劇団青☆組・吉田小夏「執筆前には作品のイメージに合う曲をたくさん歌うんです」

2015.12.3
インタビュー
舞台

撮影:伊藤華織

普通の営みに見えることにも奇跡やドラマがあることが再発見できるのが魅力

何気ない日常生活の営みの中にこそある人間のいとおしさ。市井の人々に独特な視点から光をあてた繊細な対話と、空想力豊かな瑞々しい劇世界を作り上げる劇団青☆組の吉田小夏。今回は、市民参加企画『世界は踊る~ちいさな経済のものがたり~』の共同演出、『時計屋の恋』リーディングと、劇作のように丁寧に紡いできた糸でつながってきた宮崎県立芸術劇場からの依頼で新作を手がけた。ゆっくり静かにだけれど、着実に評価を高めている吉田小夏に聞いた。
 
▽ 吉田さんは「書ける作家」として評価を高めています。それを感じることはありますか?
 
 う〜ん、どうなんでしょうか?(苦笑)。ただ近年は、ラジオドラマの脚本や児童演劇の戯曲など、劇団外での書き下ろしの機会もどんどん増えてきたので、書き手としてさまざまな可能性があると思ってくださる方がいるんだな、ありがたいな、とは思っています。
 
▽ 芝居の題材はどのように決めていくものですか? 日々の生活のなかで気にしているもの?
 
 題材やモチーフは、何年も書きたいと思って心の中で温めているものが多いです。温めることになる最初のモチーフとの出会いのきっかけは本当にざまざまで、必ずこれ、ということはないのですが……。ただ作品の種となるものは、それがちょっとしたエピソードでも、ある人物でも、風景でも、必ず「感動をともなって発見」したものなので、自分の五感に響いたものを丁寧に記憶に残すことを心がけています。それから、出演者ありきで新作を書くことも多いので、自分にとっては、この俳優さんの魅力はどこだろう?ということは、つきあいの長い間柄であっても常に気にしていますね。
 普段から本は大好きなのですが、実際の執筆に入る期間には、作品の資料とは別に、敬愛する作家の小説やエッセイを“書く筋力”のストレッチ代わりに貪り読みます。歌詞が素晴らしいと思っている歌で、その時の作品のイメージにあったものをたくさん歌ってみたりもします。戯曲は楽譜だと思っているので。そういった作業をすると、美味しいものを食べて味覚が冴えるように、自分自身の文体を見つめ直すことができるの(笑)。今は、SNSなどが日常化してあらゆるタイプの文章が世界にあふれているので、逆に、自分の愛する文体はどういうものか、というのが濁らないように、忙しくてもできるだけ文学に触れる時間を維持しようと心がけているんですよ。
 

2013年『マリオン』 撮影:飯嶋康二

2014年『星の結び目』


 
大好きな宮崎と故郷の湘南を結ぶ物語
 
▽ “海の物語”はどのようなところから生まれた?
 
 今回の作品はもともと、宮崎県立芸術劇場さんから公演のお誘いを受けて書き下ろしたもので、宮崎をモチーフのひとつにというリクエストがありました。滞在型制作で何度も訪れた大好きな宮崎の町ですが、私は宮崎出身というわけではないので、どのように作品に折り込むかをとても慎重に考えました。そこで、自分の故郷である湘南(鎌倉と横浜で育った)と、ふたつの地を舞台にする構想を思い立ちました。それが一番、出身者ではない自分が、誠実に正直に、宮崎への愛を書けると思ったんです。ふたつの地を結ぶものの象徴として太平洋が浮かんで。ほかにも、記憶や愛情の物語でもあるので、思い出や涙が流れ着く先としての海、清濁併せもつ海、などのイメージもありました。
 

『海の五線譜』通し稽古より 撮影:伊藤華織

▽ これは僕のちょっとした反省でもあるんですが、つい日常を描く、日常を切り取るという表現を使ってしまいますが、劇で描く日常、劇における日常にどんな思いを持っていますか?
 
