『アルジャーノンに花束を』出演の矢田悠祐と青野紗穂が初対談!~「観る立場や環境によって印象が違う作品です」 ~
矢田悠祐、青野紗穂 (撮影:池上夢貢)
ダニエル・キイスのベストセラー小説を原作に、荻田浩一(脚本・作詞・演出)と斉藤恒芳(音楽)が2006年にミュージカル化した『アルジャーノンに花束を』が、2020年10月15日より4度目の上演を迎える。32歳になっても幼児並みの知能しかないチャーリィが、手術によって天才に変貌する姿を通し、生きる意味を問う感動作。2017年に続いてチャーリィ役を務める矢田悠祐と、恋人フェイ役として初出演する青野紗穂に、稽古の様子や作品の魅力を聞いた。関西人同士らしい軽妙なやり取りから始まった対談は、やがて舞台に懸ける真摯な想いへと広がり、そして……⁉
■「矢田ちゃんの歩き方が可愛いです(笑)」(青野)
――今回が初共演ということで、まずはお互いの第一印象をお聞かせください。
矢田 僕はそうですね、年齢のわりにすごく大人っぽい子だなと。
青野 私は……人見知りな人がいるなあって(笑)。
矢田 あははは!そんなことないんですけどね、第一印象ではそう見えるってよく言われます。今回は特に、最近まで稽古場が静かだったから余計にそう見えたのかも。静かじゃなかった?
青野 分かんない、私は最初からずっと一人ではしゃいでたから(笑)。
矢田 それはそうやな(笑)。“大人っぽい”の次に受けたのは、フェイ役にぴったりのハッピーな人やなっていう印象でした。
青野 私も元々は人見知りだったんですけど、今は「みんな同じ人間!」みたいに思ってるので(笑)。矢田ちゃんが人見知りに見えたのは、役的に忙しすぎて、コミュニケーションを取る時間もなかったからかもしれないですね。
矢田 確かに、ずっと稽古してたからな(笑)。大山真志くんと和田泰右くんが合流して、やっと全員揃ってから、そっちの稽古に時間がかかり出して少し余裕ができました。
青野 私もその頃から、「矢田ちゃん」って呼び始めて。最初は「矢田さん」とか「あの~」って言ってたんですけど、みんなに紛れて呼んでみたら気付かないからいっか~!って。
矢田 気付かんかったわ(笑)。僕は全然ウェルカムです。というか、「矢田さん」って呼んでた時なんてあったっけ?
青野 最初だけね(笑)。そう言えば、私はまだ直接呼ばれたことがないかも。
矢田 ウソウソ、「紗穂ちゃん」って呼んでるって!
青野 いや、呼ばれてない! まあ別に、呼ばれなくても全然大丈夫なんですけど(笑)。
――なんとなくお二人の関係性が見えてきたところで(笑)、改めて、今回のお話が来た時の率直な思いをお聞かせいただければと思います。
矢田 前回の稽古中は、演出の荻田浩一さんと歌唱指導の福井小百合さんから、毎日100個ずつくらいダメ出しがあって(笑)。僕が覚えきれなくなったら終わり、みたいな稽古だったんですよ。普通は3年くらいかけてやることを、1か月半で叩き込んでいただいたおかげで、僕の代表作と言える作品になりました。それに、出てる自分が言うのもあれですけど(笑)、本当によく出来たミュージカル。大好きな作品なので、もう1回できるんだ!って、すごく嬉しかったです。
青野 私は元々、原作が好きでよく読んでいて。読書感想文を書いたこともあるくらいなので、その本を自分が演じるって思うと、なんだか不思議な感じでしたね。荻田さんとは、舞台はよく拝見しているんですが、ご一緒するのは初めて。安易ではないのに分かりやすい、きれいな舞台を作りはる方やな~と思っていたので、演出を受けるのが楽しみだなと思いました。
――それぞれに思い入れの深い作品なのですね。お稽古は今、どんな段階なのでしょう。
矢田 ホン読みをしてから立ち稽古に入って、もうすぐ一幕の動きが付き終わるところですね。
青野 だから私の本役のフェイはまだ出てきてなくて、今はチャーリィをいじめる役とか、チャーリィを追い込む役を主にやらせていただいてます(笑)。
矢田 稽古しながら感じてるのは、前回のことって、覚えてるようで忘れてるなって。こういうふうにやってた、っていうのはすぐ思い出せるんですけど、“中身”はどうやって作ってたっけ?ってなるんです。でも今回は劇場もキャストも変わるので、取り戻すというよりは、ゼロから“中身”を作るつもりで取り組んでます。
