劇団ナカゴー初の映像配信! 堀船を襲う邪悪な妖怪のモデルとは? 〜ナカゴー主宰・鎌田順也と出演者インタビュー
2020年11月6日に配信が始まる「ナカゴー 特別劇場 にっかいろとはっかいろ ~堀船のごめんねてた~」は、劇団ナカゴーにとって初めての映像配信作品だ(販売は11月5日まで)。度重なる公演中止に見舞われた2020年、劇団が今年最後に公開する本作は、10月4日に王子・北とぴあにて非公開の形で行われた舞台を収録したもの。収録は、撮影や照明を含めた裏方もほぼすべて出演者たちが自前で行ったとのこと。そんな完全自前撮影の経緯や、ナカゴー作品の舞台である東京都北区堀船について、ナカゴー主宰の鎌田順也と、邪悪な妖怪「にっかいろ」役の髙畑遊、心やさしい妖怪「はっかいろ」役の川﨑麻里子に話を聞いた。
■4Kカメラに冷えピタを貼りながら、代わりばんこで撮影
ーー今回がナカゴー初の映像配信ですね。
鎌田 そもそも映像で見せるのに抵抗があって。生がいちばんおもしろいし、狭いところで(公演を)やりたい気持ちがあるんで。
でも役者のみんなに意見を聞いたり、考えたりしてるうちに、今回はお客さんを入れないで収録したものを配信することにしました。
最初は10月に再演をやるつもりだったけど、人がいっぺんにたくさん出てくる場面が多かったんで、新作を作ることにして。劇場を押さえてた日まで3週間くらいしかなかったから、台本書きながら稽古して。同時にカメラとパソコンを選ぶのも、もう大変で。
ーー仮編集版を拝見しましたが、画質が良くてきれいでした。
鎌田 4Kカメラを2台買って撮りました。
ーー4K!
鎌田 編集も自分で勉強しながらやることにしたんで、どのくらい(映像を)いじるかわからなかったんですけど、アップするまでに劣化するって聞いたから、元の映像はなるべく画質がきれいな方がいいねってことで。結局配信でどのくらいの画質になるか、ちょっとまだなんとも言えないんですけど。
YouTuberの人とかが使うようなカメラで、長時間撮るのには向いてないから、途中で熱持って落ちちゃうんですよ。だから冷えピタ貼りながら撮りました。
今回、かかわる人数を少なくしたかったから、撮影も一台は僕が持って、一台は役者が代わりばんこに持って。始まったら一回も止めずに、お客さん入れるときと同じようにやりながら撮影しました。
撮影の様子
ーーそれは大変そうですね。
鎌田 一週間くらい前から、カメラの使い方も覚えてもらって。稽古しながら。
ーー実際どうでしたか?
川崎 ドキドキしました……。
髙畑 私は撮影はしてませんが、出番前にちょっとだけ照明をやりました。
ーーということは、裏方含めすべて自前で作られたことになるんですね!
鎌田 今後はどうなるかわからないです。出番前に撮ったり、照明やったりは、やっちゃいけないことだなと。
ーー時間を含め、制約があるなかでの稽古はいかがでしたか?
髙畑 フェイスシールドをつけた状態で稽古をしたんですが、思った以上に動きが制限されるようでした。体の感覚が衰える感じというか。外した瞬間に「全然ちがうじゃねーか!」って(笑)。
髙畑遊
川崎 こもるし……くもるし……。
ーー編集も鎌田さんご自身で担当されたそうですが、何か参考にしたものはありますか?
