シンセ番長・齋藤久師が送る愛と狂気の大人気コラム・第七十四沼 『ドイツ万歳!リリース沼!』

2020.6.30
コラム
音楽

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「welcome to THE沼!」

沼。

皆さんはこの言葉にどのようなイメージをお持ちだろうか?

私の中の沼といえば、足を取られたら、底なしの泥の深みへゆっくりとゆっくりと引きずり込まれ、抵抗すればするほど強く深くなすすべもなく、息をしたまま意識を抹消されるという恐怖のイメージだ。

一方、ある物事に心奪われ、取り憑かれたようにはまり込み、その世界にどっぷりと溺れること

という言葉で比喩される。

底なしの「収集」が愛と快感というある種の麻痺を伴い増幅する。

これは病か苦行か、あるいは究極の癒しなのか。

毒のスパイスをたっぷり含んだあらゆる世界の「沼」をご紹介しよう。

第七十四沼 『ドイツ万歳!リリース沼!』

昔昔その昔。アメリカにベルトラムくんというテクノトラックメーカーがいたそうな。

ベルトラムくんの作り出す硬質なテクノトラックは、アメリカ人には全く受け入れられず、肩身の狭い思いをしていた彼は、ヨーロッパに移住したそうじゃ。

やがて、ベルトラムくんはヨーロッパのレコードレーベルと契約し、水を得た魚のように活き活きと活動を始めたのじゃが、ヨーロッパ人にバカ受けすると同時に世界中のテクノファンのハートをわしづかみにしたのであった。おしまい。

 

さて、われわれ日本人の齋藤久師と齋藤礼那夫婦はというと、齋藤礼那はうどん県として有名な高松の刀鍛冶屋に生まれ、鉄の音とシンナーの匂いを嗅ぎ、工場の階段から転落し頭を強打し、片目の視力をほとんど失い、その代わりに聴力が異常に発達するという幼少期を経て高校を卒業するなり、何を間違えたかテクノの本場であるベルリンではなく、アメリカのニューヨークへ飛んだ。

しかし、ベルトラムくんとは別のテクノ一派がアメリカにも存在した。

そう。デトロイトテクノの連中だ!

じゃあ、はじめからデトロイトにいけばよかったのにね。

 

一方、わたくし齋藤久師は日本で活動していた。理由は簡単だ。海外が怖かったのだ。

自販機もコンビニも無い海外が怖かった。

そして、自分がドイツ語を喋れるようになるとは到底思えなかった。

経済的にも商業音楽を作っていた方が安全という、人生最大のミスチョイスを犯してしまった。

日本の第二次テクノの黎明期。つまり90年頃。

プロデューサーには「この曲、いつ歌が入ってくるの?」と何度も聞かれた。

入ってこないよずっと。

そんな2人はレナが帰国後2008年に出会い、私はその後 彼女のユニットである「galcid(ギャルシッド)」

をプロデュースする事になった。

ポンコツの2人は意気投合し、間も無く結婚する事になり、2人の子宝にも恵まれるが、2人はいきなり商業音楽を全て止める決断をする。

多動な2人はお互いを見る事で、今まで行ってきた間違いに気づいたのだ。

「自由に、そしてだれからの命令も受けずに音楽を作りたい!」

それまでボーカリストだった齋藤礼那はマイクを捨て(ほっぽり投げたに近い)、シンセサイザーのツマミを触り出した。

ニューヨークに住んでいた時、楽器屋でビースティーボーイズとキーボードの取り合いになり勝利した女だ。

強い。

わたくし齋藤久師は子供の頃からシンセサイザーだけを道具に食ってきたので、ロジカルに、そして「惰性」で音を出す事が身に染み付いてしまっていた。ところが齋藤礼那は、それとは真逆の荒削りではあるがフレッシュで能動的なサウンドをいとも簡単に捻り出しまくるのだ。無知というものは素晴らしい。

多動同士が結婚し、しかも同じ仕事をしている。そのため誰にも指示や文句を言われずに制作するという最高の環境の元で行われる。

健全だ。

例えば広告音楽とは、商品や企業のイメージをブランディングする大きな役割があるため、クライアントと音楽制作会社が細心の注意をはらって行われる。

時には、ブっとんだ広告音楽を作らせていただいた時もあるが、それは稀だ。

大体は「無難にまとめる」方向が多い。

 

