シンセ番長・齋藤久師が送る愛と狂気の大人気コラム・第六十一沼 『矢沢沼!』

コラム
音楽
2019.12.20

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「welcome to THE沼!」

沼。

皆さんはこの言葉にどのようなイメージをお持ちだろうか?

私の中の沼といえば、足を取られたら、底なしの泥の深みへゆっくりとゆっくりと引きずり込まれ、抵抗すればするほど強く深くなすすべもなく、息をしたまま意識を抹消されるという恐怖のイメージだ。

一方、ある物事に心奪われ、取り憑かれたようにはまり込み、その世界にどっぷりと溺れること

という言葉で比喩される。

底なしの「収集」が愛と快感というある種の麻痺を伴い増幅する。

これは病か苦行か、あるいは究極の癒しなのか。

毒のスパイスをたっぷり含んだあらゆる世界の「沼」をご紹介しよう。

第六十一沼(ろくじゅういっしょう) 『矢沢沼!』

 

恥ずかしながら、わたくしはかの大スター永ちゃんこと「矢沢永吉」さんの音楽を聴いた事がなかった。今でもない。

 

しかし、先日とあるきっかけで彼のことを大好きになってしまった。

 

何気なくyoutubeを流し見していると「矢沢永吉インタビュー」が流れ始めた。

 

自分とは世界があまりにも違うという先入観から、この51年間、まったく永ちゃんについて知りもしなければ「タオルの熱い人」という認識しかなかった。

しかし、永ちゃんのその20代後半の頃行われたインタビューを見ていて、異常な感銘をうけてしまった。

 

彼はこう言った

 

「欲しいものは全て手に入れた。金、キャデラック、ベンツ、別荘、豪邸、名誉、人気、全てだ」

 

そしてそのあとの言葉が刺さった。

 

「全ての物質は手に入れたけれど、なにか寂しい。ハッピーじゃないんだよね」

 

と。

 

彼は続ける。

 

「人間に必要な金も物も食べ物もなんでも、容量の限界ってものがあるんだよ」

 

確かに。人間はいくら金持ちになって、好きなものだけ食い続けても、1日3食もたべれば十分だ。

 

「俺はね僕はね」(これは永ちゃんのインタビューをみていて発見した彼の癖だ。俺と僕という言葉を交互に出す)

 

謙虚さと自信が入り混じる、永ちゃんならではのキャラクターなのではないか。

 

「俺はね、ボクはね、コンサートが終わった後のたった一杯のビールを呑む。これが1番幸せなんだよ。そのためにやってる。金なんて要らないと思う瞬間だね!   いや、やっぱ金は必要だなw」

 

この時すでに私は永ちゃんワールドに完全に引き摺り込まれていた。

まだ、彼の音楽すら聞いたことが無いのに。

 

「何故金が必要だって?そりゃあ自分の好きな事がやりたいからさ。自分の夢、例えばショーとしての完璧なステージを作るためには金は必要なんだよ」

 

「よくミュージッシャンが金の話をすると汚ねえとかいう奴がいるけど、関係ないね。金は必要だよ」

 

と勢いよく言い放つ。

 

インタビュアーが永ちゃんに「何故音楽活動をするか」について質問したところ、永ちゃんは。

 

「全ては自分のため。金だって、スタイル(矢沢という存在)を作る事全て、実は怖いからなんだよ。怖いからこそ安心したいの。」

 

という。

 

彼は、私たち一般人となんら変わらぬ不安をかかえた1人の人間なんだという事がまざまざとインタビューから垣間見れる。

 

しかも、超がつくぐらいに素直な人だ。

 

あの天下の永ちゃんが「怖いからなんだぜ」という。

 

親近感しか湧いてこない。

 

初期の矢沢永吉は皮ジャンにリーゼント。もうおっかないどころこの話じゃない。

しかし、実のところ、彼はそんじょそこらの一般人よりも人格家であり、優しさに満ちている。

 

