ミシェル・ミチナが紡ぐ、R&Bやジャズ、シャンソン、J-POPの陰影も垣間見えるハイブリッドサウンド

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ミシェル・ミチナ

ミシェル・ミチナ

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日仏ハーフのシンガーソングライター&ピアニスト、ミシェル・ミチナが1stアルバム『息吹 Le Souffle』をリリースした。彼女が育ってきた日本とフランスの言語、文化。R&B、ファンク、ジャズなど大好きなブラックミュージックに、フランスの小粋なシャンソンや子供の頃に聴いたJ-POPの陰影も垣間見える楽曲。それらすべてを吸収したことで生み出されるハイブリッドサウンドこそ、ミシェルのソウルミュージックなのだ。


自分が日本人なのかフランス人なのか、はっきりと言い切れないところにいるけれど、震災ときに自分の中から溢れ出てきたんです、“私の日本が…”という気持ちが。


――ミシェルさんが住んでいるところは、テロの影響は大丈夫でしたか?

「実はテロがあった地区、パリの11区に私は住んでいるんです。家から5分のところにある、よく行く場所で襲撃がありまして。日本でのツアーを控えていたので、出発前に友達みんなで会って乾杯しようって誘われていたバーが、ああいうことになってしまったんです。本当は(襲撃が起こる)1時間前にそこで会う約束をしていたんですが、私がツアーの準備が間に合っていなかったので取りやめにして。友達も行かなかったんですね。そういう……なんといえばいいのか、とっても不思議なことがありました。その他の襲撃された場所も家の近くばかりだったので、ショックは大きかったですね」

――そうでしたか……。

「金曜日にテロがあって、土・日とパリにいたんですが、パリ中その話で持ちきりなんですよ。みんなショックが大きくて、ダウンしているんですね、気持ちは。でも、そういうときだからこそ笑顔を忘れずに音楽を聴いたり、外に出かけたり。“怖がっていたら何もできない”っていうことで、みなさんそれぞれですけど、パンを買いに行ったりカフェのテラスでコーヒーを飲んだり、それまで通りの生活をしていましたね」

――そこで、ミシェルさんも今回のツアーを予定通り行なうことを選ばれた、と。

「はい。このツアーためにいろいろ準備してきたので、私自身行きたかったんです。バッドタイミングでしたけど、本当に飛行機が飛んでよかったです(笑顔)」

――日本でも1stアルバム『息吹 Le Souffle』が発売されました。フランス語で歌う曲と、日本語で歌う曲が一枚に収録されているところがミシェルさんらしい。

「はい。自己主張が強いものはどうしてもフランス語になるんですが、例えば「祈り」という曲は…」

――こちらは日本語で歌われた曲でしたね。

「ええ。これは、3.11の震災に対する想いを曲にしたものです。最初は、書いていいものなのかととても迷って。だから、すごく後になってから書きました。震災とはまったく較べられないですが、私は12歳のときに母を亡くしてフランスに渡り、全然フランス語が話せないまま現地の学校に入ったんですね。そのときに私は、どんなに辛いときでも新しいスタートはあるんだということを感じたんです。こうした自分が生きてきて経験した気持ちと、震災のときに感じた想いを照らし合わせて曲にしたものが「祈り」で。この曲は最初から日本語で書きたいと思っていました。そんな風に思うがままに書いた結果、アルバム全体で見るとフランス語が7曲、日本語が5曲になったんです」

――「祈りに」についてもう少し聞かせて頂きたいんですけど。震災のとき、ミシェルさんはパリにいらっしゃったんですよね? そこで、どんなことを感じていたんでしょうか。

「ものすごくショックを受けていました。日本で起きている事が、他人事には全然思えなかった。私は自分が日本人なのかフランス人なのか、はっきりと言い切れないところにいるんですね。けれども、そのとき自分の中から溢れ出てきたんです、“私の日本が…”という気持ちが」

――日本の血が騒ぎ出した、と。

「はい。そのことにびっくりしまして。12~13歳でパリに渡って以降、ずっとフランスにいたのに、そのときは日本で起きていることが自分のことのように本当に辛かったんです」

――日本語で歌われた「私」は、そんなミシェルさんの“自分はフランス人なのか日本人なのか”という自問。それに対するアンサーソングなのかなと思ったんですが。

「ではないです。この曲は、フランスで知り合った日本人の子からいわれたことで書いた曲なんです。音楽とは違う仕事で出会ったグループがありまして、そのなかで一番若い子がすごく大変な仕事をしていて、いわゆる “パシリ”にされていたんです」

――“パシリ”なんていう日本語もご存知なんですね。

「ええ。そんな扱いを受けている人を私は初めて間近で見て、信じられなかったんです。フランスにはそんな上下関係はないですから。その人と話したとき“自分が誰だか、何のために毎日過ごしているのかも分からない”っていうことをボソッといったんです。私には、そこから抜け出す方法はいくらでもあるように見えたので、この曲を書きました」

――「私」はミシェルさんから“その人”に対するエールソングみたいなもの?

