劇団「地蔵中毒」がドストエフスキーに挑む~大谷皿屋敷×髙畑遊×岡野康弘に聞く『母さんが夜なべをしてJavaScript組んでくれた』で物語りたいこと
大谷皿屋敷(劇団「地蔵中毒」)、高畑遊(ナカゴー)、岡野康弘(Mrs.fictions)
劇団「地蔵中毒」の本公演、無教訓意味なし演劇vol.14『母さんが夜なべをしてJavaScript組んでくれた』が、2021年7月21日(水)~25日(日)まで、東京・下北沢のザ・スズナリで上演される。脚本・演出は大谷皿屋敷、原作はフョードル・ドストエフスキーの小説『カラマーゾフの兄弟』だ。出演は、かませけんた、三葉虫マーチ、東野良平、hocoten、立川がじら(志らく一門)、3105、フルサワミオ、小野カズマ、佐藤一馬、大宮二郎(コンプソンズ)、そして、ナカゴーの髙畑遊、Mrs.fictionsの岡野康弘が今回初参加となる。
2017年には、シェイクスピアの戯曲『ハムレット』を独自の解釈で再構成し、番外公演『ハムレット(ウエストポーチ着用ver.)』として上演した大谷だが、本公演で原作物を上演するのは今回が初となる。大作『カラマーゾフの兄弟』に大谷はいかにアプローチするのか。そして、一見、ドストエフスキーとは無関係にみえる公演タイトルに、どのような意味が込められているのか。稽古後の大谷、岡野、髙畑に、リモート取材で話を聞いた。
劇団「地蔵中毒」前回公演「宴たけなわ 天高く円越える 孫世代」より ©塚田史香
■大谷がドストエフスキーに挑む理由
——大谷さんにとって、ドストエフスキーの小説『カラマーゾフの兄弟』は愛読書だったのでしょうか。原作小説の感想をお聞かせください。
大谷 面白いけれど長いなって思いました。大学の時に一度読みかけて、挫折したんです。今回のために読み直しました。人って時期によって悩むことが違うと思うんですけど、ドストエフスキーの原作は、どの時期に読んでも、その時々の悩みに対する答えに接近しそうなものが散りばめられているなと思いました。たとえば今だったら、コロナ禍のことで「神様がいるのに、なんでこんなことが」みたいなところとか。
——公演タイトルの『母さんが夜なべをしてJavaScript組んでくれた』には、どのような思いを込めたのでしょうか。
大谷 『カラマーゾフの兄弟』をやることだけは先に決めて、そこに、いつか曲を作ったら歌詞にしようと思っていた一節をタイトルとしてつけました。
岡野 くじ引き感覚だ(笑)。JavaScriptも母さんも、まだ稽古中に1回も出てきていないから、もとのタイトル、完全に忘れてたよ。
高畑 うんうんうん。
大谷 なので、出て来ない線が濃厚なんですが(笑)、JavaScriptか、もしかしたら夜なべか……何かひっかかるところが出て来るかもしれない。
——大谷さんは、これまで古典落語の『かぼちゃ屋』や『火焔太鼓』、シェイクスピアの『ハムレット』などの改作を発表しています。いずれも、八割がた原作をなぞっていながら、出来上がりはまるで別物でした。
大谷 今回も八割がた、原作をなぞっています!
——出演されるお二人は、それを感じますか?
高畑 (笑いながら首をかしげる)
岡野 稽古中に大谷くんが、何回か「これは完全にドストエフスキーだ」って言っていたので、そうなんでしょうね。あれだけ下品な台詞を書きながら、ちゃんとリスペクトがあるんだよね(笑)。
大谷 そうです!
