され、運行当時のにぎわいを偲ばせる。
「糸魚川行き」の行先票
2010年代に入り、こうした豪華寝台列車もサンライズ瀬戸・出雲だけを残して相次ぎ引退したが、そのイズムは「ななつ星 in 九州」などのクルーズトレイン(周遊型豪華列車)や各地の個性豊かな観光列車に受け継がれている。なお、その隣にはJR7社の現在の制服と新幹線車掌の制服が並べて展示されている。普段、各地で見慣れた制服もこうして全社のものが勢揃いして見られる機会はそうそうない。
手前が新幹線車掌の制服、奥が現行の社員制服
次の部屋は国鉄時代だった1964年から現在までのJR時刻表とJTB時刻表が展示された「時刻表ライブラリー」になっている。懐かしい時代の映像が流れる柱を囲んで、四方の壁に時刻表の表紙がズラリ。今の時刻表の表紙といえば車両が入った風景写真でおなじみだが、1964年の時刻表は車両の一部にフォーカスをあてた写真が使われている。なかには、その時々の流行が反映された表紙もあり、例えば国鉄時刻表の1970年の3月号から6月号は4号連続で大阪万博に関する風景が、2012年5月号のJTB時刻表には東京スカイツリーが登場している。ドクターイエローや路面電車などが出ている“レアもの”表紙を探すのも面白い。
時刻表ライブラリーの展示風景
内周の終盤は、現在開発が進むリニア中央新幹線をはじめとした鉄道の未来に関する展示。そのほか、現代の鉄道写真の第一人者・中井精也が写した三陸鉄道の写真ギャラリーもある。また、内周と外周の間には「天空駅カフェ」が登場。全国の名物が2種類味わえるオリジナル駅弁「ドア弁」や「ヘッドマークラテ」などコラボグルメが多数用意されているので、ここでちょっと途中下車してひと休みというのもいいだろう。
リニア中央新幹線に関する展示
ヘッドマークラテ(左)や相模鉄道のJR相互直通を記念したデザート(右下)など「天空駅カフェ」で提供されるメニューの一部
天空の鉄道駅が出現! 子供も楽しめるコラボ企画の数々も
「外周」は、私鉄に関する展示やデジタルアートやアニメ、ゲームとコラボした企画が充実。最初のエリアには海抜250メートルの眺望を背景にした「天空駅」が出現し、そのホームには鉄道マニアのアーティスト・島英雄が製作した「巨大1号蒸気機関車」の実物大ダンボール模型が停車している。
天空駅と「巨大1号蒸気機関車」の実物大ダンボール模型
この日はあいにくの空模様だったが、晴天時にはまさに天空駅という光景が広がり、ARを介して車両が入線する様子も楽しめる。また、日没後はホームの上をSLが走り抜ける映像が映し出され、幻想的な空間に変わるという。
SLのナンバープレート
廃線になった路線の「さよならヘッドマーク」
惜しまれつつ廃線になった路線の「さよならヘッドマーク」、地方ローカル線の記念日に使われたヘッドマークなど、外周にもヘッドマークの展示が充実。一方で、19の鉄道会社の車両ドアがスクリーンを埋め尽くし、いずれかのドアに触れると様々なイメージが飛び出す体験型インスタレーション、巨大な「プラレール」ゾーンや「アンパンマン列車」のシートなどもあり、小さな子供たちも楽しめる空間になっている。
触るとイメージが飛び出す体験型インスタレーション
「プラレール」コーナー
なお、この日は内覧会に併せてオープニングセレモニーも開催され、主催企業の代表者のほか、本展の監修を務めた川西康之、展覧会アンバサダーに就任した芸人の中川家礼二と女優の松井玲奈が出席。数々の列車や駅舎の設計を手掛け、来年春に運行開始が予定されている新長距離列車「WEST EXPRESS 銀河」の車両デザインも担当している川西は、開幕を迎えた感想を述べた上で新潟県糸魚川市とのプロジェクトによるトワイライトエクスプレスの展示について触れ、「鉄道をネタに街を元気にしようという人たちが作り上げたものを今回のために新潟から持ってきています。ただかっこいい、速いというだけでなく、鉄道には地域を元気にする力もあるということをこの会場を通じて知って欲しいです」と述べた。
本展の監修を務めた川西康之
見て、触って、食べて、様々な形で鉄道文化が楽しめる“天鉄展”。展覧会オリジナルグッズも充実しているので、鉄道好きならば絶対に訪れたい展覧会だ。『特別展 天空ノ鉄道物語』は六本木ヒルズ森タワー52階、森アーツセンターギャラリー&スカイギャラリーで来年3月22日まで開催中。
イベント情報
会場:森アーツセンターギャラリー&スカイギャラリー
開館時間:10:00~20:00(※ただし火曜日は17:00まで)
※入館は閉館の45分前まで
観覧料:一般 2,500円 / 高校生・大学生 1,500円 / 4歳~中学生 1,000円
※3歳以下無料。
※団体料金(前売券と同料金)は15名以上で適用。添乗員は1名まで無料。
※障がい者手帳をお持ちの方と介助者(1名まで)は、当日入館料が一般1,250円、高校生・大学生750円、4歳~中学生500円(全て税込)になります。
※今後の諸事情により、開館日、開館時間等を変更する場合がございます。最新情報は、展覧会公式サイトにてご確認ください。
協賛:光村印刷
協力:JR北海道、 JR東日本、JR東海、JR西日本、JR四国、 JR九州、 JR貨物、
東京メトロ、東京都交通局、小田急電鉄、京王電鉄、京急電鉄、京成電鉄、相模鉄道、西武鉄道、東急電鉄、東武鉄道、CS日本、J-WAVE、NACK5、テレビ神奈川、交通新聞社、JTBパブリッシング、ヤマトGL、保安サプライ、タカラトミー、トミーテック、タイトー、東急テクノシステム