かりゆし58の2年4ヶ月ぶりのオリジナルフルアルバム『バンドワゴン』は強固な絆から作り上げられた最高の音だった。久しぶりのメンバー4人インタビュー
かりゆし58
かりゆし58がデビュー記念日でもある2月22日にリリースする、2年4ヶ月ぶりのオリジナルフルアルバム『バンドワゴン』は、ファンにとってもメンバーにとっても“喜びのアルバム”である。それは休養中だったメンバーの中村洋貴がパーカションとしてほぼ全曲に参加しており、復活したからに他ならない。来年の15周年を前に、より強固なものになった絆から作り上げられた音が詰まったアルバムは、かりゆし58のこれまでとこれからを強く感じさせてくれる仕上がりになっている。この作品について、そして来るべき15周年、またその先に見据えているものを前川真悟、新屋行裕、中村洋貴、宮平直樹の4人にインタビュー。久々の4人揃ってのインタビューということで、メンバーの嬉しそうな表情が印象的だった。
――まずは年末の12月18日にかりゆし58の代表曲ともいえる「アンマー」と「オワリはじまり」の2曲を共に“~TIMELESS”と名付け、スカレゲエバージョンアレンジで7インチ&配信リリースしました。このタイミングでのリリースの意図から教えて下さい。
前川:洋貴が戻ってきて、このアルバムを発売することが決まっていたので、ここからかりゆしの第2章が始まるよという気持ちがメンバーの気持ちと、世の中の印象的にもそうなったらいいなっていう思いを込めて、特に大切な曲達を改めて聴いて欲しかった。
――前作『変わり良し、代わりなし』(2017年)について、前川さんにインタビューした際、「みんな幸せになろうとして前に向かって行っていたのに、実はそうじゃなかったんじゃないかと悩んで、でもその悩みから抜ける事ができたからこそできたアルバムだ」とおっしゃっていて。確かに前向きな言葉がたくさん並んでいる作品だなと思ったのですが、今回の『バンドワゴン』も、前向きで温かい言葉が並んでいて、元気づけられるし、勇気をもらえるし、ホッとさせてくれるし、かりゆしというバンドが本来持ってる力が存分に伝わって来ました。今回の作品にはどういう思いで臨んだのでしょうか?
前川:原点というか“バンド”というキーワードがずっと頭の中にありました。このアルバムが何のために生まれたのか、それは全員が揃うこの状態になるためだったんです。(新屋)行裕から、3歳から友達の洋貴が「このままバンドにいたら迷惑なんじゃないか」ということを言っていたと聞いて、俺達は何年でも待っているけど、洋貴が自分の中で俺達ではなく、自分自身のことが嫌になったら嫌だと思っていました。だから新しい作品を作って、ホールクラスの会場を満杯にできるようにステップアップさせて、洋貴がいる状態のバンドをキープしようと思って。それがこのアルバムを出そうと思ったきっかけです。
中村:やっぱり自分がいることでバンドに迷惑をかけるんじゃないかとか、そういう不安や心配はいつもありました。メンバーはみんな根が優しいから、よくも悪くも何も言わないので、見えないプレッシャーを感じていたのかもしれません。この3年間色々考えて、たまにライヴとか出させてもらうんですけど、パーカションやパンデイロや違う楽器をやって、それでもいいのかなと思いつつ…。やっぱりここにいたいんだなって思いましたが、でもまだ少し体に支障があったので、何ができるかずっと考えていました。
――「バンドワゴン」というタイトルに思いが込められてますね。
前川:去年の2月22日にリリースした配信シングルで、今こうして4人が揃っていますが、一昨年、去年がバンドとして一番苦しい時で、夜明け前が一番暗くて寒いっていうじゃないですか、そういうタイミングでした。洋貴も一生懸命で、俺たちも一生懸命で、出口が見えないままとにかくもがいていた時に、(宮平)直樹が何かを掴んだように、「バンドワゴン」というタイトルの曲を書いてきました。直樹が、ものすごく大事なテーマを俺たちになんとなく共有しようとしてるような感じがして。その時期はまだアルバムなんて想定していなくて、でも次のアルバムを作るなら『バンドワゴン』というタイトルにしようと決めていました。
宮平:そのタイミングで、タイアップのお話を色々いただいて、いくつも曲を書いているうちに、アルバムができるんじゃないかなって思っていました。
――「バンドワゴン」という曲から、色々な動きが速くなったのかもしれませんね。
前川:直樹がかりゆしの背中を押したということだと思います。
――10周年を経て、次の15年、20年を目指すタイミングでバンドとして大きな葛藤を抱え、悩み、動き、それがこれからの“強さ”になるのではないでしょうか。
