監督・堀潤と脚本・きたむらけんじが語る映画『わたしは分断を許さない』、そして舞台『エール!』のこと

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2020.3.5
堀潤(左)と、きたむらけんじ

堀潤(左)と、きたむらけんじ

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以前、香港のデモの様子を撮影しているカメラマンのインタビューを書かせていただいた。彼女の写真や言葉が世の中に届くきっかけをつくったのがフリー・ジャーナリストの堀潤。元NHKのアナウンサーで、現在はテレビやラジオで活躍するほか、ニュースを発信する市民の育成を図るプロジェクトなども展開している。その堀が、国内外のさまざまな社会課題を背景に深まる「分断」をテーマに監督したドキュメンタリー映画が3月から公開される。題して『わたしは分断を許さない』。香港では「人権・自由・民主」を守るべく立ち上がった若者、ヨルダンの難民キャンプではシリアで拘束された父との再会を願う少女、福島では原発事故のため未だに自宅へ戻ることができない美容師、沖縄では辺野古への新基地移設の反対運動を行なう人びと……。さまざまな人に出会い、語りかけた約10年もの取材映像をもとに脚本を練り上げたのは、堀がパーソナリティを務めるJ-Wave「JAM The World」の構成作家で、劇団東京フェスティバル主宰のきたむらけんじだ。二人に映画への思いを聞いた。

映画『わたしは分断を許さない』 ©️Orangeparfait

映画『わたしは分断を許さない』 ©️Orangeparfait

ジャーナリズムはジャーナリストの専売特許じゃないからこそ、報道のアプローチを変えてみる。

――堀さんは以前にも映画『変身 Metamorphosis』を撮られていますよね。

 はい、NHKをやめるきっかけになった映画です。UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)留学中に取材をした、隠蔽されたアメリカの原子力事故をテーマにしたもので、それまでに取材していた日本の原発の話とともに形にしました。当初は番組でもやる予定だったんですが、ロケが済んだ後でお蔵入りしてしまいそうになって。映画は事故の中で翻弄される市民と忘却が進む様子を描いたのですが、世の中に出せないのは非常に辛いことでしたし、だったら局をやめて自分でなんとかしようと決断したわけです。さまざまな方のご尽力のおかげで劇場公開させてもらいました。お客様の入りも良く、期間を延長したり、各地で上映することができました。そのころからまた映画をつくりたいと思っていたんです。

――『わたしは分断を許さない』は、きたむらさんが脚本を書かれています。そのことに興味を持ちました。堀さんは真実を追って取材を積み重ねていく、きたむらさんは取材したものをベースに演劇に仕立てていく。その関係性に興味があったんです。

 もうバディとして長いんです。NHKをやめた直後にJ-WAVEの「JAM The World」、これは報道番組なんですけど、ご一緒させていただいて。放送作家とナビゲーターという関係ではありますが、誰に頼まれたわけでもないのに、いつも二人で取材に行くんです。

きたむら 「これは行かないわけにはいかないよね」とか言いながら。

 きたむらさんがつくる演劇は人情味あふれる群像劇で、多様性や尊厳、社会課題にスポットを当てて描かれる「見たい未来」が僕と一緒なんです。僕にはニュースリポート映像はつくれても、大量の素材を一つに縫合して物語にすることはできない。だったら僕と思いを同じくする、物語を編むプロパーであるきたむらさんに、バラバラに見える事象を普遍的なテーマでつなぐ作業をお願いしたいと思ったんです。アメリカの映画などは、フィクションにもいろんなジャーナリストがかかわったり、本当にいろんな人の知見が入ってできている。そういう意味でも、きたむらさんの物語が見たいと口説きました。きたむら演劇のファンですから、僕が持ち帰った一次情報がどんな物語になるのかも見てみたかったんです。実は僕は去年から写真映像展を開いたり、3月には画家の方と一緒に企画を実施する予定があったり、芸人の友人と舞台に立って社会問題を語り合ったり、報道のアプローチを変え始めているんです。ジャーナリズムはジャーナリストの専売特許じゃありませんから。

