【緊急連載】韓国の検閲(6) 検閲への対抗手段はあるのだろうか?

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取材・文・撮影 : 堤広志

取材・文・撮影 : 堤広志

岡田利規と多田淳之介の共同主催による緊急イベントが、2015年11月28日(土)@東池袋・あうるすぽっとで行われた。二人はともに舞台芸術の祭典「F/T15(フェスティバル/トーキョー15)」に参加しており、それぞれ公演の本番で忙しい合間を縫ってのトークイベントである。テーマは「韓国の検閲」。今年に入り、日本でもにわかに話題となってきているこの問題について、実際に韓国で検閲に遭った経験を持つ二人のゲストを招き、その現状を聞いた。韓国では今、何が起こっているのか? そして、今後日本でも決して起こらないとは言えない“検閲”に、はたして対抗手段はあるのだろうか? 貴重にして重要なトークの内容を、6回にわたり連載する。
 
【連載目次】
 

第6回 検閲への対抗手段はあるのだろうか?

© Hiroshi Tsutsumi

© Hiroshi Tsutsumi

Q(男性) 僕は、作り側と、助成金を出す側の両方の仕事をしておりまして、今日の話は非常に切実です。日本でも起きるかもしれないという感覚はすごいあります。たぶん日本でも韓国でもなんですけれども、表現の自由ということが、どれくらい国民とか一般にとって共有されているかということが、まずわからないわけですよね。といった時に、こういうことが起きたら、我々はたぶん、どうやったら、どういう抵抗方法があるのかということをこの場で共有したり、議論したりしておくことっていうのが、すごく起きるかもしれないという未来に対して、ポジティブなアクションなのかなという風に思ったんです。なので、韓国では本当にダイレクトに起きているという中で、お二人にどういう抵抗方法が今後あると考えていらっしゃるのか、そこをお聞きしたいと思っています。韓国でもそうですけれども、日本でも起きる場合、もっと巧妙に隠蔽されると思います。リストが出たとしても、そのリストに対して誰もタッチできないようにするんじゃないかなと思うんです。だとしたら、我々はどういう風な抵抗方法を準備しておけるのかなということを考えたいです。

ジュヨン 『安山巡礼道』では、これが今、私がやるべきアート・プロジェクトだと思うから、それをやり続けるしかないんですけど、それを「どうやるの?」って聞かれたら、「どうにかします」っていう風にしか、今は言えないんです。本当にそのアーツ・カウンシルとか、公的な助成金なしでやり続けられるかっていう心配はあるんだけど、やり継ぐしかないっていう風に今、『安山巡礼道』に関しては思っている。あと、アーツ・カウンシルに関してなんですけど、もともと韓国文化芸術振興院っていう名前の公の組織だったのが、さっきも言ったように文民政府になってから、民間から介入できるアーツ・カウンシルっていう形になったわけです。その時は、いろんな意見を決めたり、枠を決めたりするのが、全部民間の専門家たちがやってきたんですけど、それがイ・ミョンバク政権に入ってから、文化部並びの独立組織として存在する形になって、民間からの介入がまったく出来ない状態になっていて…。で、アートに携わる人間としては、そういう体制はすごく先輩たちが頑張って、その組織を民間化して、独立化して作った組織を、どうやって取り戻すかっていうことに力を入れて、それが今の検閲と直接つながっているものなので、意見を集めていきたいなと思っています。

ヨンドゥ 私も、毎晩悩んでいます。しかも、その国立伝統音楽院で起きたことを、一番最初に外に知らせた人間なので。一生たぶん、この問題に対しては闘っていくしかないと思いますし…。さっき岡田さんが、そのカフェの上演がすごくショックだったとおっしゃったんですけど、私が気にしているのは、そこでそうしたスタッフ、仕事をしている役人の人が、何で、どんな気持ちでそれを阻止したのかが、すごく気になっています。たぶん、そのスタッフ、担当者とか役人の人たちは、すごく何かを恐れていると思います。恐れてそれをやったと思いますが、その恐れがどこから来ているのかがすごく大事だと思います。さっきも自己規制の話が出たんですけれども、たぶんすべてのアーティストは自分のやりたいことをやりたい。やりたいことをやる、っていうことを夢見ていると思います。自己犠牲をするっていうことは、たぶん自分は気づいていないかもしれないけれども、その自己犠牲に至ったいろんな状況があると思います。そういう状況の中では、国と個人がどんな関係を持っているかということが非常に重要なポイントになってくると思います。

