LD&K設立30周年SP座談会 part2――かりゆし58×打首獄門同好会×ドラマチックアラスカ×bokula. 「上も下も本当にカッコイイ音楽をやっているバンドばかりなので、とにかく怖いです(笑)」
写真左⇒右:ヒジカタ(ドラマチックアラスカ)、前川真悟(かりゆし58)、大澤敦史(打首獄門同好会)、えい(bokula.) 撮影=山川哲矢
音楽レーベル・LD&Kの30周年を記念したイベント『LD&K NIGHT 2025~三十而立響宴(みそじりつきょうえん)』を11月16日(日)、Zepp Hanedaで開催する。出演アーティストはガガガSP、かりゆし58、打首獄門同好会、日食なつこ、ドラマチックアラスカ、bokula.、プッシュプルポットの7組。LD&K所属アーティストが世代、ジャンルを超え集結し、一夜限りの祝祭を楽しみ、楽しませてくれるスペシャルライブだ。
このスペシャルライブについて、そして“何処よりも自由なエンタテインメント創造集団”を標榜するLD&Kというレーベル、事務所の実像をアーティストに聞く企画の第2弾。かりゆし58・前川真悟(Vo,Ba)、打首獄門同好会・大澤敦史(Gt,Vo)、ドラマチックアラスカ・ヒジカタ(Vo,Gt)、そしてbokula.・えい(Gt,Vo)の4組にインタビュー。“異種格闘技戦”のようなワクワク感しかない今回のイベント、一体どうなる!? どうする!?
――改めて、LD&Kとはどんなレーベルなのでしょうか?
前川:最近も副社長の菅原(隆文)さんやスタッフと話をする機会があって、ミュージシャンや社員さんへの愛はもちろん、大前提として、日本の音楽をどう推し進めていくかっていう視野を持っているんですよ。LD&Kがどうとか、アーティストがどうこうというよりも、音楽と人と、その国のルーツをどう広げていくかという視点で物事を考えている。今までは菅原さんやスタッフは自分たちの親みたいな気持ちで見てたけど、冒険野郎が先頭に立ってくれているようで心強いです。世の中をコントロールするのではなく、混沌としたこの時代の中で、とにかくやれることをわくわくしながらやっていこうと。一回り上の先輩のわくわくが連鎖してきました(笑)。
大澤:今回の30周年イベントに出演する顔ぶれを見ると、改めてバラバラだなと思って(笑)。所属歴がうちと一番近いのが日食なつこさんで、言っちゃなんなんですけど割と仲いいんですよ(笑)。でも冷静に考えて音楽的には全く接点がない。日食さんだけじゃなくて、上を見ても下を見ても全く統一性がない(笑)。同じレーベルだけどアーティスト同士がそんなにツルんだりもしないし、何を考えてこういうアーティストが揃ったのか、お世話になって長いけどまだ見えない感じですね。
――まだ見えないのが面白い感じですか?
大澤:面白がっていられるうちはいいんですけどね(笑)。でも本当にそこが見えないというのは、『TOKYO CALLING』という大きなサーキットイベントをやったり、あと、うちがちょっとアメリカの『SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)』に挑戦したいって話をしていたら、いつの間にかオースティン(アメリカ・テキサス州)でも『TOKYO CALLING / INSPIRED BY TOKYOTOKYO CALLING』をやってるという……。
――大盛況だったようですね。
大澤:いつの間にそんなことを始めたの?っていうくらい、その行動力にはびっくりです。それでどんどん色々なことを始めて、手を広げて、それに関して多分所属バンドの中で俺が一番菅原さん、大谷(秀政社長)さんに色々モノ申していると思います(笑)。でも「これじゃだめだと思いますよ」って言っても基本的にちゃんと聞く耳を持ってくれます。その上で実行に移す実行力があるというのは実感しています。2012~13年頃、うちのバンドがだんだん忙しくなってきて、でももっと売れるためには全国の色々なフェスや流行ってきていたサーキットに出るべきじゃないかって話になって。そこに出演するにはこういう人と繋がったほうがいいとか、この人と話をするべきだという情報収集も速かったけど、気が付いたら全国のそういう人たちと仲良くなっていて、とにかくその行動力は驚かされています。
かりゆし58・前川真悟(Vo,Ba)
――大谷社長は即断即決で「考える時間がもったない」とおっしゃっていました。
大澤:大事なのは大谷さんに誰がノーを言えるかです(笑)。「大谷さん、待って」って(笑)。あと大谷さんは、止める間もなくもう既に実行に移してる。凄いです。
――菅原さんの実行力、突破力とドンと構えている大谷さんと、理想的な2トップだと思いました。
大澤:先程、うちらがフェスやサーキットに打って出た時の話が出ましたが、じゃあどうアプローチすればいいのか、どこで実績を上げていけばいいのか、どういう形でやっていけばいいのかという課題やテーマもすぐに答えをだして決めて、今のスタイルに繋がっています。
ヒジカタ:会長(大澤)がおっしゃるように所属アーティストの音楽性はバラバラで、それについて1回菅原さんに聞いたことがあって、「同じジャンルでは戦わせない。それぞれのジャンルで1位を取ってこい」という考えがあるみたいなんです。
――「ニッチでトップを獲る」というLD&Kの戦略ですね。
ヒジカタ:僕らはコロナ禍のタイミングで、上京するなら今なのかなと思って菅原さんに相談したら「ノー」って言われ、逆に「神戸にいなさい」と。その場所で一番になりなさいということでした。かりゆし58は沖縄、ガガガSPは神戸、プッシュプルポットは金沢、bokula.は広島を拠点にして、その土地のそのジャンルの一番に各バンドがなれ、という考え方のようです。そこが他のレーベル、事務所とは大きく違う点だと思います。
――皆さんとLD&Kとの出会いはどんな感じだったんですか?
