噂の現役高校生アーティスト、ぼくのりりっくのぼうよみに刮目せよ
ぼくのりりっくのぼうよみ
出会ったことのない才能というのは、違和感と中毒性を兼ね備えている。すでにアルバムの全曲試聴トレーラーが公開されたり、全国30ヶ所以上のラジオ局で12月のパワープレイが決定し、その音楽が、ラップとボーカルが聴ける状況になった今、ただ「恐るべき才能を持った現役高校生・17歳」という記号に実体が追いついてきてはいると思う。ちょっと奇妙なアーティスト・ネーム”ぼくのりりっくのぼうよみ”の1stアルバム『hollow world(ホロウ・ワールド)』の全貌がいよいよ12月16日、明らかになる。
9月に行われた、彼がデビューすることになるビクターエンタテインメントのコンベンション・パーティ「MUSIC STORM」で、ほんの2,3分流れたその音楽にゾッとするような衝撃を受けて以来、すぐネットで過去作品を検索したり、ツイッターをフォローしてもみた。分かったことは10代向けでは国内最大級のオーディション・イベント「閃光ライオット2014」のファイナリストであること、iTunes Store等で突如、配信が開始された「パッチワーク」への反応に誰より本人が驚き、毎週、100人、1000人とフォロワーが増大するも本人はそれがリアルな現実なのか受け止めがたいリアクション。高校3年生らしく、模試や受験勉強で忙しいことやら、時にはツイキャスでこれからメジャーデビューするアーティストにはあるまじき(!?)、でも現代の10代のリスナーでもある「今の音楽の聴き方」を自室から発信していたり…なんのギミックもない彼自身の考え方が、どんなプロモーションより作品を期待させるツールになっていた。もちろん、本人のクレバーさと正直さが魅力的だったからなのだが。
思えばそのほんの2,3分に感じた膨大な情報量はまず彼のヒップホップともR&Bともロックにおけるラップとも違いつつ、そのどれもを飲み込ん表現だったこと、そして深層意識にはまるでまだ全然ブレイクしていない頃のサム・スミスのような底なしの孤独や、野田洋次郎や川谷絵音といったメロディに対する言葉に於いて無二の才能を持つアーティストや、もっと言えば彼らの表現の純度とある種、本当のことだからこそ禍々しくもある何か。そんなものをその2,3分のあいだにぼくのりりっくのぼうよみ、というその時点ではまだ名前を覚えるのも精一杯の真新しい才能に見ていたのだと思う。
さて、肝心の1stアルバムには前述のフックで思わず泣きたくなるようなファルセットが美しい「パッチワーク」や、池田エライザ、池田大、吉村界人といった注目の若手俳優陣が出演し、ぼくのりりっくのぼうよみ自身もちらっと出演している、東市篤憲監督のMVも話題の「sub/objective」をはじめ、アルバム収録曲ならではのダークでミニマリスティックなナンバーも数多く聴くことができる。部分的にはインディR&B的でもあり、楽曲によってはさらにエレクトロやテクノ的な手法も垣間見えるが、必要最低限のトラックと彼の研ぎ澄まされたラップ/ボーカルが、リスナー一人ひとりに切実なまでに刺さる。
何もかもあるようで、何一つ「自分」であることに確信が持てない曖昧な時代。情報は溢れているけれど温度がないような虚無感。でも、ぼくのりりっくのぼうよみはただ眺めているだけ、の音楽ではない。音楽的なクオリティの高さから得られるカタルシスとともに、そのカタルシスの正体は今、この時代がはらんでいる痛みや悲しみ、そしてそれに彼が対峙していることに気づく。まったく新しいやり口で、私達はこの驚くべき17歳の才能に気づかされるのだ。
「hollow world」
hollow world(ホロウ・ワールド)
2015年12月16日(水)発売
VICL-64487 2000円(税別)
1. Black Bird
2. パッチワーク
3.A prisoner in the glasses
4. Collapse
5.CITI
6.sub/objective
7. Venus
8. Pierrot
9. Sunrise (re-build)