そんな齋藤久師と齋藤礼那がタッグを組んだわけだから、大爆発するのは当然だ。今までの怨念をはらすがごとく、やりたい放題のレコーディングは楽しくてしかたがない。ルールなんて一つもないからなんだ。

私たちのスタイルはレコーディングもライブも即興だ。

その際使用するのはアナログシンセサイザーとテレパシー。

galcidのファーストアルバムはアメリカのDetroitundergroundから発売された。しかもVinylで。

一発録音でトラック数は3つと、衝撃の音数の少なさに世界中の多くの著名ミュージシャンから「アホちゃうか?」と絶賛の声をいただいた。

ここが少々問題だ。ミュージシャンからいくら賞賛されても、作品を買ってくれるリスナーさんが居ないと我々は餓死する。

でも嬉しいもんだ。彼らはみな同じ事を私たちに言った「勇気があるな。ボクはその勇気を忘れていたよ」と。

つまり売れっ子ミュージシャンになってしまうと、人気をキープするためには売れた曲のイメージを保ち続けなくてはならないという事だ。時代はどんどん進んで行く。しかし、彼らはブレイクした時のままを演じなければならない。

【売れる=お金=不自由】

この方程式はアインシュタインの相対性理論

=mc2

と並ぶ20世期最大の発見だ!

 

時間の流れは早い。音楽も一度売れたら大変なストレスを背負う事になる。常人であればあるほど。

だから、ヒット曲なんて出しちゃだめなんだ。

家族が普通に暮らせるくらいの経済力があれば十分だ。

もうランボルギーニーカウンタックも欲しく無い。

 

私たちはその後も、かなりのヤンチャなエクスペリメンタル音楽を信念を曲げずに続けてきた。

すると、どういうわけか、お国のお偉い省庁からの仕事から、ボイラールームやDOMMUNEなど、いわゆるモノホンのセクションから依頼が相次ぐようになった。

ファーストアルバム発売後は世界中のレーベルから12inchシングルを中心に発売しまくった。

同時にgalcidは毎年ワールドツアーを行い、その存在を拡張していった。

昨年末には暴れん坊(音の方ね)で有名なgalcidがambient作品をカセットテープと配信の両方を世界発売したが、日本では3時間でSold Out!世界の在庫も2週間で売り切れに。

galcidは礼那のユニットで私はプロデュースワークに専念するが、昨年はそれぞれソロで12inchレコードを発表。

礼那はlenacid名義で、私はhisacid名義でそれぞれリリースをした。

私の曲に関しては「レバ刺し」だ。もちろん坂本九さんの「SUKIYAKI」を意識し、ビルボードのチャートを狙ったが見向きもされなかった。

しかし、リリースの話は止まる事を知らないくらいに押し寄せてきた。

なんと、本場ドイツの老舗テクノレーベル「Force inc.」が復活をするという事で20枚のレコードをシリーズでリリースするという。

そのトップバッターに選抜されたのが、なんとgalcidだ。

一瞬耳を疑ったが本当だった。

しかも、あのMijk Van Dijkおじさんが一曲リミックスしてくれた。

それだけでも嬉しいのに、間髪入れずに我々の最も敬愛するこちらもドイツのレーベル「Mille Plateaux」から同時に声がかかった。

「きみたち、変な音だから、ウチのレーベルから2枚組のフルアルバムだしてくんろ」と。。。

なんなんだ。思わずほっぺたをつねったがこれも現実だった。

そして4月には大規模なヨーロッパツアーが組まれた。

そ・し・て。。。。。。。。コロナショーック!

 

4月のヨーロッパツアーが全公演中止!!!!!!!!!!

レコードプレス工場がストーーーーーーーップ!

ディストリビューターがロックダウンでストオオオオオオオオ〜〜〜〜〜〜〜〜ッップ!

しかし、多動な私たち齋藤はビクともしないのであった。

パトレオンというパトロンシステムのサブスク配信により、毎週出来立てのフレッシュな音楽を届けるサービスを開始!

