大賞作品なし、佳作3作品同時受賞の大波乱~「第26回OMS戯曲賞」授賞式&公開選評会レポート

2019.12.25
レポート
舞台

「第26回OMS戯曲賞」佳作受賞者たち。(左から)田中浩之、山本正典、横山拓也。 [撮影]吉永美和子(このページすべて)

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今回、若い作家たちに求められた「ウニやアワビをつかむこと」とは?

12月18日、関西在住の劇作家で、かつ上演実績のある戯曲を対象とした「第26回OMS戯曲賞」の授賞式・公開選評会が、同賞を主催する「大阪ガス」本社(大阪市中央区)内のホールで開催された。今回の大賞は「該当作品なし」で、佳作に3作品が選ばれるという、同賞はもちろん、他の戯曲賞でもあまり類を見ない結果となった。

第26回には48作品の応募があり、その中で最終選考に残ったのは以下の9作品。

FOペレイラ宏一朗(プロトテアトル)『どこよりも遠く、どこでもあった場所。あるいは、どこよりも近く、なにもない。』
田中浩之(伊丹想流劇塾マスターコース)『サッカバカナ』
棚瀬美幸(南船北馬)『さらば、わがまち』
中川真一(遊劇舞台二月病)『Delete』
中村ケンシ(空の驛舎)『かえりみちの木』
魔人ハンターミツルギ(超人予備校)『ねこすもす』
山崎彬(悪い芝居)『ラスト・ナイト・エンド・ファースト・モーニング』
山本正典(コトリ会議)『しずかミラクル』
横山拓也(iaku)『逢いにいくの、雨だけど』

※50音順・敬称略。()は作品上演団体。

選考委員は、第1回から参加している佐藤信(劇団黒テント/鴎座)、第21回から参加している鈴木裕美に加えて、今年から佃典彦(劇団B級遊撃隊)、土田英生(MONO)、樋口ミユ(Plant M)が新任。これほど大幅にメンバーが刷新されたのは、戯曲賞始まって以来のことだ。その記念すべき回の選考会は、史上最長の5時間にも及び、授賞式の開催が急遽30分押しとなるほどだった。

その結果大賞は、同戯曲賞としては2007年以来の「該当作品なし」に。その代わり佳作は、田中浩之『サッカバカナ』山本正典『しずかミラクル』横山拓也『逢いにいくの、雨だけど』の3本が同時受賞となった。

『サッカバカナ』で初ノミネートにして佳作を受賞した田中浩之。

伊丹の公立劇場「アイホール」が主催する、劇作家・北村想の戯曲講座を受講し、これが長編処女戯曲だという田中浩之は「この賞は上演している作品でないと、選考(対象)にも上がらないんですけど、書き上げた段階で自信がなくて上演できなかったんです。アイホールの方で(リーディング公演で)取り上げていただいたので、この場に行かせてもらえることになったのは、本当に皆さんのおかげと思っています」と感謝を述べた。

2年連続佳作という結果に、嬉しさと悔しさを見せる山本正典。

前回『あ、カッコンの竹』で佳作に選ばれ、同戯曲賞史上初となる2年連続佳作受賞を果たした山本正典は「2年連続で佳作はとても嬉しくもあり、とてもくやしくもあり。でもまた来年挑戦できるという気合いをいただいた感じで、今はすごくわがままなくやしさが……でも嬉しいです」と、さらなるステップを誓った。

7回目の最終候補ノミネートでついに佳作を獲得した横山拓也。

「日本劇作家協会新人戯曲賞」などの受賞実績は多いが、意外にもOMS戯曲賞は無冠だった横山拓也は「OMS戯曲賞にはこだわりと、自分なりの物語があって。この物語の終着点は、まだあるような気がしています。素直に喜んでおりますが、まだ挑戦したいと思います」と、終着点探しを続ける姿勢を見せた。

授賞式の後は、引き続き公開選評会へ。冒頭で、佐藤と佃が『サッカバカナ』、鈴木と土田が『逢いにいくの、雨だけど』、樋口が『しずかミラクル』を各自大賞に推したものの、いずれも満場一致には至らなかったため、この結果に落ち着いたという経緯が説明された。

選評の様子。(左から)小堀純、佐藤信、鈴木裕美、佃典彦、土田英生、樋口ミユ。

アパートの隣人が腐乱死体で発見されたことを契機に、死にまつわる数奇な物語に巻き込まれていく男を描いた『サッカバカナ』は、「演劇的な時間の展開、人間の会話でないと成立しない世界が構築されている」(佐藤)「人間はどうやって死ぬか、どうしたら気持ちよく死ぬことができるかについて考察し続けてる気がした。今回唯一泣ける台本」(佃)との称賛があった一方、「話を整理した方がいい」という意見が幾人かから出たほか「演出家として、上演どうやってやんの? と考えてしまう所が多い。ご自身を楽しませるために書いてらっしゃる部分が、まだあるのかも」(鈴木)という指摘もあった。

