家族全員ミュージシャンのあらかわ家はこの状況を明るく照らす何かを持っていた 長女音々とSPICE編集長にLIVEHAUS山下の3者対談で綴る「今にかける思い」とは
山下"ロッキー"貴大、音々 / あらかわ家、秤谷建一郎
Abema TVなどでその認知度をあげた、家族全員ミュージシャンという異例の大家族アーティストあらかわ家。彼、彼女らもまたこのコロナ禍において大きな影響を受けた。しかし立ち止まることなく、配信ライブや日々の配信を、家族という強みを生かしながら続け、いよいよ人数に規制をかけた状態ではありつつも、配信とのハイブリッドという形で、これまた異例の5連続ワンマン(各兄弟毎に)を行うことになった。そんなあらかわ家の実質リーダーでもある長女音々と、その5連続ワンマンの会場である下北沢のLIVEHAUS山下"ロッキー"貴大、そしてSPICE編集長である秤谷が、これからの展望も含めた対談形式でインタビューを敢行した。
山下"ロッキー"貴大、音々 / あらかわ家、秤谷建一郎
──あらかわ家の各アーティストが、『個人修行ツアー』と題し、“ワンマンライヴ(公開修行)”を、下北沢・LIVE HAUSにて2ヶ月に渡って開催されますが、この企画が立ち上がった経緯からお話をお聞きしていきたいです。
音々:昨年の9月28日にワーナーから「DRAMA」をリリースしたんですが、今年の夏って、国を挙げた世界の祭典がある予定だったじゃないですか。
秤谷:ぼかしましたね(笑)。
音々:実は各所で行なわれる式典への出演が決まっていたんです。それが流れて、ここからどうしていくかという中で、自粛期間中に毎日配信を始めたんです。そうしたら、本当にありがたいことに、2ヶ月で2000人ぐらいファンの方が増えて、正直本人たちもびっくりしたんです。これだけ皆さんが何かを求めてくれているのであれば、今できることはすべてやろうと。普通は自粛で会えなかったりすることも、あったと思うんですが、私たちは家族で一緒に住んでいるので、いろいろなことができたんです。
秤谷:そこは本当に強いですよね。
音々:あと、6月21日にあらかわ家の各アーティストの曲を収録したオムニバスアルバムを急遽リリースすることになったんですが、それも昨年を上回る勢いで売れました。それを持って8月1日に『NO MUSIC,NO FAMILY!』という、恒例の家族対バンイベントを初めてオンラインでやったんですけど、それもかなりの方々に視聴していただけたんです。ただ、そのときに「行きたい」「(生で)観たい」という声もすごく頂きました。私たちも何かできないかと考えたんですが、やはり多人数はどう考えても無理だと。それで“各アーティストの個人修行”という形でワンマンをすることにしたんです。元々は家族それぞれが音楽活動をしていたわけですし、それであれば人数をある程度絞れるので、来場人数を限定して、同時に生配信もしようと。ライブハウスを選ぶにあたってはいろいろあったんですが、LIVE HAUSさんのことをニュースで見たのが今回お願いしたきっかけです。8月1日からオープンされたんですよね?
山下”ロッキー”貴大(以下山下):そうですね。当初は4月1日オープンだったんですが、8月1日になって。
音々:8月1日という記念日も一緒ですし、私たちも下北沢でオンラインの収録をしていたので、いろいろとご縁を感じたのもあって、今回お願いしました。
秤谷:LIVE HAUSさんは、本来は4月1日オープンだったそうですけど。
山下:1月ぐらいからクラウドファンディングで準備を始めて、当初は1000万円目標だったんですが、ありがたいことにそれを超えまして。それで4月にオープンしようとしていたんですが、緊急事態宣言が出てしまったので、これはもう完全に無理だろうということで、8月にオープンをずらしたんですが、それまでは『LIVE HAUS Soundcheck』という名前で、無観客の配信企画をやっていました。
秤谷:小屋はありますからね。
山下:そうなんですよ。場所はあるし、そのために集まったスタッフがいる中で、オープンできないというのは、結構厳しい状況でしたね。
秤谷:あらかわ家から話をもらった時はどんな感じだったんですか?
