スーパーソニック開催に向けてクリエイティブマン代表・清水直樹氏が語る【インタビュー連載・エンタメの未来を訊く!】
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クリエイティブマンプロダクション代表・清水直樹氏
新型コロナウイルスの感染拡大により世界中の音楽フェスティバルが中止を余儀なくされるなか、クリエイティブマンが主催する『SUPERSONIC(スーパーソニック)』は9月の開催に向けて準備を進めている。毎年開催してきたサマーソニックに代わって開催される一年限りの秋フェスで、The 1975、ポスト・マローン、スクリレックスといった欧米でもヘッドライナー級のアーティストを筆頭にした豪華なラインナップが決まっている。
日程と会場は、東京が9月19日(土)~21日(月・祝)ZOZOマリンスタジアム&幕張海浜公園、大阪が9月19日(土)~20日(日)舞洲SONIC PARK。数万人規模の観客をリアルな場所に集める音楽フェスとしては、世界的にもコロナ禍以降初めてのものになる。
また、クリエイティブマンは6月19日~21日、27日~28日に『サマーソニック 2020』をオンラインのアーカイブフェスとして開催、あわせてスーパーソニックや今後のコンサート再開に向けたクラウドファンディングの実施も発表した。
こうした試みの背景にはどんなビジョンがあるのか。クリエイティブマン代表の清水直樹氏へのインタビューでは、スーパーソニックの開催にむけて、そして今後のライブエンターテインメントの未来に向けての、熱い思いのこもった話を聞くことができた。
――現在(取材日は6月17日)、緊急事態宣言は解除され様々な業界が経済活動を再開させています。とはいえ、ライブエンターテインメントはまだ元通りになっておらず、どういうステップを経て以前のように観客を入れたイベントを行えるか道筋を探っている段階です。他の夏フェスも中止や延期を発表しました。そんな中、スーパーソニックは開催に向けて動いているわけですが、清水さんはどういう考えをもってらっしゃるんでしょうか。
もしオリンピックがなくて例年通り8月にサマーソニックが予定されていて、今のコロナの状況にあったならば、僕もたぶん諦めていただろうと思います。時期もそうだし、幕張メッセというインドア空間もそうだし、アーティストの数も含めて、いろんな意味で諦めざるを得なかった。ただ、いろんな巡り合わせがあって、9月に、しかも全てのステージが屋外にあるフェスを開催するということが決まっていた。「ここから始めなきゃいけないんじゃないか」という気持ちになる巡り合わせだったという思いはありますね。
――そもそもスーパーソニックのプランはどういうところから始まったんでしょうか。昨年のサマーソニックが発表された際には、2020年のサマソニは会場が東京オリンピック・パラリンピックで使われることから休止になると発表されていたわけですが。
2019年にサマーソニックを20周年で3日間ソールドアウトして、大成功で終わって、そのときも来年には休みますと言ってました。ある意味、区切りとしてはそれで良かったんですけれど、今年はクリエイティブマンが30周年なので何もやらないのも寂しいなという気持ちもあって。そういうときに会場のZOZOマリンスタジアムさんが、来年の9月のシルバーウィークで日程が出せますという逆オファーをしてくれたんです。彼らとしてもサマーソニックがないのは寂しいし、経済的にもプラスになるので、音楽フェスをやってほしいという気持ちがあった。そこからいろいろ考えてみたんですね。9月という日程もいいし、僕らはEDC Japanというフェスを5月にマリンスタジアムと外周と幕張海浜公園のビーチの3ステージでやっている。そのスキームがすでにあるわけです。それをもとに秋フェスという新しい括りで1回きりのフェスをやろうということを、それを去年の9月から10月に思い立った。それが最初の始まりですね。
――4月にはヘッドライナーも含む出演アーティストの第一弾が発表されました。これはもちろんコロナの状況に至る前からブッキングに動いてらっしゃったわけですよね。
そうですね。去年の秋からそこから参加したいアーティストを募って、声をかけていきました。
――フジロックやロック・イン・ジャパン・フェスティバルなど他の大きな規模の夏フェスはほとんどが中止や延期となりましたが、その影響はありましたか。