(左から)選評会司会の小堀純、選考委員の佐藤信。

滅びようとする地球を舞台に、タイムトラベラーや宇宙人などの死をめぐる物語が交錯する『しずかミラクル』は「死者の視点を持つのは、生きてる人間には絶対できないけど、この戯曲はその視点で書かれていたと思う。見えないものを見ようとして、どうにか言葉にしようとする試みだったのでは」(樋口)との意見を始め、ナンセンスかつリリカルな文体の特殊性も、全委員が高く評価。ただ「雰囲気だけで作っている感じがする。突出した文体に早く自覚的になって、それを生かす題材を突き詰められたら」(佐藤)と、ストーリー&人物造型をさらに深めてほしいというアドバイスも入った。

(左から)選考委員の鈴木裕美、佃典彦。

片目を失明した少年と、その原因を作った少女の、それぞれの家庭の葛藤と変わりゆく人間関係を、2つの時間軸で描いた『逢いにいくの、雨だけど』は、全委員が作品の完成度の高さを賞賛。中でも鈴木は「海で泳いでて、たくさんウニやアワビがいた……というだけでなく、もっと深く沈んでそれをつかんできたと思える戯曲がある。横山さんは、ウニを取ってらした感じがした」と、ユニークな比喩でその飛び抜け具合を表現。ただ「個人の常識と社会の常識がぶつかる人たちの話だと思ったけど、その一般的な感覚に、作家はどれほど疑問を持ちましたか? と問いかけてしまう所がある」(樋口)という疑問も提示された。

(左から)選考委員の土田英生、樋口ミユ。

その他の作品には、以下のような評が送られた。


『どこよりも遠く……』:「『ガラスの動物園』を自分のフィルターを通して書く試みは良いことだけど、やっぱり『ガラス……』だなあと。次からは名作の土台なしに、自分の物語を書いていけるのでは」(樋口)


『さらば、わがまち』:「オーディションで選んだ人たちと作った戯曲なので、その言葉を語ったご本人でないと演じられないんじゃないの? と。ただ、当て書きされた俳優以外が演じても、逆に面白くなる戯曲もあるので、本人以外の人が演じることで、違う面白さに行き着くのでは……という未来の行動を含めて、とても面白いと感じた」(鈴木)
 

『Delete』:「人を殺した女性の法廷劇として、その事件を解明するとともに、裁かれる人間自身の解明もしていく手法は非常に面白い。ただ舞台美術や記憶の改ざんなどの仕掛けがちょっと多くて、逆に損をしてしまってるのではないか」(佃)
 

『かえりみちの木』:「構造としてはよくできてるけど、膨大な情報を元に戯曲を書く手法を極めるなら、もっとすごく調べ物をして執筆に時間をかけてほしい。特定の参考資料に寄りかかり過ぎると、オリジナリティが浮かび上がってこない」(佐藤)
 

『ねこすもす』:「最終候補作の中で際だって変わってるし、最初の7ページは先が読めなくて興奮したけど、途中からそれが保たなくなった。抽象的な世界を支えるのはすごく熱量がいるけど、頭の(ページの)興奮だけで一回書ききってほしい」(土田)
 

『ラスト・ナイト……』:「場の転換が40場とすごく多いけど、ある登場人物がただの便利使いになってたりと、策略なくつなげたように見えてしまう。自分が好きだったものと、今書こうとしてるものがぶつかり始めてる気がしたので、一度何を本当に書きたくて、それをどう書いたらいいかを見つめ直してみては」(土田)

「第26回OMS戯曲賞」佳作受賞者たち。(左から)山本正典、田中浩之、横山拓也。

大賞なしというのはさびしい結果だが、それは作品のクオリティが低いということではなく、佳作3作品が特に甲乙つけがたい状況だったからと、選評会では強調された。この選考委員たちの言葉を元に、彼らがさらに一歩踏み超えた境地に……鈴木の表現を借りれば「ウニやアワビをつかんできた」作品が生まれ、来年以降に「大賞」の形で結実することを願いたい。佳作3作品を収録した戯曲集は、2020年3月頃に発売される予定。

(文中敬称略)

イベント情報(終了)

第25回OMS戯曲賞 授賞式・公開選評会
■日時:2018年12月18日(水) 18:30~
■会場:大阪ガス本社ビル 3Fホール
■公式サイト:https://www.ogbc.co.jp/oms/
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