鎌田 スマホで観る人と、テレビとか割と大きな画面で観る人がいるだろうから、どっちに向けて作るものなのかって思って。それで、コントのライブ映像を見てると、アップをたくさん使うのが正解っぽくて。それは参考にしました。
ーー役者さんの表情がよく見えたので、劇場の最前列で観ている気分を思い出しました。
撮影の様子
■ナカゴー作品の舞台、東京都北区堀船の人々
ーー中身の話もお伺いしていきますね。いつものナカゴー作品のように笑える箇所が多々ありつつ、全体的にホラーの要素も強かったです。ラストも胸がざわついて、映画の『ジョーカー』を観たあとのような気分になりました。
鎌田 なんか怖くなっちゃったんで、ハロウィンに間に合えばよかったんですけど。
ーー妖怪の「にっかいろ」と「はっかいろ」は4年に一度しか堀船に現れないとのことでしたね。
鎌田 映画の『IT』とかを……。
髙畑 『IT』のペニーワイズは27年に1回だよね。それに比べたら4年に1回ってけっこう頻繁なのに、堀船の人は備えなさすぎなんだよね(笑)。
鎌田 でもね、その備えなさは堀船の人たちっぽい。偏見かもしれないけど。僕が住んでるのが、東京都北区堀船なんですけど、この5年くらいで一気に町のみんなが歳取っちゃって。人が入れ替わらないんですよ。来年くらいに大きいマンションができて、それでどうなるかっていう。
鎌田順也
ーー「駅前のTSUTAYAが潰れた」という台詞がありますが、本当の話ですか?
鎌田 それは実際の話です。あと、話の中に出てくるお店も実際にあります。おじいちゃんおばあちゃん御用達の、小さいディスカウントスーパー。通いやすいし、安い。地域密着でやってて、お年寄りも話しかけやすいようにしてて、取り置きまでしてくれる。
一昨年くらいに大きいスーパーが近くにできたときも、「私はこっちに来るからね」ってわざわざお店の人に言うお客さんまでいて。「ほんといつも助かります」ってみんな口に出してるような、本当にいいお店で。
それなのに、コロナの自粛期間中に「安売りのチラシを撒くな」ってクレームが入ったみたいで。たぶん常連の誰かが言ったんだと思うんですけど。あんなにやさしくて、安くていいお店なのに、何を文句を言うことがあるんだって思ったら、そのクレーマーにすごいむかついちゃって。それも回り回って、これの中身に反映されてます。
ーーコロナ禍の堀船の出来事が反映されているんですね。とすると劇中に出てくる悪い妖怪の「にっかいろ」は、堀船にいる実在のおばあさんがモデルですか?
鎌田 いや、ちがいます。自分が弱ってるからだと思うんですけど、最近コンビニの店員さんの接客でけっこう傷つくんですよ。感じの悪い店員に。それが発端ですね。だからこうなった、みたいにきれいにはつながらないんですけど。
ーー自分を傷つけたものの要素を膨らませていくと、ああいう妖怪になるんですね。メイクや服装も強烈です。
右が、髙畑遊演じる妖怪・にっかいろ
髙畑 地毛に白いドーランを塗って白髪にしました。メイクも、田畑(菜々子)さんが「こうしたら怖い」とか「こうしたら落ち窪んでる感じになって、おばあちゃんっぽくなる」と研究してくれました。着てるのはメルカリで買った甚平で、いろいろ加工をしてます。
ーー心やさしい妖怪の「はっかいろ」はどんなモチーフで?
川﨑麻里子演じる妖怪・はっかいろ
鎌田 やさしいだけじゃ、ろくなことにならないっていう教訓ですね。気立てがいいだけじゃやっていけないんだなっていう。あっけなく、何にも悪気のないことで死んじゃうんですけど、結果的にいつも思ってることはすごく表現できたなって。
ーー「ごめんねてた」もいい妖怪ですね。
鎌田 「ごめんねてた」ってことはよくありますよね。明日バーベキューだからって気合い入れて、全部もうフル装備で準備して「行くぞ」ってなって、逆に寝れなくなっちゃって。それで朝になってから寝ちゃうっていう。いちばんやる気があったのに、大事なときに疲れて寝ちゃう。そういう感じですね。
ーーそれぞれのキャラクターに、鎌田さんの日頃感じたことが反映されているのですね。伺えてうれしいです。ちなみに、今後も配信は続けられますか?
鎌田 今回やってみて、課題が多いなって思って。映像だからできることもいくつかは浮かんだりして。
髙畑 機材はもうあるしね。
鎌田 来年のゴールデンウィークにはまた劇場を押さえているんで、それまでにまたいろいろ考えていきたいです。
インタビューは稽古場で行われた
ナカゴー初の映像作品、の販売は11月5日(木)23時まで。
取材・文=碇雪恵