川下大洋、三上市朗、後藤ひろひとに聞く「大田王」のこれまでと今~関西限定だった演劇ユニットがついに東京公演
後藤ひろひと、川下大洋、三上市朗(左から)
川下大洋、三上市朗、後藤ひろひとによる演劇ユニット・大田王(だいたおう)。コメディの名手である俳優と作・演出家が組んだ演劇にユニットで、1997年から関西限定で公演を上演。途中15年間の休止期間を経て、2014年、2018年と公演を重ね、2020年、ついに東京進出が決まった。川下、三上、後藤の3人に、「大田王」のこれまでを教えてもらいつつ、東京公演の構想を聞いた。
後藤ひろひと、三上市朗、、川下大洋(左から)
■幻の「田王」時代から田王+大王=「大田王」へ
−−まず、改めて、「大田王(だいたおう)」の名前の由来を教えてください。
川下 三上市朗が、僕川下に「コント公演をしないか」と誘ってきたのがきっかけです。それで、名前をつけようとなった時に、川下と三上の漢字を合体させると、「田王」という字になるんですね。それで、「田王」と名乗ってやったんですよ。その時に後藤も来てもらっていたので、「次は自分もクレジットに入れてくれよ」ということになって。そこから、後藤の通称である「大王」も入れて、「大田王」としたんです。
−−「田王」の最初の公演が1996年。そして「大田王」になって、翌1997年に公演をされています。
三上 田王の時の公演はね、映像も残っていないし、写真が数枚あるだけで、ほとんど残っていないんですよ。みんなの記憶、我々の記憶の中からも薄れているというか(笑)。台本はいくつか残っているんだけど。
−−どんな内容だったか、覚えていますか。
三上 最初はモチーフが『スタートレック』(※アメリカのSFテレビドラマシリーズ)だったんですよ。僕が好きでね。スタートレックのスケッチをいくつかやりつつ、コントもいろいろ入れて。その時から後藤に台本を書いてもらったりして、ちょっと協力してもらっていたんです。
後藤 そうそう。結局、7割ぐらい俺が書いたから、だから次やる時は俺の名前も入れてくれと頼んだ(笑)。
川下 田王のコンセプトも、三上が『スタートレック』に出てくるカーク船長のコスプレがしたいという欲望を持っていまして(笑)。スタートレックの乗組員がある惑星に近づくにつれて、なぜか全員黒人になっていくという……。アース・ウィンド・アンド・ファイヤー(※アフリカ系アメリカ人によるファンクミュージックバンド)ももう一つのモチーフとしてあった。ブラックミュージックに、ブラックになっていくという……。意味分かんなかったんですけど、ものすごい熱意を持ってやりたいということで……(笑)。
三上 最初からそんな感じでした。出演者は友達感覚で「ギャラはそんなに出せないけどいい?」と頼んで、いいですよといってくれた人だけでね。
川下 そうそう。ギャラとかではなくて、お前どうせ近所にいるんだから遊ぼうよ、みたいなね(笑)。
後藤 確か、なんか、自転車で通える人みたいな条件だった記憶がある(笑)。
三上 そうそう。その頃はみんな大阪に住んでいて、扇町ミュージアムスクエア(※現在は閉館)というところでやるということだったので、そこにみんな自転車でいけたんですよ。近所に住んでいて、気前よく出て来られる人だけ誘って。97年に「大田王」として始めて、その時のテーマが『スター・ウォーズ』。それは、九州のギンギラ太陽'sの大塚ムネトくんというのがいてね。
川下 ギンギラ太陽'sは、建物や乗り物の被り物を被って芝居をする集団。博多のデパート同士の抗争なんかを、かぶりもので表現していたんだよね。
三上 彼が個人的にスター・ウォーズファンということで、自分で勝手に作ったダースベーターの乗り物を被ってね。いや、意味分からないでしょ?(笑)。そんな面白いものを持っているなら一緒に遊ぼうよということで……。その次が99年かな。『ミッション:インポッシブル』がモチーフで、いろいろなミッションをこなしていく感じの舞台でね。関係ないコントも後藤にうまいことミッションとして繋いでもらって。