山下:僕はお恥ずかしながら存じてなかったんですが、これはどういうことなんだろう……って。
秤谷:なるほど!僕も同じです(笑)。最初に「あらかわ家っていうのがいるんだけど」ってご紹介いただいた時に、「家?」って。
山下:まさか全員が本当の家族とか、そんなことはないだろうと。
秤谷:一緒に住んでいるけど、家族っていうテイですよね?っていう(笑)。
山下:そうそう! そうです(笑)。
音々:これが本物の家族なんですよね〜(笑)。
音々 / あらかわ家
秤谷:でも、奇跡的ですよね。姉弟全員、音楽が好きって。普通は誰かがそこまで好きじゃないっていう感じになりそうですけど。
音々:5人全員ですからね。しかもパパも含めてなので。
秤谷:お好きなジャンルもバラバラじゃないですか。ヒップホップの人もいれば、ロックというかメタルっぽい人もいるし、アニソンとか電波ソングっぽい人もいて、なんかもうデパートみたいな。
山下:それぞれがフロアごとに分かれていて……。
秤谷:そうそう、ドン・キホーテみたいな(笑)。
音々:はははははは! 動くドン・キホーテ(笑)。
秤谷:コンテンツに事欠かないですもんね(笑)。ちなみにLIVE HAUSを始める際にコンセプトはあったんですか?
山下:LIVE HAUSはライブハウスを再定義するために始めた場所で、ノルマもハコ代もないんですよ。最終的な目標は、ドリンクの売上だけでハコを回していく、代はすべてアーティストに返すっていうところなんですけど。
秤谷:それ最高ですね!ニューヨークスタイルですね。
山下:それを日本でやるのはいろんなハードルがあるんですけど、そこに挑戦してみようと。
秤谷:海外と違って、日本はライブハウスで飲む文化がないですからね。他にも挑戦されていることはあるんですか? コロナ禍でやられていることとか。
山下:「空き地」っていう小田急がやっているスペースがあるんですけど、そこで毎週『LIVE HAUS Garden』っていうイベントを始めました。ハコがダメなら外でやろうということで、ライブハウス主催の野外イベントをやっていたり、HauStandっていうホットサンド屋を昼に始めたり。あとは、エントランスの壁をギャラリースペースにして、毎週来るたびにいろんな展示がやっているようにしたりとか。結構いろいろやってますね。
山下"ロッキー"貴大、音々 / あらかわ家、秤谷建一郎
──感染拡大対策にもかなり力を入れられていますよね。
山下:そうですね。バーカウンターの冷蔵庫の上に青いライトがあるんですけど、あれは……ウイルスって空気中で上のほうにあがっていくんですけど、それをあのライトが殺してくれるんです。
音々:普通のライブハウスにはないですよね?
山下:ないですね。空港とか病院には絶対に入っているんですけど。でも、あの青いライトを直接見ると、目が潰れるらしくて。だから、誰かが盛り上がりすぎて、カウンターの上に乗っかったりしたら、本当に危ないです(苦笑)。あと、入口にサーキュレーターがついて、転換のときに空気の入れ替えができるようになりますね。
秤谷:いやあ、すごい。
音々:始めるにあたっての文章を読ませていただいたり、ニュースを見させていただいたりして、話してみるならここがいい!ってすごく思ったんです。ギャラリーもすごく考えられて展示されているし、配信されている映像もかっこいいんです。超おしゃれで、若い子たちが見ても、「ここどこ?」って興味を持つような場所ですし。そういうところも含めて、すごく素敵だなと思っていて。あと、LIVHAUSさんは「5公演」を了承してくださったことにも本当に感謝してるんです。
山下:ああ。確かにいまは先が見えない状況だから難しいところもありますよね。
音々:そうなんですよ。いままでは同じ会場で何公演もやるのって普通のことだったじゃないですか。それがいまはこんなに大変なんだっていうのは、コロナ禍でこういう企画を立ち上げたときに初めて思いました。本当に了承していただいてありがとうございます。
山下:いやいやいや。
秤谷:今回の企画は来場者人数を絞りつつ、配信もされるハイブリットな形ですけども、あらかわ家としては、配信でやるのと生でやるのと、やはり違いはありますか。これは永遠のテーマで、いろんなところで論じられていますけど。
音々 / あらかわ家
音々:先日の『NO MUSIC,NO FAMILY!』は配信だけでやらせていただいたんですけど、もちろん目の前にお客様がいないから、やっぱりいつもと違うところはあります。ただ、私たちは4月から毎日生配信をしていましたし、週に1回「家族会議」と題して、イベントをどう盛り上げるのか、ファンの方々とセッションするような生配信をしていたんです。そういう経緯もあったからか、めちゃめちゃ盛り上がったんです。私たちとの絡みだけじゃなくて、ファンの方たち同士でやり取りをしていたし、その熱量もすごくて、画面を越して私たちに伝わってくるぐらいで。あと、あらかわ家のファン層は幅広くて、子育てをされている世代の方々や、そのお子様も多いので、そういう意味では、これまでだったら絶対に来れなかった方々も見てくださったんです。だから、配信という形は、私たちにとっては本当にやってよかったなと思いましたし、今後もやっていきたいと思うぐらいフィットしていました。
秤谷:やむを得ない事情でライブに来られない人って、自分たちが思っている以上にいますからね。
音々:そうなんですよね。ただ、やっぱりいままで目の前で応援してくださっていたファンの方々とか、気軽に来れる方々からすると、「行きたくて行きてくて、むずむずして泣けてきた」というコメントも多くて。そういう意味でも生でやろうと。今回はLIVE HAUSさんが規定されている人数の半分にしているんですけど、ありがたいことにがもう完売してしまっているので、配信でご覧になっていただければと思います。
秤谷:うん、いいと思います。正直、自粛し飽きましたよね?