© Hiroshi Tsutsumi

© Hiroshi Tsutsumi

ヨンドゥ 近代以前の国家というのは、どんな形で動いたのかはよくわかりませんが、国家という概念が生まれてから、その時点で個人は個人じゃなくて、国民というアイデンティティを持たされることなんですよね。でも、私は「私が韓国という国の国民になります」という風に選んだわけではありません。その国家の国民になるっていうことは、国家が目指している人になるということが、自分の身の上に起こるということだと思います。そういう風に、国家が国民に与える義務というのはどんどん増えて行って、国民が国家からもらうべき権利というのはどんどん少なくなっているように思います。20年前ぐらいは、韓国ですごい政府を批判する作品をしたりすると、殺されることもあったし、急に行方不明になる人もいました。

今の50代・60代の先輩たちはそういう経験を、自分の身近な人が亡くなったり、他へ行かされたりする経験をしたりしています。そういう年配の人たちを見て育ってきた私たちは、そういう公の力ということに恐れを抱いていると思います。それが結局は、自己犠牲みたいな形で現れるのではないかと思います。それはたぶん、そのカフェの公演を阻止したディレクターにもあったし、たぶん私の中にもあると思います。100%検閲みたいなことが行われない状況は想像できないと思いますが、今、私が出来るのは、そういう公の力に対しての恐れというものがどこから来るのか、ちゃんと精査し察することだと思います。そういう恐れが、国家というシステムとどんな関係を持っているのかをちゃんと察して、そこからどんどん自分を自由にすることです。

さっき、岡田さんが中国のことを語られたんですけれども、私が思うに、日本と韓国の方がもっと危ないんじゃないかなと思います。なぜかと言うと、両国は、自分たちが民主主義を完成したと勘違いしているからです。検閲ということが制度化していないから、自分がすごく自由に生きていると思いがちですよね。だから、自分にそういう疑問を投げることしかできないんじゃないかと思います。

岡田 すごい誠実なコメントをもらえて感激しました。えっと、時間なので、ちょっと僕がここで強引にまとめようと思います(笑)。今回、このイベントを、まぁ急あつらえでしたけど、やれて、大変良かったと思います。表現に対する介入の力というのは、これは僕が最近考えていることなんですけれども、とても強いものなんですけど、と同時に、国内に対してしか、その介入の力というのは働かせることができない。例えば、韓国の検閲の問題は、韓国の国内の問題であり、同様の問題は日本にもありますけど、それは日本の国内で働く力。そこだけで働く力であり、その外にその力を働かせることはできないと僕は思っています。まぁ、できるところもあるかもしれません、アメリカとかは…(笑)。

© Hiroshi Tsutsumi

© Hiroshi Tsutsumi

岡田 まぁ、でも日本と韓国の話に戻すと、僕はこの企画をやれて良かったと思っています。どうしてかというと、その韓国の状況をこのように日本の場で紹介することが、韓国の国内で働いている検閲の力が及ぶことができない場所でこのように紹介し、そのような現状を、韓国の外から照らすことができる機会であるからです。当然、僕はこのことに対して、見返りを求めています(笑)。それは、日本の状況も同様に、どこか外から照らすことによって、その状況に対して事態を良くしていくための力、助けになるだろうと思ってもいるということです。

今日はこんなにたくさんの方に集まっていただき、本当に嬉しく思っています。そして、今日、呼びかけに応えて、貴重な話をしてくださったコ・ジュヨンさんとチョン・ヨンドゥさんに、もう一度拍手をお願いします。それでは、今日のイベントを終ります。どうもありがとうございました。

――(場内拍手)

イベント・データ
岡田利規+多田淳之介主催緊急イベント「韓国の検閲」
 日時:2015年11月28日(土) 15:45~17:30
 会場:東池袋・あうるすぽっと エントランスロビー ※F/T15『God Bless Baseball』公演終了後
 登壇者:岡田利規/多田淳之介/チョン・ヨンドゥ/コ・ジュヨン