——今回『カラマーゾフの兄弟』を原作に選んだ理由をお聞かせください。
大谷 そもそも僕が演劇をやろうと思った理由の1つは、必ずしも起承転結でなくていいところがいいなと思ったからなんです。だから今までの地蔵中毒は、お話ができそうになるとお話を脱臼させてお話にならないようにすることに、全精力を注いできました。でも今回は、あえて物語ってみようかなって。物語るなら、自分がどんなギャグを入れても何をやっても揺るがない、骨格の強い話がいいなって。そこで最高文学の、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』を取り上げることにしました。ただし、僕らのやる『カラマーゾフの兄弟』が何かを物語れているかは、分かりません。
——台本を読んだ岡野さん、高畑さん、感想をお聞かせください。
高畑 台本、面白いです。
高畑遊(ナカゴー)
岡野 めちゃくちゃ面白いです。めちゃくちゃ面白い4コマ漫画を大量に受け取った感じ。それを受けて俳優陣がそれぞれに、必死に物語ろうとしている。
大谷 皆、ファイティングポーズはとってくれていますよね(笑)。
岡野 全員が全身を脱臼させながらね(笑)。だからなのか、思ったより物語になっている。
高畑 そう思います。
岡野 これを劇場に持っていき、美術が入り、照明が入り、本番までにどう仕上がっていくか。楽しみですね。
——大谷さんご自身は、大量の四コマ漫画の連続で、物語りたいことが何かあるのでしょうか。
大谷 俺自身が物語りたいことは……ないです(笑)。でも解釈はしました。ドストエフスキーが書いたものを、俺が解釈したらこうなっちゃった、みたいなことをやれたらいいなと思っています。
大谷皿屋敷(劇団「地蔵中毒」) ©塚田史香
■地蔵中毒初参加、高畑遊と岡野康弘
——高畑さんと岡野さんは、「地蔵中毒」に初参加です。岡野さんと大谷さんは、かねてより交流があったそうですね。
岡野 うちの主宰の今村圭佑が、「地蔵中毒」に客演したこともありますし、それ以前にうちの劇団の企画公演『15 Minutes Made Anniversary』(2017年8月)にも「地蔵中毒」の皆さんに出てもらったりもして。
岡野康弘(Mrs.fictions)
——Mrs.fictionsの企画公演では、「地蔵中毒」が、キャラメルボックス、梅棒、柿喰う客、吉祥寺シアター演劇部(作・演出 堀越涼)と並びラインナップされ、演劇ファンたちから注目されるきっかけとなりました。
大谷 地下で蠢いていた僕らが地上と接点をもつきっかけを作ってくれたのが、岡野さんなんです。
——それが今回の出演オファーのきっかけに?
岡野 いや。僕は今回のオファーをもらうよりずっと前から、“僕は「地蔵中毒」は、できないよ”と言っていたんです。あまりにもジャンルが違いますから。同じ球技だからと言って、野球選手にサッカーはできないでしょう? それがある日、LINEの通知画面に「オオタニ」と表示されて。その瞬間、「ああ……きちゃったか……」と思いました(笑)。できないできないと言っていたのに来てしまったからには、出れませんとはもう言えないなと思い、お引き受けしました。
大谷 岡野さんには、ずっと出てほしかったんです(笑)。『カラマーゾフの兄弟』を、誰にやってもらおうか、どういう台詞にしようかと、考えながら読んでいた時、頭の中で、長男の言葉を岡野さんの声で再生したらピッタリで。長男は、岡野さんだ!って思いました。
——高畑さんは、オファーがあった時、どのようなことを考えましたか?
高畑 以前「地蔵中毒」に客演したことのある、私と同じ劇団(ナカゴー)の土田有未を通して大谷さんから連絡をもらいました。土田に「どういう雰囲気の劇団さんだった?」と聞いたら、「みんな本当に性格が良くて、仲が良かった」って。私はそれで、「ぜひ一緒にやりたい」と思いました。実は1回も公演を拝見していなかったのですが、その理由だけで決めました。
大谷 ありがとうございます(笑)。土田さんと高畑さんは、同じナカゴーでもタイプの違う面白さですよね。僕は、東京に出てきてすぐの頃からナカゴーを拝見しているのですが、高畑さんは、初めて見た6年前からずっと僕の頭に残ってる人でした。「地蔵中毒」に出てもらったらどうなるだろうかと想像したら、ワクワクして。今回は、病気の子のお母さん、ホフラコワ夫人に相当する役をやっていただきます。
■自分の役割を相当きっちり理解している
——今回は、すでに脚本が書きあがっているそうですね。
大谷 そうなんですよ! この時期(取材は7月初旬)に通し稽古ができるなんて奇跡です!