音々:飽きました(笑)。
秤谷:自分もメディアをやっている人間ではあるけど、この前、いまの状況はマスメディアの問題もあるよねっていう話になったんですよ。数字がほしいから、ダメなところをピックアップするじゃないですか。「これだけの感染者が出ました」とか。でも本来はこうやって少しずつ緩和されてきて、「感染者は出ませんでした」という報告は数多くされていて、ほぼほぼがそういう報告なんです。
音々 / あらかわ家
音々:そこはニュースにしてくれないんですよね。
秤谷:そうなんですよ。「出ました」っていう、本当にごく一部のことが槍玉に挙げられてしまっている。「これだけ復活したぞ!」っていうニュースにすればいいのに。だからそこはマスメディアも悪いし、それを鵜呑みにしてしまうことも悪いし。そこは昨今のSNSの傾向ではあるんですけどね。祭り上られげたものに群がって誹謗中書するという。だからこそ、あらかわ家みたいな底抜けに明るい人たちが発信していってほしいなと思います。
音々:復活してきてるよー!って。確かに、そこはこの『個人修行ツアー』に課せられるひとつの使命かなと思ってます。
秤谷:でも、今みたいな状況にくじけたりしなかったですか?
音々:いやぁ……まったくくじけなかったです(笑)。
秤谷・山下:すごい!
音々:いや、これが本当に残念なことに、私たちがまったくくじけないから、さっきの話じゃないですけど、祭り上げてもらえないんです(苦笑)。去年からそれを言われていて。「いや、もうちょっと泣いてよ」とか、「もうちょっと落ち込んでよ」とか。
山下:そのほうがドラマティックになるから。
音々:そうです。「なんでお前らそんなにずっとハッピーみたいな顔してるんだよ」みたいな(笑)。もちろん頑張っているんですけど、そういうときは元気なんで、ほとんど落ち込むことがないんです。今回もコロナでこういうことになってしまったけど、そこで落ち込んで何があるんだよっていうタイプなので。じゃあ、みんなの元気がないときに、私たちに何ができるかと考えると、やっぱり音楽だろうと。私たちにいまできることは、音楽を止めないことだよね?って。その使命感で突っ走っていったところはありました。
秤谷:いまは少しずつ復活してきてはいるんですけど、ただ、一番の問題は、人の心が戻ってきていないことなんですよね。
山下:ああ。本当にそうですよね。
山下"ロッキー"貴大、音々 / あらかわ家、秤谷建一郎
秤谷:人の心がまだ回復していない。僕らが平気だと思ってライブを開催して、たとえ感染者が出なかったとしても、誰かが隣にいたら行きたくない人もいるだろうし、声をあげている人、マスクをしていない人を怖いと思う人もいる。メディアが現状をもっと報道していけば心は回復していくかもしれないけど、いまはそっちが取りざたされてしまっているから、心が回復するまでの間にできることをやるしかないんだなって。
山下:そうですね。それこそ配信だったり。
音々:そういった心の回復をするのは、きっと音楽の力だと思いますしね。
秤谷:そう思います。娯楽がなくなったら、人間は全員死んでしまうと思ってます。
音々:私もそう思うんです。そこってあまりピックアップしてもらえないじゃないですか。音楽とかエンターテイメントって、生きる上でどれだけ大切なものかっていう。
秤谷:日本はそう言った部分では後進ですね本当に。一部リテラシーの高い海外なんかは、それがいかに人間の心の豊かさに繋がっていくか、文化が根付いていくことがいかに重要なのかをわかっているから、国もお金を出すわけで。だからといって「いや、国がお金を出してくれなくて」と言うんじゃなくて、やってくれないのであれば自分たちの力でやるしかない。そこに規模の大小は関係ないと思うんです。「自分たちはまだ小さいから、こういうことを言うのはおこがましい」とか、そんなことは絶対になくて。それが小さな力であっても、いろんな人たちがいろんな場所で声をあげていくことが大事だと思うんです。
