演劇によって変化した現実を発表する「ゆうめいの座標軸」 稽古場レポート&インタビュー
2020年3月4日(水)より、こまばアゴラ劇場にて「ゆうめいの座標軸」がスタートする。この企画は、2015年に旗揚げした劇団「ゆうめい」の代表3作品『弟兄』『俺』『あか』を同時再演するもの。3作品のなかのひとつである『弟兄』の稽古風景をレポートするとともに、作・演出の池田亮と、俳優の田中祐希、小松大二郎に話を聞いた。
稽古は、池田一末(池田亮の祖父)の絵画が囲む空間で行われた。彼の絵画は『あか』の初演でも美術として使われている。何枚もあるなかから俳優が一枚ずつ好きなものを選んだという。
左から中村亮太、古賀友樹、田中祐希
左から小松大二郎、中村亮太
今回『弟兄』に新しく加わる森谷ふみ
「池田さんは基本役者の提案を採用する“ゆとり稽古”方式(笑)。いい意味で、役者それぞれの自主性を引き出すための環境をつくっている。」
『弟兄』に新たに加わる森谷ふみがそう語るように、稽古場は終始なごやかな雰囲気。池田が実際に受けたいじめを再現する場面でも、不思議なくらい悲壮感がない。劇中には「池田亮、死ね」という台詞まであるというのに、当の本人はその様子を時に笑いながら見つめていた。
MITAKA "Next" Selectionのひとつとして発表された前作『姿』は、作・演出の池田亮が、実の父と母が歩んだ人生とふたりの別れを描いたものだった。その作品に両親を巻き込んだことは(父親は演者のひとりとして、母親はナレーションでの参加)、観客に大きな驚きをもたらし、「『姿』はゆうめいのひとつの集大成」との声も挙がった。『姿』を経て、いま3作品を同時再演する狙い、そして発足から現在に至る歩みを、池田に聞いた。
池田亮
――今回、このタイミングで3作品を再演される理由は?
池田 前回の『姿』は、これまでよりも規模の大きな公演でした。それを終えたいま、旗揚げからどういう流れをたどってきたのか見直しながら、見落としてきたものをここで一回確認したいという思いがあって。具体的には、俳優が提案してくれたものをカットしながら進んできた気がしているので、そこを拾い直したいと思っています。「こうしてほしい」って直接的に言っちゃうと、演出家のイニシアチブがすごく高くなっちゃうので、そうではなくて、コミュニケーションしていきながらつくったり、俳優からその場でぽっと出たものを採用しながらつくったりしていますね。
あと、作品を発表することによって現実が変化するってことがすごく多かったんですね。特に去年はそれを実感する出来事が立て続けにあったので、その変化を踏まえたうえでまた作品を作り直してみようと思いました。
――今日稽古を見せてもらった『弟兄』では、実際にどんな変化がありましたか?
池田 『弟兄』ではいじめてきた相手の実名を出していて、その許可をもらうために電話で本人に許可を取ってました。だけど初演の2017年以降にゆうめいが少しずつ知られるようになってきて、「こんなに広まると思ってなかったから、実名出すのはやめてもらいたい」ってことを言われちゃって。だから今回は「実名ではなくて頭文字だけでやります」っていうのを前提としてお伝えしようと思ってます。あとこの話は、ぼくが中学のころいじめられていたことと、高校で仲良くなった友だちがいじめられて自殺をしてしまう実体験をもとにしているんですけど、彼の家族にも許可を取ったり台本を読んでもらったりしていて。その家族の側にも3年間で変化があったので、そういうことを入れていきたいです。
――上演した作品に対する反応を、さらにまた作品に織り交ぜていくんですね。ところで、実際にあったいじめをモチーフにしていますが、公演をくり返すことで感情面での変化はありますか?
池田 当時のことは、感情の面ではもうだいぶ消化していて。あとやっぱり、3年間の変化が大きかったというか。いじめてきていた相手がアニメにハマって声優を目指し始めたみたいで、一方自分がアニメの脚本を書き始めたり、メディア露出みたいなものが増えてきたりしたので、そうすると相手の態度も変わってくるみたいな。
――とはいえ、池田さんの作品づくりは相手への復讐という意味合いが薄いように見えます。
池田 そういう感じではないですね。とはいえ、いまだにそのころのことを夢で見るし、そのなかでは当時の心情がダイレクトに出てくるので、「これなんなんだろう」とは思ったりしてます。
――ほか2作はいかがですか?