 劇で描く日常は、本当にそのまま日常を切り取ったものとは別だという思いを持っています。あたり前かもしれませんが。日常に見えるものが作品になることで、一見普通の営みに見えることにも奇跡やドラマがあることが再発見できるのが面白いし豊かだなと。近年は、モノローグの台詞や時空が交差するような対話もたくさん戯曲の中に現れていて、それが私の作風の特徴になっているのかなと思います。そういった、日常をベースにしながら幻想的に非日常に場面を展開させる塩梅に、演劇ならではの強いやりがいと楽しみを感じているんです。
 戯曲の登場人物として、市井の人びとの物語にこだわっているのは、道端に咲く野花や名前の無い星の存在にこそ、自分が本当の美しさを感じ、そういったものが確かにそこに生きていることの愛おしさを、作品にしたいと思っているからです。
 
▽ 青年団の演出部に所属されていますし、平田オリザさんの影響を受けてはいるでしょうが、一方で、そのへんが、吉田さんらしさを感じさせる部分なのかもしれません。
 
 やはり現代口語演劇を応用することからスタートしましたので、日本語の文法の特徴や、日本語ならではの音の響き、日本人ならでは会話の展開などには影響を受けていると思います。小津映画と青年団の作品を結び付けて語る方もいますが、私も確かに、小津映画はとても好きです。ただ、自分の舞台芸術の原体験は、10代のころに触れた宝塚、オペラやバレエ、ミュージカルですから(笑)、市井の人々を取り上げた対話劇でありながら連想ゲームのように幻想的に時空が展開してゆくところと、日常会話のようでいて日本語がリリカルに美しく響く独特の文体とが、私のオリジナリティーかな。
 
▽ 劇団として5年間やってきました。劇団として目指すこと、課題として考えていることは?
 
 『海の五線譜』は、宮崎で初演をするために作った新作なので、宮崎の地で初日を迎えたのですが、その初日が舞台上も客席も本当に素晴らしくて……。5年の間に吉田小夏として個人的に交流を温めた地で、劇団としての公演を企画していただけたことが、本当に感無量の体験だったんですね。今回はツアーであることも含めて、劇団ならではの新作を作ることができたという手ごたえがありました。なので、この幸運をきっかけに、今まではほとんど個人の仕事としてやっていた地域滞在型の創作に、ここから先の5年では劇団としてもっと挑戦してゆきたいです。課題としては、最年長劇団員が67歳だったり、子育て中の劇団員もいたり、劇団外の仕事が忙しくなっていたりと、それなりに年輪のあるメンバーの大人の劇団で、抱えている事情も動きやすい時間帯もばらばらだったリするので、それぞれの人生設計に目を向けた上で、劇団活動をどのように展開するかが課題です。
 年齢バランスも本当に家族のような劇団なので、お父さんにもお兄ちゃんにもお母さんにもいろいろな時が訪れるけど、それでもやっぱり、青☆組での作品作りが一番楽しく輝ける場だな、と組員が思えるような……。おかえり、ただいま、と素直に言えるホームグラウンドでありたいと、組長として思っています。
 
 
よしだ・こなつ
劇作家、演出家・青☆組主宰/青年団演出部所属。高校在学中に平田オリザ作『転校生』初演(青山円形劇場)に出演。桐朋学園大学短期大学部芸術科演劇専攻卒業。2001年に劇団「青☆組」を旗揚げ。 『雨と猫といくつかの嘘』『時計屋の恋』など4つの作品で日本劇作家協会新人戯曲賞に入賞。 世田谷パブリックシアターはじめ各地の公共ホールや学校との共同企画による演劇ワークショップなども多数実施。
 

『海の五線譜』 撮影:伊藤華織

イベント情報
青☆組vol.21 『海の五線譜』

◇日程:12月5日(土)~12月14日(月)
会場:アトリエ春風舎
作・演出:吉田小夏
出演:荒井志郎   福寿奈央   藤川修二   大西玲子/小瀧万梨子(青年団) 日髙啓介(FUKAIPRODUCE羽衣)
料金:全席自由・税込3,400円/当日3,600円 ※7日・9日は【前半平日割引】で前売のみ3,200円、学生・シニア(65才以上)3,200円/中高生2,000円(要身分証・学生証)  
開演時間:5日・7日・10日・11日19:30、6日・14日15:00、9日15:00/19:30、12日・13日14:00/18:30、8日休演
問合せ:劇団 Tel.090‐6787‐9509(イワマ)メール office@aogumi.org