——稽古場の雰囲気をお聞かせください。
大谷 岡野さんと高畑さんに入っていただき、「何となくこうなってほしいな」というところに、ジグソーパズルのピースがバチっとハマった感じがあります。しかも思っていた以上の面白さにしてくれて、クオリティが上がったなって。「地蔵中毒」が言うとあれですが(笑)、骨太なものになっていると思います。
高畑 台本に役名がなくて、役者本人の名前で台本が書いてあるんです。それが昔のジャッキー・チェンの映画みたいで、新鮮です。
岡野 ジャッキー・チェンは、作中でもジャッキーかチェンか、ドラゴンだったもんね。
高畑 (うんうん頷く)
大谷 「地蔵中毒」としては(「役名=役者名」は)いつも通りなんです(笑)。
——よく出るメンバーの方々との稽古はいかがでしょうか。
高畑 話に聞いていた通り、皆さん本当に仲がいいです。
岡野 よく出るメンバーの方々は、自分の役割を相当きっちりと理解されていますね。
大谷 去年10月の駅前劇場くらいから、皆、今まで以上に自分のギャグに責任を持つようになって、それぞれの役割の中で「絶対にハズすものか」みたいな感じがある気がします。
岡野 大谷くんが書いた台詞をそのまま読むと、どの登場人物も、情緒不安定な人みたいになる。でもよく出るメンバーの方々は、その台詞で、どっしりと芝居の中に立っていられる。今日稽古した、東野(良平)くんのシーンも凄かったね。ちゃんと芝居をしているのに、ちゃんと面白い。演出もそんなにつけていなかったでしょう? あれを成立させられるって、なかなかできない。みんな、すごいです。
——岡野さん、高畑さん、ご自身の役についてはいかがでしょうか。
高畑 私は、自分の本役は自分なりにイメージができてきました。でも(本役以外の)モブ役のほうも増えてきて、それとの演じ分けを今、いろいろ考えているところです。
岡野 高畑さんのあのシーンが好きです。自分のせいで娘が大変なことになってしまったのに、急に「こんなことになっちゃって!」って心配し始めるところ。人間だなあと思う。
高畑 ナカゴーでもあることなのですが、登場人物1人だけを追いかけてみてみると、「この人がこのタイミングに、そんなことを言うはずがない」みたいなことがあると思うんです。でも人って、そういうこともありますよね。「この人、この状況でこんなことを言うんだ!」みたいなビックリが。だから大谷さんの脚本の中に、ビックリするような台詞が急に書いてあったとしても、もう台詞は決まっているから、この台詞でこの気持ちになって、こっちでその台詞をいうならこうだろうな……とか。あとは台本を読んで、ばっとイメージが浮かんだままやる感じです。
——岡野さんは、三兄弟の長男役ですね。これまでの演劇のやり方と違いを感じることはありますか?
岡野 先ほど大谷くんは「ピースがハマった」と言ってくれました。でも僕としては、まだ一度もハマったという手応えはなくて、多分本番に入ってもずっと「ハマらない」って思うのだと思います。だからがんばり続けます。
岡野康弘(Mrs.fictions)
■バチバチに映像向き、リアルタイムで感じてほしい
——22日14:00開演回、24日18:30開演回、25日16:00開演回は、Streaming+で生配信されます。
大谷 コントグループ「シル」の高畑陸くんが、今回も映像配信のスタッフとして入ってくれます。高畑くんは、本番までに何度も通し稽古を見て、中身を解釈した上で、カット割りのスクリーンショットを3、400枚用意して、生配信でも一番いいカットをその場でチームに指示してやってくれる。解釈が入っているから、映像としても作品になっていると思っています。信用できるなという感じです。ちなみに同じ「シル」のごどうくんは、今回、演出助手をやってくれています。めちゃくちゃ助かっています!
——高畑さん、岡野さんは、演じる側として、映像配信についてどう思われますか?
