尾上松緑、「紀尾井町家話」を語る ~歌舞伎ファンの間で注目度上昇中の配信トークイベント
尾上松緑(『土蜘』叡山の僧智籌実は土蜘の精、『慶安太平記 丸橋忠弥』丸橋忠弥、『神霊矢口渡』渡し守頓兵衛) (C)松竹
尾上松緑が席亭となってお客様をおもてなしするトークイベントを、イープラスのライブ・ストリーミング・サービス「Streaming+(ストリーミングプラス)」で配信する「紀尾井町家話」。お酒を飲みながらざっくばらんに語り合うのは、私生活に趣味の話、真剣な芸談……次々飛び出す幅広いトピック、親密な雰囲気が新鮮と、歌舞伎ファンの間でじわじわ評判を呼んでいる。
配信は大人~な雰囲気漂う夜9時から。時に「そんなこと、喋っちゃって大丈夫!?」と観ている方がハラハラする“解放区の夜電波”で、気取らず、飾らず、ズバズバ本音で喋る松緑は、名ホストの姿を見せてくれる。本当に語り合いたい仲間が集い、のびのびと。息の合ったやりとりからは、ゲストの歌舞伎俳優たちから親しみを込めて「あらし(松緑の本名)」「あらしさん」と呼ばれる“紀尾井町”の素顔も透けて見えるよう。パソコンの前にお酒を用意して観れば、新しい歌舞伎の楽しみ方が広がること間違いなしだ。
このほど松緑に話を聞いた。
尾上松緑『寺子屋』武部源蔵 (C)松竹
――俳優の皆様と“オンライン飲み”するような楽しさが味わえる「紀尾井町家話」、濃密なトークが聞けると、コアな歌舞伎ファンの中で話題です。お席亭の松緑さんから、改めてコンセプトを教えてくださいますか。
まずはコロナで気が沈みがちな今、お酒を呑みながらくだけた雰囲気で、「皆さんが明るい気持ちになれるようなコンテンツにしたい」という気持ちがありました。先日、日本俳優協会・伝統歌舞伎保存会で「歌舞伎ましょう」というYouTube配信(https://www.youtube.com/channel/UCrrqtFzHct-BLRalxkQtbDg)も始まり、僕も出演させていただいていますが、こちらはカッチリと正統派でお届けすることになると思います。なので住み分けといいますか、「紀尾井町家話」では、これまであまりお客様にはお見せしなかった面を……という狙いもあります。メディアの影響で、歌舞伎俳優というとお行儀よく“おさまっている”イメージを世間がお持ちだと思うんです。どちらが本当の姿ということではなく、固定概念を取り払っていただきたいという思いもありますね。
――形式ばらない会話に、リラックスした皆様の姿が垣間見られるスタイル、歌舞伎ファンにはたまらない楽しさがあると思います。ご自宅での普段着姿も新鮮ですし!
大概、僕たちが皆様の前にでる時は、スーツや着物、あるいは舞台の拵えと決まっていますからね。そうしたステレオタイプもここでは一つ取り払って、あえておしゃれもせず、普段着のままで出演しています。最初に「家話」の宣伝で出した写真も、部屋着で檸檬堂(お気に入りの缶チューハイ)を持って撮りましたし。リアルに“@ホーム”なショットがあそこまでネットニュースでご喧伝いただけるとは思っていなかったので、多少、自分でも面食らいましたけれど(笑)。
尾上松緑と檸檬堂
――これまでの配信について順に振り返らせてください。まず、記念すべき第一夜のゲストは、親交の深い中村松江さんと坂東亀蔵さんでした。
舞台の上に乗っているときはお客様を意識しますけれど、僕は芸能人でもタレントでもありませんし、自分のことを“ただの人”だと思っているんです。なので、そういった自然なスタンスでいられる本当の仲間を一回目に呼びたいという思いがありました。ああ見えて初回は僕も緊張していましたし、心細かったので、頼りになる友人二人を選んだ感じですね。普段からの付き合いがあるので、僕のくだらない一言をキャッチして面白い方向に転がしてくれました。
6/13「紀尾井町家話」第一夜配信
――有料配信をご覧になった方がいるので詳細は略しますが、怪我をされた松緑さんへの松江さんの心遣いは沁みるエピソードでした……! もうすぐ亀蔵家に双子の赤ちゃんが生まれることもご本人が発表され、まさかのサプライズでしたし。笑いの絶えない心温まる初回でしたね。第二夜のゲストは、坂東新悟さんと中村鷹之資さん。鷹之資さんはまだ21歳、お若い世代への目配り、交流も見え、これまた楽しい回でした。