堀潤

堀潤

きたむら 堀さんはすごく難しいテーマでも噛み砕いて、みんながわかっていないところを上手にご自分の言葉を差し込みながら説明してくれる。大手のメディアが扱わないことこそ大切だというスタンスで、同時にその立ち位置から世間の関心を集めるニュースも見つめている。すごく珍しいし、すごく大切なジャーナリストだと思っています。堀さんは日々取材してきた動画をご自身の番組やサイトで配信されています。それを一本の物語にと言いながら、「共通して見えるのは分断だと思うんです」ともう答えが見えているわけです。僕がやれることはあるんだろうかと。断る理由もないけれど、何をやっていいかわからなかった。でも最初おおよその枠組みを示してつくってもらったら、堀さんが今まで配信されてきた素材の全集みたいなものだった。一編一編は見応えがあるんですけど。その時に僕が解釈をして、これらを原作に物語をつくっていいんだと初めて理解ができたんです。核に分断があるということだけ自分の中に置いて、あとは自由にやらせてもらいました。各国、都市、街での取材を一つの登場人物と考えて、北朝鮮さん、ヨルダンさん、福島さん、沖縄さんらがどう動いたら「分断」が際立つ物語として伝わるのかを考えました。堀潤が出会った人びとが物語のメソッドにのっとって行動し、挫折もするけど、希望を見出していくという物語を考えました。

きたむらけんじ

きたむらけんじ

 普段から僕は「大きい私語よりも小さい私語」を掲げていてるんです。どうしてもイメージとして、被災された方なら被災者というくくりで描かれるじゃないですか。北朝鮮という国名も、イメージに近い言葉になっている。けれど、きたむらさんが取材してきたものを演劇に落とし込む作業は、本当に一人ひとりの登場人物の骨や内臓からすべてをつくり上げていく。またそれを想定して取材時に人を見ていらっしゃる。僕も一人ひとりに直接会っているからプロフィール的なもの、その時の感情はわかっているんですけど、その方々が何者なのか読み解きができているか、本質を見抜けているかといえばそうでもない。数年前の映像を見直して、なるほどこういう現場だったのかと気づいたりもする。この人たちは誰なのかを考える共同製作者がいてくれることはすごく頼りになりましたし、楽しみでもありました。

映画『わたしは分断を許さない』 ©️幡野広志

映画『わたしは分断を許さない』 ©️幡野広志

ニュースがすごい速度で消費されている時代だからこそ、メディアとしてオールドタイプな映画で描きたかった。

――なるほど、でもその手法や視点の違いが面白いですよね。

 それから僕はどうしても国内外の現場を一つに並べたかったんです。どの現場も素材はあるし一本の物語としてもつくれる。そのことは最初に議論にもなりました。それでも頑なに並べたかったのは、国外と国内の分断が激しすぎると感じていたから。海外の人たちの暮らしと、私たちの暮らしは違うんですか?と。肌の色、宗教、目の色、生活様式はたしかに違います。でも親と生き別れたら同じように悲しいと思い、孤立していれば寂しさを募らせるわけです。でもその一方で、いい兆しも感じているんです。若い方々が国内と国外のニュースを境なく当たり前のように見てくれている。それはSNSの影響ですよね。タイムラインにはコロナウィルスの武漢の映像も、国内の政治ニュースも、芸能スキャンダルも時系列や場所に関係なく流れてくる。僕も自分が取材した素材をそんなふうに伝えられたらいいなと思うんです。そもそもニュースを政治、経済、社会、芸能、スポーツ、天気などと分けたのはメディアの側。でもよく言うじゃないですか、いろんなことは密接にかかわり合っているんだよって。その割には伝え方は分断されている。だからこそ最初から一緒だというアプローチをしてみたかった。だからそのスキルを持っているきたむらさんとのタッグは最初から考えていたんです。

きたむら ありがとうございます。

きたむらけんじ

きたむらけんじ

――改めて映画として提示したいと考える理由は?