高畑 ナカゴーで無観客の映像配信公演をやりました。1回きりのものという感覚でやったものが、映像としてずっと残るんだと思うと、ゾッとしました(笑)。その反面、劇場に来られない方にも見てもらえるとか、メリットはありますよね。映像配信に向いているもの、向いていないものとあると思いますが、今回の「地蔵中毒」は、バチバチに映像向きなので、観に来られない方にもぜひ映像で観ていただきたいです。
髙畑遊(ナカゴー)
岡野 自分の団体では、話し合った結果、今のところ映像に積極的な方向にはなりませんでした。ただ今回の公演の配信については、リアルタイムの生配信であることは、大きいと思います。今この瞬間、あの場所でこれをやっている人たちがいるんだって、画面の向こう側で感じてもらえたらと思います。緊急事態宣言下で、オリンピックの裏で、こんなくだらないことを今、やってるんだなって。
——オリンピックの開会式と同時刻にも、劇場公演が予定されていますね。
大谷 オリンピックのことはまったく意識になくて、スズナリでの公演が決まった時は知らなかったんです。日が近づいてきたときに気がつきました。
——注目している競技はありますか?
大谷 全然分からない……モーグル?
岡野 ……冬季?
——「地蔵中毒」をまだみたことがない、岡野さん、高畑さんのファンの方に向けて、メッセージをいただけますか?
岡野 どういうスタンスで挑むかはずっと悩んでいるところです。“間違えて呼ばれた吉田鋼太郎さん”みたいなスタンスをとれれば、自分が呼ばれた意味があるのかなとか。灼熱地獄でがんばる姿を観ていただければ。どう作用し、岡野が「地蔵中毒」の舞台に立てているのか、立てていないのかも含めて、観にきていただけたら嬉しいです。
高畑 もし私のことを観たことがあって、好きとか気に入ったことがある方には、その期待を裏切らないようにがんばっています。楽しんでいただけると思います。
——最後に大谷さんより、一言お願いします。
大谷 大失敗したら、ドストエフスキーのせいにします! 良かったら観に来て下さい!
大谷皿屋敷(劇団「地蔵中毒」)
取材・文=塚田史香
公演情報
無教訓意味なし演劇vol.14『母さんが夜なべをしてJava Script組んでくれた(原作・カラマーゾフの兄弟)』
■脚本・演出 大谷皿屋敷 (原作: フョードル・ ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』)
■出演:
かませけんた
三葉虫マーチ
東野良平
hocoten
立川がじら(志らく一門)
3105
フルサワミオ
小野カズマ
佐藤一馬
大宮二郎(コンプソンズ)
髙畑遊(ナカゴー)
岡野康弘(Mrs.fictions)
■会場:ザ・スズナリ
■日程:2021年7月21日(水)~7月25日(日)
7月21日(水)18時30分
7月22日(木)14時●☆/ 18時30分
7月23日(金)14時 / 18時30分
7月24日(土)14時 / 18時30分●
7月25日(日)12時 / 16時00分●
※●=生配信あり、☆=貸切(アフタートーク等あり)
※各回開場=開演45分前
※本編上演時間=約2時間を予定
■入場料:一般前売り3,500円(当日3,800円)、もやし主食苦学生料金2,500円(要学生証提示)
<イープラス/SPICE優良舞台観劇会(貸切公演)>
■会場:ザ・スズナリ
■日程:2021年7月22日(木)14時
※スペシャル・カーテンコール、アフタートーク(ゲスト:しりあがり寿)を予定
※本編上演時間=約2時間、イベント約30分間程度を予定
■入場料:一般前売り自由席(整理番号付)3,500円、もやし主食苦学生料金2,500円(要学生証提示)
※開場時間にいらした方から、整理番号順に中にお入りいただく形になります
■受付URL:https://eplus.jp/g-chudoku14/kashikiri/
しりあがり寿
<Streaming+生配信公演>
■生配信
2021年7月22日(木)14時●
2021年7月24日(土)18時30分●
2021年7月25日(日)16時00分●
■料金:2,000円
■受付URL:https://eplus.jp/g-chudoku14/