WONKが仮想空間で繰り広げた、フル3DCGバーチャルライブという新たな試み
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WONK - “EYES” SPECIAL 3DCG LIVE 2020.8.22
8月22日、WONKが初の生配信フル3DCGバーチャルライブ『EYES SPECIAL 3DCG LIVE』を開催した。3DCGでモデリングされた4人のメンバーが仮想空間にアバターとして登場し、そこで生々しい歌と演奏を繰り広げた約1時間半。そこには、まったく新たなライブ表現の可能性があった。
正直、かなり不思議な体験だった。途中で何度も「これはライブなのか……?」とか「一体なにを見ているんだろうか……?」と思う瞬間もあった。けれど、最終的に感じたのは、生のパフォーマンスに宿る熱量をその場に集まった人たちと共有するという、まさしくライブの体感だった。もちろん技術的な先鋭性も大きなポイントだったけれど、それ以上に、そのテクノロジーがWONKの表現したい世界観と深くリンクしていること、そして画面越しに伝わってくる4人のガッツのようなものが感じ取れることに大きな意味があった。
CG制作風景
機材トラブルで予定から10分押しとなり、19時10分にライブはスタート。画面に映し出されるのは、まるでゲームのようなCG空間だ。夜空に浮かぶ巨大な青い月のもと、都市空間を背後にした高層ビルの屋上にステージが設けられている。空中に浮かぶライトが浮かび照らされドラムセットやキーボードが並ぶステージに、まるで光の粒子と共に召喚されるような演出で長塚健斗、江﨑文武、井上幹、荒田洸の4人が登場する。宇宙服のような白い衣装を身にまとった姿だ。
今回のライブは、WONKが所属するEPISTROPHと、バーチャルライブ配信アプリ『REALITY』を手掛ける株式会社Wright Flyer Live Entertainmentが共同で企画制作にあたったもの。VTuberのライブイベントなども手掛けてきたWright Flyer Live Entertainment社による『REALITY Live Stage』という技術によって、アーティストを3Dアバター化。生身の4人は専用のモーションキャプチャスタジオで演奏を行い、その音と同時にセンサーで検知された身体の動きがアバターと連動する仕組みになっている。
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ライブは「EYES」からスタート。カメラワークは自在に空間を飛び回り、夜空をレーザーが飛び交う派手な演出を経て、「Rollin'」へ。マイクを握った長塚を中心に、江﨑のキーボードと荒田のドラムが向かい合い、井上がベースを奏でる。ステージの周囲でクリスタル姿の巨人が踊ったりと、バーチャル空間ならではの演出がパフォーマンスを彩る。荒田のドラムスティックがライトセーバーのように光って残像を見せたり、メンバーの衣装がそれぞれの色に光ったり、井上が曲ごとに持ち替えるギターやベースの楽器がCGにも反映されたり、長塚の合図でマイクスタンドが出現したりと、細かいディティールも面白い。
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「全力で盛り上がっていくんで、みなさんよろしく」というMCから、4人は「Orange Mug」からファンキーでダンサブルな「Sweeter, More Bitter」、メロウな「Filament」と演奏を続けていく。「Sweeter, More Bitter」では全身が紫色の光に包まれたダンサーがメンバーの周囲で軽やかに舞ったり、隙間のあるグルーヴがスリリングな「Mad Puppet」ではモノクロとカラーを行き来したり、飽きさせない演出が繰り広げられる。「誰もやったことのないことに挑戦するって、こんなにも楽しいんだなって実感してます」と長塚は告げる。
曲間のMCでは「みなさんからのコメント、ありがとうございます!」「この“EYES”の世界にも届いてますからね」とメンバー4人が語り、「飛んで」というコメントにジャンプしてみたりと、オーディエンスとリアルタイムでコミュニケーションする場面もあったり。こういうさり気ないやり取りがあることで、3DCGのアバターの向こう側に生身の4人がいることが伝わってくる。メンバーがやっているラジオ番組に通じるゆるいノリも、観ている側と時間と空間を共有しているライブ感に寄与していた。