池田 『俺』も、ぼくと友だちの実体験をもとにしているのですが、彼に言われたのはたとえば映画の『パラサイト』でいうと、ポン・ジュノ監督自身は貧困じゃないのにそういうものを描いてお金をもらってるよねってことを、ぼくの作品にも感じたみたいで。当事者ではないよねっていう。その反応や変化を踏まえて、当初ふたり芝居だったのを今回ひとり芝居にしました。
『あか』は、祖父の絵を美術として飾って、そのなかで父親にも出てもらって、さらに息子である自分も出る作品なんですが、今回は初演にも出てもらった石倉来輝くんに加えて、彼のお母さんの千津子さんにも出演してもらいます。
『あか』稽古場風景。中央が石倉千津子。
――1つの作品に2つの家族が出演するのはかなり異例ですよね(笑)。実の家族が演劇に参加することは、ゆうめいの大きな特徴ですが。
池田 いままでのぼくの作品は、たとえば大御所の俳優さんに出演をお願いするというよりか、自分のなかでのヒエラルキーを基準にしていたところがあります。実の父親とか母親って、自分のなかでは地位が高い人ですよね。そういう自分のなかでの“やばい人”をそのまま演劇に出したらどうなるんだろうっていう興味があって。だから本番よりも出演をお願いするときのほうがずっと緊張します(笑)。
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ここからは、所属俳優の田中祐希さん、小松大二郎さんにも加わってもらった。
池田 ゆうめいは、ぼくと田中君のふたりでスタートしました。2015年にハイバイの岩井(秀人)さんが作・演出でかかわっていたミエ・ユース演劇ラボで出会って、その年の7月に旗揚げ公演みたいな感じで『俺』をやったのですが、そのときはだいぶ荒々しかったというか。
田中 何年もつづけると思ってなかったし、もはや旗揚げって意識すらなくて。
池田 初日あけるまで「これ、本当に人にみせていいのか?」ってふたりでケンカしてました(笑)。
小松 でもぼくはそれを観て「すげーおもしろい! ふたりとも演技がうまい!」って興奮して。
池田 ぼくと小松君は、快快の『再生』って作品でスタッフとして知り合って、それも岩井さんが演出してた舞台なんですけど。まわりがベテランさんばかりのなかで、唯一同世代だったのと、ぼくがおどおどしてるのに対して、小松君は人に対してどんどん行ける人なので、一緒にできたらいいなと思って。
小松 俺の演技もなにも観てないのに次の公演にオファーされて、そこからですね。
――おふたりは今回の3作品すべてに出演されますが(※『俺』は当初田中と小松によるダブルキャストのひとり芝居を予定していたが、今回田中のみの出演となることが2/29に発表された)、初演時と比べ変わったことはありますか?