三上市朗
■15年間空いたのは「何をやっても、うけてしまったから」
三上 そこからしばらく空きます。理由はその後、俺が東京に出たというのもあるんですけど、99年にやったときに、ある種“バブル”みたいになったんですよ。お笑いじゃないけど、何やってもうけてしまう。そのことにちょっとした危機感みたいな感じがあってね。それでちょっと置こうという話になって、結局15年(笑)。
後藤 バブルになったのはさ、多分、粟根まことの客演のせいじゃないかな(笑)。
川下 粟根まことがセーラー服を着て自転車に乗るだけで「きゃーっ」て受けちゃっていたからな(笑)。
三上 かもね(笑)。とにかくこちらが麻痺するぐらい、何やってもうけちゃったんですよ。
−−その“バブル”に乗っかっていこうという考えではなく、真正面から勝負したいと考えたんですね。
三上 そうですね。こちらがやりたいことと違ってくる気がしたんです。とにかくうければいいという感じでやるものなら、全然できたと思うけれど、それが目的ではないから。で、結局15年空いてしまいました。
後藤ひろひと、三上市朗、、川下大洋(左から)
−−脚本は基本的に後藤さんが書かれているのですか。
後藤 いやいや、みんなそれぞれ何をやりたいかというのを持ってくるんです。
三上 そう、出演者それぞれが「こういうのをやりたい」というアイディアを持ってきて、そのアイディアをその本人が書く場合もあるし、書かない時はプロデュースするという形なんです。「こういうのをやりたい」「ああいうのをやりたい」といって、それをまとめて、後藤が順番なり、間のブリッジなりを考えてくれて。稽古の途中で「これやりましょう」とか「これはちょっと今回はやめておこう」というのもある。結局、みんなで遊びながら作っています。
後藤 稽古も2週間だけど、最初は何をするかも決まっていないんですよ。稽古初日にみんなで何をするかを話し合って、次の日から動き出すスタイル。だから、本当は月1でできるイベントなんだよね(笑)。2週間稽古して、1週間本番して、1週間休むっていう(笑)。よくインタビューなんかで意気込みを聞かれるけれど、意気込みなんかないんですよ! お客さんよりもきっと楽しみたいと思っているので。それだけです。
−−15年の空白期間を経て、2014年に復活されたわけですが、何かスタイルの変化や内容の変化は感じられましたか。
三上 基本は変わっていないです。あれから15年ぐらい経ったんだ〜というぐらいですよ。復活は2014年に、当時、大阪のABCホールの館長だった人が「プロデュースしたい」といってくれて。それで15年ぶりにやることになったんです。そのときに集まったメンバーがほぼ99年にやったときのメンバーとあまり変わっていないのかな。久しぶりにみんなで集まってやりました。なんていったらいいんだろう、同窓会的な感じです。
後藤 そうだね、ちょっとノスタルジーもあったよね。昔やったネタなんかもやってみたり、「あぁ、体力ねぇな、落ちたな」というのを感じたり。そこでも笑ったね。
三上 ちなみにその時は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』がモチーフでした。
−−体力の変化はあれど(笑)、基本的にはコンセプトは変えていないわけですね。
三上 そうですね。それぞれみんな歳をくって、それぞれやっていたんですけど、集まってみたら、あまり変わらずできた。変な自信じゃないけど、またこうやって遊べるんだなという思いはあって。それに歳をくったら、くった分だけ、それなりの遊び方ができるんじゃないかとも思ってね。次の2018年は大洋さんが還暦だというので、お祝いにという感じでやりました。
川下 いやぁ、ありがたかったですよ。還暦祝いを舞台上で祝ってくれたなんて!