それぞれの夏フェスのオーガナイザーとも話し合いました。彼らとしても当然やりたかったし、タイミング的に9月だったらもう少し考えていたというようなことまで話をしてくれました。そういうことも聞くと、全てがコロナで倒れたというのではなく、まだ可能性があるんだったら僕らがやらなきゃいけないという気持ちになったんです。業界的にも、まずクリエイティブマンからリスタートしてほしいという期待がかけられているようなことも感じた。だったら僕らがこれを始めなきゃいけない。そういう使命感はありますね。
――先が見えず、かつ経済活動が戻ってきてもライブやイベントのような場所にリスクがあると見なされているような社会状況の中で、誰かが先陣を切る必要があった。そこを担おうという意志があったということでしょうか。
その意志は大いにあります。今の物差しで考えたらみんなやらないんですよ。けれど、僕らは何ヵ月先を予測して動かないといけない。そのときに状況は今より悪くなっているかもしれないけれど、僕は良くなっていることを考えながら進めているので。もちろんロードマップを踏まえて、現状でも動員は60%にしてやる方向性です。そうすると収益は当然思いっきり少なくなる。でもそれは配信で補おうと思っています。もしこれが今年9月に本当に行われたら、世界初のインターナショナルな大きいフェスになるんですよ。コーチェラもない、グラストンベリーもない、いろんな国でフェスが中止や延期になっている。そうすると世界的なニュースにもなるし、配信したら世界中のかなりの人たちが観たいと思うはず。そういうところでビジネスとしてもちゃんと成立すると思っています。
――おっしゃるとおり、スーパーソニックに出演するのはTHE 1975やポスト・マローンやスクリレックスのような世界的に活躍しているアーティストなので、日本国内だけではない、大きなインパクトを持ったプレゼンテーションになると思います。
そうなりますね。何より観た人が勇気づけられると思うんです。「日本では始まった、次はオーストラリアだ、ヨーロッパだ」と。僕も実際に台湾で野球が始まって、ベトナムでサッカーが始まって、どちらもお客さんを入れてやっているというニュースを見ると期待するし、勇気づけられる。それを音楽の世界でも発信したい。それができればすごくいいスタートにできると思う。日本だけでなく、世界に向けて大きなフェスをやれるということを最初に示したい。それくらいの大きな意義を考えています。
■3ヵ月で20〜30億の売り上げが全て無くなった
――振り返っての話も聞かせてください。クリエイティブマンさんが最初に新型コロナウイルスの感染拡大防止による中止や延期の判断を下したのはいつ頃でしたか。
最初に来日中止になったのは2月下旬のピクシーズですね。それを決定したのが2月中旬の頃です。でも、その時点ではまだ日本でのライブをやりたいアーティストはいたんです。たとえばA-HAは約10年ぶりの来日ツアーが3月10日から決まっていて、しかも全公演ほぼソールドアウトという状況でした。その前のオーストラリアやニュージーランドはそこまで影響もなかったので、彼らとしてはやる気に満ちていた。そこで3月7日のニュージーランドのショーが終わったその日の夜に話し合いをして、数時間で日本の状況を説明して、そこから次いつやるのか、その時にちゃんとギャランティも保証されるのか、そういうことも全て話して、納得してもらって、日本に来るのをキャンセルしてもらった。そういう状況もありました。
――3月以降は基本的に全ての公演が中止や延期となりました。
早い段階からのアーティストサイドの判断もあったんですけれど、基本的にはクリエイティブマンのほうから今は来日できる状況ではないしライブをできる状況ではないということを全てのアーティストに訴えて、一つ一つのライブについて会場を調整して延期にしたり、次の日程を用意できないから中止にしたり、そういった交渉をしていきました。それが3月に入ってからの大きな仕事でした。
――3月から5月までの3ヵ月で、クリエイティブマンさんの経済的なダメージというのはどれくらいの規模でしたか。
洋楽公演だけでも、クラブからアリーナまで全部含めて3ヶ月で述べ約100公演以上が全て中止や延期になりました。もちろんそれ以外にも日本のアーティストの公演もある。それらの公演が実際に行われていたら、売り上げとしては20〜30億というレベルになっていたはずです。それが全て無くなったというくらいのインパクトはありました。
――アーティストによって意思決定や考え方はまちまちだと思うんですが、グローバルなツアースケジュールを組んでいるアーティストサイドとはどんなやり取りをされましたか。
たとえばアヴリル・ラヴィーンやグリーン・デイは対応が早かったですね。何故なら彼らは中国を含めたアジアツアーの一貫として日本が入っている。なので、武漢で感染が広まった1月の時点で中国のツアーをキャンセルする判断を下しているんです。そういう中でアジア全体を考えてツアーはできないということになった。そこは明確に違いが出ていたと思います。