前川:洋貴が安心して戻ってくるような状況を作りたいというのが、今年、来年に向けての俺達の大きな柱ではありますが、やっぱりホールでライヴをやりたいというのがあって。これは行裕が言っていて、でもそれは売れたいとか漠然としたものではなくて。最近沖縄でもカウントダウンイベントが生まれて、BEGINやモンパチ、HYが大晦日に集結してライヴをやります。その時の年越しのタイミングでライヴをやるアーティストがいわゆるトリで、それは持ち回りで最初の年はモンパチ、次がBEGIN、去年はHY、2020年は僕らが務めさせていただくのですが、アリーナ、ホールクラスでライヴをやっているアーティスト達の中で、俺達はまだやっていなくて、それは筋が違うと思うというのが行裕の考えで。だったら今年はホールライヴをやらなければいけないという気持ちが強くて。色々なことを経験して、そこからもう一度ホールを目指すというタイミングに差し掛かっていて、今サポートしてくれている(柳原)和也と5人で、それを叶える態勢がようやく整ってきた感じです。もちろん俺達は運命共同体ではあるけど、人生に干渉していいわけではないから、体のことも。そんな中でホールでライヴをやろうって決めたのは、ひとつの大きな決断です。
かりゆし58
――そんなバンドとして大きなポイントになる1年のその真ん中にあるのがこのアルバムです。
前川:よくぞ『バンドワゴン』ってタイトルにしたなって思いました。
――そのオープニングナンバーは12月に配信リリースした宇徳敬子さんとのコラボ曲「声のジェット機:宇徳敬子」です。
前川:友達からも久しぶりに反応がありました(笑)。宇徳さんから声をかけていただいて実現しました。去年7月放送された日本テレビ系の「はじめてのおつかい!」の挿入歌になった曲で、実は自分の奥さんが、特に僕にいうわけでもなくSNSで育児絵日記を書いていて、ある日それを見たんですけど、すごく救われて。仕事で家を空けがちな僕に変わって、子育てを頑張ってくれている彼女にいつも申し訳ないと思っていて、でもその絵日記には、そういう心配を吹き飛ばしてくれるくらい、楽しく子育てしている様子が描かれていて。せめて何かで恩返しをしたいと思って、その絵日記のBGMになるような曲を作りました。
――今回の作品には沖縄のことはもちろん、バンドの“温度感”を大事にしようという思いが全体にあふれている気がします。
前川:バンドってこうありたいなという気持ちで制作した気がします。そんな時、偶然「2019めざせ甲子園」(QAB琉球朝日放送)のテーマソング(「赤夢波-KAMUNAMI-」)や「南の島のミスワリン」(RBC琉球放送)のテーマソング(「シャララ ティアラ」)を書いて欲しいというリクエストをもらって、沖縄が俺たちを見捨てていなかったというか、頑張れって言ってもらえているようで、感謝の気持ちでいっぱいになりました。結果、みなさんに愛される曲になって、自分たちも捨てたもんじゃないって思わせてくれたのも沖縄で、だからこれまで以上に地元を大切にしなければと思いました。
――難しい質問をしてしまいますが、アルバムの中で、特に印象的な曲を教えていただけますか。
新屋:「Endroll」は洋貴と2人で歌っているんですけど、冗談で沖縄在住の二人で営業できるねって言っています(笑)。
――ゆったりした感じがまたいいですよね。
新屋:もちろん全曲よくて、選べないんですけど、特に今はこの曲をツアーでやるのが楽しみです。一度ライヴでやってみたらすごく楽しくて。
――歌詞のクレジットはかりゆし58になっています。
新屋:これが、さっき出てきた夜明け前の一番寒い時期、歌詞もどうしようっていう時に、全員で書いてきて、それを擦り合わせながら構成しました。
前川:それぞれのストーリーがあって。世界観はみんなバラバラで、それを合わせた時に、さよならの少し前にっていうのが軸になって、そこから広がっていく感じが面白かったというか、違う世界観だけど、そこに入ることによって混じり合うという不思議な感覚でした。
――バンドならではというか、ずっとやってる仲間だからこそできあがった歌詞ですね。
前川:そうですね、染まり合わなかったからできたのだと思います。作風に関しては、心配になるくらいお互いがお互いに興味がないので(笑)。行裕が色々言っても、直樹は全く流されず我が道を行くというか。
――中村さんの特に印象に残っている曲を教えて下さい。
中村:「千惚り万惚り」です。ドラム以外でできることっていったら、パーカッションとかの打楽器、島太鼓で、そういう音を入れたいなって思っていたら、この曲で島太鼓で参加できて、今まで色々な思いはあったけど、ここに向かっていたのかなという感覚がありした。
――前川さんがネーネーズに提供した曲のセルフカバーですね。歌詞が沖縄の方言で、それを知名定男さんが訳を手掛けています。でも沖縄詞ってわからなくても不思議と伝わってきます。
前川:沖縄の先輩が、沖縄の言葉はバリエーションが少ないと。だからこそ奥行きがあって使い方をとても大事にするという文化があるんだと教えてくれました。言葉が増えれば増えるほどロジックも入るし、純度を濁すことなく表現するために言葉が少ないんだと聞きました。その中でもこの曲は、100年前の人にも100年後の人も歌えるし、そこに同じような何かが宿るということをテーマに書いていて、それを知名さんという沖縄の芸能の大黒柱のような人が訳を入れてくれて、これは誇りをもって、俺は沖縄のルーツミュージックの上にこの曲を積み重ねたよって言えるくらいの曲だと思っています。アレンジは果敢な部分もありますけど、そこに洋貴の島太鼓が入り、沖縄の心を表現しました。洋貴の復活が5年かかろうが、10年かかろうが全然大丈夫っていう気持ちになれたのも、沖縄の人たちとの触れ合いからでした。
――宮平さんはやっぱり「バンドワゴン」ですか?