音々:しかもオンラインがこれだけ加速したことで、そういう小さい声が世の中にどう広がっていくのか想像もつかなくなってますよね。いま、あらかわ家はすごく手応えを感じているんです。これだけオンラインが一気に広まったことで、応援してくれる方々も増えましたし、まだ日本は遅れているところもあるかもしれないけど、ひとつ見直された部分はあったと思うから、そこはプラスにしていきたいなとすごく思います。私たちもまだまだこれからですけど、いろいろなライブハウスがある中で、今回新しく挑戦されている方々と組めるというのはすごく楽しみにしていて。一緒に頑張れたら嬉しいなと思いますし、今回の企画を皮切りに、音楽の街・下北沢にあらかわ家も根付いて、一緒にいろいろ考えていけるといいなって。ロッキーさん(山下)も大型のイベントをやられていますよね?
山下:そうなんです。僕の地元が静岡で、『FEVER OF SHIZUOKA』というホテルを丸ごと借り切って遊ぶフェスをずっとやっていまして。今年は11月22日にやる予定なんですけど、過去最大の挑戦になりそうですね。
秤谷:いまだとGo Toキャンペーンで来てくれたりもするんじゃないですか?
山下:そうなんですよ。ただ、静岡の人にどう説明するのか大変だなって。
秤谷:ああ、県外から人が来ることを不安に思う人もいますし。
音々:今回の『個人修行ツアー』も、最初はファンの皆さんに会いに行こうと思っていたんですよ。でも、どこからも「いや、いまは無理だよ」と言われて。自分たちが思っているほど受け入れてくれないんだなって。
秤谷:それがもう切ないんですよね。いや、同じ日本人やん……って。
山下"ロッキー"貴大、音々 / あらかわ家、秤谷建一郎
──無事に開催できることを願っています! そろそろお時間になってきました。
秤谷:「個人修行ツアー」の後のことを考えていたりするんですか?
音々:私としては、来年の『NO MUSIC,NO FAMILY!』は、野外とかでやれたらな……とは考えていまして。それはお祭りみたいにみんなが楽しめる場にしたいと思って、いろいろと考案してます。正直、やっぱりまだちょっとわからないじゃないですか。これで大きい会場を取ったからといって、そこに何人来られるのかわからないところもあるので、構想としては外かなと。そうなると、私たちも初の野外になるので、そこでまたいろんな挑戦ができるんじゃないかなって。これからも挑戦し続けて、それができなくなったらやめればいいと思っているので(笑)。だから、いつも難題を振りかけて、みんなで必死になってやるっていう。
山下:家族で立ち向かっていくんですね。
音々:そうです。みんな我が強いから、それぐらいやらないとまとまらないんですよね(笑)。いつも苦しいというか、挑戦し続けているからこそ、そういう人たちでも一致団結できる。そこはあらかわ家の強みだと思っています。
取材・文=山口哲生 Photo by菊池貴裕
ライブ情報
あらかわ家 各アーティスト ワンマンライブ
【個人修行ツアー】全日程
SUN BLAST(三女夢宇子&末っ子長男KOUICHI)
2020/10/18/sun OPEN19:15/START19:30
あおい12さい(四女)
2020/10/25/sun OPEN19:15/START19:30
パパ荒川(父)
2020/11/07/sat OPEN12:45/START13:00
Ko-Ko(次女)
2020/11/29/sun OPEN12:45/START13:00
THE ROARatUS(長女音々)
2020/12/06/sun OPEN12:45/START13:00