■一番の問題は、ビザの発給がいつ下りるか
――スーパーソニックを開催するにあたってのロードマップ、実際に観客を入れてフェスを行うガイドラインや安全策に関してはどのようなことを考えていらっしゃいますでしょうか。
まず敷地を貸してもらえるZOZOマリンスタジアムさんとはすでに話をして、ちゃんとできるという保証をもらっています。彼らも実際に野球の試合で段階的に観客を増やしていくことを考えている。最初は無観客でそこから50%、それを60%、70%にしていこうとしているので、スーパーソニックも最終的に9月の時点での可能なキャパシティで開催する。まずはお互いでそういうシミュレーションを立てています。
――プロ野球は6月19日に無観客で開幕しますが、7月以降は観客を入れての試合を行う見通しも示されています。そこからどういう形で開催すれば安全なのかのシミュレーションが日々検証されていくということですね。
そうですね。そういう意味では僕らはすごく助かっていると思います。人の移動もあるので、全国どこでもフェスができるかと言えばそうじゃないと思うんです。そういう意味では東京の都市圏内でやれるというのも進めやすい部分にはなっていると思います。そのうえで、いろんなロードマップを踏まえて対応を考えています。もちろんステージごとのキャパシティも決めますし、マスク着用の義務化もしますし、検温や消毒のコーナーも作ります。様々な対策を考えています。
――スタジアム周辺の対策に関してはどうでしょうか。
これは東京と大阪で全く別のものになるので、大阪ではキョードー大阪さんがいろいろ考えながらやってくれています。東京で言えば、ビーチステージはエリアがかなり広いので、それを上手く利用して、ちゃんと距離をとって余裕をもって休める場所としてビーチを使うことも考えています。入退場にしても、終わった時に時間差で退場してもらったり、ステージの時間を変えたり、様々なことを考えて、できるだけ密集がない工夫をしていこうと思います。
――スーパーソニックの開催に向けての懸念事項として、海外のミュージシャンが来日できるのかどうかというところもあると思います。まずアーティストサイドは来日するということに関してどういったスタンス、どれくらいのモチベーションを持っているんでしょうか。
モチベーションはめちゃくちゃあります。何故ならスーパーソニックはコロナが広まってから世界で初めてのインターナショナルなフェスになるわけなので。そういうことを話すと、みんな逆に気合が入るんです。けれど、今の一番の問題ではモチベーションでもなく、会場の問題でもなく、ビザの発給がいつ下りるか。そこだけだと僕らは思っています。
――ビザの問題というと、詳しくはどういうことでしょうか。
労働ビザでの入国に関して日本政府がいつからOKを出すかということですね。アーティストやそのスタッフはツーリストとは違って、労働ビザで入国する。そうしたら僕らがホテルや移動も含めて管理者としての役割を担うので、ツーリストが課せられるような2週間の待機という制約はないんです。ツーリストが入国するのは現状ではまだ無理だと思っているので、海外から沢山のお客さんに観にきてほしいとは考えてないです。ビジネスでの入国に関しては、今はまだ制限がありますが、現在はベトナム、タイ、オーストラリア、ニュージーランドの4ヵ国について入国制限を緩和する方向になっています。そしてその先で、やはりアーティストのほとんどを占めるイギリスとアメリカからの入国が可能になるかどうか。問題はそこだけですね。
――ここに関しては現状では不透明な部分もありますが、いつぐらいに目処をつける考えでしょうか。
それを緩和するタイミングについては、僕らも毎週のように入管などと話をしています。ビザはギリギリで2週間から3週間前、通常は1ヵ月前には必要なので、8月中旬時点ではこの状況をクリアにしないと開催は難しい。ただ、この先2ヵ月、3ヵ月にわたって誰もビジネスの出入国ができないということになると、音楽業界だけじゃなく、すべての業界が厳しくなっていく。そのあたりはしっかりと見極めながらやってくれるのではないかと思いますが、現状では慎重に話し合いを進めていますね。
■将来は会場の と配信の の両方でビジネスが大きくなっていく
――ビジネスモデルについての質問もさせてください。実現に至ったとしても60%のキャパでは興行としては採算のとれない動員数だと思うんです。それをカバーする形での配信ということだと思うんですが、このあたりについてはどう考えてらっしゃいますか?
