ミュージカル『アルジャーノンに花束を』開幕! ~矢田悠祐らが生きる荻田浩一の小宇宙/公開舞台稽古レポート
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ミュージカル『アルジャーノンに花束を』 (撮影:宮川舞子)
2006年に荻田浩一脚本・演出、斉藤恒芳音楽、浦井健治主演により初演された日本オリジナルミュージカル、『アルジャーノンに花束を』。2014年の再演を経て、2017年に矢田悠祐主演版として再生を果たした作品が、2020年10月15日より博品館劇場で4演目を迎えている。手術によって知的障害者から天才に変貌するチャーリィ・ゴードン役の矢田や、彼を見守るアリス・キニアン役の水夏希らはそのままに、チャーリィの恋人フェイ役の青野紗穂らフレッシュなキャストも迎えた新装版。初日に先駆けて行われた公開舞台稽古(ゲネプロ)を取材した。
(撮影:宮川舞子)
(撮影:宮川舞子)
日本オリジナルミュージカルとしては異例とも言える4演目を迎えられた最大の理由はやはり、基本的にはSFファンタジーであるダニエル・キイスの原作と、奔放な荻田演出との相性の良さにあると言っていいだろう。転換が一切なくすべてがひとつの抽象的なセットの上で展開されたり、別の場所・時代にいるはずの人物が舞台上に同時に存在していたり、アルジャーノン役の俳優がネズミの格好のままほかの役にも扮したり……。通常のミュージカルが紙芝居だとしたら、本作はまるで丹念に描き込まれた長い長い絵巻のよう。隙も淀みもなく流れていく舞台に、荻田と斉藤が作り出した小宇宙に紛れ込んだような気持ちになる2時間50分だ。
(撮影:宮川舞子)
(撮影:宮川舞子)
小宇宙の形成には、キャスト全員がその空間に溶け込んでいることが不可欠。わけても、ほぼ出ずっぱりのチャーリィが担う役割は甚大だが、矢田はその重責を完璧に果たしてみせる。物語を通して変化を続けるチャーリィを、歩き方や喋り方はもちろん、声の伸ばし方や瞳の色合いによっても表現。この激動の人生を半月間、時には1日に2度も生き抜くのかと思うと尊敬に値するほどだ。また新キャストの青野も、初の荻田作品にして、小宇宙の形成に見事に貢献。二幕の頭に派手に登場して場の空気を一気に変える、起承転結の“転”そのもののようなフェイ役を、軽やかさと深みを持って演じて強烈なインパクトを残した。
(撮影:宮川舞子)
(撮影:宮川舞子)
その矢田と青野が、事前インタビューで「観る立場や環境によって印象が違う作品」と語っていた本作。それはおそらく、人によって違うというだけでなく、ひとりの人間の人生のフェイズによって違うということも意味している。筆者自身、ミュージカルとしては楽しめるものの物語としては好みではない、と前回まで思っていなくもなかったのだが、今回初めて物語にも開眼させられた。そうした違いを味わえるのも、足かけ15年の長きにわたり断続的に上演されているからこそ。多面的な物語を、舞台ならではの手法で立体化した特異な日本オリジナルミュージカルとして、今後も長く上演され続けてほしい作品だ。
(撮影:宮川舞子)
(撮影:宮川舞子)
出演者からの初日開幕コメントが届いたので以下に紹介する。
■矢田悠祐コメント
このような状況の中、初日を迎えることが出来まして、ひとまず安心しております。公演日程はかなりハードですが、毎公演この作品で何か一つでも感じていただければと、チャーリィとしての人生を毎回歩んでいます。万全の対策でお待ちしておりますので、是非劇場までお越しください。
(撮影:宮川舞子)
■大月さゆコメント
「アルジャーノンに花束を」出演のオファーをいただいた時は、とても嬉しくて夢のようで!でも、それが危うくなってしまった今年の初めごろ。悔しい未来に備えながらも、希望の火を消さないでいたあの時間。こうして初日を迎えられること、そしてお客様がいらしてくださることに深く感謝してこの公演をやりきります!
(撮影:宮川舞子)
■青野紗穂コメント
「アルジャーノンに花束を」に関われた事とても嬉しいです。そして無事に初日を迎えられた事が何よりも嬉しいです。まだまだ警戒体制が解けない中、沢山の方のお力添えがあってこその私達だなと、実感しています。この当たり前に出来ていた事に規制がかかった今だからこそ改めて感じられた「感謝」を忘れずに、全員無事に千穐楽を迎える事を願って頑張ります!
(撮影:宮川舞子)
■戸井勝海コメント
2006年の初演の博品館劇場に再び戻ってこられたことに大きな喜びを感じています。自粛期間中の様々な経験の中で、私がいちばん欲しいものは家族の笑顔だと思い知らされました。コロナで傷付いたりギスギスしている心に、チャーリーが賢くなりたかったワケ、そして純粋な彼の言葉が何かをお届けできたら幸いです。
(撮影:宮川舞子)
■水夏希コメント
アルジャーノンに花束を。いよいよ開幕しました。初演の博品館に戻って参りました!やる度にチャーリィの魅力に虜になり、チャーリィの生き様が胸に刺さります。美しい音楽と、沢山のメッセージが込められた台詞の一言一言に揺さぶられる2時間半。。存分に浸っていただきたいと思います。
(撮影:宮川舞子)
取材・文=町田麻子 撮影=宮川舞子
公演情報
■会場:博品館劇場
■上演時間:2時間50分(第一幕:1時間20分、休憩20分、第二幕1時間10分)
■料金:10,000円(全席指定)
■スタッフ:
原作:ダニエル・キイス 「アルジャーノンに花束を」(ハヤカワ文庫)
脚本・作詞・演出:荻田浩一
音楽:斉藤恒芳
振付:港ゆりか
美術:中村知子
照明:柏倉淳一
音響:柳浦康史
衣裳:doldol dolani
ヘアメイク:中原雅子
舞台監督:粟飯原和弘
制作:稲毛明子
プロデューサー:栫 ヒロ
■企画製作:博品館劇場 M・G・H
■協力・コーディネート:早川書房
■主催:ニッポン放送
■問合せ:博品館劇場 03-3571-1003