「そうなんです。サビのところで“私”を繰り返すので、私のことを歌ってるように思われるかもしれないですが、最後に“私たち”と歌っているのは、そうやって辛い立場にいる人は他にもたくさんいるよ、と。逆に、そういう差別的なことを自分が無自覚に受け入れているところもあるんだなということを、私自身、自覚した瞬間でもありました」

ミシェル・ミチナ

ミシェル・ミチナ

 

――日本語曲は「祈り」、「私」、他に「操」という曲も含め、漢字でポンとタイトルを表現する傾向がありますね。

「あっ! いわれてみれば」

――「操」という漢字を曲のタイトルに使う人は日本でも珍しいと思うんです。

「“操”は名前なんです、私の従姉の。一番歳が近い従姉で、小さい頃から唯一の友達が私だといってくれていて、よく私に手紙を書いてくれていたんです。でも、私がフランスに行って以降、手紙が届かなくなって交流が途絶えてしまい、その間も彼女はずっと辛い思いをしていて、23歳の頃に自殺してしまったんです。その操ちゃんに贈った曲なので、彼女の名前をそのままつけました。それに、フランス人でも “みさお”は発音しやすいし響きもいいので」

――そうでしたか。ミシェルさんの曲の背景には、それぞれディープな想いがあるんですね。

「そうなんです。フランス人は、こういった日本語の内容までは分からないので、響きだけで楽しんで聴くんですよ。パリでライブをすると、生で日本語の歌を聴くのは初めてという人が多くて、ライブの後に“日本語ってなんて優しい響きなんだろう”といってくれますから。だから、日本人が聴くのとフランス人が聴くのとでは、アルバムの印象が全然違うと思います。一緒にやっているミュージシャンに日本語の歌詞を説明したりすると“え、そんな曲なの?”と驚かれますし」

――逆に、フランス語の曲は私たち日本人には意味は分からないですからね。

「なので今回、フランス語の曲はすべて私が翻訳をつけたんですけど、大変でした(苦笑)」

ミシェル・ミチナ

ミシェル・ミチナ

来年の春には、フランスで一緒に活動しているバンドも連れて、日本でライブをできたらなと思っているので、楽しみにしていてください。

――フランス語で歌われる「もう一つの自分」、「シスタ」のサビには日本的陰影を感じさせるJ-POPの匂いがありますね。

「そうですか(微笑)。聴いていますからね、小さい頃から日本の音楽を」

――どんなものを聴いていたんですか?

「お姉ちゃんはブルーハーツのファンで、お兄ちゃんが尾崎豊さんを聴いていて。私は宇多田ヒカルさんでした」

――おっ! そのブルハや尾崎のメッセージ性、宇多田の音楽性。ミシェルさんのルーツにあるものが、このアルバムのなかには…。

「詰め込まれていますね。影響を受けたブラックミュージックと、フランスで生活しているからフランスで聴くシャンソンと、ずっと小さい頃に聴いていた日本の音楽が。私自身、日本語とフランス語がよく分かる友人と話していると、言葉が混ざりに混ざってぐちゃぐちゃな会話になるので(笑)」

――音楽もその感覚でミックスしたまま作ってみたら、こんなハイブリッドでユニークなものが生まれた、と。

「だと嬉しいです。いろいろなものがミックスされているけれど、サウンドの統一感は出ているし。まさに、フランスも日本も自分が過ごした文化なので、どっちも選べないというのがそのまま出ているアルバムになりました。そこを楽しんでもらえたらいいなと思っています、聴いてくれる人には」

――フランス人には、このハイブリッド感はどんな風に映るものなんですか?

「フランス人は“あ~、いいね”ってなりますね。好きなんですよ、フランス人は日本のエキゾチックなものが。とくにパリジャンは。いろんな意味で日本ブームがずっと続いていますから、日本っていうだけで“おっ!”っという感じで“オシャレ!”ってなるんです。だから、日本語でも歌っているというと“おっ!”って興味を持ってくれますね。すごくいい印象ですよ、フランス人は日本に対して。極端に違う文化だけど、その中でもアートに対する繊細さとか、通じるところがあるように思います」

――今後も日本とフランスを行き来しながら音楽活動を?

「できればそうしたいですね」

――ちなみに、ミシェルさんが来日したとき、必ず日本から買って帰るものとは?

「うーん……日本酒かな(笑)」

――それでは最後に、ファンの皆さんに一言お願いします。

「私は、音楽をやって、それを楽しんでくれる人がいる、そのシェアする空間、ライブが大好きなので、日本にもっとライブをしに来たいです。来年の春ぐらいには、フランスで一緒に活動しているバンドも連れて、日本でライブをできたらなと思っているので、楽しみにしていて下さい」

撮影=大野要介 インタビュー=東條祥恵 

リリース情報

MICHELLE MICHINA(ミシェル・ミチナ)1stアルバム

ミシェル・ミチナ 1stアルバム『息吹 Le Souffle』(日本盤)

ミシェル・ミチナ 1stアルバム『息吹 Le Souffle』(日本盤)

『息吹 Le Souffle』(日本盤)
2015年11月25日発売
DDCZ-2058 ¥2,500+税

<収録曲>
01. 君の場所
02. ミスター フィッシュ
03. もうひとりの自分
04. 連れて行って
05. 盗まれたキス
v6. 祈り
07. シスタ
08 .とり憑かれた心
09. 操
10. 私
11. 君の息吹
12. モナムール
13. Mr.Fish - Live in Paris -
14. Inori Remix

『LE SOUFFLE(ル・スーフル)』 (輸入盤)
2015年8月2日発売
JUR-3 ¥2,200+税

 

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