極上の才能の交差点、Diosが誘う非現実世界に溺れたツアーファイナルをレポート
Dios
Dios 1st Tour『CASTLE』 2022.08.12(Fri) 豊洲PIT
8月12日夜、豊洲PITで〈Dios 1st TOUR“CASTLE”〉ファイナル公演を観た。昨年12月、渋谷WWW Xでのファーストワンマンから数か月で数倍のキャパシティアップだが、しっかり満員で驚いた。いや当然と言うべきか。3人の超個性が衝突して融合するスーパーバンド、Diosへの期待値は想像以上に高い。このファーストツアーは彼らがさらなる高みを目指す重要なジャンピングポイントだ。
Ichika Nito
オープニングでいきなり度肝を抜かれる。ギタリストのIchika Nitoが、ふらりとステージに現れておもむろにアイリッシュハープを弾き始める。ハーピストとしての腕前は映像で知ってはいたが、生で聴くとその張り詰めた優雅な響きは格別だ。たっぷり1曲ぶんのハープソロのあと、トラックメイカー/鍵盤奏者のササノマリイと、ラップ/ボーカルのたなかが登場する。曲は「残像」。Ichikaの尖ったエレクトリックギターとササノの図太いトラック、たなかのファルセットを駆使した演劇的な要素を含む独特の歌唱が絶妙にクロスする。音はダークで激しいが、感覚はクールでロマンチック。Diosが誘う非現実世界。
Dios
照明は赤、背後のスクリーンに映るアニメーションも赤。曲は「ダークルーム」。Ichikaのギターは単音のリフをループするシンプルなものだが、微細な感情の揺れ打ち込みでは決して出せない。ステージがグリーンに染まる「Bloom」から、赤に染まる「鬼よ」。「Bloom」でササノが弾く鍵盤の、クールな中にエモさを秘めたプレーがいい。「鬼よ」の、ハードロックかと見まごう硬質なギターリフの中に、耽美なメロディを忍び込ませるIchikaのプレーがいい。そして優れた演奏家である二人に対し、圧倒的な言葉の力と歌とラップを駆使して堂々たる存在感を見せるたなか。劇的な照明と劇的な音楽、ステージ上に動きはほとんどないが感情の揺れ動きは激しい。
「僕らがここから先、もっと遠くへはばたいていくための最初の拠点を作りたいと思って、『CASTLE』というタイトルのアルバムを作りました。それは同時にみんなにとっての城でもあってほしくて、一人一人の中にまったく姿の違う城が建つとすごくいいなと思います」(たなか)
たなか
最近、愛について考えるんです。年を取ると新鮮なものは消えて行くけど、薄い皮をかぶせていくように日々を送る中で、似たような色の中にも差異があることがわかってくる。それを分かち合うのが愛だなとすごく思います。――「断面」の歌詞について語る、たなかの誠実な言葉がいい。エレクトロニカ的なサウンドの暗く沈み込むような曲だが、ササノのクラシカルなピアノ、たなかの揺れるファルセットが放つムードは決してネガティブではない。さらにミラーボールのまばゆい光と、メランコリックなHIPHOPトラックが不思議に調和する「Misery」を経て、Ichikaがテクニカルなタッピング奏法で魅せる「天国」へ。「天国」は音源とは異なるライブアレンジで、激しく煽りたてるロック的なダンスビートにつられて、オーディエンスが突き上げる手がフロアに大きな波を作る。体と同時に心が踊る、独特の内省的なグルーヴ。
「同じ美しいものを、3人が同じように美しいと思えるのがすごくいいなと思います。やってることはバラバラだけど、そこが一致するからこそできるんだなと思う」(Ichika)
Ichika Nito
デビューから1年と少し、制作を重ね、ライブを重ねることで3人の絆が深まったことを、Ichikaが素敵な言葉でまとめてくれた。美しいと思うものが同じ。そんなふうに音楽を感じられる仲間が近くにいる3人はとても幸せだ。このあとに歌った2曲のカバー曲、宇多田ヒカル「One Last Kiss」とキリンジ「エイリアンズ」の、驚くほどにピュアでストレートなアコースティックアレンジがとんでもなく素晴らしかったのも、3人が美しいと思うものが一致している証拠だろう。ミラーボールを使った光の演出も神々しいほどに美しい。続くオリジナル曲「The Room」「いのち」の2曲もアコースティックアレンジで、Diosのメロディアスな側面を強調しながらじっくりと聴かせる。音域の広い、たなかの技巧的なボーカルが自由奔放に音に乗って飛び回る。