配信というのは、フェスだけじゃなく、いろんなライブの将来のモデルになると思います。それも単純に配信ライブをやって利益にするのだけではなく、将来は会場の
――これまでは、たとえばコーチェラをYouTubeで生配信するなど無料配信の形態も多くありました。
それはスポンサーが広告料としてお金を出して、それがプロモーターの利益になるというモデルですね。観るお客さんが
――ライブエンターテイメント業界全体で、配信ライブの新しいビジネスモデルを構築していく必要があるということですね。
そうですね。そこで僕がプロモーターサイドとして言えるのは、その制作をちゃんとプロモーターが自分たちでリスクを持ってできるかどうかが分かれ道になるということですね。たとえば今回のスーパーソニックは、僕らが配信の権利を誰かに渡してしまうのではなく、自分たちで映像収録と制作スタッフを雇って、自分たちでコストを出してやろうとしているんです。ということは、権利も含めて自分たちでコントロールできるということなんですね。そこまでプロモーターが踏み込むかどうかも含めて、いろんなことを考えていかなければいけないんじゃないかと思いますね。
――毎年「出れんの!?サマソニ!?」として行ってきた一般応募による出演オーディションも今年は「出れんの!?スパソニ!?」として開催されます。
これも大きいですね。僕らクリエイティブマンがイープラスさんと一緒にずっとやってきたことですが、今はライブハウスの営業も止まってしまっているので、彼らのようなミュージシャンが演奏する場所もないんです。デビューしたい、沢山の人に自分のパフォーマンスを見せたいと思っていた人たちの機会がない。そういう人たちのためにも「出れんの!?スパソニ!?」がきっかけになってほしい。スーパーソニックは大きなフェスですが、ライブハウスやクラブにも、そこで普段出ているようなアーティストにとっても救いになると思います。
■ピンチをチャンスと捉えるかどうかが、次に向かうステップの肝になる
――クリエイティブマンさんとは、ライブ・ネーションやAEGといったグローバルなコンサートプロモーターとの関係性も深いですよね。そういった企業はまさにビジネスの再構築をしている最中だと思うんですが、どんな風に見ていらっしゃいますでしょうか。
ライブ・ネーションとは特に関係が深いですね。ライブ・ネーション・ジャパンはそもそもクリエイティブマンが始めたわけですし、最近でもダウンロード・フェスティバルや次のビリー・アイリッシュの来日公演はライブ・ネーションとクリエイティブマンのコープロモートという形で共同開催しています。とにかく、ライブ・ネーションをはじめ海外のプロモーターは状況がシビアなので、スタッフをどんどんカットする方向にいっています。あとは海外、特に車で移動するのが主体の場所では「ドライブインライブ」という、車からライブを見るイベントが始まったりもしています。動員は少ないけれど、そこにスポンサーをつけて収益にしている。でもそれがメインになるわけはないので、皆が考えているのは、はやく正常に戻ってほしいということですね。
――各国で状況が違いますが、やはり欧米のほうが感染拡大のダメージは大きいですよね。
そうですね。そういう中で最も厳しい状況にあるのは僕らが付き合っているエージェントという、アーティストの契約をする会社です。彼らの中には50%以上の人員をカットしたところもある。かなりシビアな状況にあります。彼らとしては、まずオーストラリア、ニュージーランド、日本のツアーを早めにブッキングしたい。それが一つの安心材料になって、そこからアメリカやヨーロッパのツアーを組むほうが安全である。そういった世界の動きを見ながら、2021年、2022年に向けてブッキングをスタートしているという状況です。
――先日には日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、コンサートプロモーターズ協会の3団体が、音響や照明やステージ制作などを担うスタッフや事業者を支援するための基金として「Music Cross Aid」を創設しました。こういった動きについてはどんなふうにお考えをお持ちでしょうか。
昨年には
――先日には「サマーソニック 2020」のオンラインでのアーカイブ配信としての開催と、クリエイティブマンとしてのクラウドファンディングの立ち上げも発表されました。こちらはどんな考えをもとに始めたものでしょうか。
これは業界の動き以前に自分たちで考えていたことなんですね。まずきっかけとしては、自粛期間にサマーソニックの過去の映像を無料配信したことの反響がすごく大きかったことがありました。こうした映像を待っていたお客さんも多く、プロモーターはバーチャルでもちゃんと力があるんだということを感じた。そしてもうひとつは、ここ最近、クリエイティブマンがこれだけダメージがある中で、心配してくれるお客さんがとても多いんです。僕らのやっている3Aの会員システムを、ライブがない中であえて更新してくれた人もいる。
――スーパーソニックは9月に開催されますが、その先、来年以降も含めた長期的なビジョンに関してはどんなことを考えてらっしゃいますか。
まずは今年延期になったグリーン・デイやアヴリル・ラヴィーンのような大きなツアーは、もう日程も発表しているので、アーティストのためにも
――これから、新しいライブについての考え方や方法論が、いろんなところから出てくると思います。そのあたりについてはどうでしょうか。
やはりビジネスとしては、ピンチをチャンスと捉えるかどうかが、次に向かうステップの肝だと思います。これまでの現状が戻ってくるのを待っているだけではチャンスはないと思うので。そう思っている人たちは新しいビジネスに向けて動かなければいけない。みんながそういうことを考えて実行すべきだと思っていますね。
取材・文=柴那典
※この取材は6月17日に行われました。