前川:23歳の時にかりゆし58を1年以内に何も動きがなければ諦めようって、期限を設定してスタートさせて、当時、失業保険を全部つぎ込んでCDを制作して無料配布しました。たぶん2000枚くらい配ったと思います。メディアやレコード会社にも送って、ガガガSPが好きだったのでLD&Kというレーベルの存在も初めて知って送りました。僕に最初に電話をくれたのが菅原さんでした。最初に連絡をくれた人とやろうと決めていたので、そこからです。
大澤:うちは、チェルシーホテルというLD&Kが運営しているライブハウスの店長がバンドマンで、そのバンドと対バンをやったことがあって。それで菅原さんがその店長に「最近面白いバンドいないの?」って話をしたことで、紹介されました。そこから何度もライブを観にきてくれて、今に至ります。
えい:僕は最初、事務所やレーベルに所属するつもりが全くなくて。全部自分たちでやっていこうと思っていたし、自分の偏見かもしれないけど、大人を全然信用していなかったんです。でも菅原さんが全然面識もない僕等の曲をラジオでかけてくれたり、いきなり広島のライブハウスまでやってきて、そこから毎週のように会いに来てくれて。最初はしつこいなあって思ってましたけど(笑)、でもだんだんそういうところに惹かれて、信用できるようになりました。今LD&Kがマネジメントで、トイズファクトリーというレコード会社に所属していますが、やはり信用できる方と巡り合えて、今すごくいい環境で音楽を作ることができていて、ありがたいです。
ヒジカタ:自分たちの地元に通ってくれたという話で思い出しましたが、僕らも菅原さんに初めて会ったのが高校2、3年生の時で、突然兵庫・尼崎の80人くらいのキャパのライブハウスに会いに来てくれて。それで喫茶店で話を聞くことになって「音楽業界のことを何でも聞いて」が第一声で。漫画でよく見る芸能界の怖い人ってそういう感じなので、すごく怖かったです(笑)。
打首獄門同好会・大澤敦史(Gt,Vo)
■最初にスタッフからこの企画を聞いた時は、はっきり言って「面白くない」って言っちゃいました(笑)。イベントとして面白くない、足りないと。(大澤)
――制作環境はとにかく自由というお話をお聞きしましたが、菅原さんから何かディレクションやアドバイスはあるんですか?