宮平:「バンドワゴン」もそうですけど、作った曲の中でいまだに冷静に聴けないのが「カケラ」です。今年の2月22日、デビュー記念日が弟の結婚式で、結婚式の日程が決まった頃にアルバム曲のデモ提出の締め切りで、アッパーな曲が足りないからそういうの作ろかなという話をみんなにしていたんですけど、全然できなくて。で、弟の結婚式が近いから、全然アッパーじゃないけど、結婚式でも流せるような曲を作ってみようって思って。それで「セレブレーション」という仮タイトルを付けて、真悟に渡しました。全然アッパーじゃないし、怒られるかと思ったら、しばらくして真悟から歌詞があがってきて。特にこういう曲を作りたいという話もしていないのに、自分の中で思っていた風景が描かれていて、自分と弟の関係とか家族の関係を歌っている歌詞だと思いました。今まで自分たちの曲や真悟が書いてきた曲に対して、泣いたりすることはあまりなかったのですが、この曲にはやられました。よくこんなにドンピシャな歌詞を当ててきたなって思って。
前川:直樹って曲作りに入ると一生懸命になりすぎて、こういうテーマねっていったものと全然違うものが上がってくることがよくあって(笑)、でもこの曲は直樹が訴えようとしているのが伝わってきて。直樹の家族の背景も知っているし、2月22日は双子の弟が結婚する日でもあるんですけど、それを見たかったであろう母ちゃんが今は天国にいるので、その母ちゃんに思いを馳せる日でもあるし、それを見つめている父ちゃんの気持ちでもあると思うんです。
宮平:レコーディングしてる時とかマスタリングが上がった後聴いても、感動して。いまだに冷静に聴けないです。
前川:こういうことがいっぱい重なっている気がします、今回のアルバムは。そんな中で俺は「ノック」を挙げさせていただきます。元々はET-KINGの名曲「ギフト」のコードにメロディと歌詞をはめ込んだもので、直樹が作ったオケを合わせて出来上がりました。天国にいったメンバーとはもう一緒に音楽はできないけど、それでも一生懸命やっているET-KINGがいて、うちの場合は、洋貴が戻れる距離にいて、戻ってきてくれて、そういうことを考えながら作りました。
――思いの強さが、より言葉とメロディに映し出されているアルバムになっています。
前川:特に洋貴と遠距離恋愛をしていたような関係が続いていたからかもしれないですね(笑)。それも含めて色々なことがあったから、それを自分の中で消化しようとしたらなかなかできなくて、去年のはじめも音楽を辞めようかなと思ったし。やっていることに意味が見出せないくらい、現実に対してなんて無力なんだと強く感じる事があったけど、そんな中でも「バンドワゴン」という曲をきっかけにここまできたので、現実に負けないって気持ちでやっています。
――そうやって音楽に救われてまたバンドをやっているということは、それを聴いたリスナーの人たちもまた救われるという部分もありますよね。
前川:この前、4年ぶりに4人で出演したテレビでそういう話をした時に、自分でしゃべっていて改めて思ったけど、楽しく生きていこうよ、幸せをみつけようよってメッセージしながらライヴをやっているのに、いや、待てと。俺の側にいたやつは、幸せの反対側に行ってしまって、手が動かなくなってドラムが叩けなくなって、言っていることに矛盾を感じていました。でも今こうして洋貴が戻ってきて、胸を張って自分たちのポジティブを、恥ずかしげもなく言える状態になったから、今本当に強いと思います。
――そういう思いが、より強い言葉を生むから聴き手はさらに勇気づけられます。
前川:うちのバンドはそれを実証してるからって言えますから。
新屋:このアルバムを聴いてくれたお客さんの反応が楽しみです。それを見て『バンドワゴン』が完成したんだなって感じると思います。
前川:どういう反応をしてもらえるかわからないけど、俺は過去最高だと思っているので、SNSで情報が拡散できる時代だからこそ、今までの何十倍動いてでも自分たちで届けるという作業をやりたい。間違いなくいいものを作ったので、とにかく一人でも多くの人に届けたい。そして聴いてもらいたい。
取材・文=田中久勝 Photo by三輪斉史