まだ若い頃のコンサートで、客の一部が喧嘩になった。すると永ちゃんはバンドの演奏を急遽中止し、怒ると思いきや、笑みをうかべながら

 

「ねえ、ねえ、ちょっと、」

「僕がいいたいのはね、その、なんていうかな、矢沢のコンサートは怖いとかいう人がいるのよ、」

「コンサートってさ、ハッピーじゃなきゃね!」

と言って喧嘩を沈静化させ、大歓声を浴びるシーンがあった。

 

なんて大きな男だ。

 

ますます彼に感銘を受けた私は、永ちゃんのデビューから現在にいたるまでの軌跡をインタビューを中心に見まくった。

 

そこで驚いたのが、20代、30代、40代、50代、60代、70代と永ちゃんが発する言葉が全く変わっていないのだ。

 

あるインタビューで70代になった永ちゃんに20代の頃の永ちゃんのインタビュー映像を見せるという場面があった。

そこにはハッタリをかましつつも、しっかりとしたヴィジョンを語る若き日の矢沢がいた。

はっきりいって生意気だ。

 

そこで永ちゃんはすかさず言った。

 

「彼はイクでしょ!こんな奴、成功するに決まってるじゃん!」

 

この比類なき自信、そして一貫したブレのない言動。彼は若い頃の自分を客観視しながらも

スターになるのが当たり前だと何の躊躇もせずに語った。

 

ここで、再び30代のインタビューの話にもどるが、その勢いの良すぎるほどの自信はどこからくるのかというような質問に対して永ちゃんは間髪入れずにこう答えた。

 

「オレはスターなんだ!!!かっこいい!!!最高にマブイ!天才なんだ!!!!!!  と自分を洗脳してるんだよ。そうでもしなきゃやってられないじゃん!」

 

という。これも永ちゃんの弱さと強さの現れであり、われわれと同じ1人の人間だという事を彼なりの言葉を通して伝えてくれているのだ。

 

人間は弱い生き物だ。特に心が。

 

永ちゃんだって同じだ。弱音も吐けば、酒を飲んでぶっ倒れ現実逃避した事もあったようだ。

 

永ちゃんが39歳の時に、信頼していたスタッフから裏切られ、不動産問題で30億円以上の負債をかかえるという事件があった。

マスコミはこぞって面白おかしく書きたて、私もその曲がった情報を鵜呑みにしていた。

 

そのとき、さすがの永ちゃんも「矢沢、終わったとおもいましたよ」という。

 

そして、1〜2週間酒を飲みまくり、ボロボロになったところで「飽きてきた」というw

 

さらに絶妙なタイミングで税理士の先生と奥さんから「矢沢なら返済可能」という宣告をされる。

 

永ちゃんはその言葉を鵜呑みにし、更に精力的に活動を広げる。

 

矢沢永吉はその時の事をこう話す。

 

「ニンジンですよ。馬の顔の前に人参をぶら下げられて馬車馬のよおうに働くという」

 

そして、6年後には見事借金を全額完済する。

 

この事はまた「矢沢永吉」を神格化する事になる。

 

この時マスコミは「金の亡者 矢沢がダマされた」というような偏向報道を加熱的に行ったが、実際にはオーストラリアに皆んながいつでも自由に使える音楽施設を作ろうとした矢沢の音楽愛の結晶だった事を後で知り、私はマスコミがおそろしくなった。

 

広島から1人上京し、なんのアテもなく、もがきながら掴んだ栄光。

 

10代から現在70代になるまで一貫して言っている事がかわらない。

 

もう一度言う。私は、矢沢永吉の音楽を聞いた事がない。にも関わらず、この男に憧れ、そして大リスペクトしている。

 

明日、永ちゃんの音楽を聞いてみよう。

みんなも一緒に永ちゃん沼に落ちてみないか?

 

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