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続いては、長塚がステージに出現させた椅子に座り、井上がアップライトベースに持ち替えて、「Blue Moon」へ。ステージから無数の白い蝶が羽ばたき、クラゲが浮かび上がっていく。さらに江﨑のピアノソロから披露された「Signal」を続け、壮大なムードを作り出す。
そして、ここからの後半がさらに驚きの展開だった。「Esc」ではSF映画『スターゲイト』を思わせる光を放つ巨大な輪がステージ背後に登場、曲が終わるとメンバー4人が光に包まれて消え、場面は岩山に囲まれた荒野の空間に。
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月か、どこかの惑星か、とにかくワープで辿り着いた別空間に設置されたステージに4人がたどり着き、そこで「Third Kind」を演奏する。<Is this the same star I’ve seen before?(この星は以前見てたものと同じなんだろう?)>という歌詞もあるこの曲のストーリーとリンクした演出だ。続く「Depth of Blue」ではあたりがサイケデリックな光に包まれ、クジラが空をゆっくりと及ぶ幻想的な光景が広がる。
「自分と違うから、それが原因で争いに繋がってしまうことばかりが目立つ今。自分と違った存在が、自分の人生においてきっと何かしらの糧になるはずだと僕らは信じています。誰かや何かの大きな波に飲み込まれず、自分の目で見て、自分の頭で考えて、希望を失わず前を向いて、手を取り合って生きていく。まだまだ大変な日々が続きますが、僕らはそんな日が来ることを信じています」と、長塚はMCで語る。
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終盤の展開もかなりドラマティックだった。真っ赤な空間の中でアンサンブルの熱量をどんどん上げていく「If」を経て、まるで宇宙空間をワープするかのようにステージが移動。異空間の中で「HEROISM」を披露する。流れる星と共に視聴者からのコメントが登場する演出も目を引いた。
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そして「Fantasist」からは再びビルの屋上に戻ってきての演奏だ。SF的な世界観にだんだんと感覚が慣れてきたせいか、徐々に演出よりも歌と演奏に意識が向いていく。荒田のドラムが引っ張るオーガニックなアンサンブルが緊迫感を高め、「Nothing」ではやわらかな歌声を響かせる。バーチャル空間であっても、生演奏の熱量がちゃんと伝わってくる。
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「Phantom Lane」を歌い上げ「誰もが生き方を問われているタイミングだと思います。僕らの音楽が、みんなにとって、少しでも希望になりますように」と長塚が告げ、ラストは「In Your Own Way」。包み込むような響きを持った楽曲でパフォーマンスを締めくくると、メンバー4人が光に包まれて消滅し、パフォーマンスは終了した。
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初めての試みとなった、今回のライブ。とても大きな意味を持つ試みだったと思う。コロナ禍が終息した後も、リアルなライブとは別の新しい表現として定着していきそうな予感がする。
もちろんパーフェクトでないところもあった。おそらくセンサーの誤作動か、途中で江﨑の手がキーボードから浮いてしまって見えるようなところもあった。それでも「CGムービーを見ている」というよりは「バンドが演奏している」ような体感があった。
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やはり、大きなポイントは、単に3DCGのバーチャルライブが実現したということだけでなく、そのテクノロジーがアーティストの表現したい世界観、打ち出したい音楽の興奮とちゃんと結びついていたということだと思う。WONKの新作アルバム『EYES』は、情報社会と宇宙空間をテーマにしたコンセプトアルバム。メンバー自身がコンセプトとストーリーを手掛けた架空の映画のサウンドトラック的な内容だ。
そして“エクスペリメンタル・ソウル・バンド”を標榜する彼らの音楽はプログラミングされたビートを軸にしたエレクトロニック・ミュージックではなく、あくまで生演奏のグルーヴ感とスリリングなアンサンブルを打ち出す身体性たっぷりのバンドサウンドだ。そういうタイプの音楽の熱量がバーチャルライブで伝わってきたことも大きな意味を持っていた。
後から振り返って、一つの時代のターニングポイントになりそうな“事件性”のあるライブだったように思う。
取材・文=柴那典