「Diosの曲は、3人が自分勝手を積み重ねて作っているところがあります。でも好き勝手やるだけじゃ成立しなくて、そこに3人を結びつけるコアのようなものがある。今日はDiosをDiosたらしめる、3人をつなげるものを一個持ってきて、それを元に別の曲を作るという遊びをやってみたいと思います」(たなか)
ササノマリイ
ササノのピアノからゆったりと始まった「Sakana」という曲は、熱心なファンならばすぐ気づいただろう、「劇場」のフレーズを元に、まったく違うメロディと歌詞を乗せた「Rebuild Version」だ。ジャズで言うアドリブ、クラシックで言う変奏曲のような試み。そこから本編の「劇場」へとつなげ、「Virtual Castle」へとつなげるアッパーでリズミックなセクションには、Diosのアート性、実験性、娯楽性、メッセージ性のすべてがある。Diosのライブならではの、ダークな高揚感がある。味わうほどに沁みわたる、うまみの詰まった最上質の部位。
「その時々の自分の記憶を丸ごと閉じこめて、その音を聴きえすれば思い出せる。それは音楽の持つものすごく強い力だと思っています。僕らの曲がそういうものになって、10年後20年後に聴いて、一気に記憶が蘇ったりしたら、こんなにうれしいことはありません。そういうふうに祈りながら日々音楽を作っていますす」(たなか)
Dios
もっともっと多くの人の記憶に残る音楽になれるように頑張って行きます。引き続き応援してもらえるとうれしいです。――ありふれた定型文にも関わらず格言のように聴こえるのは、彼が本当にそう信じているから。さあいよいよライブは残り3曲。ファンキーなビートに乗り、はるかな雲海を前へと突き進む映像が印象的な「試作機」、図太いHIPHOPビートにジャジィなパートを組み込んでカオスな快感をまき散らす「紙飛行機」、そして「僕らが最初に3人で作った曲を――」と紹介して演奏したラストチューン「逃避行」。3人が好き勝手に作ったものが一つの生命を得て動き出した初号機として、この曲の持つ価値と迫力は今もずっと変わらない。フロアから上がる無数の手と、無数の揺れる体がそれを証明する。
「楽しんでいただけたでしょうか? 僕たちがこの会場の規模感に慣れてなくて、そわそわしてるんですけど。たくさん楽しんでくれていたらいいなと心底願っています」(たなか)
たなか
アンコールの拍手に呼び戻された3人が、リラックスした表情で楽しげにしゃべっている。楽曲はシリアスだが、3人のトークは本当になごやか。美しいものを美しいと思う感性のほかに、ユーモアのセンスもよく似ている。Diosのそうした人間味あふれる部分は、ライブでしか味わえない。そして今日の本当のラストチューン「裏切りについて」。『CASTLE』の楽曲は人が逃げ込むようなものだったけど、この曲は城を出て新しい場所に向かう時に背中を押してくれるような曲だと、たなかは言った。青く光る海の映像と、トラップビートの躍動感溢れる明るい曲調がそれを強調する。
終わってみればアルバム『CASTLE』全曲にカバーや新バージョンなどを加えた大ボリュームの、それぞれの見せ場もたっぷりと備えた、ファーストツアーにして極めて完成度の高い約100分。最後にファンと共に記念写真に収まる3人の表情は、こちらからは見えないがきっと充実感いっぱいの笑顔だろう。Diosの音楽、それは美しいものを見て同じように美しいと思える3人の交差点。ジャンルを超えてDiosの世界はこれからどんどん広がる。そのスピードに振り落とされないようにしなければ。
取材・文=宮本 英夫 撮影=Masanori Naruse
Dios
Dios - 1st ALBUM "CASTLE" [full Album Tracks]