これが作っている私たちも楽しくてしょうがない。なにしろ、作ったその日にアップしてパトロンの方々に届けられる。

しかも、これまた実験の場に最高であるのだ。普段、galcidといえば耳栓無しでは聴けない金属音のリズムのシャワーというイメージであるのに対し、パトレオンでは、ほぼ全てのトラックにメロディーを入れているのだ!!!!!!

バラエティーも豊富だ。こちらからサンプルを是非ご視聴していただきたい。

https://soundcloud.com/galcid/18min-samples

galcidのパトロンになる方法はこちらから!

https://galcid.com/galcidpatreon/

 

そして4月のヨーロッパツアー全公演も中止になったが、自宅→ヨーロッパ→世界というユニークな形で配信ライブをいくつも行った。

そして気がつけば6月に前述のForce inc.からgalcidの12inch「"Bucket Brigade Device"!」がリリースされ、

サンプル↓
https://soundcloud.com/achim-szepanski/snippets-force-inc-music-works-fim-2701-galcid-bucket-brigade-device-ep-vinyl-digital

同月26日にはMille Plateauxから、これがなんとgalcidでは無く「Saito」名義でフルアルバムがリリースされたのだ!

笑っちゃうよね?「Saito」だよ?www

まあ、これには訳があって。

このSaitoってのが礼那と私の2人のユニットなわけですよ。つまり、私も演奏しているの。

だからいつものgalcidとはまた一味ちがうよ〜!おかしい人が2人で作っているわけだから

変×変=∞変。な訳ですよ。

ここからその変なの聴けるから、気に入ったら買ってみてください!買え!絶対に買うんだ!わかったか!

https://forceincmilleplateaux.bandcamp.com/album/downfall?fbclid=IwAR3rjZ-t22nEAhqko_L1D2S1KxrfV3H_2AGFjOKrysW10nb4MfBpMKSBCTE

そして、なんと7/1、渋谷PARCOに新設されたSUPER DOMMUNEにてgalcidとSaitoのリリース特集を

豪華ゲスト陣を迎え5時間ブチ抜きで行います。

しかも、コロナ規制以降、初の客入れという事もあり、楽しくなりそうです。

残念ながら、コロナの影響で人数がなんと35名までしか入れませんが奇跡の瞬間を現場で目撃してください!

詳細と予約はこちらから!

https://galcidxsaito.peatix.com/?fbclid=IwAR2s_xoqe6NHgFhRbctR4ADgaNsp66G3PsEeTMvJq2zU1pcQ00ArEtFqGJg

ドイツ・ベルリンのForce Inc.からのgalcidリリース「Bucket Brigade Device」と同じくベルリンのMille Plateaux(ミルプラトー)からgalcid x 齋藤久師のユニット「SAITO」として「Downfall」が6月26日にリリースされる。 その2つのリリースを記念してSUPER DOMMUNEにてトークとライブのセッションを行います!! この日よりSUPER DOMMUNEでは客入れをスタート! マスク着用で35名限定。 もちろんいつもの配信も行います! ぜひ、現場に来れる方は音を浴びに来てください! 配信でのご参加の場合は、イヤホンかヘッドホンの着用をお勧めします!! 1 Lena Galcid × 齋藤 久師 (Hisashi Saito)|TALK SESSION 2 saito x Ukawa Naohiro|TALK SESSION 3 山崎 阿弥 (Ami Yamasaki) ×galcid ×齋藤久師 x Michael Smith-Welch (Visual)|LIVE SESSION 4 テン テンコ × galcid|LIVE SESSION 5 Renick Bell × 齋藤久師|LIVE SESSION 6 SAITO|LIVE SESSION 7 galcid x marimosphere 浅田 真理 (Mari Marimo Asada) (Visual)|LIVE IMPROVISATION 入場料:2,500円

あと、実はね、もうその次のアルバムが完成してるのよ。去年にwww

もちろん、galcidが最初にデビューしたDetroitundergroundからね!

これがまた、コロナの影響でまだプレス工場が動いてないのですよ。でもね、私たち、作品はブツに拘っているの。

例えばレコードやテープといったものね。

もう絶対的に物として発表したいのです。

なんでだろう。わからない。誰か教えて。

 

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