 映画はカウンターのお寿司屋さんだと思うんです。職人さんがいて、目の前で握っては手渡ししてくれる。その人の体温を食べているようなものじゃないですか。そしてカウンター越しに話もする。つまり贅沢な時間ですよね。これだけメディアの時代になった今、誰もが映像、写真、テキストを低コストで世界に発信できる。だからこそ報道は愚直に、地味に、対面するような伝え方をしたい。タイムラインが流れる速度でニュースが消費されていることへこれでいいのかという思いもあるので、もっともメディアとしてオールドタイプな映画を選んでいるわけです。3年経っても、5年経っても上映できて、振り返ってあの時代はこうでした、でも今はこうですみたいな比較もできる。もしかしたら僕は映画がつくり出す場に魅力を感じているのかもしれません。そこで仲間を見つけたいというのもあります。そして分断の渦中にいる方々にお伝えしたいんです、日本も捨てたもんじゃないですよって。

映画『わたしは分断を許さない』 ©️Orangeparfait

映画『わたしは分断を許さない』 ©️Orangeparfait

――きたむらさんはでき上がった映画にどのような感想をお持ちですか?

きたむら 一つ一つバラバラに見えるニュースや国、状況が、実は一続きになっているということを感じていただけるんじゃないかなと思います。また映画で描かれていることだけではなく、きっとお客さんご自身のプライベートや仕事で感じている問題、これってどうなっているんだろうという疑問にもつながっている要素があると思います。この映画を見ることで、モヤモヤを読み解いたり、行動に移す指針になったり、答えを導くヒントになるものを得られるんじゃないかなと思います。

 僕はもう続きが見たいんですよ。

二人 ハハハハハ!

 続きを取材しているんですよ。シリア出身で難民としてヨルダンにいた少女がシリアに戻ったんですけど、再び今度はトルコとシリアの戦争が始まって、時代はよくない方向にかなり進んでいる。新型コロナウィルスのことも盛んに報道されてますけど、WHOがてんやわんやしている問題はコンゴでのエボラ出血熱とハシカの流行。この1年間で7500人以上が亡くなっているんです。相変わらず国内のニュースでは、先進国にかかわらないものは取り上げない。そのことを考えると、僕らが取材した現場のその先をまだまだ伝え続けなければいけないと思います。5年後、10年後にどういうことになっているか、その予告編を見ていただきたいんです。

――「分断」は寂しい言葉ですよね。どうしたらいいんでしょう?

 知っていたらそんな選択肢はなかったのにということもあるかもしれないですよね。僕らは分断を解決する、解消するということを掲げているわけではありません。分断も必然的に生まれたり、大きな国家同士の装置の中でそうさせられているのかもしれない。けれど隣の人が出血をしていたら、縫合はできなくてもガーゼを当てて止血はできるかもしれない。痛いと言っている人を放置しておく社会は嫌じゃないですか。市民のアクションはそういうことなのかなと思うんです。

堀潤

堀潤

きたむらけんじ作・演出、劇団チーム・ユニコン『エール!』も同時期に

――ところで、きたむらさんは、被災地の避難所を題材にした芝居も上演されるんですよね?

きたむら 架空の街で大きな災害が起こって、避難所ができましたと。その避難場に集まってきた避難民の方と、市役所の職員、それを支えるボランティアがある期間をともに生活する中で、みんなが抱える問題が浮き彫りになったり諍いもありつつ、彼らが再生に向けて何かしらのヒントをつかんで巣立っていくという人情喜劇です。

『エール!』

『エール!』

――きたむらさんはそうした現場での取材をもとに、独自の視点で舞台をつくり上げられているんですよね。

きたむら はい。この作品は、近江谷太朗さんとの出会いから生まれたんです。近江谷さんと何度か飲む中で、災害があっても演劇人は機動力がないよねという話になりました。音楽だったらギター1本あれば歌うことができて想いを届けることができる。落語家も漫才師もみかん箱を高座にしてネタを披露して笑ってもらえる。被災地でできる演劇をやりたいよねって。僕が考えたのは、ダンボールとか折りたたみ椅子などどこにでもあるものを使ってセットが組める物語。避難所で起こる悲惨な出来事があるのを知っていますが、あえてそういった要素は入れていません。避難所で「避難所」の話をやることで、見た方が「私と同じだ」とどこかで感じて、そこでの日常がほんの少しでも楽になったり、ふっと心の荷が下ろせたりできればいいなあと。