お父様の(五世)中村富十郎の小父さんに可愛がっていただいたこともあり、恩返しではないですけれど、教えていただいたことを彼にお伝えしたいと思っているんです。先日も「ちょっと見ていただけませんか」と言われお稽古をしたばかり。それで「若者代表として出てみない?」とお誘いしたら「ぜひ」と快諾をいただきました。その鷹之資さんとスーパー歌舞伎Ⅱ(セカンド) 『新版 オグリ』で共演し、古典の話もできるという意味で新悟さんをお呼びしました。彼ともよく飲んでいるので、僕の性格をよく理解して、突っ込まれ役になってくれる。ありがたい後輩です。
6/20「紀尾井町家話」第二夜配信
――第三夜は中村梅枝さんと中村莟玉さんでした。
梅枝さんは、お客様から僕のホームページに寄せられる「ゲストに呼んでほしい」リクエストが1・2位を争う多さだったんです。彼は純然たる歌舞伎ファンの人気が高いですからね。彼に「誰が話しやすい?」と聞いて出てきたのが、莟玉さん。昨年、梅丸から名前を改めて、「これから」というタイミングで舞台に立てず足踏み状態になってしまった彼の元気な顔を、ファンの皆様にご覧いただける機会になればと思いました。
――スマートな立ち居振る舞いのイメージがある梅枝さんが、松緑さんにツッコまれて負けずに威勢良く返す様子も、お付き合いの深さ長さを感じさせました(笑)。
女性から見ると大いに迷惑かもしれませんが、僕は外で偉ぶって、家だと女性に甘えるタイプなんです。梅枝さんはそんな亭主関白なところを「はいはい、わかったわよ」といってくれる女房役。ツッコめばツッコむほど面白く返してくれるし、それは松江さんも亀蔵さんも新悟さんも同じで、要は僕が皆さんに甘えているだけで、優しく包んでもらっているんですよ……。
7/1「紀尾井町家話」第三夜配信
――あと数十分後に第四夜本番スタートというタイミングでお話を伺っておりますが(7月4日配信終了)、公私ともに親交の深い坂東彦三郎さん、ベーシストの村井研次郎さんがゲストですね。
先ほどの“女房役”の話から言うと、彦三郎さんはその真反対。ゴツい男同士なので、いい意味で会話がぶつかり合うんじゃないかという期待が(笑)。村井さんは学生時代の僕を知る同級生ですし、ロッカーなので、新しい方向性の話題が出そうで、面白コワい回ですね。
7/4「紀尾井町家話」第四夜配信
――7月11日の第五夜は、初登場の片岡亀蔵さんと、第一夜につづき2回目の出演となる中村松江さんがゲストです。
(片岡)亀蔵さんはうちの父(初世辰之助のち三世松緑追贈)にずっと付いていらしたので、子どもの頃はもちろん、僕が家に帰りたくなかった時代のこともよく知っていますし(笑)、一番最初に“大人の遊び方”を教えてくださった方です。松江さんに関しては「マニアックな映画のことが喋りたいから」と亀蔵さんからのご指名で、2回目のご登場をお願いしました。すでに出演いただいた方も、2度3度と出ていただきたいと思っています。
――第五夜は、皆さんのこだわりある趣味のお話から若い頃からの御共演のお話、そして松緑さんのヤンチャ時代のお話と、幅広い話題が伺えそうですね。
ご期待ください。「家話」で僕が気をつけているのは「人の悪口や批判は言わない」「ギリギリの話題も、面白いところに着地したい」なんです。随分とくだけた話もしていますが、こう見えて、多少は気をつけているんですよ(笑)。
尾上松緑(『慶安太平記 丸橋忠弥』丸橋忠弥) (C)松竹
――松緑さんの名司会ぶりは毎回感心しながら拝見しておりますが、あれだけ何缶も檸檬堂を飲み干しながら、その判断がきくのがすごいですね。
僕の中で缶チューハイはジュースなので大丈夫です。ウィスキーや日本酒を飲んでしまうと多分、次の回はなくなってしまうかと(笑)。
――お膝の上でゲスト出演の可愛らしいワンちゃんたちも気になっております……その日によって登場する子が違いますね。何匹飼っていらっしゃるんですか?