大澤:うちは音楽に対しては一切指示を聞かないよ(笑)、という条件で契約したので、制作に関しては自由にやらせてもらってます。
前川:うちの場合、菅原さんや大谷さんに何か言われても、一番面倒くさがるのはメンバーなので、僕が業務連絡LINEをしても既読スルーなんです(笑)。そこから話が前に進まない(笑)。うちは最初、素人集団だったので、レコーディングに時間がかかるしディレクション以前の問題でした。8小節を録るのに何時間もかかって、俺だけ菅原さんに呼ばれて「わかってると思うけど時間も金もかかってるんだよ」って言われたことを覚えてます(笑)。それから「村上春樹を読んでみた方がいいと思う」とか、歌詞を書く上で参考になるような作家や本を紹介してくれたり、あとは「音楽の役割は価値観の創造、増幅」って言われました。「かりゆしの場合は、その根底にあるピュアさクリアさ、チームが出している雰囲気の中に、鋭さや儚さ、共感みたいなものを入れていくと、面白いバランスになるんじゃないかな」と言ってくれたことは、今も大切にしています。
――怖そうだけど愛情深い人、という感じですよね(笑)。
前川:なんていうかロジックとか、話の進め方でマウント取るみたいな、そういうアンフェアなスタイルじゃない。うちのメンバーも人見知りなやつが多くて、菅原さんみたい人は、多分それまでの彼らの人生で一番接してこなかったタイプだと思います。でもそのメンバーもすぐに懐いて、それは愛情がないと相手に魅力が伝わらないからです。ドラムの洋貴が手を痛めて数年バンド活動を休止していた間も、変わらず給料を払ってくれたり。それは大谷さんの懐の深さだと思うけど、二人ともスタイルが独特なだけで、愛のある人たちがいる会社だと思います。
ドラマチックアラスカ・ヒジカタ(Vo,Gt)
■かりゆしへの関わり方の反省を経てだと思うので、僕等と接する時は割と柔らかく中和されて、過保護にお世話してもらっています(笑)。(ヒジカタ)
――ヒジカタさんも他に印象に残っている菅原さんの言葉、ディレクションはありますか?
ヒジカタ:あれも冗談か本気なのかよくわからないですけど(笑)。菅原さんはたぶん、かりゆしへの関わり方の反省を経ての僕等だと思うので(笑)、多分僕等と接する時は、割と柔らかく中和されて、過保護にお世話してもらっています(笑)。僕は当時19歳でまだ世の中のことは何もわからないし、音楽の知識もそんなになくて、菅原さんから「これ聴きなさい」ってクラシックなロックが詰まったコンピレーションCDを貰って、でも自分には合わなくて参考にならなかった(笑)。
――パンクロックですか?
ヒジカタ:そうです! 今も「こうした方がいいんじゃない?」ということは言ってくれますが、「いや、僕はこれがいいと思ってます」って言ったら「わかった」って。音楽に関することで「こうしなさい」というのは言われたことないです。僕らはthe pillowsが大好きで、2016年にthe pillowsと対バンさせてもらう機会があって。それが思い出にならずに、それ以来ずっとボーカルの(山中)さわおさんには良くしていただいていて、それもLD&Kという事務所に所属したからこそだと思います。所属していなかったら絶対にその時点の自分たちの力だけでは実現できなかった対バンだと思う。色々なチャンスをたくさんもらっています。
――bokula.はどうですか。
えい:僕たちも打首さんと同じ感じで、基本的に全部自分たちでやりたいですということは伝えました。その上で所属することが決まって、僕は趣味が曲作りなので、何不自由なく録りたいときに録らせてもらったりとか、好きな時にライブをやらせてもらっています。所属して1年経たないくらいで400人キャパのライブハウスを勝手に抑えられたり、逆に「やめてください」ってディレクションする側だったくらいです(笑)。
――今回の座談会では、打首とかりゆしが先輩ですが、若いバンド、アーティストが加入してきたら、やはり気になりますか? 気にして音を聴いたりするんですか?
大澤:ガッツリ対バンする機会とかはあんまりないんですけど、例えば同じフェスに同じ日に出るとか、そういう時は「最近どうなのかな」って気になります。そういうときは先輩面していく(笑)。
前川:もちろん気になるけど、ただただ怖いというか。うちのレーベルは、上も下も本当にカッコイイ音楽をやっているバンドばかりなので、とにかく怖いです(笑)。
bokula.・えい(Gt,Vo)
■コラボ音源には参加しないで、少しでも爪痕を残せるパフォーマンスを届けた方が今はいいと思ったんです。(えい)
――そんな若手とベテランが同じステージでパフォーマンスする『LD&K NIGHT 2025~三十而立響宴(みそじりつきょうえん)』が近づいてきました。どんなライブになりそうですか?