青野 見てて思うのは、矢田ちゃんの歩き方がペンギンみたいですごい可愛いなって(笑)。
矢田 あはは! 前回の稽古前に水夏希さんと、チャーリィのような方がいる施設に行ったんです。職員の方から、靴がよくキュッキュキュッキュ鳴るって聞いたからそれを意識してるだけで、可愛く見せようと思ってるわけではありません(笑)。たまに思ってる時も、あるかもしれないけど。
青野 あはは! 確信犯や(笑)。あと面白いのは、荻田さんの説明。たとえば何人かが同時にハケるシーンで、「あなたは“私のせいじゃないのよ”っていう感じで、あなたは“もうウンザリだわ”って感じでハケて」みたいに、一人ひとりにハケる動機を説明してくれるんですよ。次の日には全然違うことを言われたりもして、ボキャブラリーどれだけあるんだって思います。矢田ちゃんに説明してるのを聞いてると、私にはあんまり理解できないことも多いですね(笑)。
矢田 初めてだと難しいかもね。「心の重心がどこにあるかを考えて」とか、「“落胆”は文字通り胆(キモ)を落とすことだからその通りに体を動かして」とか……。僕はご一緒するのが4回目だから、分かるようにはなってきたけど、難しいゲームをやってるみたいな気分にはなる(笑)。
青野 見ながら真似してみるんだけど、私にはまだちょっとできない(笑)。
矢田 でも要は、頭で考えてることをどういう体の形で表したら伝わりやすいか、っていうこと。そういう意味では、ロジカルな作り方をされる演出家だなと思います。
――斉藤恒芳さんの音楽については、どんな印象をお持ちですか?
矢田 シーンや心情に沿った構成になっているので、演じる上ですごく助けになりますね。もちろん、楽曲単体としての魅力もありますし。ただ、斉藤さんが難しい曲を作るのにいちばんハマっていた時期に作られたということで、歌うのはめちゃくちゃ難しいです。
青野 私も初めて聴いた時は、なんか……ワーオ!って思いました。
矢田 分かる、2度目の僕でも「これで合ってんのかな?」って思うことがあるくらいだから。
青野 ミュージカルに限らず、たいていの歌はコードと当たらない(不協和音にならない)音でメロディーが作られてると思うんですけど、この作品の場合はどんどん当てていく。いい意味の気持ち悪さというか、不快じゃないのに気持ち悪いところが素晴らしいなと思います。感情が乗ればめちゃくちゃ気持ちいいことも分かってきたから、難しいけど楽しいですね。
矢田 この作品に必要な難しさ、気持ち悪さなんだよね。本当にもう、素晴らしい音楽です。
■「僕らからしたら、命を懸けてやっている仕事です」(矢田)
――まだ立ち稽古にフェイ役が登場していない段階ではありますが、現時点でお二人が思う、チャーリィとフェイの関係性についても少しお伺いできればと。
矢田 フェイはチャーリィにとって、初めて出会う人種というか、チャーリィを初めて引っ張り回す自由人。役どころとしてもそうですし、芝居の上でも唯一引っ張り回してもらえるシーンなので、前回はすごく楽しかった思い出がありますね。前回は僕より年上の蒼乃夕妃さんが演じられていたので、紗穂ちゃんとだとどんな感じになるのか、僕も楽しみにしてるところです。
青野 私としては、とにかくクレイジーになれればいいかなと。
矢田 なると思う。何も心配していません!(笑)
青野 いやいや、まだまだ引き出しが少ないもので…。
矢田 大丈夫、荻田さんが無理やりグーーって入れてくれるから(笑)。
青野 そうね! 荻田さんから今の時点で言われているのは、フェイみたいな芸術家気質の人はコロコロ性格が変わるだろうから、色んな人の要素を入れ込んでほしいということ。だから今は、今まで見てきた個性的なお芝居をされる方を思い出して、引き出しを増やそうとしているところです。たとえばそうですね、原田優一さんとか(笑)。
矢田 あはははは!
青野 すごく素敵で大好きな先輩なので、リスペクトを込めて言うんですけど、本当に“変な人”なんですよ(笑)。そんな優ちゃんの要素とか、あとは逆に清純派女優さんの要素とか色んなものを取り入れて、青野なりに変換していければと。そうすることで、チャーリィがついて行きたくなる、魅力的なフェイになれたらと思っています。
矢田 逆にフェイは、チャーリィのどんなところに魅力を感じているの?