三上 特に祝ってはいないんですけどね(笑)。その時のモチーフは『ゴーストバスターズ』かな。
川下 遊びたい気持ちは変わっていないと思うんですよ。でも、やれることや、やれる材料は変化している。だから、今しかできないことをやることになるでしょうね。
川下大洋
■待ちに待った東京開催、「そろそろ東京で遊んでもいいかな」
−−そして今年いよいよ東京開催ということですが、その点については。
川下 そう、これまでずっと関西でしかやっていなかった。当時はご近所で集まるというコンセプトもあったしね。でもやっぱり、それぞれのお客さんから「なんで東京でやらないんですか」と怒られるんですよ。“大阪の遊び”だったけれど、我々も東京に住んでいたり、東京で仕事をしていたりしているし、そろそろ東京で遊んでもいいかなと思ってね。で、やっと、やります。東京のお客さんにはかなり喜ばれていますし、関西のみなさんには怒られています(笑)。「なんで東京でしかしないんだ!」とね。
−−やはり、東京で作ったものを大阪で上演するのは違うんですか。
川下 今のところ違うと思いますね。東京で遊んだものをそのまま大阪で見せるとなると、意味合いや性格が変わってくると思うから。でも、まぁそのうち、いいかと思ったら、中身を変えてやるかもしれないけどね(笑)。
−−チラシを拝見しましたが、東京だからということで「寅さん」の格好を?
川下 これまで映画をモチーフにしてきたので、次はどうしようかという話になりましてね。ずっと洋画だったので、そろそろ日本映画にいってもいいんじゃない?という感じですね。
三上 去年の夏に、イベントで、公開ブレストをやったんですよ。「何やってほしい?」って。それで、『男はつらいよ』が出たときに、みんな、あ〜、そこがあったという雰囲気になって。昨年、50作目(『男はつらいよお帰り寅さん』)も公開されたし、一番やりそうでやっていなかったコスプレだったわけ。昔からやりたかったわけでもないんだけど(笑)、なんかやっておかなきゃいけないよね、みたいな。
後藤 そうそう。柴又の街に寅さんがたくさん集まるサミット(※その名も『寅さんサミット』)が実際にあるんですけど、その写真がものすごく面白くて!
三上 僕が2018年の寅さんサミットに行って、すごくたのしかったんですよ。ロケ地で訪れた都道府県の屋台が出ていたり、寅さんにゆかりのある人たちのトークショーが舞台上であったり。何より、そこいらじゅうに寅さんがわらわらいるんですよ(笑)。稽古が忙しくてなかなか行けないかもしれないけど、みんなで柴又に行けたら楽しいなと思います。
後藤 寅さんがいっぱいいるってだけで、すごくナンセンスなんだけどね。これまで必ず誰かが増殖するコントをやってきたんですよ。例えば、みんな加山雄三。加山雄三と自分の違いが分からなくなっちゃった人が集まる話とかね(笑)。
後藤ひろひと
−−では最後に一言、読者の皆様へのメッセージをお願いします!
後藤 大阪でずっとやってきたものではあるけど、大阪出身はほとんどいないし、特殊な笑いになるかもしれない。でも最近、やっぱりちょっと東京でも大阪でも演劇人たちが遊びかたを忘れているところがあると思うのでね、「おじさんになってもこれだけ遊べるんだぞ、演劇人!」というのを見せたいです。
川下 本当に真剣にふざけます。コントオムニバスという説明が簡単なので人にはそう言うんですけど、あくまで芝居ですし、演劇人がふざけたらこんなことをしますよ、っていうことでございます。ぜひ。
三上 昔はもっと東京と大阪がはっきり分かれていたんですよね。でも今は本当に分からない。東京にいても関西出身の方が多いし。そこは別に分けているつもりはないんですけど、東京で活動している役者が、東京の地で、どれだけ真剣で遊べるか。大田王を東京でやるのは初めてですからね。ちゃんとぶつけてみたいなと思います。
後藤ひろひと、川下大洋、三上市朗(左から)
取材・文・撮影=五月女菜穂
公演情報
■日時:2020年4月2日(木)〜5日(日)
■会場:赤坂RED/THEATER
■出演:大田王=川下大洋+三上市朗+後藤ひろひと、石丸謙二郎、多田野曜平、久保田浩(遊気舎)、クスミヒデオ(赤犬・みにまむす)、ボブ・マーサム(THE ROB CARLTON)、長谷椿(はぶ談戯)、こうのゆうか(となりの芝・プロジェクトリコロ)
■公式Twitter:https://twitter.com/tokyo_daitaoh