田中 初演のときには毎回「超スゲ―作品だ!」って思うんですけど、再演になると「意外にまだやれることがあるな」っていろいろ気付くようになりました。
小松 「あれ、ここ脚本上のご都合展開がすごすぎない?」とかあるよね(笑)。
池田 最初のころは、わーっと書いて気合で乗り切ってた部分があった(笑)。
小松 最近は若い勢いがないね。
池田 初期衝動みたいなね。なんで自分たちは劇団を始めたんだろうっていう原点を、改めて考えたいっていう時期で。
小松 あとテーマについても、これからはもっと広げていけたらいいなって。『弟兄』までは「いじめ」っていうテーマが1つドンとあったけど、それ以降だと1つの作品のなかに「いじめ」だけじゃなくて「夫婦」とかほかのテーマも入ってきて、いまもそうやって広がってきているので。
田中 広い視野で観られる演劇になってきている感じはしますね。
――今後さらに広げていくために、いまふり返っているのかもしれませんよね。
田中 ずっと一緒にいるから、役割分担が固まっちゃってるので、そこもちょっと見直せたらと思います。
池田 田中君も年に1回の「ゆうめい発表会」って企画では自分で脚本を書いてるので、今後は田中君が本公演で作・演出をするとか、そういう団体になれたらいいなって。3人それぞれ表現してることが全然ちがうから、そこを広げていける可能性はあるなって思ったりしますね。
小松 俺はずっと盛り上げ担当でいいな~。
池田 盛り上げ担当ってほかの劇団にいるのかな(笑)。
――(笑)。今回の公演は割引システムがとても豊富ですね。
池田 いろんな人たちが出入りできる、自分たちのホームグラウンドになる創作場所がほしいんですよね。だからまずは演劇も来やすい空間にしたいって話をしたところ、制作の黒澤(たける)がいろんな割引システムを提案してくれました。
田中 1回観たの半券持参で500円引きする半券割を作ったのですが、それは使えるのが本人だけじゃなくて、ほかの人への譲渡も可能で。「おもしろかったから観て」って渡せるのがいいと思って。そうやって口コミで広がっていくとやっぱりうれしいですし。
池田 『姿』のときも、初日迎えるまで予約数が2人しかいない回があって、「これはもう、どうします?」みたいな感じだったんですけど(笑)、幕が開けたら予約が増えてきて。
小松 映画と比べると演劇はが高いことも意識しますね。
池田 いや、それはすごい考えなきゃいけないですよね。が高くて、わざわざ足を運んでもらわないといけない演劇に来てもらう、ってことを。
――この公演以降、今年はどんなご予定ですか?
池田 10月に新作を上演します。それはこれまでとはちょっと違う役者さんにも出てもらうことになりそうです。あと、8月にはいわき総合高校の公演の作・演出も務めることになりました。
――「座標軸」でのふり返りを経て、さらなるステップに進むゆうめいがとても楽しみです。
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この取材の数日後、ゆうめいより新型コロナウイルス対策に関する声明が発表された( https://www.yu-mei.com/xyz20200228 )。現在の状況を鑑みたうえで、自分たちで考え、話し合った過程が浮かぶような、誠実な姿勢を感じる。
なお3月7日(土)・8日(日)には、前作『姿』の上映会も開催される。昨年台風で上演が中止になった回があり、その際には動画配信という異例の措置がとられたが、その回で会場に来られなかった方は招待となるそうだ。もちろんそれ以外の方も来場可能。
プロフィール
【ゆうめい】 池田亮、田中祐希、小松大二郎、田中涼子、黒澤たけるの5人から成る。テーマは、どこでも見かけそうな生々しい人々による「なさそうだけどあったこと」。メンバーそれぞれがダンサーやアニメーション作家としての顔も持ち、舞台の演出や出演に限らず、TVアニメ脚本、美術制作、映像ディレクションなどを手がける。NHK EテレやTOKYO MX等でも幅広い活動で活躍中。
公演情報
(デザイン:田中涼子)
■作・演出:池田 亮(『俺』のみ池田亮 小松大二郎)
■出演:『俺』田中祐希
『弟兄』古賀友樹 中村亮太 鈴木もも 宮岡有彩 石川琢康 田中祐希 小松大二郎 / 森谷ふみ
『あか』石倉来輝 石倉千津子 池田 亮 五島ケンノ介 田中祐希 小松大二郎
■舞台美術:池田一末 池田 亮
■舞台監督:田中祐希
■音響:鈴木はじめ(妖精大図鑑)
■照明:中西美樹
■宣伝美術:田中涼子
■制作:黒澤たける
■制作助手:佐々木啓太
■芸術総監督:平田オリザ
■技術協力:鈴木健介(アゴラ企画)
■制作協力:木元太郎(アゴラ企画)
■企画制作:ゆうめい / (有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
■主催:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
■会場:こまばアゴラ劇場
※初日割、早期割、平日昼割、学生・U29割、高校生以下割、遠方割、半券割あり。また今回は、当日券も予約と同じ値段での販売。
■会場:こまばアゴラ劇場
■日時:
2020年3月7日(土)17時
2020年3月8日(日)17時
受付は開演の40分前。開場は開演の30分前。
■予約:https://www.quartet-online.net/ticket/sugata_jouei