青野 うーん、論理的なヘリクツ屋だけど倫理的な道徳観もあって、自分とはまた違うところで迷ったり悩んだりしてるところかな。フェイ自身も悩みは抱えているから、どこか影があるというか、寂しそうに見えるチャーリィに惹かれるんだと思う。
矢田 あぁなるほど、そういうふうに見えてるんだ。
青野 あれ、違いました?(笑)
矢田 じゃなくて(笑)、チャーリィって観る人によって印象が違う役だと思ってるから、面白いなって。どんな役でもそうかもしれないけど、チャーリィは特にそうだと思うんです。僕は今回、前回よりもちょっとイヤな感じの奴として作りたい、そのほうが今の自分が表現したいことに近いと思ってるんですけど、それは僕の主観であって、前回より素敵なチャーリィだと思う人がいてもいい。観る側の立場や環境によっても受ける印象が違う役であり作品だと思うので、ぜひ色んな観方をしてほしいですね。
――色々な意味で、前回とはまた違った『アルジャーノンに花束を』になりそうですね! 最後に改めて、コロナ禍のこの時期に上演する意義といった面も含め、SPICE読者の皆さんにメッセージをお願いします。
矢田 エンターテインメントというもの自体が不要不急とされがちな世の中ですけど、さっき“立場が変われば考えることも違う”と言ったのと一緒で、僕らの立場からしたら命を懸けてやっている仕事です。足を運んでもらって、観てもらって、何かを受け取ってもらうのが僕たちのお仕事なんです。やっぱりそれは止めたくないですし、ぜひ生で観ていただけたらと思いますね。
青野 確かに私たちの仕事は、不要と言われたらそれまで。私たちが舞台を上演するから感染が広がっていくんだ、と思う人もいるかもしれません。でも私は、家から出る機会が減って息抜きができないこういう時期だからこそ、エンターテインメントで気持ちが楽になったり元気が出たりすることもあるとも思っていて。足を運びたくても運べない人もいるから、気軽に「来てください」とは言えないですけど、今こそ存在する意義があると思って舞台に立とうと思います。
矢田 そうだね、僕たちはとにかくやるのみ! 劇場に足を運ぶのは勇気が要るなかで、それを乗り越えて来てくださった方に、何かしら持ち帰っていただけるように。感染対策を万全にしてお待ちしてますので、来られる方はぜひ来てください!
青野 うんうん。あと私、来てくれる方にもメッセージしていいですか?稽古場で矢田ちゃんを見ていると、チャーリィが変わっていくにつれて、目に入る力の加減がちょっとずつ違うのがすごく面白いんです。だから皆さんも、ぜひ矢田ちゃんの“目”に注目してみてください!
――胸に響くメッセージをありがとうございました。最後の最後に、もう一つ下らない質問もさせてください。本作のキャッチコピー「ぼくわかしこくなりたい」にちなんで、「僕は/私は〇〇になりたい」をどうぞ!
矢田 ええっ…⁉ じゃあ僕は、無事に千秋楽を迎えたい。
青野 真面目だ~(笑)。矢田ちゃんらしい。
矢田 ふざけようとしたんだけど(笑)、やっぱりそれが一番に浮かんじゃって。紗穂ちゃんはぜひふざけた感じでお願いします!
青野 私? 魔法使いになりたーい!
矢田 いいね!そういうことそういうこと(笑)。
青野 「ハリー・ポッター」に出てくるダンブルドアになりたい。杖の力ですごい大きい声が出るんですよ。「静まれー!」って叫ぶシーンが大好きで、ああいうことやりたいなって(笑)。
矢田 ダンブルドア、めっちゃおじいちゃんじゃん(笑)。
青野 え、めっちゃカッコ良くない?
矢田 そうなんや(笑)。じゃあその魔法が使えるようになったら、俺の喉がしんどくなった時に取り替えてくれへん?チャーリィちょっと、大変やからさ(笑)。
青野 いいよいいよ!矢田ちゃんがしんどくなったら、いつでも呪文を唱えます(笑)。
取材・文=町田麻子 写真撮影=池上夢貢
公演情報
■会場:博品館劇場
■料金:10,000円(全席指定)
■スタッフ:
原作:ダニエル・キイス 「アルジャーノンに花束を」(ハヤカワ文庫)
脚本・作詞・演出:荻田浩一
音楽:斉藤恒芳
振付:港ゆりか
美術:中村知子
照明:柏倉淳一
音響:柳浦康史
衣裳:doldol dolani
ヘアメイク:中原雅子
舞台監督:粟飯原和弘
制作:稲毛明子
プロデューサー:栫 ヒロ
■企画製作:博品館劇場 M・G・H
■協力・コーディネート:早川書房
■主催:ニッポン放送
■問合せ:博品館劇場 03-3571-1003