大澤:最初にスタッフからこの企画を聞いた時は、はっきり言って「面白くない」って言っちゃいました(笑)。イベントとして面白くない、足りないと。せっかく会社全体でやるんだったらって、一例として提案した企画が通りました。具体的に言うと、ボーカルをシャッフルして、ジャンルはちょっとバラバラだけど、お互いある程度見知った仲だし、ボーカルパートをチェンジしてコラボ音源を作って、それを特典として配るというアイディアです。
ヒジカタ:僕もその会長のご指摘のメールを見ましたが、「一例」って言われてもその企画が面白すぎて、そのまま採用されたと思います(笑)。
――所属アーティスト同士による“歌ってみた音源”を来場者に配る企画(NFCタグ付きカード)は会長発信のアイディアだったんですね。
大澤:レーベル所属アーティストだから権利関係もややこしくないし、アーティスト同士が楽しんでやったものを、来ていただいたお客さんにお土産として持って帰ってもらいたいなと思って。ステージでのコラボはもう好きにやってほしいし(笑)、何が飛びだすかわからない楽しみはあると思う。
えい:bokula.に関しては、後から会長さんの提案というのを知りましたが、所属して間もないし、多分会社についての知識も関係値も浅いので、コラボ音源には参加しないで、ライブに集中して、少しでも爪痕を残せるパフォーマンスを届けた方が今はいいと思ったし、自分の性分に合ってると思ったんです。何か違うギャップの方がいいのかなって。自己中な考えであることはわかっていますが……。
大澤:言うほどみんな仲良しじゃないけどね(笑)。
えい:多分フロアのファンの方の層もいつもとは全然変わってくると思いますし、そこで自分たちがどういうアプローチができるかに集中して、自分たちらしさを思い切り見せられたらと思っています。
■楽しそうに人生を生きている先輩の話って、考え方もすっと入ってきます。改めていい会社だなって実感しています。(前川)
――大谷さんと菅原さんに一番嬉しかったことと悲しかったことをお聞きしたら、一つひとつの成功の積み重ねが大きな喜びになっているし、辛いのはアーティスト、スタッフが辞めていくこと、とおっしゃっていました。
前川:この会社に所属して、今まで本当に数え切れないくらいドラマティックなことがありました。デビューして人生が変わったのもそうです。20代前半の我々の音楽はあくまで“マジの遊び”という感覚だったと思う。それに対して大人が本気で時間をかけお金を動かしてくれたこと自体すごいことだし、感謝しています。DJもやっている大谷さんの音楽に対するストイックさとか、音楽がものすごく好きなんだろうなって感じる一つひとつの言葉や見方は、色々な人に影響を与えています。こういう人が先頭に立って引っ張っている会社の音楽のチームなら、例えばお金の匂いのする方に擦り寄っていって、作品もそんな方向にしていったり、こちらの作品や情熱をおかしな方向にねじ曲げられることはない、ということが確信できているのが一番の感謝です。ありがちだけど、信頼できる相手がいることが幸せです。
大澤:大谷さんと菅原さんが、アーティストと社員が辞めていくのが一番辛いという部分はすごく共感できます。若いアーティストが途中で諦めてしまったり、若いスタッフが志半ばで辞めていったことを色々思い出します。今年、我々はLD&K内に独立したレーベルを作らせていただきました。その目的は、アーティストがより音楽に専念できる環境を確立したかったからです。誰を一番優先したいかといえば、アーティストなんです。アーティストが不条理な目に遭って生きていけない、音楽を続けられなくなるという状況を本当に見てきているので、それを守れるような体制を作りたかった。そしてスタッフにもなんらかのクリエイティブなスキルを身につけてもらって、頑張っている社員が正当な評価を得て、ちゃんとした収入を得て欲しい。いったん芸術の道を志した人たちにもっとその業界で働いて生活をしてほしいんです。
――大谷さんも菅原さんも全く同じことをおっしゃっていました。
大澤:会社の2トップも同じように悔やんでいることはすごく安心するし、嬉しい話です。うちのレーベルではもう会社内で恨みを買うくらい突出した給料を払おうと(笑)。その分どこをカットするか、という話なんですけどね(笑)。最近ドラマチックアラスカやプッシュプルポットともそういう話をしたことがあって。今まで辞めていった人たちを思い出して、それを食い止められる人間に、そういう立ち位置になりたいと思い始めているところに、年を取ったなって実感しています(笑)。
前川:楽しそうに人生を生きている先輩=大谷さんの話って、考え方もすっと入ってきます。この人がいいと思っているものがやっぱりいい気がする、そんなぶれない物差しになっています。あまり言葉では褒めてくれないけど、照れ屋さんながら一生懸命心を配ってくれている感じがします。改めていい会社だなって実感しています。
取材・文=田中久勝 撮影=山川哲矢
▼この座談会の模様を動画でも御覧いただけます。
イベント情報
日程: 2025年11月16日(日)
開場13:00/開演14:00
会場: Zepp Haneda
<出演>
ガガガSP/かりゆし58/打首獄門同好会/日食なつこ/ドラマチックアラスカ/bokula./プッシュプルポット
<
料金: ¥3,000(D代別・スタンディング)
■特設サイト: https://ldandk.com/30th/
『 LD&K NIGHT 2025〜三十而立響宴〜』来場者特典
ガガガSP × かりゆし58
音源はNFCカードで配布。(スマホでカードにタッチすると音源を聴けるサイトにアクセスできます。)