初演は近江谷さんのプロデュースでしたが、今回は被災地でのボランティア活動を主な目的としているNPO団体さんが主催してくださるんです。テレビ局のドラマ班だった方が代表理事で、メンバーもドラマ班や役者が多く、ボランティアにも行くけど演劇をやると。そうすれば関係ある役者さんが活躍する場もできるし、公演として大きく儲からなくても活動の原資くらいはつくれるんじゃないかということで。これが旗揚げ公演なんです

 きたむらさんの作品は群像劇ですから、必ずそこに「私」がいる。見ている人は笑っているけど「私だ、ヤバい」って。そういう気づきの装置でもあるところが面白いんですよ。ぜひ映画とともに見てください。

『エール!』

『エール!』

取材・文=いまいこういち

上映&上演情報

映画『わたしは分断を許さない』
■監督・撮影・編集・ナレーション:堀潤 
■脚本:きたむらけんじ 
■音楽:青木健
■出演:
陳逸正 深谷敬子 チョラク・メメット 久保田美奈穂 大和田新 安田純平 エルカシュ・ナジーブ 仙道洸 松永晴子 ビサーン アブドラ むのたけじ 大田昌秀
■会場:
東京  2020年3月7日(土)~ ポレポレ東中野 Tel.03-3371-0088 
大阪  2020年3月14日(土)~ 第七藝術劇場 Tel.06-6302-2073 
京都  2020年3月14日(土)~ 京都シネマ Tel.075-353-4723 
愛知  2020年3月21日(土)~ 名古屋シネマテーク Tel.052-733-3959 
岡山  2020年4月3日(金)~ シネマ・クレール Tel.086-231-0019 
長野  2020年4月17日(金)  ※1日限定上映/松本CINEMAセレクト Tel.0263-98-4928 
栃木  2020年6月13日(土)~ 宇都宮ヒカリ座 Tel.028-633-4445 
新潟  2020年6月20日(土)~ シネ・ウインド Tel.025-243-5530 
宮城  近日公開 フォーラム仙台 Tel.022-728-7866 
群馬  近日公開 シネマテークたかさき Tel.027-325-1744 
神奈川    近日公開 横浜シネマ・ジャック&ベティ Tel.045-243-9800 
神奈川      近日公開 あつぎのえいがかんkiki Tel.046-240-0600 
新潟  近日公開 高田世界館 Tel.025-520-7626 
三重      近日公開 進富座 Tel.0596-28-2875 
兵庫      近日公開 元町映画館 Tel.078-366-2636 
広島      近日公開 横川シネマ Tel.082-231-1001 
広島      近日公開 福山駅前シネマモード Tel.084-932-3381 
福岡      近日公開 KBCシネマ Tel.092-751-4268 
宮崎      近日公開 宮崎キネマ館 Tel.0985-28-1162 
沖縄      近日公開 桜坂劇場 Tel.098-860-9555
■公式サイト:https://bundan2020.com/

劇団チーム・ユニコン『エール!』

■日程:2020年3月11日 (水) ~ 22日 (日)
■会場:テアトルBONBON
■作・演出:きたむらけんじ(劇団東京フェスティバル)
■出演:近江谷太朗、今拓哉、樋渡真司、竹内都子、岩橋道子、木村玲衣、関根翔太、藤井びん
■料金(税込):全席指定5,000円(前売り・当日とも)
■開演時間:11・12・17・18・19日19:00、13日14:00 /19:00、14・15・20・21日13:00/17:00、22日12:00 /16:00、16日休演日
■問合せ:劇団 Tel.090-3428-1351、メールinfo@uni-con.or.jp
■公式サイト:https://uni-con.or.jp/stage/
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