岡田利規 Toshiki Okada

岡田利規 Toshiki Okada

岡田利規 Toshiki Okada : 演劇作家、小説家、チェルフィッチュ主宰。1973年横浜生まれ。1997年チェルフィッチュを結成。2005年『三月の5日間』で第49回岸田國士戯曲賞を受賞。同年7月『クーラー』で「TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2005 ―次代を担う振付家の発掘―」最終選考会に出場。2007年デビュー小説集『わたしたちに許された特別な時間の終わり』を発表し、翌年第2回大江健三郎賞を受賞。代表作『三月の5日間』は、クンステン・フェスティバル・デザール2007(ブリュッセル/ベルギー)で初の国外進出を果たして以降、アジア、欧州、北米の計70都市で上演されている。F/T15では、日韓共同制作による新作『God Bless Baseball』を2015年11月19日(木)~ 29日(日)@東池袋・あうるすぽっとにて上演し、「野球」を題材として、日韓+アメリカの歴史や文化を批判的に描いた。

多田淳之介 Junnosuke Tada

多田淳之介 Junnosuke Tada

多田淳之介 Junnosuke Tada : 演出家、俳優、富士見市民文化会館 キラリふじみ芸術監督、東京デスロック主宰。1976年生まれ、千葉県柏市出身。2001年東京デスロックを結成。古典から現代劇、パフォーマンスまで幅広く手がけ、韓国やフランスでの公演、共同製作など国内外問わず活動する。2010年より埼玉県・富士見市民文化会館 キラリふじみ芸術監督に就任。2013年、韓国の劇団「第12言語演劇スタジオ」(ソン・ギウン主宰)と日韓共同製作し、チェーホフ『かもめ』を日本統治時代の朝鮮を舞台に翻案した『가모메 カルメギ』で、韓国の第50回東亜演劇賞演出賞を外国人として初受賞。F/T15では、日韓共同制作による新作『颱風(たいふう)奇譚 태풍기담』を2015年11月26日(木)~29日(日)@池袋・東京芸術劇場シアターイーストにて上演し、シェイクスピア『テンペスト』を下敷きとして、20世紀初頭日本によって国を追われた朝鮮の老王族が南シナ海の孤島で王国再建を夢見る姿を描いて、日韓の歴史と文化、そして現在を照らし出した。また、2015年5月@安山ストリートアーツフェスティバルの『安山巡礼道』にも参加している。

チョン・ヨンドゥ Jung Youngdoo : ダンサー、振付家、アーティスト。韓国生まれ。演劇を学んだ後、韓国芸術総合学院で舞踊を学び、人間の心理に焦点をあてたユニークな振付家・ダンサーとして、韓国を拠点に世界各地で活躍。2003年にDoo Dance Theaterを設立。2004年、横浜ダンスコレクション「ソロ・デュオコンペティション」にて、横浜文化財団大賞、駐日フランス大使館特別賞をW受賞。2006年、ダンスマガジンにて舞踊芸術賞を受賞。日本での活動も多く、マレビトの会(松田正隆主宰)『ディクテ』『HIROSHIMA-HAPCHEON:二つの都市をめぐる展覧会』など演劇作品への出演や、立教大学現代心理学部映像身体学科で特任准教授を務めるなど、その活動は多岐にわたる。今年2015年10月、韓国国立伝統音楽院(国立国楽院)のプログラム「金曜共感」に参加予定だった演出家パク・グニョンが排除されたことから、自らも参加をボイコットし、デモ(スタンディング)を行う。

コ・ジュヨン 高珠瑛 Jooyoung Koh : インディペンデント舞台芸術プロデューサー。1976年ギョンギ道生まれ。梨花女子大学新聞放送学科を経て、ソウル・フリンジ・フェスティバル、チュンチョン人形劇フェスティバル、BeSeTo演劇祭などの舞台芸術祭のスタッフを務めた後、日本に語学留学。2006年より韓国アーツマネジメント・サービス(KAMS)で様々なプログラムを企画・担当。2012年からはインディペンデント・プロデューサーとして、韓国や日本のアーティストと作品を作るほか、翻訳者としても活動をしている。2011年にはセゾン文化財団のヴィジティング・フェローとして日本に滞在し、「日本舞台芸術においてのテンネン世代」についてリサーチを行い、新しい世代の日韓舞台芸術の新しい交流方法と可能性を探求している。今年2015年5月のプロジェクト『安山巡礼道』の助成金を申請していたが、韓国アーツ・カウンシル側の意向で選考から落とされる。 

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