一番上がテリア&ポメラニアンのミックス(雑種)の豆蔵、次がマルチーズ&チワワの紅煉(グレン)、白い子が唯一の女の子でマルチーズ&プードルのまる子、全部で3匹です。純血種だと形が決まってしまうけれど、ミックスは突然変異があって面白いんですよ。余談ですが、新聞で「家話」を取り上げてくださって「強面(こわもて)で寡黙なイメージとのギャップ」とありましたが、大型犬でも飼っていそうな印象なんでしょうかね(笑)。
尾上松緑(『土蜘』叡山の僧智籌実は土蜘の精) (C)松竹
――今後の展開についても伺えますか。
経験したことのない不安な世の中ですから、お客様の日々のストレスが少しでも軽減されればと思っておりますし、今はある意味、舞台に出られない役者たちの発散の場にもなっている気がします。このスタンスは継続したいですね。ありがたいことに好評をいただいているので、ペースは変わるかもしれませんけれど、歌舞伎座が開いても継続できればと思っています。村井さんのように、歌舞伎以外のゲストも考えていますし。あくまでも本業は舞台ですから、この場で舞台映像を丸々流すということはしません。もちろん松本幸四郎さんがなさっている「図夢歌舞伎」のような試みは素晴らしいし、作品を配信することは決して否定はしないけれど、僕はあくまでも「こんなくだらない話をしている奴がどんな芝居をしてるんだろう?」と思ってもらえる仕掛けというか、そうした流れをつくる配信を心がけたいです。
――「○○の役がいいよ」「あの芝居がやりたいね」と話題に上がった演目は「あ~その配役で観たいなぁ!」と思わされますし、一日も早く皆さんの舞台姿を観たいと思わされる配信です。第三夜で話がおよんだ、梅枝さん、莟玉さんとの『菊畑』(「鬼一法眼三略巻」三段目)は、ぜひ実現いただきたいですね。
ありがとうございます。ちょっとしたステマじゃないですけど、配信で喋ったことが後々、松竹の方たちの耳に入って『やろう』と思ってくれるといいな~」っていう姑息な考えも(笑)。もちろん僕が智恵内じゃなくていいんですよ。後輩たちのチャンスに繋がったら嬉しいなと思っています。
――いえいえ、そこはやはり松緑さんの智恵内で拝見しなくては! 今後の「紀尾井町家話」にも注目しております。本日は配信直前のお時間を頂戴し、ありがとうございました。
尾上松緑(『蘭平物狂』奴蘭平実は伴義雄) (C)松竹
取材・文=川添史子
配信情報
■出演:尾上松緑(席亭)、山崎咲十郎(ゲスト) 坂東八大(ゲスト)
■配信日時 : 2000年7月18日(土)21:00 配信スタート (約70分程度を予定)
※翌日21時までアーカイブ視聴可能
■配信場所 : イープラス「Streaming+」
■ : 2,000円(税込)
紀尾井町夜話特別編 「紀尾井町家話 第七夜」
■出演:尾上松緑(席亭)、市川高麗蔵(ゲスト)、坂東亀蔵(ゲスト)
■配信日時 : 2000年7月25日(土)21:00 配信スタート (約70分程度を予定)
※翌日21時までアーカイブ視聴可能
■配信場所 : イープラス「Streaming+」
■ : 2,000円(税込)
■出演:尾上松緑(席亭)、中村松江(ゲスト)、坂東亀蔵(ゲスト)
■配信日時:2020年6月13日(土)21:00~
■出演:尾上松緑(席亭)、坂東新悟(ゲスト)、中村鷹之資(ゲスト)
■配信日時:2020年6月20日(土)21:00~
■出演:尾上松緑(席亭)、中村梅枝(ゲスト)、中村莟玉(ゲスト)
■配信日時:2020年7月1日(水)21:00~
■出演:尾上松緑(席亭)、坂東彦三郎(ゲスト)、村井研次郎(ゲスト)
■配信日時:2020年7月4日(土)21:00~
■出演:尾上松緑(席亭)、片岡亀蔵(ゲスト)、中村松江(ゲスト)
■配信日時 : 2000年7月11日(土)21:00~